ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第二十七話【いざ観光へ】

           

夜が明けて日の光が村を照らし始めるのと同じくらいの時間に、静かに宿屋の扉を開けて外に出る湖張とレドベージュ。
大きな音を立てると近隣に迷惑になると思い、そっと出発をしようとしたのだが、
外ではまだ飲んだくれている村民が数人いた。
中には外でそのまま寝ているのか倒れているのか分からないが、醜態を晒している者もいる。

「おー湖張ちゃーん!こんなに朝早くからお出かけかーい!?ひょっとしてもう行っちゃうのかい?」
湖張を見つけるなり駆け寄ってくる酔っ払い。もう湖張との別れを感じたのか悲しそうな顔をする。
「あ、ええこれから出かけますけど、今夜はもう一泊しますので戻ってきますよ」
あまりにも悲痛な顔をするのでそう言って安心させようとすると、満面の笑みを浮かべる村民。
「おーそうか!それは良かった!!じゃあ今晩も宴会だ!!」
「・・・嘘でしょ?」

酒が抜け切れていない村民が変なテンションになっているので、思わず顔が引きつってしまう。
これは今日は戻るので良いのだが、明日以降に予定しているこの村からの出発が思いやられる。
そうこうしていると勢いよく宿屋の扉が開いて、慌てた様子で宿屋の主が姿を見せる。

「いた!!間に合った!!ちょっと待ってくれ」
そう叫び湖張に駆け寄ってくると、何かが入った手提げの布袋を手渡してくる。
「これは?」
受け取った後、不思議そうにそれを見つめると宿屋の主は切らしていた息を整えてから腰に手を当てて答える。
「いや、湖張ちゃんが朝早くから出かけるって言ったから間に合うようにお弁当を作ったんだよ。
そうしたら思ったより早く出かけちゃうし、一言も無しに出ちゃうもんだから焦ったよ。
ほら、持って行ってくれ。夕方には返ってくるんだろう?」

「え!?そんな悪いですよ!!」
慌てる湖張に首を振る宿屋の主。
「いや、良いんだ。湖張ちゃんはこの村の恩人なんだ。受け取ってくれなきゃ困る。
ところでこの村の付近に観光地なんてないけど、何処に行くんだい?」
「え?・・・ああ、ちょっと山の方に行きたいんです。観光と言いつつも、運動に近いかな?」
とっさの事で良い答えは出せず、とりあえず誤魔化そうとすると首を傾げる宿屋の主。
「まあいいや、気を付けて行ってくるんだよ?」
「はい、ありがとうございます」

良く分からないが困らせまいと思ったのか、すんなり引き下がる宿屋の主。
酔っ払いと二人で大きく手を振りながら送り出さされつつ、二人は村を出発した。

本日は曇りで、空は多くの雲によって灰色に塗りつぶされている。
雨は降らないとは思うが山の上ではその限りではなさそうだ。

道中は歩いて一時間ほどは道があったのだが、途中に目の前に現れた川を境に道と呼べる道は無くなってしまった。
川の先は岩山となっていたので、目的地はここかとレドベージュに尋ねると「この川を越えてから岩山を上った先にある」という
内心うんざりとする答えが返ってくる。

川の流れは緩やかで深さも大したことは無く、所々に大きな岩が頭を出している。
幅もそこまでなかったので、途中に出ている岩に飛び移ることで難なく対岸に移る事が出来た。

その後は岩山をただひたすらに登ったり下ったりの繰り返しであった。
山の構造はただ上に伸びているのではなく、所々で小さな谷間があるような不思議な山であった。
また不思議と動物の気配もなく、静かである。

「ねえレドベージュ、あとどれくらいで着くの?」
「ふむ、少し疲れたか?」
「ううん、そういう訳では無いんだけれどちょっと気になってさ」
「そうか。では回答しよう。もう着いた」
「へ?」

何だかんだで結構な高さまで登ってきたとは思ってはいたが、目の前に大きな崖があり頂上までは程遠いと感じていた中で
目的地に着いたと言われても実感が沸かない。そこで周囲を見渡してみるが確かに自分たちがいる場所は岩山の上としては開けていて、平らな部分が多い。また、木々も若干生えており休憩するにはちょうど良さそうな場所ではある。

「えっと、ここでピクニックという事?」
湖張が冗談半分でそう聞くと、レドベージュは目の前の崖に向かって歩き始める。
「まあ一見したら何もないのだがな」
そう言った後に崖に向かって右手をかざすレドベージュ。そして彼の手が光ったと思うと、
目の前の崖が10階建て程の高さの塔に変わる。

「えええええええええええええ!?」
「良い驚きぶりだな」
湖張があまりにも良い反応をするので、してやったりと満足そうなレドベージュ。
「何これ!?どういう事?」
「言ったであろう、天の者しか知りえない事だと。普通の人間では入ることが出来ないようにカモフラージュしているのだ」

ただですら周りに何もなく、たどり着くまでに一苦労の岩山で、尚且つこのように隠されているのであれば人に知られていなくて当然である。
突然の出来事にしばらく湖張は呆気に取られてしまった。

「この中を観光するの?」
「そうだ。そこで少し勉強だな」
固まっていた湖張がようやくその言葉を口に出すと、扉に手を当ててゆっくりと開けるレドベージュ。
すると中は薄暗い空間が広がっており、建物の内部には円筒状の巨大な柱が真っすぐ頂上に向けて伸びていることが何となく分かる。
明かりが無いので明かりをどうすれば良いかレドベージュに相談をしようとしたのだが、
一歩中に入ると壁が薄っすらと光り出し明かりが無くても見渡せるようになる。
目に入った光景は、古めかしい雰囲気があるのだが、壁がうっすらと光っているので神秘的でもある。
今までに体験したことがないような不思議な空間に身を置く事で必然的に胸が高鳴ってくる。

「では行くぞ。目指すは最上階だ」
壁際にある螺旋状に伸びる階段を上り始めるレドベージュ。そして湖張はこの後に何を知るのかという期待と不安を胸に秘めながら彼の後をついていった。

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