ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百十六話【騎士が集まる村】
- 2021.11.21
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
服を新調した後は更に東を目指す一行。次の目的地として王都フィルサディアを目指すことになったからである。今までの旅路はラガース王国内を西から東へと旅をしていたのだが、その先に多くの人々が集まっている王都があるので目指そうということになった。フィルサディアとはラガース王国の中心に位置する首都である。首都というだけあって今まで訪れた街の規模とは比較にならないほど広大で、多くの人々が集まっている。また、広大な敷地の王城があり、この国の政の中心にもなっている。
とは言ったものの、買い物をした街からは数日歩く距離にあり、到着はまだまだである。現在はフィルサディアに向かう途中の山の中である。山は登り終わり下り始めてから一時間ほど経過している。
「木々が生い茂っていて日の位置がイマイチ把握し辛いね。道から外れたら遭難しそうだよ」
日の光を遮る木々を見上げながらそう話す湖張。
「そうですね。ですがこの山を越えてしばらくするとフィルサディアです。この山があるからこそ西から攻め辛くさせているという面もあるので、必要といえば必要な暗さですね」
ラナナの解説を聞くと再び日を遮る木々の葉を見上げながら言葉を返す湖張。
「なるほどね、一応はそういう地形的な利点も考えて王都を構えているというわけだ」
「そうですね、まだこの周辺に国などなく小さな村が点々とあった時代は魔物や武力集団によって人々は安心して暮らす事が難しかったのです。そこで人々が危険に晒されないように立ち上がった人々が協力し合い少しずつ大きくしていって、その結果として国になったのがラガースなのです。ですので人々が安全に暮らせる地に王都を構えるのはうなずける話ですね」
「あーそれってラガース王国の建国のお話?」
「はい、有名な昔話ですね」
「とはいっても、そこまで私は詳しくないけれどもね」
苦笑いを見せる湖張。それににこやかに答えるラナナ。
「そうだ、フィルサディアに行けば建国物語の本が宿屋などに置いているはずですから、この際じっくりと読んでみてはいかがです?」
「いやいや、遠慮しとく。まあなんとなく知っていれば良いでしょ?」
「まあそうですね。なんとなくで大丈夫ですよ」
そんなやり取りをしながら山道を下っていくと崖の上から小さな村が見える。山の中に村を見つけると、不思議と温かさを感じ少し嬉しくなってきた。
「こんなところに村があったんだね」
湖張がそう言うと、レドベージュが反応をする。
「うむ、この村は旅人がよく利用する場所でな。今日は我らもここで一休みするとしよう」
村の家から出ている煙突から何かを調理しているような白い煙が見えると、空腹を感じ始める。どんなおいしい料理があるのか楽しみになってくる。
そんな呑気な事を考えながら村に入るが、周囲の状況を見るとその考えが消え去る。というのも、村のいたるところで見たことのある紋章を描いた大勢の騎士達が行き来をしていたからである。その紋章は紛れもなくメーサ教のものであった。
「ちょっとコレ、どういう事?」
驚きの表情を見せながら独り言のように言葉を発する湖張。
そんな彼女に視線を向ける事はなく、騎士たちは忙しそうに何かの準備をしている。大量の矢を運ぶ者や、投石用の石を準備している者が視界に入る。その様子はまるで今から戦をするかのようなもので、物々しさを感じられる。
「メーサ教に占領された・・・というわけでは無いようですね」
横から話しかけてくるラナナ。彼女の視線の先にはメーサ教の騎士と住民と思われる中年男性が真剣に話をしている様子があった。時には笑顔も見せており、関係は良好のようだ。
「どういう事だろう、しかも今日のメーサ教徒たちは色も華やかじゃない?」
周囲を見渡しながら発言をする湖張。というのも今までは紺色や青色といった鎧だったのだが、今日に限っては青色の鎧の他に黄色と白色の鎧がいる。
「とりあえず村の中に進んでみるぞ。何があったかの情報が欲しい」
レドベージュがそう言うと、うなずく二人。
と、その時であった。後方から誰かが近づく気配を感じる。
「・・・湖張か?」
それは聞き覚えのある声であったので振り返る一行。するとそこには驚いた表情のハルザートが立っている。
「ハルザート?何でここに?」
少し驚いた表情を見せながら一歩近づいて話しかける湖張。すると彼は湖張の姿を見つめる。
「今日はいつもの服装ではないのだな」
「え?ああ、あの服はダメになっちゃったんだ。だからこれは新しい服。変かな?」
両手を小さく広げて着ている服を見せると優しい視線で答えるハルザート。
「いや、変ではない。綺麗だ」
「はいはい、お世辞でもありがとね」
「いや、世辞ではないのだが」
「ふーん」
ハルザートの登場によりラナナがまた不機嫌そうな表情を見せていると思ったので、軽く話を流しながら周囲を見渡す湖張。そしてここにきて知った顔が現れたので情報が集められると思い質問をしてみる事にする。
「ところでさ、この村はどうしたの?今から戦争でも起こすつもり?」
いたるところで行われている戦いの準備を横目に見るようにして、いかにも自分は物々しい雰囲気を感じていますよ、というような素振りを見せながら質問をする湖張。
するとハルザートは腕を組んで答える。
「ああ、そうだな。ある意味戦争だ」
「どういう事?」
「実はな、この村付近に大量のロダックが居座っているのだ」
「え?ロダックが?それって、この前アナタが倒した大きな鳥のような魔物だよね?」
うなずくハルザート。
「ああ、そうだ。それが何故か群を成して現れたのだ。今のところ人的被害は出てはいないのだが、今後は分からない。だから手遅れになる前に我々で対処しようというわけだ」
その答えを聞くと難しい顔をする湖張。
「国の兵士たちは?ここなら王都は近いよね?」
その質問に首を振るハルザート。少し険しい顔をする。
「来ない。あいつらは当てにならない。まだ実害が出ていないから動かないそうだ」
「何それ!?」
危険な魔物が群を成して村の付近にいるというのに、動こうとしない王国に思わず表情が険しくなる。
「詳しく聞かせてくれるか?」
横から会話に参加するレドベージュ。視線を向けるハルザート。
「詳しくも何も、そのままだ。国はまだ動かない。もともとはこの村の者がロダックの群を見つけた日のうちにフィルサディアへ知らせに行ったのだ。しかし先にも言った通り実害が出ていないので動かないという返答だったらしい」
「・・・何で国は動かないのでしょうか?」
難しい顔をしながらラナナも会話に入ってくる。どうやらハルザートへの警戒心よりも話の内容が気になるようだ。
「あいつらは腐っているからな」
横を見ながら言葉を吐き捨てるハルザート。普段は冷静で感情を見せる事は無いので少し驚いた顔を見せる湖張。
するとそんな彼女の目を見るなりハッとしたハルザートは、すぐに落ち着きを取り戻したように振る舞い再び話し始める。
「ラガースは大きくなり過ぎた。それ故に国王一人だけでは国を統治しきれず、補助する形で複数の貴族達が役割を分散して国全体を統治している。しかし特権を持つ貴族がいると、その力を利用しようとする輩が現れる。国王に接触など到底できるわけはないのだが、貴族ならば謁見の敷居は下がる。なので利権欲しさに汚いものが頻繁にうごめき始め、貴族に甘い蜜を差し出して汚していくのだ。貴族も富のために、甘い蜜をより多く吸うために今よりも権力が欲しくなり、他の貴族を蹴落とし権力の奪い合いをし始める」
そこまで話すと村に並べられた武器を見渡すハルザート。
「この様を見てくれ。湖張が言った通り戦の準備だ。
ロダックの群を迎え撃つという事は戦をするようなものだ。
もし、ロダックの討伐に失敗し村に甚大な被害が及んだらどうだ?それは戦に負けたと同じことだろう?戦に負けるという事は責任を誰かが取らないといけなくなる」
「つまり責任を負いたくないから国のお偉いさん達は兵士を派遣しないという事?」
湖張が眉をひそめてそう聞くと、うなずくハルザート。
「そう言う事だ。指示を出したものが責任を負うことになる。誰もそんな責任は負いたくないのであろう」
「国王様はご存じないのでしょうか?国王様ならばそんなの関係ないですよね?」
ラナナが疑問を投げかけると、首を横に振るハルザート。
「それは分からない。ただ現国王は小さな防衛に関しては主に他の者に任せている。別に他国が攻めてきているというわけでは無く、王都近くの村に魔物が現れた程度では耳にすら入っていないといったところだろうな」
「そんな・・・」
「・・・ふむ、これは良くはないな」
何かを思ったかのような様子のレドベージュ。その言葉に反応するかのように再びハルザートが話し始める。
「そこで私たちだ。この村の者にメーサ教徒がいてな、私たちの耳に入ったのだ。だがロダックが一体だけだったら私一人で問題はないのだが、今回は群だ。かなりの数がいると報告を受けている。しかも村に近い。攻める戦いであれば、ただ相手を倒すだけで良いのだが今回は守る戦いだ。敵を倒すだけではなく人も、そして村の建物や私財も守らなければならない。そうなるとどうしても人手が必要になる」
そう聞くと、周囲を再び見渡す湖張。
「なるほどね、だからメーサ教の騎士がいっぱいいるというわけだ。
それにしても妙にカラフルじゃない?てっきりみんな青系統なのかと思っていた」
「ああ、色の事か。メーサ教の色は別に青系統というわけではない。所属する派閥というかグループみたいなものがあってな。それにより色が分かれているのだ」
「そうなの!?」
少し驚いた様子で反応する湖張。
「ああ。メーサ教も結構な人数でな。そうなると同じものを信仰してはいても考え方が微妙に違ってくる。例えば私なんかは信仰よりも正しい事のために力を使う事を優先している。そういう考えの者は青グループに固まっている。また、そこにいる白のグループは私たちと同じく正しいことに力を使うが、しっかりとメーサ神に対する信仰も行う。方や紺色のグループは勧誘をする事に力を入れている」
その話を聞くと腕を組んで何かを納得したかのような素振りを見せる湖張。
「あーなるほどね。確かに紺色の人たちって勧誘に命を懸けている感じがするわ」
「私としてはみっともないので控えてほしいのだがな」
「アナタがそれを言うの?」
「悪いか?」
「悪くないけどさ」
そこで湖張が小さく笑うと、ハルザートも同じように小さく笑う。ラナナは小さく不機嫌になる。
「まあいいや。それじゃあ人手が必要って事だし私たちも混ぜてもらおうかな。良いよね?」
話の途中からレドベージュとラナナに確認を取る湖張。
「うむ、そうするしかあるまい」
「問題ないですよ」
「いや、問題はあるだろう」
軽く返事をする二人に続いて難しい顔で反対をするハルザート。しかし湖張は聞く耳を持たない素振りを見せる。
「大丈夫だって。私たちはそれなりにやるって知っているでしょう?」
「まあ、知ってはいるが」
「あと、言ったところで引かないっていのも知っている?」
そう言われると少し考えるハルザート。そして小さく噴き出す。
「フッ、まあそうだな。湖張は聞く耳をもたないものな」
「何それ!」
「まあ正直なところ湖張達が手伝ってくれるのならば助かる。今回は手強い相手だ。腕が立つ者が多ければ多いほど良い。それに怪我人も出るであろう。すまないが力を貸してもらえるか?」
「だからそのつもりだって」
「そうだな。ありがとう」
そう言って湖張を見つめるハルザート。その優しい視線が気に食わないラナナが間に割って入ってくる。
「それで、いつ攻め入るのですか?」
普段の大きな目を半分くらいにして、不機嫌な視線をハルザートに向けると、小さい溜息をつかれる。
「全く、君はいつも不機嫌そうだな。可愛らしい顔が台無しだぞ?」
そう言われると一瞬目を大きく身開くが、すぐさま怒った表情にさらに磨きがかかるラナナ。
「そういうキザったらしい所が気に食わないのです!」
(うわ、ハッキリ言っちゃった)
思わず苦笑いの湖張。それに対して当人のハルザートは面を食らった感じだ。
「・・・キザったらしいのか?」
「自覚ないのですか!?」
無自覚ですと言わんばかりの表情で聞き返されたので、思わずツッコミを入れるラナナ。一方ハルザートは驚いた表情で確認を取るように湖張に視線を向ける。
「私はキザったらしいのか?」
「うん、まあ普通は簡単に可愛いとか綺麗だとか真顔で言わないとは思うよ?」
そう言われるとしばらく考えた後、今度はレッド君に顔を向けるハルザート。
「そうなのか?」
「いや、我に聞かれても困るのだが・・・」
「何でそこでレッド君に聞くのよ?」
「いや、すまない。少し取り乱してしまったようだ」
「え?取り乱していたの?」
「そんな眉をひそめて聞かないでくれ。すまないな。どうやら無意識のうちに失礼をしていたようだ」
その言葉を聞くと深い溜息をつくラナナ。
「はあ、もう良いです。アナタがどのような人なのか少し分かった気がしますから。それでいつロダックに攻撃を仕掛けるのですか?」
話を元に戻すと、助かったと思ったのか、いつもの雰囲気でハルザートは姿勢を正して答える。
「明日の朝だ。この村から少し離れた位置にロダックたちが溜まっている場所がある。そこに踏み込み村の安全を確保する予定だ」
「作戦は何かあるのですか?」
「ああ、相手は巨大な鳥だ。飛ばれたら厄介だからな。飛び立つ前に弓矢と投石で一気に片を付ける。幸いにして溜まっている場所は岩場で遮る木々が無い。飛び道具が友好的に使える。ただそれでも取り逃しが出てくるので、それは私をはじめ接近戦が得意な者で対応をする予定だ」
「・・・分かりました。まあそれが良いでしょうね」
作戦の内容に納得をした様子のラナナ。それを横目で確認するなり湖張がハルザートに話しかける。
「そうしたら明日の朝に私たちもここにいるようにするね。じゃあ今日はここに一泊というわけだ。・・・とは言ったもののこんなに騎士がいると宿屋もいっぱいだよね?」
困り顔を見せる湖張。その答えに首を横に振るハルザート。
「いや、そんな事はないと思うぞ。我々はテントを張って野営をする。宿屋には誰も泊まらない」
「そうなの?」
「そうだ。そもそも宿屋に泊まれる人数ではないからな」
そう言いながら町の中を指さすハルザート。
「あちらに宿屋がある。非常事態ではあるが通常通りの営業もしてはいる。行ってみると良い」
「そっか、ありがとう」
礼を言い早速宿屋に向かおうとする湖張。
「湖張」
立ち去ろうとした彼女の背中に声をかけるハルザート。ゆっくりと振り返る湖張。
「どうしたの?」
「ここの宿屋の山菜料理は中々のものだ。味わってみると良い」
「そっか、ありがとう」
笑顔で答える湖張。それを穏やかな表情で見つめるハルザート。
「ほら行きますよ、湖張姉さま!」
「わわっ!ちょっと!」
グイっと強く腕を引いて宿屋に向かうラナナ。バランスを崩しながらも進み始める湖張。
夕暮れ時で周囲は少しずつ暗くなりかけている中を、バタバタしながら騒がしく進んでいった。
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