ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第五十四話【次は北を目指して】
- 2020.11.03
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
グレルフ退治を終えて村に戻ると、昼も過ぎた時間であるにもかかわらず、超宴会は未だに続いていた。
流石に超が付くだけの事はある。
ただ単に酒が好きなだけなのかもしれないが、村全体が陽気に満ち溢れているので止めるのも気が引ける状態だ。
心地よい天候という事もあり、屋外でも多くの村人が飲めや歌えやの大騒ぎであった。
「うん、ここの村ではこの有り方が正義なんだね。そう理解しよう」
細い目でそう呟く湖張。この様子を予想していなかったわけではないが、
実際に目の当たりにしてしまうと固まってしまう。
既に出来上がっている集団に絡まれるとろくな事が無いので、なるべくなら静かに立ち去りたい雰囲気である。
「とりあえずそっと部屋に戻りませんか?」
小声でそう訴えかけてくるラナナ。恐らくラナナも同じ気持ちなのであろう。
その提案にゆっくりと首を縦に振って了承すると、誰にも声を掛けず目を逸らしながら宿屋へそそくさと移動する三人。
「お、湖張ちゃんじゃん!おかえりー!!」
しかしながら狭い道を歩くので、見つからないわけもなく大声で呼び止められる一行。
当然といえば当然である。
だがその呼び止める声にも屈しない湖張。
立ち止まる事なく歩きながら笑顔で手を振って誤魔化しつつ、宿屋の扉へ一直線に向かう。
「もう少し、あともう少しだよ!」
そこまで距離は無いはずなのだが、妙に宿屋の扉が遠くに感じられる。
この心情は焦りからくるものであることは明白であるのだが、その様な分析を冷静にしている場合ではなく、
とにかく今は部屋に逃げ込む事が先決である。
無意識のうちに小走りになりつつも、ようやく扉の前にたどり着く一行。
そして扉に手が触れると同時に、宿屋の扉が勢いよく内側に開く。
「おかえり、湖張ちゃーん!」
大きな声で顔が真っ赤な宿屋の主が突如として目の前に現れる。
予想だにもしなかった登場に固まってしまった。
「な・・・何で分かったのですか?」
たじろぎながら湖張がそう尋ねると、宿屋の主は大笑いしながら湖張の後方を指さす。
「そんなの、あそこの酔っ払いがおかえりーって大声で叫べば嫌でもわかるさ!」
(さっきの人が犯人か・・・)
恨めしそうな視線を後方に向けるが、そんなものには気にもせず、
さっきの男性は右手に持っている飲み物を美味しそうに飲んでいる。
しかしこうなっては仕方がない。宿屋の主くらいには軽く挨拶をしてから部屋に戻る方針へと頭を切り替えると
笑顔で「ただいま戻りました」と挨拶をする湖張。
するとその笑顔に答えるかのように、腕を組みながら笑顔で問いかけてくる宿屋の主。
「おう、それでグレルフは見つかったのかい?」
「え!?」
今日はグレルフの退治に向かったのだが、その事は村民には伝えていなかったはずなのに
何故か宿屋の主が知っている事に驚かされる一行。思わず戸惑いの表情を隠せない。
「・・・何で知っているのですか?」
目を大きくして湖張がそう尋ねると、宿屋の主はバチンと一度、両手を叩いて大きな音を立ててから
後ろを振り向き、宿屋の中の人を指さす。
「ほら見ろ、やっぱり湖張ちゃん達はグレルフ退治に行っていただろ!?」
「うわー、やられた!」
「おら、負けた奴は激辛唐揚げを喰え!」
「・・・うん?」
どうやら中にいる人に話しかけているようだが、いまいち現状が把握できない。
そこで中を覗いてみると、数人の男たちがカウンター前で飲んでいた。
「本当にグレルフを退治しに行っていたのかい?」
宿屋で飲んでいる人の輪の中に衛兵もおり、近づきながら驚いた顔で問いかけてくる。
「・・・はい、群を一つ倒してきました」
特に隠す必要もないので素直に答える湖張。
すると宿屋の主は一行を宿屋の中に招き入れてから笑顔で事情を話始める。
「いや、昨日グレルフの注意書きを湖張ちゃんが見ていた段階から
これは行くなと思っていたんだよ。それに今日も部屋の予約もしただろ?それで確信したね」
「・・・あー」
ため息が一つ出た後に納得をする湖張。
宿屋の主は意外と勘が鋭いらしい。
「辛!!辛すぎるぞ!」
「ぎゃははは、リンゴジュースでも飲めよ!」
「なんだよそれ!」
奥の方で大人げなくはしゃぐ声が聞こえてくる。
それを不思議そうに見ていると、衛兵の男性が苦笑いで話しかけてくる。
「ああ、見苦しくてごめんね。
あの人は湖張ちゃん達がグレルフの群を退治しに行っているかどうかを、マスターと賭けをしていてね。
それで負けた方は激辛料理を食べるというルールだったんだよ」
「はあ・・・」
辛すぎる料理を口にして、見ていて可哀そうなくらいにもだえ苦しむ男性。
一体どのくらい辛い物なのだろうか。疑問には思うが決して食べたくはない。
「ところでさ、グレルフの群だけど何匹くらいだった?」
酒の席ではあるのだが、衛兵はそこまで酔ってはいないようで真面目な顔をして質問をしてくる。
どうやら自分の役割をしっかりと認識している様子だ。
「あ、えっと・・・20匹くらいだったかな?」
ざっとしか見ていなかったので自信なさげにそう答えた後にラナナに確認を取る湖張。
「はい、その位でしたね」
一方ラナナも数えていたわけではないので確認を取られたのだが、どうしても曖昧な返事になってしまう。
しかしその話を聞くなり、衛兵は小刻みに頷きながら笑顔を見せる。
「うんうん、そうしたらもう大丈夫かもしれないね。
というのも聞いていたグレルフの群は20匹程との事だったんだ」
「そうだったのですか?」
「そうだよ、だからもうきっと安心だね」
「いや、本当にすまねえな」
衛兵とやり取りをしていると、激辛から揚げを食べさせ終わった宿屋の主が話に加わってくる。
「あ、いえ。私たちも他に理由があっての事ですので、気にしないでください」
湖張が控えめな態度でそう告げると、宿屋の主は頭を掻き始める。
「いや、例えそうであっても助けてもらっている事には変わりないんだ。感謝してもしきれないぜ。
今作っているのも石像ではなくって黄金の像に変えた方が良いんじゃないかとも思えてくるぐらいだ」
「いやいやいやいや!!」
「がっはっは!冗談だって。流石にそこまでの金はねえ!
でも本当にありがとうな。みんな感謝しているんだ。
・・・さてと、とりあえず風呂に入るだろ?用意させておくから部屋でしばらく休んでいてくれよな」
穏やかな様子でそう告げると、カウンターの奥に入る宿屋の主。恐らく風呂の準備に向かったのであろう。
衛兵も軽く礼をした後、飲みの席に戻っていく。
どうやらこの場では自分たちは宴会から解放されているようだ。
なので何事もなかったかのように、二回の部屋に向かうことにする。
「・・・石像って何の事ですか?」
後ろからラナナが湖張に質問をすると、湖張は人差し指を口に当てて内緒のポーズを取る。
「ダメ、その話はまだダメ」
小声でそう告げると、不思議そうな顔を見せるラナナ。
するとその話が聞こえたのか階段の下から一人の男性が話しかけてくる。
「そうだ、今だったら間に合うからラナナちゃんも石像に加えとくからね!」
「え!?」
「・・・あーあ」
戸惑いのラナナ。どうやら触れてはいけないところに触れてしまったらしい。
とりあえずここで立ち止まって、一悶着もあれなのでラナナの手を引いて部屋に戻る湖張。
「ちょっと、石像ってどういう事ですか!?」
部屋に入るなり慌てて質問をするラナナ。それに遠い目をして答える湖張。
「あーうん、何か私とレッド君が英雄視されていてさ、石像にするんだって。
そんな中でラナナも加わって村に再登場したから、そりゃラナナも石像化決定だよね」
「ええええええ!?」
「まあ諦めて。私は諦めた」
ため息交じりにそう答えた後に、ソファーに腰を掛ける湖張。
するとレドベージュはタオルを渡してくる。
「もうレドベージュはタオルを配るのが仕事になってるよね」
「うむ、意外と楽しいぞ」
「なんのこっちゃ?
そう言えばさ、グレルフの群はあれだけだったのかな?」
落ち着いた席で湖張がそう切り出すと、レドベージュは首を縦に振る。
「うむ、20匹前後の目撃例だったようなので大丈夫であろう。
実際に我らが征したのは伏兵込みで24匹であった。数も合っている」
「あれ?数えていたの?」
「うむ」
「何だ、それだったら下で聞かれたときに教えてくれれば良かったのに」
湖張が少しムッとして返すと、レドベージュは首を横に振る。
「いや、レッド君は言葉を発しないであろう?」
「あれ?でも新しい設定で喋れるようにしませんでしたっけ?」
水を一口飲んだ後にラナナが不思議そうにそう返すと、彼女に視線を向けるレドベージュ。
「いや、あそこで我が喋り出したら、その珍しさから酔っ払いたちの的になってしまうではないか」
「はあ!?それずるい!!」
「そうですよ!レドベージュも平等に宴会の試練を受けるべきですよ!」
大ブーイングを二人から受けるが、赤い鎧は聞く耳を持たない。
「まあ落ち着け。適材適所という言葉があってだな。
我のような口数の少ないものは宴会には不向きなのだ」
「嘘だ!レドベージュは意外と饒舌だよ!」
「そんな事はないぞ?」
「ずるいずるいずるいずるい」
恨めしそうにジッとレドベージュを見つめるラナナ。その視線にため息をつくレドベージュ。
「まあ良いではないか。今日も早々に切り上げるとしよう。
それより今のうちから明日の予定を伝えたいのだが良いか?」
「・・・誤魔化した」
「誤魔化しましたね」
「むう・・・」
数秒間沈黙が流れる部屋。
「・・・で、明日はどうするの?」
宴会で盛り上がる天将というのは確かに違和感があるので
仕方がないから許した湖張がそう切り出すと、レドベージュは何事もなかったかのように話し始める。
「うむ、実は明日は北の方角を目指そうと思う。
というのも、やはりメーサ教の事が気になってな。
もう少し調査をしてみようと思うのだ」
「メーサ教の?」
「うむ」
「それで北ですか?」
ラナナが北に向かう理由を知りたい様な雰囲気を出すと、レドベージュは首を縦に振る。
「うむ、北の方角には信仰が強い地域が広がっていてな。
殆どの者が天標(てんぴょう)を信仰している」
「天標?ああ、レドベージュ達を信仰している宗教の事だよね?」
湖張が確認を取るように質問をすると、頷くレドベージュ。
「うむ、その通りだ」
「何でまたそこに行こうと思ったの?」
首を傾げて質問をする湖張。
「それはメーサ教の活動範囲を絞るためだ。
何故ならこの世の中は広いから、ただ彷徨って探すには骨が折れるであろう?
それであればどのような人々を勧誘のターゲットにしているのか傾向を調べる事が良いと考えたのだ。
そこでまずは熱心な天標の信者が多いエリアではどうなのかを調べてみたいのだ。
というのも数多くあるその他の宗教では様々な神が存在するとされているのだが、
天標では神は唯一無二の存在で他には存在しないという教えでな。
それ故に神と言えば自らが崇める神を差す事となり、神の名前は不要で特に呼び名が無いという考えが特徴的でもある。
よって本来であればラリゴ神という名前があるのだが、人々はその名を知らずにただ『神様』と表現しているだけだ。
そしてこの天標は世の中に一番広まっていることと、神話に関りがある宗教なので多くの人々がその存在を知っている。
実際のところ、湖張は特に何かを信仰しているわけでもないのだが、我の事も知っていたであろう?
その位の知名度がある教えでもあるのだが、その反面として信仰心の篤い者もいれば薄い者もいる。
それで今回は篤い者にスポットを当ててみたいのだ。
何故なら、そんな神は一人しか存在しないと熱心に信じていた人々に
新しい他の神がいたという話をしても、普通に考えれば受け入れられないと思われるであろう?
そんな布教が難しそうな地域の中でもメーサ教は活動をしているのかをまずは見てみたい。
もし、そこでの活動が見られない場合は信仰が篤いエリアは調査の対象から外せるはずだ。
更に奴らは信者を増やそうとしているのであろう?
なのでどのような人間をターゲットにしているのかも調べておきたいという事もあるな」
「なるほど、確かにその調査はありですね。闇雲に各地を移動するより効率的です。
それにそこで活動をしているのであれば、熱心な信者を集めたがっているのかもしれないとも考えられますし、
改宗させるための策を何か用意しているのではないかとも考えられますね」
レドベージュの意見に賛同をするラナナ。
そして彼女の考えに頷きを見せるレドベージュ。
「うむ、その考察も得られる。良い着眼点だな」
「分かった、じゃあ次は北に決まりだね。
でも大丈夫?信仰が篤いエリアにレドベージュが行ったら騒ぎにならない?」
これまでのやり取りを聞いて納得のいった湖張は、ふと頭によぎった小さな心配事をレドベージュに尋ねてみる。
すると、彼は特に気にしない雰囲気で返答をする。
「なに、大丈夫さ。我の姿は世間一般には知られてはいない。
だいたい神話では赤毛で高身長の男だからな。分かりはしないさ」
「そういえばこの村で石像にされることは大丈夫なのですか?」
様々な文献や芸術作品では人の姿で表現されているのだが、
この村では今の姿で石像化される事が大丈夫なのかと疑問に持つラナナ。
しかしレドベージュは相変わらず気にしない雰囲気である。
「問題は無かろう。レッド君が天将レドベージュだとは誰も気付きはしないさ。
それに何だかんだ言っても我は昔から至る所に記述が残されているのだ。
ラナナもそれらの記述を幾つも見てきたのであろう?今更慌てる必要はないさ」
「ひょっとしてレドベージュってあまり自分の姿というか存在は隠していないの?」
あまりにも堂々としているので、実際のところはどうなのか疑問に思う湖張。
「うむ、特に秘密にしているつもりはないからな。
まあ世の中が混乱するであろうから自ら宣伝するつもりはないが、実は知られてはいけない話ではないぞ。
でないとこんな堂々と出歩きはしないさ」
「そっか。でもまあ騒動にはなるから、わざわざ広める必要はないよね」
「うむ、そうだな」
「それじゃあさ、明日は今日と同じくらいの時間に出発で良いかな?」
話がまとまったところで立ち上がり確認を取る湖張。
その答えに「うむ」とレドベージュが簡単に答えると、
壁際の書斎机に向かい何かを書き始める湖張。
「何を書いているのですか?」
ラナナは移動せずに元の位置から声をかけると、湖張は筆を止めてその向きに体を向ける。
「手紙だよ。故郷の村にいるおじいちゃん宛ての手紙。
ここからはそんなに遠くは無いのだけれども、戻って伝えるほどでもないからね。
というのもメーサ教がここら辺にいるのだったら故郷にも行っているかもしれないじゃない?
だから村に来たら追い返すように伝えておこうと思って」
「なるほど、それは確かに必要な事かもしれませんね」
「ラナナも親御さんに手紙を書いたら?」
何気なくそう伝える湖張。するとラナナは少し考えた後に首を振る。
「・・・そうですね、でも大丈夫ですよ。
私の村は良くも悪くも閉鎖的なところがありますから他宗教が入る隙はありません。
みんな生活の中にリンキ神とリティーさんのお話が関わってきていますから」
「そっか、なら平気だね。じゃあ手紙を書き終わったら、村の人に託してくるよ。
みんな酔っぱらっているけど宿屋のマスターか商店の人に託せばどうにかしてくれそうだし」
「うむ、それが良かろう」
レドベージュが同意すると再び手紙を書き始める湖張。
その後ろ姿を確認すると、ラナナは着替えの準備をし始めるのであった。
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