ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百二十一話【ロダック討伐のご褒美】

           

「うん、やっぱりこの村の山菜料理は美味しいね」
「はい、昼は肉が多めでしたので夜はこういうので落ち着きたいですね」
「そうだねー」
「ただ願わくば、もう少し静かにしてもらえれば助かるのですが・・・」

日が落ちて暗くなった広場の隅で中央に燃え盛る大きな焚火を見ながら並んでベンチに腰を掛け会話をする湖張とラナナ。
膝の上にトレーを載せて、村の自慢の山菜パスタをゆっくりと食べている。

今度こそロダックを倒しきったと分かるなり、再び村全体はお祝いムードになっていた。
屋根から降りるなりハルザートは村人たちから引っ張りだこでにされて自由時間はなさそうであった。
上空に飛び上がり派手にロダックを打ち落としていた姿を多くの人々に見られた事が原因のようだ。
湖張も飛び上がってはいたが、彼ほどは目立ってなかったので、特段人が群がらず困ることはなかった。

「でも良いのかな?お礼とはいえ料理をいただいちゃって」
パスタを口にした後に湖張がそう言うと、ラナナは答える。
「良いんじゃないですか?むしろ村人からすれば何もかもしてもらっては逆に申し訳なさばかりため込んで気持ち悪いですよ。人間の心理的に借りが出来たら返したいものです」
「そっか。まあそうかもね。・・・でもそれのお陰で納得いかなさそうな人がいるようだけれども」

苦笑いを見せる湖張。そして彼女は小さく指を指す。
その方向に視線を移すラナナ。するとそこには何か言いたげな目でこちらを見ているハルザートの姿が遠くにあった。周囲は村人に囲まれており、こちら側には来られないようだ。

「あーそう言えば晩御飯を奢るような事を言っていましたね。まあこの状況じゃ無理ですね。食事は提供されていますし」
目を半分くらいの大きさにしてニヤッとするラナナ。妙に嬉しそうである。
「そうだね、まあ私たちも普段通りの仕事をしただけだから、特段お礼が欲しいわけではないし」
湖張はそう言うなり周囲を見渡す。

「レドベージュですか?」
「うん」
湖張の素振りから察したラナナが質問をすると、正解のうなずきが返ってくる。
「そういえば先ほどから見当たりませんね。ひょっとしてまた屋根の上でしょうか?」
「どうだろう?もうロダックはこなさそうだけど」
「・・・あー」

少し考えた後に何かが分かったかのような声を落ち着いた雰囲気で出すラナナ。
「何か思い当たった?」
「はい、多分ロダックと思われる魔物のところですよ」
「村の外の?」
「はい、何か情報を得るために分析をしているのではないのでしょうか?」
「そっか、そう言えばレドベージュは倒した魔物の調査をよくやっているよね」
「村がお祭りモードなので雰囲気に流されてはいましたが、私も少し見てみたいですね」
「じゃあ行く?もう少し静かな方が良いんだよね?」
「そうですね。ひょっとしたら何か分かるかもしれませんし」

そう言うなり膝の上の食べ物を食べ終え、ベンチから立ち上がる二人。
と、その時であった。近づいてくる人影に気が付く。ハルザートだ。

「どこかに行くのか?」
「あれ?解放されたの?」
すっかり村の人気者になっていたハルザートが一人でこの場に辿り着けたことに小さく驚き、キョトンとした顔で問いかける湖張。それに咳払いをした後に答えるハルザート。

「まあ少しだけだがな。それより約束を果たせていないことが気がかりでな」
どうやら奢る約束を果たすために無理して近づいてきたようだ。しかし今はそんなことが不可能なことくらいは簡単にわかるので苦笑いをして返す湖張。

「ああ、別にいいよ。それ以前に今日は飲食するのにお金を払う方が難しいって。
そもそも私たちだって正しい事のために力を使っているんだよ。別に感謝される事も、お礼をされる事もないって」
「しかしだな」
腕を組んで困り顔を見せるハルザート。それをジッと見た後に湖張は言葉をかける。

「そうしたらさ、今度会った時に何かご馳走してよ。どうせまたどこかの町で出会うこともあるでしょう?」
その提案を聞くと、少し考えた後にうなずくハルザート。
「今度か・・・そうだな、そうするとしよう。約束だからな」
心なしか嬉しそうな表情を見せたかと思うなり、振り返り再び元居た場所に戻るハルザート。どうやら納得をしてくれたようだ。
その後ろ姿を確認してしばらくすると、隣からラナナが話しかけてくる。

「今度食事するのですか?」
相も変わらずつまらなさそうな顔で質問を投げかけてくると、湖張は何気ない顔で答える。
「そうだよ。もちろんラナナも一緒ね」
「・・・そうなのです?」
「そりゃそうだよ。じゃないとあの人は納得しないでしょ?大分ラナナにも助けられていたもの。それにメーサ教の情報を引き出す良い機会になるかもしれないよ?」
「あー・・・」
少ししてから苦笑いを見せるラナナ。そして湖張は言葉を繋げる。

「まあ悪い人ではないからさ、食事くらいは付き合おうよ」
「・・・そうですね」
小さくため息をついた後に了承するラナナ。
そしてロダックが倒れている場所に移動をするために体の向きを変えると、遠くから見慣れた赤い鎧が近づいてくる姿が目に入る。レドベージュだ。

「あれ?」
「こっちに来ていますね」
どうやら自分たちの下に近づいてきている様子なので、そのまま待つことにする二人。

「食事は十分にとれたか?」
「うん、美味しかったよ」
「どこに行っていたのです?やっぱり倒したロダックの調査ですか?」
レドベージュの問いかけに湖張が答えるなり、早速ラナナが核心に触れようとする。

「うむ、その通りだ」
「やっぱり。それで何か分かりましたか?」
興味津々といった視線を向けるラナナ。

「詳しくは分からないぞ?だが、やはりあれはロダックのようではあった。体が大きいというところ以外は特徴がロダックそのものだ」
「ではなぜ火の玉を?」
「まだ確定は出来ていない。だが湖張の予想通り、改造されたのかもしれぬ」
「何か根拠になるものでも見つけましたか?」
「いや、根拠になるかは分からぬが、首元に古傷のようなものを見つけた」
「古傷・・・ですか?」
「うむ」

二人の話を傍らで聞いていた湖張。このタイミングでふと思ったことを口に出す。
「それが手術の痕という事?」
うなずくレドベージュ。

「うむ、そうとも考えられるな。だが疑問も残る」
「そうなの?」
「うむ、そもそもの話なのだが火の玉を吐く魔法をどうやれば魔物に埋め込めるのだ?」
その言葉を聞くと何度かうなずくラナナ。

「確かにその通りですね。魔法を扱うというものは簡単なものではないです。
しっかりと制御ができないと駄目です。何かを埋め込んでどうこう出来るものではありません」
ラナナの言葉に問いかける湖張。
「そうなの?でも最初に戦ったアールなんとかは傷ついたら勝手に回復していたよ?」
「うむ、おそらくだが痛覚を利用して損傷した部分を特定し、魔道具が勝手に回復魔法を発動するという仕掛けだと思われる。つまりは魔物自身の意思は全く関係が無い。
だが今回の火の玉に関しては魔物が明らかに敵に向かって吐き出したものだ。魔物の意思に関係している。つまり魔物が魔法を制御していたということだ」

その話を聞くと、少し考えた後に問いかける湖張。
「ところでさ、ロダックの体から魔道具みたいなものは見つかったの?」
首を横に振るレドベージュ。
「いや、首周りを確認したがそれらしいものはなかった」
「・・・じゃあ改造じゃないという事?」
再び首を横に振るレドベージュ。
「いや、他の方法で魔法が使えるように改造したのかもしれぬ。もちろん改造ではない可能性もある」
「つまりは分からない?」
「うむ」

「やっぱり私も少し調べたいですね」
難しい表情でつぶやくラナナ。するとレドベージュはうなずく。
「うむ、それも良かろう。だが今日はもう暗い。明日、日が出てからにするとしよう」

そう提案されると、星空を見上げる湖張。
「まあ今から見に行こうとは言ってはいたけれども、半分はレドベージュを探しに行く意味合いもあったから、今となっては明日でも良いかな。今日も今日とて疲れたし」
「そうですね。確かに明るくないと何かを見落とす可能性もあります」
「うむ、そうすると良い。では時間も空いた事だ。これだけ星が出ているのだ。少し星の話でも聞くか?」

「星の話・・・ですか?」
レドベージュの提案に興味がありそうな表情を見せるラナナ。
「うむ、昔の人々は夜空に輝く星の配置から人や動物などを連想し、いくつもの物語を作った。そのほとんどは作り話なのだが、中には実話を基にした話もあってな。興味はあるか?」
「何ですかその面白そうな内容は!」
星の話に、星のような輝きを目に見せるラナナ。その様子を見るなりレドベージュは空に輝く一つの星を指さす。心なしか嬉しそうだ。

「あの強く輝く星は見えるか?まずはあれについてだ」
説明を始めるレドベージュ。賑やかに楽しむ人の声と、高い音の虫の声。そしてそれらを包み込む山の静けさが重なる中で聞こえてくるレドベージュの声から不思議と穏やかさを感じる。

「む?どうかしたか?」
ジッと見つめていた湖張の視線に気が付いたレドベージュが不思議に思い問いかけると、湖張は何気なく答える。

「いや、レドベージュって不思議な存在だなって」
「む?まあ人から見たら不思議ではあるだろうな」
首を横に振る湖張。

「いやそうじゃなくって、何ていうのだろう?・・・よく分からないや」
「ふむ、まあ良い。では話に戻るとしよう」
特に気にすることも無く話を再開するレドベージュ。
それからしばらくの間、湖張とラナナは空を見上げながら過去の話をじっくりと聞き続けた。

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