ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第四話【語りかける意思】

           

「ちょっと、どういう事?」
予想だにもしなかった現象が起きたので、驚きつつも光り輝く団扇を手に取る湖張。
その光はとても強く、ランプの光はかき消されているほどであった。

「ほう、今はお主がその団扇の持ち主か」
祠の方向から年老いた男の声が聞こえる。
とっさの出来事で身構える湖張。

「そう身構えなくても良い」
その声が聞こえると団扇の光は消え、代わりに祠から青い火の玉がうっすらと浮かび上がる。
「・・・魔物?」
湖張が窺うように火の玉を見つめながらそう呟く。
実際のところ声を発する火の玉が目の前に現れたらそう考えるのも無理はない事だ。

「いや、そうではない。私はこの地でその団扇を見守るからくり仕掛けみたいなものだ」
「からくり仕掛け?」
「そうだ。団扇を受け継ぐものに昔話をするだけのからくり仕掛けだ」
その様子や話の内容から、特に警戒する必要は無いと感じる湖張。
強張った表情をやめ、普段通りの雰囲気に戻る。

ピースキーパー赤き聖者003話

「それで、あなたは私に何を教えてくれるの?」
そう尋ねると火の玉は団扇のそばまでゆっくりと漂ってくる。
「ほうほう、今はまだその形のままになっているのか」
「その形のまま?」

火の玉の言葉に疑問を持つ湖張。
「どういう事?」
「もともとその団扇は天帝ゴルベージュ様が使われていた軍配であったのだ」

天帝ゴルベージュとは神話に出てくる神の側近であり、
神の代わりとして地上に起こる様々な問題を対処する者の名前である。
湖張は神話について詳しくはなかったが、天帝の名前は聞いたことがあった。

「ちょっと待って、天帝ゴルベージュって神話に出てくる神様の側近でしょ?
実在するわけないじゃない?」
「いや、天帝様は実在される」

急に突拍子もない事を言われて理解が追い付かない湖張。
神話なんて実際に起こった話ではないと思っていた中でそんなことを言われても中々信じられないものである。

「ごめんなさい、話についていけないわ」
思わず頭を抱えてしまう湖張だったが、火の玉は話を続ける。

「その昔、この地に突如として巨大な魔物が舞い降りたのだ。
魔物は四六時中暴れまわり、辺りは荒れ果ててしまった。

そんな中、一人の武闘家が現れその魔物を退治したのだ。
そしてその団扇はな、天帝ゴルベージュ様が褒美として、
また今後もより強い正しき力を振るうために武闘家に託したのだ」

「昔話にありそうな話ね」
「疑っておるな?だが本当にあったことだぞ」
「・・・」

湖張はまだ半信半疑の状態だったが、火の玉はさらに話を続ける。
「ただ託された軍配は黄金に輝きとても目立った。さらにありとあらゆるものを切り裂き、あらゆる攻撃を防ぐ強力な武具でもあった。
なので、そのままだと目立ち悪用する者もあらわれる可能性が懸念されたのだ。
そこで天帝ゴルベージュ様は軍配の形を変えられるようにされたのだ」

「形を変える?」
「そうだ。カモフラージュできるようにされたのだ。
持つ者の思い描く形が具現化される魔法をかけられた。
そして軍配は、当時の武闘家がお祭りで使うような団扇を思い描いてしまいその姿になった。
それが今お主の手元にある団扇だ」

「・・・何で団扇なの?」
もともとの形は分からなかったが、わざわざ団扇にする意味が全く理解できない。
自分の理解力がないのかと一瞬思ったが、やはり何度考えても理解に苦しむ内容であった。

「その武闘家は軍配の形状を変えるだけで、使い勝手は変えたくなかったのだ。
そしてお祭りで使う団扇なら欲深き人間にも感づかれないと考えたのだ」

「うーん、まあ・・・そうかな?」
そういわれると何となく理解できた気になってくる。

「わかった、この団扇はすごいことはわかったよ。
えっとそれでさ、あなたが教えたかった事はこの団扇の歴史と悪用してはダメという事で良いのかな?」

「そうだな。その団扇を正しきことに使うよう伝えるためだな」
「正しき事ねぇ・・・」

やはり、いまいちついていけていない湖張。
そして小さくため息をついて火の玉に話しかける。

「まあとにかく、あなたの言いたい事は分かった。
おじいちゃんがここに来るように言ったのは、この団扇の話をあなたにしてもらうためだったのね」

「いや、それは無いと思うぞ?
何せこの話をするのはお前が初めてだ。むしろ人と会話をするのはその団扇を託された
武闘家を最後にお前が来るまで誰とも会話をしていないのだ」

「え?」
「その団扇は使う者を選ぶ。第二の安全装置といったところだな。
素質がないと本来の力が発揮されず、使いこなせないのだ。選ばれなかった者では切れ味も大したことがないし、攻撃も大して防げぬ。それこそただの変わった形の武器というだけだ」

「そうだったの?」
「そうだ。そして最初の武闘家は弟子を育て、団扇を託し、そしてこの話を伝えていこうと考えていた。
しかし、弟子たちは団扇を使いこなすことが出来なかった。
なのでわしを作った。技と団扇を託した者をこの地に訪れさせ、団扇に選ばれた者だった場合、
わしに団扇の話をさせて廃れさせないようにしたのだ」

「そうなんだ。でも結局今日まで誰も団扇に選ばれることはずっとなかったんだね。
そして誰も話が聞けない流れが延々と続き、団扇を持ってこの地に訪れることが儀式にとして残っただけだったというところかな?」
「だんだんとそうなっていったようだ。挙句の果てには団扇を持ってこない者も現れる始末だ。そして結局は話が廃れてしまった」

そう寂しそうに火の玉が言うと、湖張は小さくため息をつく。
「わかった。でももう大丈夫よ。私はこの話をこれから伝えていくから。
だからまあ、元気出してよ」

「そうか、それはありがたい」
心なしか元気な様子になった火の玉。そして話を繋げてくる。
「お主、名を教えてくれるか?」
「湖張よ。水芭蕉湖張(みずばしょうこはる)」
「そうか、湖張か。ではせっかく団扇に選ばれたのだ。
ここでその力を試すが良い」

「え?」
そう言うと、奥の方から重たそうな者が歩いてくる音が聞こえる。

「・・・おかしいな、こんなはずじゃないんだけど?」
湖張は落ち着いた素振りでそう呟く。

洞窟の暗闇に包まれていた湖張は僅かな光を放つ心もとないランプを目の前にかざす。
すると目の前に3mほどの大きな鎧の化け物を映し出していた。

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