ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百十一話【ゴルベージュの軍配】
- 2021.10.19
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
ほんの数秒間、強烈な光線を浴びていた湖張であったが、レドベージュとラナナには攻撃がとても長い時間に及んだように感じられた。
獅子型の鎧の攻撃によって、湖張の体は浮き上がり、5メートルほど飛ばされた後に地面に叩きつけられる。上に着ていた法被は散り散りに破けてほとんど無くなり、上半身はサラシだけになってしまっていた。
「湖張!」
目の前の出来事に狼狽し、湖張の下に駆け付けようとするレドベージュ。しかしアールスリーがそれを許すことはなく、隙をついて攻撃を仕掛けてくる。
「邪魔をするな!」
怒りと焦りが混じった反撃を繰り出すが、当然のようにアールスリーには決まることは無く、足止めをされてしまう。
「湖張姉さま!」
その間に飛空の魔法により高速で湖張の下に飛び込むラナナ。そして周囲に魔法で防御壁を展開しつつ、両手を添えて回復魔法のレディーフェで治療を始める。
「起きて!お願い・・・湖張姉さま!!」
大きな目から大きな涙を溢れさせながら訴え続けるラナナ。しかし湖張はピクリとも動かず、仰向けのままで気を失った様子であった。
更に回復魔法の力を強め治癒効果を高めるラナナ。より多くの光の羽が周囲を包む。
「生きているのか!?湖張は生きているのか!?」
遠くの位置から大声で確認をしてくるレドベージュ。しかしその応答に答える余裕がラナナには無かった。
「ラナナ!」
「そんなの分らないよ!」
強いレドベージュの問いかけに苛立ちを見せるラナナ。大声を出して取り乱している彼女の様子から、現状がかなり危険な状況だと再認識をするレドベージュ。
その中で獅子型の鎧は無情にも湖張とラナナを標的としたようでラナナの防御壁に向かって爪を立て破壊を試み始める。
しかし簡単にはいかず、強力な打撃を何度にもわたり繰り返す。防御壁は簡単に破られはしないものの、攻撃の度に硬い金属同士がぶつかったような音が立ち、恐怖心を煽ってくる。
「やめてよ!」
大声で叫ぶラナナ。怒りに身を任せて防御壁から衝撃波を発生させると、獅子型の鎧を8メートルほど吹き飛ばす。
「もう、一体何なの!?あっち行ってよ!!」
恨みと怒りを交えた泣き顔で獅子型の鎧を睨みつけるラナナ。しかし獅子型の鎧は彼女の望みを聞くことは無く、無慈悲にも再び口を開き、光を放つ準備をし始める。
「いかん!ラナナ!!」
駆けつけようとするレドベージュ。しかしアールスリーの執拗な攻撃がそうはさせず足止めを食らい続ける。
そして放たれる巨大な光の線。ラナナと湖張を瞬時に包み込んでしまった。
「こんな事で、こんな所で!?・・・我はまた守れないのか?」
アールスリーと鍔迫り合いをしながら嘆くレドベージュ。心なしか腕が震えている。
絶望を感じる光の中で、心細く耐えるラナナ。
「お願い、湖張姉さま」
激しい振動により、軋み始める防御壁。その中で治療を続けるラナナ。
涙によって視界が滲む中、何とか目を覚ましてほしいという思いだけで魔法をかけ続ける。
しかし強力な防御壁を展開しつつ、全力で治癒魔法をかけ続け、更には先ほどの怒りに身を任せ力いっぱい衝撃波の魔法を放った事によって体に負担がかかり、意識が朦朧とし始める。
「湖張姉さま・・・」
手をガクガクと震わせるラナナ。恐怖と悲しみが合わさった失意が彼女の心を覆い始める。
「湖張!ラナナ!!」
叫ぶレドベージュ。天将の慟哭のような声が鳴り響く。
「・・・ごめんなさい」
言葉の後に、大粒の涙が零れ落ちる。それを合図にしたかのように防御壁の全体にヒビが走るとガラスが今にも割れて砕けそうな音が耳に届く。そっと目を閉じるラナナ。絶望と諦めが心を支配する。
「大丈夫だよ」
そっと手に温かい感触を感じるとハッとして目を開くラナナ。
すると自分の手に触れて起き上がろうとしている湖張の姿が目に入る。
「湖張姉さま!?」
彼女の言葉が届くころにはスッと立ち上がり、光線に立ち向かう姿勢を見せる湖張。そして腰に携えていたゴルベージュの軍配を手に取ったと思うと、目の前に浮かせ、両手を広げてラナナに言葉を投げる。
「私が守る!防御壁を解いて!」
そう言うなり、防御壁の内側から球形で水色の防御壁を展開する湖張。ゴルベージュの魔法と同じものであった。
「お願い・・・します」
そう言うなり、力が抜けた様子を見せながら魔法を解除するラナナ。すると巨大な光線は湖張の防御壁を飲み込む。
数秒の間、攻撃を浴び続ける防御壁。しかし水色の魔法は、何物にも動じることが無いような力強さで輝き続ける。
(やっぱり素敵です、湖張姉さま)
湖張の後姿を見つめながら心の中で呟くラナナ。危険な光線の中にいるというのに、安心したような表情を見せる。
実際のところ、湖張が展開している防御壁は驚くほどに振動もなく安定感がありラナナがそう感じることも無理はなかった。
そうこうしている間に光が収まると、ゆっくりと防御壁を解く湖張。その待ち望んだ後姿に声をかけるラナナ。
「大丈夫なのですか?湖張姉さま」
その声に顔を向ける湖張。
「そうだね、まだ体中が痛いけど大丈夫。
ラナナと・・・おじいちゃんが守ってくれたから」
「え?」
薄っすらとした笑顔で伝えられた湖張の答えに、少し不思議な表情を見せるラナナ。
「あの法被って、おじいちゃんが特殊な繊維を使って用意してくれたもので魔法に対する耐久力が高かったの。だから直撃を受けても無事でいられたんだと思う。
正直さ、法被というデザインに対しては未だに納得はしていないけれど、それでも破って良いという訳ではないよ」
そう言うと帯を取り、申し訳程度に残っていた法被を脱ぎ捨ててサラシと短パンのみの恰好になる湖張。
「さすがにちょっと、許せないかな」
強い視線を向けるなり、目の前に浮く軍配に手をかざすと、軍配は強く光る。そして光が収まると、目の前には金属製で出来た扇子に姿を変えていた。
「え!?」
突然の変化に驚嘆するラナナ。その様子に構うことなく、湖張は広がった扇子を両手で閉じ、右手で掴んで獅子型の鎧に向かって突進する。
獅子型の鎧は口から小型の光弾を一つ湖張に向かって放つ。突然の反撃だったので、先ほどの光線は間に合わないようであった。
しかし湖張は避けることは無く、光弾が目の前にくると、閉じた扇子で弾き飛ばす。
そして目の前まで到達すると小さく飛び上がり扇子を振り上げる。その迎撃の為に再び口を広げ光を放つ姿勢をとる獅子の鎧。しかし湖張の動きは早く、口から光弾が出る前に獅子の頭頂部を閉じた扇子で叩きつける。
すると獅子の鎧は強制的に顔を地面に向けさせられる。しかし光弾を放つ事は止まらず地面に向けて吐き出すと、爆発と共に周囲は煙で覆われる。
「風陣!」
指を曲げた状態で手を広げ、下から上に振り上げると湖張の周囲に突風が巻き上がる。
すると周囲を覆っていた煙は一瞬で吹き飛ぶ。更には突風に煽られ獅子型の鎧も態勢を崩しながら浮かび上がり、大きな隙を見せる。
「でやぁぁぁ!」
宙に浮いた獅子に向け、全力で横方向に蹴りを入れる湖張。すると勢いよく吹き飛び、アールスリーの近くで転げ落ちると全身がバラバラになる。
しかしそれは倒したわけではなく、再び兜と肩アーマー、そして槍に姿を変えてアールスリーと結合する。
「湖張、無事か!?」
大きな声で確認を取るレドベージュ。それに大声で返す湖張。
「私が隙を作る!合図をしたら飛び込んで仕留めて!!」
そう言うなり、扇子を上空に投げると、まるで意思を持っているかのように天井に対して水平方向に飛んでいく扇子。アールスリーのいる方角である。
続けて左手で光の玉を天井高くに放り投げる湖張。そして右手で目の前に同じような光の玉を形成すると、狙いをアールスリーに定める。
「サンダークロス!」
上空と水平方向から数多もの雷がアールスリー目掛けて降り注ぐ。本来ならば複数の敵を必中で仕留める魔法なのだが、アールスリーは全ての雷撃を最小限の動きでかわし続ける。
それでも魔法を放ち続ける湖張。垂直方向と水平方向から次々と雷を発生させアールスリーを常に揺さぶり、反撃の隙を与えない。
「・・・持つのか?」
激しく魔法を放ち続ける湖張に心配そうな視線を向けるレドベージュ。スタミナ切れが気がかりになる。
「私は大丈夫、視線をそらさないで!」
レドベージュの様子に気づいた湖張が訴えると、心を抑えて再びアールスリーに視線を戻すレドベージュ。剣を強く握りしめる。
(もう少し・・・もう少しコッチを向いて)
雷を放ち続けながら奥の天井付近に視線を移す湖張。そこには先ほど天井すれすれを飛んで行った扇子がアールスリーの後方で停滞しており、何かを待ち構えている様子であった。
その後も何度も雷を落とし続ける湖張。かわし続けるアールスリー。魔法の光と音が長時間発生し続け、床の状態が劣悪となっていく。しかしアールスリーの動きは鈍ることはなく、隙あらば飛び込んできそうな雰囲気である。その証拠に少しずつではあったが湖張の方に近づいてきており、常に視線を彼女に向けている。
(今だ!)
右方向に雷が落ちた時、左に飛んで回避するアールスリー。そして顔と体が湖張に向いた瞬間、湖張は眼を大きく開き行動に移す。
「レドベージュ!」
湖張が声を上げると何が起こるのか分からなかったが、彼女を信じて飛び込むレドベージュ。そして後方上空に待機していた扇子が垂直方向に急降下して地上50センチメートルのところまで到達すると、アールスリーの背中を目掛けて水平方向に高速で突撃を仕掛ける。また、扇子の動作と同時に上空に停滞していた光の玉からアールスリーの両脇に目掛けて雷が降り注ぎ左右の動きを封じる。更には湖張の目の前にある光の玉から頭上と足元に向けて雷を放ち前方と上空への逃げ道も塞ぎ、一瞬ではあったがアールスリーの動きを封じる事に成功する。その直後、後方から迫ってきていた扇子はひとりでに開き、扇面を縦にしてアールスリーの背中を下から上へと切りつける。
すると真二つとはいかなかったが、ラナナが傷つけた部分も助けとなり、背中に大きな切れ目が入る。またその衝撃により体を反らせながら小さく前方に浮かされるアールスリー。
「天将連重突・絶!」
アールスリーとの距離が数メートル空いてはいたが、その場で高速の突きを繰り出すレドベージュ。最初に出会った日に放った技と同じような技ではあったが、今回は更に何本もの赤い閃光が加わっている。
硬いものを削り取るような音が数多く合わさると、アールスリーは後方に吹き飛びながら全身がバラバラになって地面に転がり落ちる。
「万が一のために砕け散らす!」
散り散りになったアールスリーのパーツの前でレドベージュが剣を上にかざすと、光の束が集まり巨大な剣を形成する。
「滅せよ」
目の前に渾身を叩きつけるレドベージュ。巻き上がる石畳と砂埃。その結果、彼の目の前にあったアールスリーのパーツは粉々に散り、床は酷くえぐれた状態に変わってしまった。
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