ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百二十話【屋根の上の攻防】
- 2022.01.31
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
剣に水色の光を纏わせ巨大化させると、迫りくるロダックに向かい魔法で飛び上がるハルザート。そして右から左へと斬撃を繰り出すが、剣はロダックのかなり手前を空振る。直後に斬り戻すように左から右へと剣を振るがその攻撃もロダックに命中することはなく、更には数度剣を振り回す動作を見せるハルザート。
彼の攻撃によってロダックは急降下の軌道を変えて上空に一度退避をし、旋回しながら地上の獲物を狙い続ける。
その様子を確認しながら自由落下で再び屋根の上に戻るハルザート。着地点に駆け寄る湖張。
「ちょっとどうしちゃったのよ?ひょっとして調子悪いの?」
鋭い攻撃を仕掛けると思っていたハルザートが全て外してしまったので疑問を投げかける湖張。すると彼はゆっくりと湖張に視線を向けて答える。
「調子は悪くない。ただここでロダックを打ち落としたら村に甚大な被害が及ぶ可能性がある。ロダックは巨体だ。上から振ってきたら無事では済まない。人だけではなく家も私財も守らなくてはならない」
「つまりわざと攻撃を当てないで追い払ったという事?」
「そうだ」
確認を取る湖張に簡単な答えを返した直後、ハルザートは誰かに背中を片手で軽く押されたような感覚があり振り返る。するとそこにはラナナの姿があった。そして彼女は小さくため息をついた後に話しかけてくる。
「何も一人で全部対処しようなどと思わなくて良いです。落下したロダックは私たちでどうにかします。要するに協力してあげますからアナタは気にせずさっさと打ち落としてきてください」
「・・・そうか、分かった」
ムスッとしたままだが協力的な姿勢をラナナが見せた事が嬉しかったのか、危機が迫る状況の中で小さな笑みを見せるハルザート。それを見るとため息のラナナ。言葉は出さないがジト目で返す。
「よし、じゃあ決まりだね。そうしたらさ、あっちの空き地に落ちるようにしようよ」
二人の様子を確認した後に村の外に指をさして提案をする湖張。彼女の指先は村を取り囲んである木の柵の外で、ちょっとした空き地になっていた。そこならば人の姿も建物もなく、大切そうな物も無いうってつけの場所であるように見える。
「分かりました。では落下してきたロダックはあそこに魔法で飛ばすようにしましょう」
軽くうなずいて賛同するラナナ。そしてハルザートも同意する素振りを見せた後に湖張に話しかける。
「了解した。なるべくなら私もその場所に落とすように心がけるが、失敗したときはフォローを頼む。そして湖張、先ほどの高く飛び上がる魔法をお願いしても良いか?私は魔法がそこまで得意というわけでない。なので飛行の魔法を使えはするが、それに集中をすると剣が鈍る。飛び上がる魔法は省略をして攻撃することに集中をしたいのだ」
「はいはい、分かりました」
左手をハルザートの足元に向けて振り払う動作を取ると、緑色の光の粒が彼を包み込む。
「すまない、行ってくる」
上空を見上げ飛び上がるハルザート。その先には急降下を仕掛けてくるロダックの姿があり、完全に彼を狙いに来ている。
「仕留める!」
巨大な青い光の剣を右から左へと薙ぎ払うハルザート。高速で正確な斬撃をロダックは避けられるはずもなく、左側から体全体を叩きつけられ力ない様子で落下していく。
「さすがに難しいな」
ロダックが落ちていく様を見ながら呟くハルザート。一応は狙ったつもりではあったのだが、落下の軌道は空き地ではなく村の柵付近に向かっていた。
「バスターピラー!」
屋根の上にいたラナナの手から発せられた巨大な光の柱が落下するロダックに横から命中をすると、魔物の巨体は落下の軌道が変わり、打ち合わせをしていた空き地に落下をする。巨体が落下した鈍い音が周囲に届き、砂埃が舞い上がる。
「・・・大したものだな」
空に滞空はしてはいなかったので、落下をしながら呟くハルザート。ラナナの魔法の正確さに関心をする。
と、その時であった。彼の横側から高速で飛び上がる存在に気が付く。
「湖張!?」
上空に向かい振り返りながら名を呼ぶハルザート。すると湖張は大きい声で答える。
「立て続けて襲ってきているでしょ!」
そう言った直後、次に降下してきたロダックに接近する湖張。そして真正面からはぶつからずに、ロダックの左側を通過するルートを取り、すれ違いざまに魔法で急激に横方向へ軌道を変えて飛び蹴りを浴びせる。
「サンダーボルト!!」
バランスを崩し落下したロダックを上空から魔法で狙い撃つ湖張。彼女の手から放たれた雷撃はロダックの体を突き刺さした後に、狙いを定めている空き地に降り注ぐ。そしてその雷の軌跡が軌道の案内になったかのように、ロダックは空き地に叩きつけられる。
「あっちも大したものだ。だがこれでは・・・」
「はいはい、そうしたら私が代わりに魔法を掛けますよ」
湖張が上空に行ってしまったので飛び上がりの魔法をかけてもらえず困っていそうだったハルザートに魔法を掛けるラナナ。それに小さく驚くハルザート。
「君もこの魔法が使えるのか?」
小さいため息のラナナ。
「そもそもこの魔法は私が湖張姉さまに教えたものです」
「・・・そうか、助かる」
そう告げるなり再び飛び上がるハルザート。狙うは更に上空にいるロダックであった。
「一気に片付ける!」
湖張の位置を飛び越え残りのロダックが滞空する付近まで飛び上がるハルザート。そして巨大な光の剣を薙ぎ払い、次から次へとロダックを叩き落としていく。
「ちょっと、連続で落としすぎ!!」
この状況に慌てる湖張。最初に落下してきたロダックを横から蹴り飛ばすと狙い通りの空き地に吹き飛ばす。
「フォローして!」
次から次へと連続して巨体が降ってくるので、流石に一体しか対処できなかった湖張が声を上げると、すぐ近くに飛び上がってきたレッド君が次の一体に向かい剣を振るう。
「ラナナ!」
狙った場所に落下の軌道を変えると、今度はレッド君が声を上げる。
「バスターピラー!」
再び屋根の上から魔法を放つラナナ。彼女の魔法は三体目の落下する軌道を変えて、安全地帯に導いていく。
「一体くらいは!」
そう言いながらロダックを叩き落とすハルザート。するとその言葉の通り狙った空き地にロダックは落下していく。そしてハルザートもまた落下をして屋根の上に戻る。
「随分と派手にやってくれたね」
同じく屋根の上に戻った湖張がハルザートに話しかける。
「すまない」
「まあ別に良いけど。それより残りは一体だね」
「ああ、また飛び上がりの魔法を頼めるか?」
「良いけど・・・でも心なしか残りの一体は少し大きくない?」
湖張が素朴な疑問を口にすると、レッド君はジッと空に滞空するロダックを見つめる。
「うむ、他とは少し違うように見受けられるな」
「そうか、だがやることは変わらない。頼む湖張」
「いえ、その必要はありません。私がやります」
ハルザートが湖張に飛び上がりの魔法を頼んだところで話に入ってくるラナナ。手でハルザートを静止する素振りを見せた後に屋根の上から上空のロダックに向けて手をかざす
「メガトン!」
巨大な白銀の光が突風を纏いながらロダックに向かって突き進む。正確な狙いは目標の中心を捉え、白い煙をバラまきながら周囲に怖いくらいの爆発音を響かせる。
「やったか」
煙の中から巨大なロダックが落下する姿を見るなりつぶやくハルザート。特に補正せずとも、このまま空き地に落ちそうである。戦いの終わりを感じ気が緩む。
しかしその時であった。ちょうどロダックが屋根の高さを通過しようかというタイミングで、事もあろうに体勢を立て直す。そして口を大きく開けるとラナナに敵意を向けて、最後のあがきと言わんばかりに大きな火の玉を吐きつけてきた。
「いかん!」
咄嗟にラナナの前に飛び出して両手を広げて庇うハルザート。その間にも目の前に火の玉が迫る。
「ちょっと!」
ラナナは慌てながらハルザートの腰の横から左手を伸ばし、魔法で巨大な緑がかった半透明の防御壁を展開する。その直後、衝突による爆風が防御壁を中心にして広がると、灰色の煙が屋根の上を覆いつくしてしまった。
3秒ほど経過すると、視界を遮る灰色の海の中から一人の影が飛び上がる。それは湖張であった。屋根から3m程飛び上がると村のはずれに着地をし、ボロボロになりながらもなんとか立っている巨大なロダックの姿を確認する。
「サンダークロス!」
二方向からの雷撃を放つ湖張。直撃を受けたロダックは重い物が落ちたような音を立てて倒れこむ。
「ラナナ!ハルザート!!」
しっかりとロダックを仕留めたことを確認せずに、再び屋根の上に着地をするなり、下から上へ手を振り上げて突風を起こす魔法を放つ湖張。ラナナたちの事が心配で、少し焦りを見せながらの魔法だったせいか、少し荒っぽい風である。
そんな風の中、煙を吸ったのか咽ているラナナと、口を押えているハルザートの姿が目に入る。二人ともどうやら無事のようだ。
「ちょっと、大丈夫なの!?」
慌てて駆け寄る湖張。するとハルザートは咳ばらいをした後にうなずいて答える。
「ああ、問題ない。ただ、庇いに行ったところが実は余計なお世話で、むしろ守られてしまった。恥ずかしい限りだ」
守りに入ったはずだったのだが、その必要はなく逆に守られた事に恥ずかしさを感じているようだ。その一方でラナナはようやく呼吸が落ち着いたようで、ため息のなのか深呼吸なのか分からない息を一つついてから言葉を発する。
「結果的にはそうでしたが、庇おうとした姿勢には素直に感謝しますよ」
そう言って視線をハルザートに向けるラナナ。すると優しい表情を見せるハルザート。
しかしラナナの関心事は他にあるようで、少し怖い表情を最後のロダックの方に向ける。
「それより最後のロダックです。いえ、ロダックではない可能性が出てきました」
「うん?どういう事?」
屋根の上を歩いて少しでも空き地に近づきながら発言をするラナナに問いかける湖張。屋根のギリギリ端のところで立ち止まるとラナナは答える。
「最後に火の玉を吐いたじゃないですか?そもそもロダックは火の玉を吐きません」
「え?」
「それに一回り体も大きい気がします。なのでロダックのようで違う魔物なのでは・・・どう思いますか?」
このタイミングでレッド君に問いかけるラナナ。
「そうだな、確かに我もそれが気がかりではあった。だが一見するとロダックでもある」
「考えられる事はあります?」
「突然変異・・・いやそれにしても極端すぎる。それか魔物なので魔法を使ったか。いやそもそもロダックが使う魔法は暗闇でも遠くを見通す視覚を強化する魔法だ。攻撃的な魔法ではない」
「え!?そうだったのですか!?」
「む?知らなかったのか?」
「知らないも何も、知っている人なんていませんよ!動物ですら生態が完全に把握されていない種類ばかりなのです。どの魔物がどんな魔法を使うのかなんて完璧に把握はされていません。特にロダックのような巨大で好戦的な魔物なんて調べようがありませんよ。ただ魔力を感じるから魔物とされていただけです!」
話が途中で逸れてしてしまい、そのまま戻らなさそうな雰囲気になるラナナ。どうやら今日も興味深い新情報を得られたようである。しかしそんな中で湖張がふと思ったことを口に出す。
「・・・ひょっとしてアールなんちゃらみたいな感じだったりして?」
「・・・え?」
キョトンとした顔で湖張を見つめるラナナ。
「ああ、違うかもだけれども・・・この前戦ったアールってさ、魔物を作ったり改造したりしたんだよね?それと同じようにこのロダックぽいのも改造された魔物・・・とか?」
「ふむ、その線は大いにあり得るな」
「そうですよ、それならば納得できます!」
あまり深く考えずに適当な事を言っただけではあったのだが、二人の賛同を得られたことに戸惑う湖張。思わず苦笑いを見せる。
「あはは、適当なんだけれどもね。でもさ、そうしたら誰が何のためにという新しい疑問も生まれるよね?」
「ふむ、そうでもあるな」
そう言いながら打ち落とされたロダックの山に視線を移すレッド君。
すると、この時タイミングでハルザートが近づきながら話しかけてくる。
「さすがにもう起き上がらないようだな」
答える湖張。
「うん、これで終わりっぽいね」
「ああ、助かった。ありがとう」
「どういたしまして」
にこやかにやり取りをする二人。いつもならばここでラナナがつまらなさそうな視線を向けて来るのだが、今はロダックについて夢中のようである。
「ハルザート様!」
地上から屋根の上のハルザートに向けた男性の声が聞こえる。メーサ教の騎士である。
その姿を確認するなり声がする方に近づくハルザート。そして屋根の上から声をかける。
「どうした!?問題が発生したか?」
「いえ、大丈夫です。それよりも全部倒したのですか!?」
大きな声で問いかける騎士。その内容に近くにいた村人までもがハルザートに注目をする。
屋根の上の青い騎士は多くの視線に気が付くと、うなずいた後に答える。
「ああ、おそらくこれで以上だ。もう心配は無いだろう」
その答えが耳に届くと、大きな歓声に包まれる村。騎士も村人も腹の底から大きな声を出しているようだ。
「すごい、さすがハルザート様だ!!」
「ハルザート様!!」
多くの人々がハルザートの名前を英雄のように呼ぶ。しかし当の本人は困惑の顔を見せる。
「待ってくれ、私だけではなくって・・・」
戸惑いながら出した声は、大きな歓声にかき消され届きそうもない。それに困りながら手を前に出して止めようという素振りを見せるハルザート。
そんな中で背中を軽く叩かれ話しかけられる。相手は湖張であった。
「良いじゃないの、実際に一番ロダックを倒していたのはアナタだよ。それに私たちはあまり目立ちたくはないから、ここは感謝を一気に引き受けてもらった方が助かるかな」
そう言った後に、今度は強めに背中を押して一歩前進させる湖張。
「ほら、危険の後には英雄が欲しくなるものだよ。皆を安心させるのも仕事だよ」
そう言って笑顔を見せる湖張。するとため息のハルザート。
「・・・せめて今晩は私の金でご馳走させてもらう。拒否権は無いからな」
そう言うなり地上の人々に向けて手を挙げるハルザート。
その動きに反応した人々は、更に大きな歓声を上げ始めた。
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