ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第二話【覇王の団扇】
- 2020.05.05
- ピースキーパー赤き聖者
「湖張(こはる)、これを持っていけ」
食事が終わり、湖張が食器を洗い終わった様子を確認すると
老人は白い団扇を目の前に差し出す。
「これは?」
湖張が不思議そうに団扇を見ると老人は話を続ける。
「これは覇王の団扇だ。特殊な武器じゃよ」
「え?武器?団扇が?」
理解に苦しむ表情を湖張が見せていると、困ったように眉を下げつつも、なだめるような笑みを見せるしかなくなる老人。
それはそうである。団扇を差し出されて武器と言われても、すんなりと理解できるはずはない。
「まあそう思うのも仕方がない事じゃ。
だがな、事実これは武器なのじゃ。しかもそんじょそこらの武器とは比較にならないくらい強力なものじゃ。
縦にして切りつければ、切れ味抜群の剣になり、横にして防げば、強固な盾にもなる。
元は武器としても使える軍配だったという記述も残っているが、真相はどうなのじゃろうな。
怪しい武器じゃが、我が家に伝わる家宝でもある。これを使ってみると良い」
「使えって・・・え?えええええ?!」
「芭蕉心拳は基本格闘技じゃ。しかしその時々で、ありとあらゆる武器も使うことができる武術でもある。
この団扇だって使いこなすこともできよう」
「えーっ?・・・まあどんな武器でも一通りやってきたけどさ・・・確かにそうなんだけどさ」
もはや何のことやら理解できない湖張であったが、とりあえず団扇を受け取る。
「まあ、やってみるか。でも良いの?家宝なんでしょう?」
首を縦に振る老人。
「かまわんよ。むしろ眠らせておく方が勿体ないとも感じておったのじゃ。
お前に託したいと前々から思っておった」
その言葉を聞くと少し考える湖張。そして表情を曇らせながら団扇を返すかのように老人の前に差し出す。
「やっぱり受け取れないよ。家宝だったら私よりふさわしい人がいるでしょう?」
すると老人は断固として拒否するような表情で首を横に振る。
「またそうやって遠慮するでない」
「でも私は・・・」
「湖張はわしの孫娘じゃ」
「っ・・・。」
しばらく続く沈黙。
湖張は目を逸らしてはいたが、気まずさは無かった。断固として言い分を引かない老人の沈黙は優しさなのだと感じ取れたからだ。
すると次第に表情が晴れ、穏やかに返答をする。
「・・・分かった」
湖張が差し出した手をゆっくりと胸元に戻す様子を確認すると、
再びにこやかになった老人は今度は青い法被を差し出す。
「そしてこれを着ていくと良い」
「・・・お祭りにでも行ってこいとでも言うの?」
気持ちの変化が忙しく、今度は困惑と呆れが混ざった表情でゆっくりと老人に視線を移す湖張。
それも予想通りといった老人は気にせず話を進める。
「まあその反応をするじゃろうな。
だが、何もお祭り気分になれという事ではない。これは特殊な繊維で織っている法被じゃ。
魔法に対する耐久性は中々のものじゃ。
この日のために、湖張の体にピッタリ合うように特注しておいたのじゃ」

「・・・ねえ、それって別に法被じゃなくても良かったんじゃないの?」
「いや、団扇には法被が似合うじゃろ?」
人間、理解の限界に到達すると言葉を失うという事を体感する湖張。
先ほどまで、育ての恩を感じ胸に来るものがあった気持ちが早くも過去のものになってしまった。
「ねえ、何で私に家宝を託そうと思ったの?」
やっと振り絞った言葉は、先ほどのやり取りと近いものであった。
「湖張には少しでも良いものを託したかったのじゃよ」
そう言われると家宝で攻守共に優れた武器と、特殊仕様の上等な服を渡されたわけである。
門出としてはこれ以上ないほど感謝するべきなのかもしれない。
「分かった、とりあえずこれを着て行ってくるね」
何か心に引っ掛かるところはあったが、これは悪意があるわけではない。
ただ少しセンスがずれているだけだから仕方がないと自分に言い聞かせ法被も受け取る湖張。
小さくため息をついた後、自室に戻り着替えを始めるのであった。
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