ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十二話【思い切りの斬撃】

           

荒れた町の中を走る一行。
その途中には負傷している人を何人か見かけたが、今は魔物を退治する事が先決と考え
胸を痛ませながらも先へ急ぐ。

その途中で湖張はレドベージュの横に並び話しかける。
「今の人たち、大丈夫かな?」
「うむ、心配ではあるが今は魔物をどうにかせねば」
「あの人たちの為にも急がないとね」
「そうなのだが・・・無理はするでないぞ」

心配そうなレドベージュに対して「大丈夫だよ」と簡単に返す湖張。
ゴルベージュが言っていた通り、時間が惜しいという状況を実感すると
団扇の力がどうとかは言っていられない気持ちにもなってくる。

そうこうしている間に、魔物の後姿が視界に入ってくる。
しかし先ほどまでは列をなして移動していたのだが、少し目を離した隙にバラバラに移動してしまったようだ。
目の前には2匹しかいなかった。

「お願いラナナ、魔物がどこにいるか探して!その間に私とレドベージュで魔物を倒すから!」
「分かりました!」
そう言うとラナナは魔法で宙に浮き、屋根より高い位置まで移動をする。
火災の煙があるにせよ、それでも上空からの方が魔物を探すには効率が良いと考えたからだ。

「ゴルベージュよ、人々を頼むぞ」
ゴルベージュに対し、人の救助を依頼するレドベージュ。するとゴルベージュは軽く頷く。
「良いだろう。ここはサポートに徹するとしよう。魔物は任せたぞ」

そう言うと無造作に倒れている人に治癒の魔法を掛け始めるゴルベージュ。
その様子を確認すると、湖張は緑色の光の粒を足元に展開をし、覇王の団扇を握りしめて魔物の上空に飛び上がる。

「いけえ!」
真上から思い切り斬りつける湖張。
時間が無い事が良い具合に後押しをしてくれたのか、この一撃を放つ前には躊躇いは無く思い切り振りきる事が出来た。
すると魔物は簡単に切断され、魔物が立っていた大地にまで大きな切れ目が発生してしまった。

「やっぱりこれ、凄いな」
着地をし、大地の裂け具合を見ながらそう呟く湖張。

「大丈夫か?」
心配そうにレドベージュが確認してくる。恐らく胸騒ぎについて気にかけているのであろう。
そっと胸に手を当てる湖張。しかし特に違和感は感じられない。

「大丈夫だよ。うん、変な胸騒ぎも無い。調整が上手く行ったのかな?」
「そうか」
「でもこれじゃあ駄目だよね。被害が大きすぎる」
そう言うなり、もう一匹に狙いを定める湖張。
今度は魔物だけを斬り、周囲には影響を及ぼさないようにしなければと考える。

(少し弱めにしないと)
頭にそう浮かべながら魔物の正面に立ち塞がり、左から右へと横方向に斬りつける湖張。
すると軽く傷をつける程度にしか斬る事が出来なかった。

(しまった!?)
力加減が上手く行かず、大したダメージを与えることが出来なかったと感じ取った直後、
魔物に敵とみなされ突進を仕掛けられる湖張。
体勢も立て直していないので、攻撃を避けきる事は難しい状態であった。

「させるか!」
そのタイミングで魔物の横方向から飛び込み蹴りを入れるレドベージュ。
すると魔物は3m程横に飛ばされ、壁に叩きつける。

「ありがとう」
「その団扇を貸すのだ」
「え?」
礼を言う湖張の前に手を差し出し団扇を要求するレドベージュ。
想定外の事だったので反応がワンテンポ遅れるが、要望通り手渡す湖張。
するとレドベージュはそっと握りしめる。

「良いか湖張。この団扇は使用者の心を見ている。
どのくらい斬りたいかをイメージするのだ。
腕力の加減ではない。心の加減だ。
・・・見ていろ」

そう言うなり蹴り飛ばした魔物に対して団扇で左から右へ斬りつけるレドベージュ。
すると魔物は上下で真っ二つに斬られ、崩れ落ちる。
しかし状況はそれだけで、魔物の背にあった壁は無傷であった。

「すごい、魔物だけを斬った?」
「イメージの仕方次第で、このような器用な調整が出来る。
感覚の話で参考にならないかもしれないが・・・」
そう言いながら団扇を湖張に返すレドベージュ。
湖張は団扇を受け取ると小さく頷く。

「なるほどね。でも言いたいことは分かった気がするよ。やってみる」
そう答えるなり、上空のラナナに大きな声で話しかける湖張。

「ラナナ、次はどっち!?」
「このまま進んで、二つ目の曲がり角を右です!」
「分かった!」

上空のラナナから魔物の位置を聞くなり、指示された位置へ走る湖張とレドベージュ。
一方ゴルベージュはその姿を横目に見ながら人々の治療を続け魔物を追う素振りを見せない。
どうやらレドベージュが団扇の使い方を把握ている様なので任せたようだ。

(どのくらい斬りたいかのイメージ・・・か)
走りながら考える湖張。レドベージュの指摘通り、確かに今までは力加減でどうにかしていようとしていたので
どう斬るかのイメージはしていなかった。

とは言ったものの、どのように斬りたいかのイメージをする事は難しそうと感じられる。
しかしその反面、心を見てくれるとの事なので大体このくらいと思えば
団扇側で調整してくれるのではないかとも思えてくる。

正直なところよく分からないというのが結論なので、
とりあえず次は難しく考えずに魔物だけを斬ると頭に言い聞かせながら臨む事にする。

「いた!」
ラナナの指示通り移動をすると、目の前に魔物が8匹溜まっている。
その場は倉庫の様な建物が並んでおり、人の気配はないエリアであった。
また、この区画はレンガで出来た壁で囲まれており、袋小路になっている。
どうやら町の外から倉庫に入られないようにするために守りを固めているのであろう。

「何とも好都合な場所に逃げ込んでくれたものだな」
人気が無い場所に魔物が入っていったことが幸運と感じたレドベージュがそう言いながら抜剣をする。
「そうだね、それにここなら団扇の練習に持ってこいかも」

そう言うなり団扇を握りしめて魔物をジッと見つめる湖張。
「湖張のタイミングで良いぞ」
斜め後ろの位置からレドベージュがそう声を掛けてくる。
「分かった。やってみる。でも私のフォローでは無くレドベージュも何体か倒してもらって良い?
じっくりと練習をしている場合でもないと思うんだ」
「うむ、そうだな」
「・・・行こう」

そう言うと、壁際にいる魔物に向かって初めの数歩はゆっくりと歩いて近づく湖張。
次第に移動の速度を早め、最終的には正面から飛び掛かり2m程の間合いを一気に詰める。
そして間合いに入るや否や右から左へと素早く斬りつける。

すると魔物は抵抗する間もなく横方向に真っ二つになり、地面に崩れ落ちる。
そして、魔物の背後にあったレンガの壁には小さな切り傷がついていた。

(出来た!?)
とりあずのやり方でも案外と上手く行ったので少し呆気に取られてしまう湖張。
壁に傷がついていたので完璧ではないのだが、地面を割る程の被害を考えると上出来である。
どうやら団扇は適当に頭で思い描いても、案外と自分のイメージ通りに力を出してくれるようである。

「上手いぞ、湖張!」
湖張の背後を通過しながら声を掛けるレドベージュ。
「ありがとう、レドベージュの言った通りだったよ!」
「そうか」
そう言いながら他の魔物に斬りかかるレドベージュ。
すると手本を見せるかのように、鋭く魔物に斬りかかりあっという間に3体の魔物を倒してしまう。

「流石にそれは真似できないかも!」
そうは言いつつも自分も流れるように攻撃を仕掛ける湖張。
すると1体目の魔物は無駄なく上手に斬る事が出来たが、2体目と3体目の魔物においては
勢いが止まらず地面を軽くえぐってしまう。

(やっぱり難しい・・・けど!)
頭の中で呟きながら残りの二体に向かって走り近づく湖張。
そして魔物の横を通過しながら斬りつけると、今度は周りに影響を及ぼさず魔物のみを斬る事ができた。

「やった!やりましたね!!」
上空から嬉しそうな声を出しながらラナナがスッと下降してくる。
「他の魔物は?」
湖張の問いに首を横に振るラナナ。

「いえ、この場にいるのが最後のようです。もう平気ですよ」
「そっか、ありがとう」
そう言いながら団扇を腰に携える湖張。そしてレドベージュが近寄ってくる。

「大丈夫か?」
様子を窺う様に話しかけてくるレドベージュ。どうやら心配をしているようだ。
そこで問題ない事を伝えるために笑顔を見せる湖張。
「うん、大丈夫だよ。むしろ何かスッキリした感じまでするよ」
そう答えると、一呼吸の間を置くレドベージュ。
「そうか、だが無理はするでないぞ」
そう伝えるなり、彼は倒した魔物を見つめる。

「大したものだな、直ぐに使いこなしおって」
「いや、まだまだだよ。とりあえず常にイメージが必要な頭を使う武器という事は分かったよ。
レドベージュもありがとう。おかげで使い方が分かった感じがする」
「そうか、こんな事なら初めから伝えておけば良かったな」
「それにしてもやっぱり凄いねレドベージュは。本気を出したらあの硬い魔物も簡単に倒せちゃうんだもん」

首を横に振るレドベージュ。
「いや、これも褒められたものじゃないさ。
そもそも最初からこのくらいやるべきではあるからな。
ただ情報収集のために様子を見て試しながらであったから、簡単には倒していなかったという理由もあるがな」

「そっか、そうだよね」
そう言いながら腰に手を当てて元来た道の方に視線を移す湖張。
「これからどうしよう?とりあえずゴルベージュ様の所へ戻る?」
「うむ、そうだな。魔物はこれで以上だとは思えるが、怪我人は大勢いるであろう。
我らで癒せる者は癒さねばなるまい。むしろここからが忙しくなりそうだ」

レドベージュがそう言うと、ラナナも首を縦に振り理解を示す。
「そうですね、色々と気になる事もありますがまずは住人の皆さんを落ち着かせてから情報収集と行きましょう。
あのメーサ教の人とも話してみたいですし」

ラナナの意見に賛同をする一同。
そして息をつく暇もなく、救助活動に行動を移す事にした。

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