ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百十五話【ショッピングを終えて】
- 2021.11.12
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
「あー歩き疲れた」
宿の部屋に戻りソファーに腰を掛ける湖張。机の上には商品が入ったままの紙袋がいくつも並んでいる。
「でも良い物が買えたから良いじゃないですか」
ニコニコ顔のラナナが隣に座って話しかけてくると苦笑を見せる湖張。
「まあ随分と高級品だったけどね。それに何だかんだで下着も買えたのは良かったかな。少しくたびれていたからね」
「靴も良いのが買えましたよね。レドベージュの言う通り、そろそろ買い替え時かなと思ってはいたのですよね」
そう言うなり袋から靴を取り出すラナナ。そして湖張は遠い目をする。
「でもまさか服に合う色の靴だけではなく、サンダルまで買うことになるとは思わなかったよ」
「何言っているんですか。せっかくカワイイワンピースを買ったのです。それに合った履物も揃えないと潜入捜査に使えませんよ!」
「強引な理論だなぁ」
今度は袋から白ベースでところどころに青い部分があるサンダルと白いワンピースを取り出すラナナ。楽しそうである。その行動に付き合うように白いサンダルと白いワンピースを取り出す。
「・・・まあ良いか」
服を見つめながら呟く湖張。実際のところ綺麗な服ではあったので内心は悪くないというのもあった。
そう思っている間に、さらに袋から何かを取り出し始めるラナナ。すると大きめの青いリボンが出てくる。
「大きいリボンも買ったんだね」
手元のリボンを見ながら湖張が話を振ると、ラナナはワンピースと並べる。
「はい、良い色ですよね。そして実は湖張姉さまにもあるのですよ」
そう言うなり袋の下の方から二本の細くて赤いリボンを取り出すラナナ。
「ちょっとちょっと!」
「ジッとしていてください!」
有無を言わさず湖張の両方の側頭部にリボンをつける。仕方なしに大人しくする湖張。今日はラナナに押され気味である。
「出来ました!良い感じです!」
「何故リボンを?」
ジト目の湖張。それに満面の笑みで答えるラナナ。
「今まで赤いヘアバンドみたいなものをしていたじゃないですか。その代わりですよ」
「いやいやいや」
手を横に振って否定をする湖張。
「あのハチマキとこのリボンでは役割が全然違うでしょ!」
首を横に振るラナナ。
「いえ、同じです。考えてもみてください。私たちは赤き聖者なのですよ?赤い物を何か身に着けていなければいけないと思いませんか?
今まではヘアバンド・・・ハチマキでしたっけ?それがあったので問題ありませんでしたが、今や外したのです。代わりに赤い物を身につけなければなりません」
「何その無茶苦茶な理由・・・」
脱力の表情を見せる湖張。でもまあこれでも良いかと諦め抵抗を止める。
そして改めて買ってきたものを見つめると、小さなため息をつく湖張。
「それにしてもちょっと買いすぎたかな?荷物が増えちゃったよ」
「なので湖張姉さまのカバンも少し大きめなものに買い替えたじゃないですか。問題ありませんよ」
「でも何だかんだでレドベージュに払ってもらってばかりで申し訳ないというか・・・」
そう言いながらレドベージュに目を移す湖張。そして彼は首を横にゆっくりと振る。
「いや、問題ないぞ。我も楽しみが増えたからな」
「楽しみ?」
レドベージュの言葉に疑問を持つ湖張。首をかしげて問いかけると、レドベージュは近づいて答える。
「うむ、早速だがその楽しみのために服を脱ぐのだ」
「は?」
何とも言えないドン引きの表情を見せる湖張とラナナ。
「何を言っているのです?」
「楽しみってそう言う事?」
「・・・変態」
「変態」
「変態」
「変態」
交互に言葉で攻撃を仕掛けるラナナと湖張。呆れ顔のレドベージュ。
「馬鹿を言うでない。何を想像しておるのだ。そもそも我は鎧であり性別などないのは知っておろう。折角の日和紗の服なのだ。早く保護魔法をかけたいのだ」
「ああ、そういえばそんな事を言っていたね」
湖張がそう言ってソファーに寄り掛かると、レドベージュは深くため息をつく。
「全く。その服には耐久性を上げる事の他、魔法防御と衝撃吸収の魔法。防水に防塵、防寒もだな。とにもかくにも掛けたい魔法が沢山あるのだ。それに折角の日和紗だからな。じっくりと丁寧にやりたい。更には少なくとも買った靴にも防水と耐久性を上げる魔法くらいは今晩中にかけておきたい。やる事がいっぱいで今からでも取り掛かりたいのだ」
「楽しみって服の加工の事なのです?」
「うむ、そうだが?」
そう言いながら深く座った湖張の手を引き立ち上がらせようとするレドベージュ。
「そういえば外套を買った時も楽しそうにやっていたよね。ひょっとして服の調整が好きなの?」
「・・・まあ嫌いではないな。我が術を施した服を着てくれるのは嬉しいものだ」
その答えを聞きながら立ち上がる湖張。そしてラナナに話しかける。
「保護者みたい」
「なんかお母さんですね」
「むしろお父さんでしょ」
「何なのだ今日は、あれやこれやと妙な事を言い続けおって。
それより理由は分かったであろう?とりあえずその服を脱いで、それこそ先ほど購入したワンピースにでも着替えるのだ。靴もサンダルに履き替えるのだぞ?ラナナも靴はおいていってくれ。ワンピースとサンダルだが今日は魔法が間に合わん。明日以降に魔法をかけるから、今着ていても問題はない。ただ・・・汚したり破いたりはしてくれるなよ?」
「はあい」
そう言われると、今度は素直に着替え始める湖張。そしてラナナも同じように着替え始める。
「うん?ラナナも着替えるの?」
「はい、折角なので湖張姉さまと同じような服装でいようかなと」
そう言われると今まで着ていたラナナの服をジッと見つめる湖張。
「そういえばラナナの服もレドベージュに魔法を掛けてもらえば良いんじゃない?」
その言葉を聞くなり手を顔の前で小さく振るラナナ。
「いえいえ、それには及びません。私の服って実はかなり強力な保護魔法を掛けてあるのですよ。これも研究の一環なので魔法学校で掛けてきました」
「そうだったんだ」
「でもひょっとしたらレドベージュの魔法の方が強力かもしれませんけどね」
「いや、そんなことはないぞ?ラナナの服に掛かっている魔法は十分に凄いものだ。なので我は処置を施さなくても大丈夫と踏んでいたから何もしていない」
二人の会話を聞いていたレドベージュがそう言うと腕を組んで少し考えるラナナ。
「でもよくよく考えると、湖張姉さまの服ってとんでもない物ですよ?ただでも日和紗だというのに、天将レドベージュ様の保護魔法が掛かるのですもの。お金では取引できないほどの至宝ですよ」
「・・・そう言われるとそうかもしれないね。
何気なく毎日一緒にいるからそうは思っていなかったけれど、確かにとんでもない物かも」
難しい顔で答える湖張。一方レドベージュは再びため息をつく。
「先ほどさんざん変態呼ばわりしていたくせに今更何を言っている。それと様は付けるでない」
そうぼやいている間に着替えを済ませた湖張は服を軽くたたんでレドベージュに差し出す。
「それじゃあお願いして良いかな?」
「うむ、任せておけ」
服を手渡すとジッと顔を見つめてくるレドベージュ。それに不思議なものを感じていると、レドベージュが言葉を続けてくる。
「そのリボンにも魔法を掛けないといけないな。それも外してもらえぬか?」
「え?ああ、はい」
そこまで徹底して魔法を掛けたいのかと少し驚きながらもリボンを取る湖張。受け取ったレドベージュは心なしか嬉しそうである。
「これにも保護魔法を掛けることによって頭部へのダメージが軽減できるな。危険を察知したならば顔全体に防御壁を張るように仕掛けておくか」
独り言のようにボソボソと言葉を出すレドベージュ。ひょっとしたら仕様を考えるのも楽しいのかもしれない。
「本当に楽しそうだね」
レドベージュに小さい笑みで話しかける湖張。するとゆっくり視線を彼女に移す。
「・・・そう見えるか?」
「うん」
「まあ良い。それより我はこれから早速作業に入る。二人はどこかで夕食でも取ってくると良い。この街ならば何かしら変わった食事も楽しめよう。自由時間だ」
「良いじゃないですか、早速出かけましょう!ここから少し距離はありますが、お洒落な雰囲気のレストランがあるらしいのですよ。そこに行ってみたいです!」
レドベージュの言葉に反応して腕を組んで引っ張るラナナ。ブロンドの髪に白いワンピースとリボンが明るい笑顔によく似合っており、いつもとは違った雰囲気になっている。
「分かった分かった。それにしてもその服、良く似合っているね」
「それは湖張姉さまもですよ。ほら、早く行きましょう!」
同じような服装で出かける二人。楽しそうに部屋を後にする様子を横目で確認すると、レドベージュは服を机に並べて保護魔法を掛け始めるのであった。
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