ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百十四話【日和紗の服】

           

「よし、気合を入れて探しますよ!」
黒色の店の前で腰に手を当ててやる気を見せるラナナ。その傍らで湖張は不安そうな苦い笑顔を見せている。

現在はラナナがまず目を付けた桜和専門の服屋、つまり目的の店の前である。開く時間を見計らって一番最初に訪れることにした。

アールスリーとの戦いで大分消耗をしたのだが、一夜明けると不思議と疲れは感じられなかった。どうやらよく眠れたようだ。よって買い物は体力が万全の状態である。

ゆっくりと店の扉を開けると、目の前には桜和の服がギッシリと並べられていた。また数着はマネキンに着せており、どのような感じの服なのかが分かりやすくなっている。

「これは・・・異国情緒が漂う素敵なお店ですね」
店の中を見渡しながらつぶやくように話しかけるラナナ。そして目の前にマネキンによる展示をされている黄色い服を眺める。

「全体的にカワイイというより、綺麗という言葉の方がしっくりきますね」
彼女の率直な感想にうなずく湖張。
「そうでしょう。桜和の服ってどこか落ち着いて清潔な雰囲気があるの。着心地も良いんだよ。だからラナナの言うようなカワイイものは見つからないんじゃないかな?」

「果たしてそうでしょうか?案外あるかもしれませんよ?」
何かを企むような不敵な笑顔を見せるラナナ。思わず湖張は苦笑いが続いてしまう。
そうやり取りをしながら近場の服から順に見ていく二人。レドベージュは少し後ろで何も言わずについてきている。

「見てください湖張姉さま。この生地は花柄で綺麗ですよ」
「そうだね、でもこの服はお洒落着で動き回る服ではないよ」
「そうでしょうね。動きづらそうです。それに重そう」
「うん、着物は意外と重いんだよね。そう考えると法被は動き回る服ではあるから意外にも理に適ってはいたんだよね」
「やっぱり法被にします?あっちにあるようですが」
「嫌」
「冗談ですよ」

そう言いながら今度は気軽に着ることができそうな服に手を伸ばすラナナ。
「これは・・・軽くて簡単なつくりですが、なんていうか心もとないですね」
「そうだね。これは寝間着に使う感じかな」
その答えを聞くと、そっと元の位置に服を戻す。そしてラナナは湖張の顔を窺うようにして話しかける。

「何か気になったものはありましたか?」
首を横に振る湖張。
「いや、今のところは無いかな」
「そうですかそうですか」
湖張の答えを聞くと少し嬉しそうな顔を見せるラナナ。
そして湖張の手を引いて店の奥に連れていく。

「ちょっと、どうしたの?」
「実はこの店には気になるものを置いているようなのですよ」
「気になるもの?」
首をかしげて問いかけると立ち止まり目の前の商品を手に取るラナナ。

「ありました。多分ここのコーナーです」
そう言うなり手に取った衣類を広げると、そこには落ち着いた花柄のスカートが現れる。

「え?何それ?」
少し驚いた顔を見せる湖張に笑顔で答えるラナナ。

「桜和の生地を使ったスカートです。桜和の生地って上質で肌触りが良いのですよね。丁寧に織り込まれていますし。また柄も落ち着きと華やかさがあって、それに目を付ける人も少なくありません。このお店では桜和の生地を使ってラガースの服を作った商品も取り扱っているらしいのです。また、桜和の服をこちら風にアレンジしたものもあるそうですよ」

「へえー。そんなものもあるんだ」
そう言うなりスカートを手に取る湖張。しかし困った顔を見せる。
「とはいったものの、こんな短いスカートじゃ蹴り技が封印されるようなものだよ」
その意見を聞くなり、少し考える素振りを見せるラナナ。

「確かに湖張姉さまは足技が多いですものね。どのくらいまでなら許されるのか見極めないと」
「いや、全く許されないから!」

慌てる湖張の事など気にせずに更に店の奥に進むラナナ。その後をため息をつきながら湖張はついていくと、すぐさまラナナはピタリと立ち止まる。

「うん?どうかした?」
「カワイイ・・・」
固まったラナナの前にはマネキンによって飾られた桜和の服とラガースの服が合わさったような服があった。白い上着は下に行くほど桃色にグラデーションがかかっており、真っ赤なスカートのようなものがついている。

「これは桜和の服ですか?いえ、むしろこっちの地方の服とミックスされていますよね?」
確認を取るラナナ。うなずく湖張。
「うん・・・上は狩衣のようだけれども、中に着る単には袖が無いし何か妙なアレンジが加えられているね・・・」
「これにしましょうよ!」

目を輝かしながらそう訴えるラナナ。困惑の湖張。何とか却下の理由を探すために飾られている衣装に近づきスカートのようなものをまくり上げる。

「いやいや、ありえないでしょう。さっきも言ったけれど、スカートはダメだって。よりによってこんなに短いスカー・・・ああ一応はキュロットスカートなんだ」
意外にも短パン状になっていた事が分かりゆっくり手を離すと、ヒラリと元の位置に戻るキュロットスカート。
その様子を見るなり、満面の笑みで湖張を見るラナナ。
「じゃあ問題ないですね!私はこの服、もの凄く良いと思います!」
「えー・・・」
「レドベージュはどう思います?」

いまいち乗る気にならない湖張に対し、レドベージュをも巻き込もうとするラナナ。すると彼はジッと服を見つめた後に軽く触れる。
「ふむ、これは良いものだぞ?我も賛成だ」
「えええ!?」

意外にもあっさりと賛成派に加わったレドベージュに驚く湖張。そんな彼女にレドベージュは視線を向ける。
「確かにデザインはラナナの言うカワイイというものなのかもしれないが、素材は決してカワイクはないぞ?日和紗を使っている?」
「えええっ!?」

「・・・日和紗?」
驚きの声を上げるラナナに対して、首をかしげて聞き返す湖張。するとラナナは服の袖を手に取りながら解説を始める。

「日和紗というものはですね、桜和に存在する最高級の織物です。光守蟲という魔物がいるのですが、それの吐く糸が原料になっています。成虫になる前に自らの身を守るために糸を吐いて繭を作るのですが、その糸はとても強固でそう簡単には破ることが出来ません。更には微弱な魔力が流れるとより強度が増します。また、光を放つような美しい繭ともいわれています。それ故にこの繭から作った糸を材料にした織物はとても丈夫で、美しいといわれています。そしてそれこそが日和紗です」

「そうなんだ」
ラナナの解説を聞くなり、もう一度じっくりと服を見つめる湖張。その横からレドベージュが補足を始める。
「さらにな、この日和紗なのだが魔法との相性がとても良い。保護魔法を施すことにより対魔法防御力だけではなく、物理的な衝撃吸収力が半端ないぞ。そこらの鎧なんかよりも軽くて優秀だ」
「そんな素材があったんだ・・・」

聞けば聞くほど物凄い物だという事が分かると、一概に否定は出来ないのではないかと思い始める湖張。そしてもう一度じっくりと目の前の服を見つめる。

「いや、でもやっぱりこのデザインは少し・・・色合いも派手だよ」
申し訳なさそうに目を背ける湖張。その様子を見るとレドベージュは周囲を見渡す。そして店員の姿を見つけるなり声をかける。

「すまぬ、少し良いか?」
大きめの声で人を呼ぶレドベージュ。すると店員は反応をして振り向くが、さすがに赤い鎧が話しかけてきたので驚きの表情を見せる。

「え?・・・ああ、はい!」
しかしすぐさま近づいて何事もなかったかのような素振りになる店員。眼鏡をかけている細身の男性で、感じは良さそうだ。そして客がどのようなものであろうが公平に接する姿勢にプロ意識を感じる。

「すまぬがこの服の他に日和紗を使った服は無いか?」
店員が近づいてくるなり質問を投げかけるレドベージュ。どうやら湖張の微妙な表情を感じ取ったが故の質問のようだ。そしてその問いに対して再び驚きの表情を見せる店員。

「これは驚きました。これが日和紗だと分かったのですか!?」
「うむ、まあな。で、どうなのだ?他の服はあるのか?」
レドベージュが迫るように尋ねると、申し訳なさそうに首を横に振る店員。

「申し訳ございません。日和紗はなかなか手に入らない素材でして、このタイプの服しか無いのですよ。本来でしたら桜和の着物に仕立てようとも思ったのですが、せっかくでしたら素晴らしい素材で桜和とラガースの良い所を合わせた服を作りたいと思いましてね。それでこのようなデザインの服に仕立て上げました」

その言葉を聞くとラナナは服を見ながら店員に話しかける。
「その考え、正解だったようですね。とてもカワイイ服に仕上がっています」
「ええ、ありがとうございます」
嬉しそうな笑顔を見せる店員。どうやらこの服の製作に携わっていそうな雰囲気である。そんな彼に対してレドベージュは再び問いかける。

「すまぬ、このタイプの服しか無いといってはいたが、ひょっとしたら色違いはあるのか?」
ジッと店員の顔を見つめるレドベージュ。すると店員は笑顔でうなずく。

「はい、もう一着だけ色違いのものがございます。そちらは赤紫をベースにしており落ち着いた雰囲気に仕上げております」

「色違いがあるんだ」
店員の言葉にきょとんとしながら話す湖張。
「お持ちしましょうか?」
「うむ、頼む」
店員がそう尋ねると湖張の意見を聞く間もなく、すぐさま依頼するレドベージュ。すると店員は奥に入っていく。

「なんだかレドベージュも乗る気じゃないですか?」
店員を待っている間に横から話しかけるラナナ。それに首を縦に振るレドベージュ。
「うむ、まさかここで日和紗の服に巡り合えるとは思ってもみなかったからな。湖張の反応はいまいちだが今後の安全性を考えると薦めたくもなる。落ち着いた色違いがあるというのだ。もしかしたらそれならば合格ということもあろう」

そう言って湖張に視線を移すレドベージュ。
「う・・・」
二人のプッシュにたじろぎ言葉を詰まらせる湖張。そうこうしている間に店員は服を抱えて戻ってきた。

「お待たせいたしました、こちらになります」
そう言いながら近くの机に並べる店員。目の前に現れたのは美しい赤紫の上着と真っ白なキュロットスカートだった。

「これは・・・カワイイというより素敵ですね」
じっくりと服を見つめつぶやくラナナ。実際のところ華やかさはなくなってはいるが、不思議と落ち着いた美しさを感じ取れる仕上がりだった。

「ふむ、良いではないか。どうだ?」
隣で問いかけるレドベージュ。すると湖張はじっと見た後に一言つぶやく。
「悪くないかも?」

先ほどの服と形は同じなのだが、色が変わっただけで雰囲気が一転したように見える。そのせいか不思議と悪くないと一言が出てしまった湖張。

「試着してみますか?おそらくサイズもぴったりだと思いますよ」
湖張の言葉に反応した店員が問いかけると、少し考えた後にうなずく湖張。そして試着室に案内され早速着替え始める。

「気に入ってくれると良いですね」
「うむ、そうだな」
待ちながら会話をするラナナとレドベージュ。どのような姿になるのか楽しみで覗いてみたい気持ちもあったが、ラナナはそわそわしながら待っている。
すると間もなくして、試着室のカーテンが開くと、新しい服をまとった湖張が姿を現す。

「すごい!すごい素敵です!!」
小走りで近寄るラナナ。目が輝いている。

「ちょっと、どうかなって聞く前から感想を言わないでよ」
苦笑いでそう答えるとレドベージュも近づいてきて問いかける。
「着心地はどうだ?」
そう言われるなり、手を挙げてみたり振り返ってみたりと体を動かす湖張。

「悪くないよ。むしろ良いよ。袖も不思議と邪魔にならないし着心地も良いね。動きやすいまであるよ」
そう言った後にキュロットを両手で広げてみる湖張。

「まあしいて言えばやっぱりコレは短くて恥ずかしいかな・・・」
少し抵抗を見せる湖張にジト目のラナナ。
「何を言っているのですか。それぐらいがカワイイのですよ。
むしろ今まではいていた短パンだってそのくらい足が出ているのですよ?変わりません」

「・・・そう言われるとそうだね」
ラナナの指摘に気づかされる湖張。見た目が変わっただけで足の露出はさほど変わらないことに今更ながら気づく。

「ふむ、ではそれにするか?」
話がまとまりそうではあったので、最後の確認をとるレドベージュ。すると湖張は少し考えた後にうなずく。

「そうだね。これが良いかもしれない。保護魔法をかけることでかなり強力になるのでしょう?」
「うむ、任せておけ」
「じゃあ決まりですね!」
嬉しそうな顔でラナナがそう言うと、照れくさそうな顔を見せる湖張。
そしてそれを横目にレドベージュは店員に話しかける。

「ではすまぬがこれをもらうとしよう。いくらだ?」
「はい、ありがとうございます。金貨45枚になります」

「・・・え?」
店員がさらりと笑顔で提示した金額を聞くなり固まる湖張とラナナ。二人して見つめあった後に、店員に視線を移す。

「あ・・・えっと、すみませんやっぱりやめます!これ、そんなに高かったなんて!」
慌てて脱ごうとする湖張。その動作に慌てる店員。

「いやいや、ここで脱がないでください!そんなに慌てなくて大丈夫ですから!」
年頃の娘が急に脱ぎ始めたので、思わず大きめの声で止めに入られる。
「うう、ごめんなさい。まさかそこまで高いとは・・・」

しょんぼりした湖張に笑顔を見せながら店員は話しかける。
「いえいえ、良いのですよ。遠い桜和の希少な日和紗を使っているのです。どうしてもこのくらいしてしまいますよ。日和紗とはいかなくても他に多くの商品を取り扱っております。ゆっくり選んでいってください」

優しい言葉をかけてくれる店員。きっとこの店はいい店なんだと感じながら試着室に戻ろうとする湖張。その姿をレドベージュは不思議そうに見た後に店員に近づく。

「金貨だが45枚だと手渡しでは溢れてしまう。何か皿はあるか?」
「・・・へ?」
目を大きくしながらレドベージュを見る湖張。そうこうしている間に店員に代金を支払い終える。

「あの・・・お客様、よろしいのですか?」
キャンセルする流れだったところで代金を皿に入れた状態で手渡されて逆に戸惑う店員。
「良いも何も代金は金貨45枚なのだろう?我は問題ないぞ?」

「ちょっとちょっと!大丈夫なの!?」
慌てて駆け寄る湖張。相変わらず不思議そうな顔を見せるレドベージュ。
「む?金額の事を心配しているのか?確かに前に買った外套ですら3着で金貨3枚もしなかったくらいだから、相当の額だな。だが金額に見合った価値はある服だ。問題ないさ」
「いや、でも私はそんなにお金持ってないよ・・・」
「何を言っている。金なら我が払ったであろう?」
「でも!」
「これは経費だ。問題ないさ」

そう言うなり、今度はラナナに視線を移すレドベージュ。
「さて、湖張ばかりに服を買うのも不公平だからな。ラナナも何か選ぶとよい。それと後で靴も買いに行くぞ?せっかく服を買ったのだ、靴の色も揃えた方が良かろうて。ラナナも靴を新調するとよい。少し痛んでいるであろう?」

「良いんですか!?」
嬉しそうな顔を見せるラナナ。そして湖張の腕をつかむ。
「そうしたら次のお店に行きましょう!カワイイ服を探しに行きますよ!」
「え・・・えー!?」

この展開に戸惑いながら手を引かれて連れていかれる湖張。
レドベージュは二人の様子ににこやかになりつつ、湖張の着替えた服を袋に詰めて、店員に礼を言った後に店を後にした。

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