ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百十話【アールスリー】
- 2021.10.17
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
実験場に入ると、そこには円形の広い空間が広がっていた。直径は70~80メートルぐらいありそうである。
床と壁は頑丈そうな石畳になってはいるが天井は木製のようであり、所々に穴が開いている。
また天井には照明が等間隔に備え付けられており、実験場全体を明るく照らしていた。ここも研究所の照明が連動しているようであるが、明るさはより強い物であった。
この様な広く整備された空間を用意できるという事からも、ここの研究者たちは只者ではないと感じ取れる。
自分たちが入って来た扉の反対側に、大きな木製の様な色をした椅子が見える。
そしてそこには人型で赤銅色の鎧がひっそりと座っている様に見えるが、距離があるので詳細は分からない。
「遠くで座っているあの鎧がアールスリーだよ」
コボーニが硬い表情でそう伝えると、湖張は不思議そうな顔をする。
「そういえばキミもついて来たの?危ないんだよね?」
「うん、危ないけど姉ちゃんたちだけだと分からないだろ?
それに俺は平気。アールスリーには俺の事を敵として認識しないように教え込んでるらしいからさ!」
「なるほど、完全に制御が出来ていないわけではないのですね」
そう呟くラナナ。アールスリーは研究者たちの命令を守れなかったので廃棄と聞いてはいたのだが、どうやらコボーニの発言からすると少しは制御が出来てはいたようだ。
そうこうしていると、遠くに座っているアールスリーはゆっくりと立ち上がる。そして傍らに立てかけていた長い槍を手に取ると、ゆっくりと歩いて近づいてくる。
「君は離れて見ていて。何か物々しい槍を持って近づいてきているから襲ってくる気が満々なのでしょう?見るからに危ない感じがするよ。敵と認識されていなくても巻き込まれる可能性は捨てきれないよ」
湖張が退避を促すと、黙って頷いて距離を置くコボーニ。その様子を横目で見た後に再びアールスリーに視線を移すと、その頃には近づいて来たお陰で大体の姿を確認する事が出来た。
木で出来た人形であるウッドゴーレムと聞いてはいたものの、赤銅色の金属でできた鎧に全身を包まれており、木の要素は全く見受けられなかった。兜は獅子を形どった威圧的なデザインで、両肩には大きな直方体の肩アーマーを装着している。身長は170センチくらいで鎧で全身を覆ってはいるものの、案外と細身である。また、長い槍も特徴的であった。穂の部分は剣の先端の様な細い刃になっていてごく一般的な形なのだが、柄の部分には獣の手の様な爪が4か所、等間隔に配置されている。また槍全体が金属製のようで体と同じ赤銅色であった。
「どう仕掛けようか?」
歩みを止めず、ゆっくりと近づいてくるアールスリーを見ながら問いかける湖張。
するとレドベージュは抜剣をして答える。
「以前戦った治癒力の高い魔物はそこまで強くは無かったのだ。
臆する事無く戦えば良か・・・」
レドベージュが会話を終える前に事態は急転する。
というのも、先ほどまで十メートルほど離れた位置にいたはずのアールスリーであったが、瞬きが終わったころにはレドベージュの目と鼻の先にまで飛び込んでいた。
そして長い槍で薙ぎ払ってくる。一瞬の事であったが攻撃に反応した天将は剣を縦にして防ぐが剣と槍の柄が触れた瞬間、紫色の光の球が発生し強力な力がレドベージュに対して降り注ぐ。
爆発音と共に吹き飛ばされるレドベージュ。そのまま後方の壁に叩きつけられると石畳の壁が派手に崩れる。
「レドベージュ!?」
発生した砂埃に覆われて様子を確認する事が出来なかったので、声を掛けて無事を確認するラナナ。
(この魔物、強い!?)
たった一度の攻撃で有ったが魔物の危険性を感じ取った湖張。驚きの視線を向けると再びレドベージュに向かって飛び込もうとしている様子が目に入る。
「覇王爆炎弾!」
アールスリーが最初に歩いて近づいてきたうちに準備をしていた技を放つ湖張。
横方向からの不意打ちで赤い爆炎を纏った白い光の球体が襲い掛かる。しかしあろう事かアールスリーは垂直に飛び上がり覇王爆炎弾をかわしてしまう。
(え!?)
避けられた事に目を疑う湖張。その感情と同時に発生する覇王爆炎弾が壁に衝突する事によって生まれた爆音と爆風。そしてアールスリーは上空から湖張に目掛けて急降下をし跳ね返ってくる爆風と共に槍を突き立て湖張に襲い掛かる。
「速い!?」
後方に飛び上がり今度は湖張が上空に逃れる。すると槍は湖張を仕留める事は出来ずアールスリーは湖張が元居た場所に着地をする。しかしその直後、左腕を湖張に向けて掲げると、腕の防具が開き、中から細長い円筒状の棒が姿を現す。そして先端が黄色く光ると太さが5センチほどの長細い光弾が湖張を目掛けて飛んでくる。
「嘘!?」
魔法で強引に横方向へ避けると、放たれた光弾はそのまま天井に当たり強めの爆発を起こす。どうやら当たってはいけないレベルの破壊力のようだ。
(全然弱くないじゃない!)
アールスリーに強い視線を向けながら心の中でぼやく湖張。すると目の前のアールスリーに光の矢が刺さる光景を目にする。魔法の主はラナナだ。デスピエロを仕留めた魔法を放ちアールスリーに直撃をさせる。
しかし目標は少しよろけただけで効果が薄いようだった。すると今度は槍を持った右腕から三本の円筒状の棒を出現させラナナにかざす。そしてその直後、数多の小さな光弾をラナナに向けて連続で放ち始める。
横方向に飛んで避けるラナナ。しかし光弾は執拗に攻めてくる。
「この!」
横方向からアールスリーに飛び掛かり、ゴルベージュの軍配で斬りかかる湖張。
しかしあっさりと攻撃はかわされてしまう。
(やっぱり重いし大きいから使いづらい!)
軍配の使いづらさを痛感する湖張。しかしそんな事など知る由もないアールスリーは再び湖張に目標を切り替えたようで、ラナナへの射撃を止めて槍を両手で強く握りしめる。
そして左から右へ薙ぎ払うが、軽い身のこなしで後方に避ける湖張。しかしアールスリーは直ぐさま素早い突きを何度も仕掛け、湖張を狙い続ける。
激しい攻撃に反撃のタイミングを見つけられなかった湖張は再び宙に高く飛び槍が届かない位置まで距離を空け、魔法で浮遊し停滞する。
その時であった。アールスリーの右手首が槍を握ったままゴトンと地面に落ちる。しかし手首は決して破損して取れたわけでは無かった。手首から鎖が伸びて拳に繋がっていたのだ。突然、予想外の動きを見せるので面を食らう湖張。その直後、アールスリーは右腕を湖張の方向に強く振ると、鎖によって攻撃範囲を伸ばした槍で叩きつける様に襲い掛かかってくる。
(しまった!?)
届かない位置まで離れたつもりであったが、予想以上の範囲で攻撃を仕掛けられたので直撃は免れないと感じた湖張。
「湖張!」
覚悟をした直後、レドベージュが飛び込んできて湖張を突き飛ばす。
その結果湖張はアールスリーの攻撃を食らう事は無かったが、代わりにレドベージュに槍の柄が直撃をする。
再び弾き飛ばされるレドベージュ。今度は壁まで飛ばされることは無かったが、地面に叩きつけられた後に力なく転げまわる。
「レドベージュ!?」
体勢を立て直して着地すると同時に名を叫ぶ湖張。しかしアールスリーは湖張の心などには関心が無く、鎖を収納して離れていた手首を元の位置に戻すと再び槍を構えて湖張に飛び込もうとする。
「バスターピラー!」
隙を衝いてアールスリーの真後ろから魔法を放つラナナ。すると巨大な光の柱を見事命中させよろけさせる。更には背中に若干のヒビを入れられたようだ。
「覇王拳!」
レドベージュが心配ではあったが、今は体勢を崩したアールスリーに対して攻撃を仕掛ける事が先決と考え技を放つ湖張。しかし正面から放った技は槍の柄で防がれてしまった。
「そんな、直撃させたのにまだ動く!?」
綺麗に攻撃を当てたはずなのに弱ることなく行動する標的に愕然とするラナナ。
そうこうしている間に三連の筒を湖張に、左手の強力な一本の筒をラナナに向けるアールスリー。
そして湖張に向けて連続の玉を、ラナナに向けて1秒に一回の爆発を伴う強力な光を放ち攻撃を仕掛ける。二人は必至で時計回りに走り、回避に専念をする。
(このままでは!?)
次の一手を考えながら避け続ける湖張。しかしアールスリーの攻撃は激しく思う様に近づけそうも無かった。
と、その時であった。目の前に赤い存在が高速で突進する姿が目に入る。レドベージュだ。
「天技 天将重斬!」
剣に巨大な光の束を集め、3倍ほどの大きさの剣を形成すると、右上から左下に切り下げるレドベージュ。その斬撃に対して槍を両手で持ち防ぐ姿勢を取るアールスリー。そして槍の前には赤い防御壁も形成している。
光の剣と赤い防御壁がぶつかり合うと、強い光が発生する壮絶な拮抗状態となる。
「滅せよ!」
このタイミングで力を放つレドベージュ。剣の大きさは更に大きくなりアールスリーを後方に吹き飛ばす事に成功をする。
しかしアールスリーは体制を崩すことはなく、防御の姿勢のまま後方に滑りながら押し出されただけであった。
(そんな、今ので傷つけらないの!?どういう事?)
驚きの表情を隠せない湖張。
地中から出てきた硬い魔物ですら簡単に切断出来たレドベージュだというのに、その時よりも激しい攻撃ですら傷をつけることが出来なかったからだ。
しかしその一方でラナナの魔法では背中に傷が出来た事に少し疑問を感じる。
「湖張姉さま、あれ!?」
突然声をだすラナナ。というのも攻撃を防いでから時間差ではあったが、アールスリーの持つ槍が5つに折れてバラバラになり、足元に転がったのだ。更に驚く事に両肩の鎧と獅子の顔した兜までも転げ落ちる。そして兜の下に隠れていた小さな頭部が姿を現す。飾り気は無く角が丸みを帯びた台形に近い頭部に横に長細い目が二つ付いている。
「流石に今の攻撃は効いたという事でしょうか?」
部分的に崩れ落ちた様子を見て発言をするラナナ。
「そうかもしれないね。でもよく今の攻撃を耐えられたよね」
「防御壁を張っていたからでしょうか?」
「だとしてもあのレドベージュの技を防ぎきれるものなの?」
「おそらくはこの場所が影響しているのかもしれぬ」
湖張とラナナの会話に自らの考えを伝えるレドベージュ。
「どういう事?」
「この実験場にいるとアールスリーは山のエネルギーを常に得ることが出来るのであろう?我の攻撃を防いでいる時、常にフルパワーで防御壁を張り続けたのであろう。本来ならば瞬時に力を消耗しきるはずなのだが、消費した分のエネルギーを常に山から吸収し続ける事で維持をしていたのかもしれぬ」
「それって!?」
「うむ、厄介ではあるな」
レドベージュの見解を聞くなり驚きの表情を見せるラナナ。それが正解かどうかは確証はないが、それしか答えが無いようにも思える。
そうこうしている間にアールスリーは腰に携えていた片手斧を右手に握りしめ走って近づいてくる。
「ふむ、どうやらまだ元気のようだな」
迎え撃つために走り出すレドベージュ。
そしてお互いが間合いに入ると攻撃を避けては反撃を仕掛ける攻防を繰り返す。
「身軽になったのかな、動きが速くなった」
二人の戦いぶりを見ながらそう呟く湖張。
「どうしましょう、あんなに激しく動きながら至近距離で戦われると援護射撃が出来ません」
手をかざして魔法の狙いを定めようとするが、中々チャンスを見いだせないラナナ。
すると湖張は軍配を腰に携えてゆっくりと歩いて戦場に近づく。
「ちょっと私も手伝ってくる。試したい事もあるし」
そうラナナに伝え終え少しだけ間合いを縮めると、スッと立ち止まり飛び込む姿勢を取ったまま様子を窺う。
必要最小限の動きでレドベージュに攻撃を仕掛けているアールスリー。
隙がほとんど無いのだが、それでもレドベージュは斬撃を何度か繰り出して相手に揺さぶりをかける。しかし安定した動きで崩せないまま拮抗した勝負が続く。
狩りの為に飛び込む前の猫のように二人の戦いをジッと見つめる湖張。そのまま十数秒の時間が流れる。
(今だ!)
アールスリーの背中が目の前に見えた瞬間に飛び込む湖張。そして右足で背中に飛び蹴りを決めて突き飛ばす。
その結果、体勢を崩すアールスリー。しかし直ぐに持ち直し湖張に向かって斧で襲いかかろうとする。だがその前にレドベージュが横から剣で突くが、素早い反応で交わすアールスリー。その避けた先に湖張が蹴り技で追撃を試みる。
「隙を作った直後に強力な一撃が必要かも!」
「そうかもしれぬが、中々難しい注文でもあるぞ」
「そうなんだけどさ!」
「それよりなぜ軍配を使わぬ?」
「あれ重くて使い辛い!早い相手には無理!」
アールスリーに攻撃をしながらやり取りをする二人。
喋りながらではあったが余裕があるわけでは無く、むしろ焦りすら感じていた。
その一方でラナナは少し離れた位置で手をかざし続け、隙を見つけ次第、魔法で援護をするよう狙いを定めていた。
「ダメだ、三人が入り乱れて攻防を繰り返しているからとてもじゃないけど狙えない・・・」
中々タイミングを見つけられず、もどかしさを感じているラナナ。苛立ちも出てくる。
このままでは何もできないままジリ貧になるのではないのかと不安さえも感じてくる。
その中で視界の片隅で何かが動いた気がするラナナ。その方向に目を移すと信じられない光景を目にする事となる。
先程崩れ落ちた肩アーマーの二つが合わさり体になり、バラバラになった槍と爪が足になり、穂の部分は鎖でつながれ尻尾に、獅子の頭は頭部になる。そして出来上がった姿は獅子型のリビングアーマーであった。
「湖張姉さま!」
予想外の展開に慌てて声を上げるラナナ。慌てていた為に具体的な内容を伝えられず名を呼ぶだけしかできなかった。
「何!?」
名を呼ばれたのでアールスリーから若干の距離を開けた後にラナナの方を見る湖張。
するとラナナの位置から横にずれた方向から獅子型の鎧が飛び込んでくる姿が目に入ってくる。
「はぁ!?何なの!?」
爪を立てて飛び込んでくる獅子型の鎧。予想外の不意打ちに慌てて体を反転させる湖張。その結果、すれすれの位置で何とか避けると、獅子型の鎧は湖張の足元に着地をし、顔を湖張に向けて口を開ける。
「え?」
口の奥底が光り始めたように感じると、一瞬の出来事なのだがスローモーションのように光が大きくなっていく様子が認識されていく。
(しまった!?)
頭に窮地の言葉が過るなり両腕を交差して顔を隠す湖張。そして次の瞬間、獅子の口から巨大な光線が放たれ、湖張は光の中に飲み込まれていった。
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