ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第八十一話【気分転換の重要性】

           

修練場で静かに呼吸を整える湖張。
ゆっくりと覇王爆炎弾の構えをとり、技を放つ練習をしている。

「だめだ、行き詰った」
技を放たず途中で止めて、ため息をつく湖張。
「どうした?調子悪いのか?」
不思議そうな顔をして話しかけてくるウンバボ。そしてゆっくりと近づいて来る。

「いや、元気なんだけれど何か成果が上がらなくてさ」
そうぼやく湖張。前回レドベージュとラナナが修練中に顔を出してから10日程が経過していた。
最初のうちは何かしら得られるものを実感していたのだが、ここ数日間はそれが無く焦りのみを感じていた。

「今は何に躓いている?」
何か力になれればとウンバボが問いかけると、湖張は腕を組んで答える。
「早く技を放てないところかな。最初の頃と比べるとマシにはなったけれど、十分かと言えばそうじゃないんだよね・・・」
「そうか」

話を聞くなり、ジッと湖張を見つめるウンバボ。
そして手に持っている籠を地面に降ろし、中から水筒とコップを取り出して冷たいお茶を注ぎ湖張に提供する。
「とりあえずこれ飲む。頭を冷やす」
「ああ、ありがとう」
素直に受け取り、お茶を飲む湖張。ほんのりと甘みのある珍しい味をしたお茶が体に染み渡る感じがする。

「お菓子も食べるか?」
「あーそれはいいや。後でラナナと一緒に食べるね」
「お前たち本当に仲が良いな」
「そうだね。何でだかは分からないけれど、どうしても気にかけちゃうね。
馬が合うのかな?仲間意識は強いかな」

そう伝えたところで、残りのお茶を一気に飲み干す湖張。
そしてコップをウンバボに返す。
「ありがとう。それじゃあもうちょっと頑張ってみるね!」
僅かな休憩を入れた事で少し気が晴れたのか、再び練習に戻ろうとする湖張。
その様子をジッと見つめながらコップを受け取るウンバボ。そして籠を再び手に持ってから彼女に話しかける。

「お前、少し気分転換をした方が良い。
同じ事を繰り返すの大事。でも行き詰った時は違う事する。
その方が案外と上手く行く時ある」
「違う事?」
ウンバボの提案が予想外の事であったがために不思議そうな顔を見せる湖張。

「いや、でも今は時間が掛かり過ぎちゃっているから違う事をしている余裕は無いよ」
困った顔を湖張は見せるが、ウンバボは表情を変えずに更に意見を押す。
「だからこそ違う事をする。そっちの方が近道」
「近道・・・になる?」
「なる。ウンバボ、これでもここの管理者。多くの猛者達を見てきたし指導もしてきた。
こういう時は大抵、違う事やって気分転換すると良い方向に繋がる」

そう言われると妙な説得力を感じる湖張。
「とは言ったものの、何をすれば良いのかな?修練鳥に一人で挑んでみるとか?」
確認を取るように尋ねてみると、ウンバボは壁際に移動し、手に持っている籠を置いて戻ってくる。
そして軽く肩を回して運動をした後に、湖張から数歩離れた位置で構えを取る。

「ウンバボと手合わせしてみるか?」
「え!?」
思いがけない提案だったので驚きの表情を見せる湖張。
「ウンバボ、これでも天使。料理以外も得意」
「・・・大丈夫なの?」
「大丈夫」

ずっと一つの技の練習のみを続けていたので、正直なところ飽きに近いものを感じていた。
その中でのウンバボの提案は面白さがあり、魅力も感じる湖張。
ましてや天使という存在と手合わせが出来る事はまずありえない事だ。

「そうしたら・・・お願いしようかな」
そっと構えを取る湖張。するとウンバボは小さく頷く。

「行くぞ」
ボソッと小さな声が聞こえたと思った途端に突風が向かってくるかの様に突進してくるウンバボ。
筋肉隆々の体からは想像が出来ない程の速度で間合いを詰めてくる。
上半身をかがめ、腰より低い位置から右手で閃光が走るような突きを仕掛けてくる。
その動きをしっかりと見極めた湖張は体を横に逸らし攻撃を避けると、そのまま勢いを殺さなかったウンバボは
湖張を通過するように突き進む。しかしすれ違いざまに体を反転させながら小さく飛び上がり、右足で回し蹴りを仕掛けてくる。
体格が大きい事もあり、想像以上に伸びてきたように感じる。
しかし湖張は冷静で、足技を避けるために後方に小さく飛び一人分の間合いを開ける。
そして着地と同時に遠距離の相手に衝撃を加える覇王拳を放つ。

彼女の手から放たれる白い光弾はウンバボめがけて一直線で飛んでいく。
回し蹴りを仕掛けた後の着地をしたタイミングだったので直撃は免れない状況であった。
しかしウンバボは右手で裏拳を仕掛け、覇王拳を弾き飛ばす。
そして間髪入れずに湖張に突進を仕掛け、左手で真正面から突きを放つ。

その結果、湖張は覇王拳を仕掛けた直後の隙を衝かれてしまう事となる。
避けきれないと判断した彼女は両手を交差し防御の体制を取る。そして両手の交差した場所にぶつかるウンバボの拳。
すると湖張は半歩ほど後ろに退いてしまった。

「重い・・・」
両腕に強い衝撃が走り、若干の痺れを感じる湖張。見た目通りの剛力を持つウンバボの打撃は防いでも防ぎきれない程に強力であった。
そして早い展開を仕掛けてくるウンバボ。痺れが収まらない状況にもかかわらず第二第三の攻撃を仕掛けてくる。

(流石天使・・・強い)
剛腕と俊敏を兼ね備えた攻撃を分析する湖張。紙一重で攻撃を交わしながら後方に小さく飛んで間合いを開けると、
痺れが収まりつつある両手を地面に広げ、オレンジ色の光の玉をウンバボの足元に放つ。
すると小さな爆音と共に、目くらましの様な白い煙が彼の周囲を包み込んだ。

しかしその煙をものともせずに突進を辞めないウンバボ。
湖張への追撃の手を緩めないかのように、煙の中から飛び出してくる。
だがその時であった。煙から全身が飛び出る前に、湖張はウンバボの左横顔目掛けて回し蹴りを仕掛ける。
稲妻が走る様な鋭い蹴りで見事ウンバボの虚を突く事が出来たのだが、ありえない反応速度を見せるウンバボ。
咄嗟に左腕をまげて顔を守り、蹴りを防ぎきってしまう。

だが彼をよろめかせ、突進を止めた時に生じた隙を見逃さなかった湖張は、
続けて左手と右手で交互に素早い突きを三発仕掛ける。
その攻撃を両手で防ぎきるウンバボ。ガードは硬く、大して効いていない様子である。
そこで左わき腹に隙を見つけた湖張は再び右足で回し蹴りを繰り出すと、左ひざを上げて攻撃を防ぐウンバボ。
バチンと激しく蹴りが入った音が響くが、これも防ぎきられてしまった。

彼の打たれ強さと反応速度に少し驚きながら、蹴り出した足を戻し体制を整える湖張。
その一方で上げていた左ひざを戻す動作を一歩踏み込む動きに変換したウンバボは、そのまま体をひねりながら右手で突きを仕掛ける。
しかし冷静さを失っていない湖張はウンバボの腕を横から払う様に左手で手刀を決めると、その流れで右手でウンバボの左わき腹に打撃を加える。

流石にその一撃は上手く決まっただけあって、少しよろけるウンバボ。
しかしすぐさま戦う構えを取り継続を表現する。

「・・・ちょっと丈夫過ぎない?普通は今ので倒れてもおかしくないよ?」
「お前、本当に強いな。少し油断をするとこれだ」
「声の変化もない。普通は横腹に一撃が入ると喋る事すらままならないのに・・・。
やっぱり私では腕力不足か」

そうぼやきつつ、突破口を頭の中で模索する湖張。
分析していることを相手に悟られないようにするため、何気ない素振りをしつつ、ウンバボの様子を窺う。

(本当はこういう時こそ覇王爆炎弾なのだろうけど、準備している間に打ち込んでくるよね・・・
技の準備中でも相手の攻撃を避けない限り無理だな・・・)

「ん?」
頭の中で考えていた事に引っかかった湖張。突然疑問形の声を上げるなり無防備になる。
「ごめん、ちょっと待って」
左手を小さく上げて静止のお願いをすると、ウンバボはゆっくりと構えを解く。

「どうかしたか?」
「・・・えっとさ、あー。えっとね、えーっとね・・・」
そう呟き考え事をする湖張。
そのまま数秒間口に手を当てて考え事をする。

「例えばさ、例えばだよ?
技を出すまでに時間が掛かるのだけれども、攻撃を避けたり移動しながら技の準備をしたらさ、
技を出すまでの時間の短縮にはならないにせよ、隙は無くなるよね?
更に攻撃しながら技の準備をしておいて、相手に攻撃を当てて隙を作ったところで
準備していた技を放ったら、連続での攻撃になって実質、技を放つまでの時間短縮とも言えるよね?」

「技の準備時間に他の行動をするのか?そんな事出来るのか?」
「いや、どうだろ・・確かに難しいかも。
・・・でも基本的に覇王爆炎弾の準備って集中して力を溜める事が主たるところだから
出来なくはない・・・そうだ!レディーフェ!あれと同じように力をプールする事も取り入れれば
よりやりやすくなるはず!」

少し興奮気味にそう語る湖張。そしてウンバボに近寄る。
「お願い、練習を手伝って!
アナタには攻撃を仕掛けてきて欲しいの。
それを私は避けながら技の準備を出来るようにする。
本当は技の準備時間を短縮させる方が良いのだけれども、
それこそ日々の鍛錬が重要になってくる部分だから数か月、下手したら数年かかってしまう。
それだったら準備時間を有効活用できるようにした方が堅実だと思うの」

熱意を持って話しかけてくる湖張に快く応じる姿勢を見せるウンバボ。
力強く首を縦に振る。

「分かった。ウンバボ手伝う。
だけどそろそろお昼の準備する。それにいきなり攻撃を避けながら準備する練習は時期早々。
まずは歩きながら、技の準備が出来るか一人で練習する」
「あー確かに。まずは一人で動きながら準備をする練習だよね」

そう言うなり、早速歩きながら技の準備を試し始める湖張。
「お、やっぱり案外難しいけど・・・何とかいけそう!
本当に気分転換は重要だったね!違う事から良い事思いついちゃったよ!」
少し光が見えたせいか思わず嬉しそうな顔になる湖張。
その様子を確認すると、少し微笑んだウンバボはゆっくりと厨房に向かうのであった。

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