ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十五話【夜中のうちに】
- 2021.06.29
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
気が付くと、カーテン越しで柔らかくなった日の光を感じる湖張。
始めは寝付けなかったが何だかんだで眠れたようである。
診療所で寝ていたせいか、消毒液の独特な臭いを感じながらも体をゆっくりと起こす。
「おはようございます」
近くのベッドから声が聞こえる。その方向に視線を移すとベッドに腰を掛けながら髪をとかしているラナナの姿が目に入る。
「おはよう。寝られた?」
優しい笑顔で挨拶を返す湖張。するとラナナは小さな苦笑いを見せる。
「はい、少しベッドが硬かったですが眠れました。
でも元気ですよ」
そう伝えると、ブラシを片手に湖張の隣に座るラナナ。
そして湖張の髪をとかし始める。
「昨日はお風呂に入れませんでしたからね。せめて髪は綺麗に整えないと」
「あーでも洗濯の魔法を応用して髪や体の汚れは落としたよ?」
「でも髪はきっとボサボサですよ」
「痛い痛い!あんまり引っ張らないで!」
「ほらーボサボサじゃないですか!少しは我慢してください!」
半ば強引に髪を整えられる湖張。
ただ特に抵抗はせずに、大人しくしている。
「湖張姉さまの髪は綺麗な直毛で素敵ですね」
黒く長い髪を丁寧にとかしながらラナナがそう言う。
「そう?」
「そうですよ」
「髪だったらラナナの方が綺麗じゃない。
毛先にフワッとウェーブが掛かっていてブロンドの髪に似合っているし」
そう伝えるとラナナは手を止めて自分の髪の毛先を触る。
「ああ、これは魔法で毛先だけウェーブになるようにしたのですよ。
しばらく放っておいたらなくなります。実は私もストレートなのですよ」
「そうなんだ」
「そうですよ」
その後、数回ブラシをかけると納得した出来になったのか作業を終えるラナナ。
湖張は三度ほど手櫛で自分の髪の状態を確認すると、綺麗に整っていると感じる。
「ありがとう」
礼を伝えてから立ち上がる湖張。
そして部屋を見渡す。するととある事に気が付く。
「あれ?レドベージュとゴルベージュ様は?」
本来ならば同じ部屋にいるはずである二体のリビングアーマーが見当たらない。
「そうなのですよ。私が起きた時からいなかったのです。
散歩にでも行っているのでしょうか?」
ラナナも疑問に思っていたようだ。
「そっか。じゃあ私たちもとりあえず外に出てみようよ」
「そうですね」
そう決まると、靴を履き外に出る二人。
すると目の前の光景に違和感を感じる。
「あれ?何か綺麗になっていない?」
昨日は魔物が暴れていた事により、町中に瓦礫が散乱していたのだが妙に片付いている。
不思議に思いながら町の中を歩く二人。そして広場に辿り着くと目を疑う光景が広がっていた。
「・・・え?」
魔物との戦場だった事もあり無茶苦茶になっていた広場だったが
空いていた巨大な穴は全て土で埋め立てられていた。
しかもそれだけでは無い。広場の端の方に木材、石材、金属類、その他燃えるゴミといった感じで
綺麗に仕分けされて集められていたのだ。
「どういう事でしょうか?」
うろたえるように話しかけてくるラナナ。どうしてこうなったのかが彼女も謎のようだ。
そして何より昨夜まであった謎の魔物の残骸が姿を消している。あのような巨大な物を
一夜にして片付ける事など到底不可能だと考えられる。
と、その時であった。背後から足音が近づいてくることに気が付く湖張。
「目が覚めたようだな。しっかりと眠れたか?」
声の主はレドベージュであった。ゆっくりと振り返ると彼の後ろにはゴルベージュもいる事に気が付く。
「おはようレドベージュ。それにしてもこれ、どういう事?綺麗になっていない?」
「うむ、昨夜のうちに我とゴルベージュで片づけをしておいた。
町を復興するにしてもまずは片付けが必要であろう?そこで穴を埋め瓦礫の仕分けをしておいたのだ」
「二人でこれを!?大変だったんじゃない?」
薄々はそうなのではないかとは思っていたのだが、実際に確定と聞かされると驚きが素直に出てくる。
「まあ少々時間はかかったが魔法で手際よくやったからな。一晩で終わったぞ。
我らは眠らずとも問題ないし暗闇でも視界に影響はないからな。夜中の内に作業したのだ。
しいて言うのであれば、音を立てないように注意した事が大変だったくらいか?」
「そうなんだ。朝になったら綺麗に片付けられていたなんて、
町の人からしてみたら、まさに天の使いが助けてくれたシチュエーションだね」
「まあ実際にそうではあるがな」
にこやかな湖張の感想に同じような雰囲気で答えるレドベージュ。
そんな中でゴルベージュも話に加わってくる。
「とは言ったものの、片付けは最後にやった事だ。
一番の目的はあの魔物の解析だった」
「魔物の解析・・・ですか?」
ゴルベージュの発言に反応をするラナナ。彼女の顔を横目で見た後に頷くゴルベージュ。
「そうだ。二人にも話しておこう。
昨日も話したが、あの魔物は私もレドベージュも過去に見た事が無い魔物であった。
何かが変異した物かとも思ったのだが、そういうわけでもなかった。
また、地中から出てきたという事なので穴の中にも入ってみたが、
すぐさま行き止まりになってしまった。どういう原理で地中を進めるのかは謎ではあるな」
「謎ですか」
「そうだ、それだけ異端な存在だ。外殻もそうだ。
あんな作りは見た事が無い」
その言葉を聞くと、何かを思いついた様子のラナナ。
「ひょっとして、あの魔物・・・メーサ教が絡んでいると考えられる魔物と同じですか!?」
確かにあの魔物の表皮の硬さも異常で異端である。そう考えるのも自然な流れだった。
しかしゴルベージュは首を横に振る。
「いや、そういうわけでもないようだ。
幸いその魔物のサンプルも大量にあったから見比べてみたのだが
あれはあれで異端ではあったが全く違う物であった。関連性は無いな」
「そうでしたか」
ゴルベージュの話を聞き、何かを考え込むラナナ。
そして再び問いかける。
「そう言えば魔物の残骸はどうされました?」
目の前にあるはずである巨大な魔物の残骸が無くなった疑問を投げかけるラナナ。
するとゴルベージュは南側を指さす。
「町の外に埋めたぞ。あまり人の手と目に触れさせたくなかったからな。
邪魔でもあるだろうし騒ぎが周辺の町や村まで大きくなる前に埋めておいた」
「よく運べましたね・・・まあ魔法ですか?」
「当然だ」
「他に何か分かった事はありますか?」
「まだ無いな。まあ外殻のサンプルはいくつか持った。
落ち着いて天で解析するつもりだ」
ラナナとゴルベージュのやり取りを聞くと、とある事を思い出す湖張。そしてレドベージュに問いかける。
「そういえばさ、メーサ教の槍はどうした?まだ埋めたまま?」
首を横に振るレドベージュ。
「いや、既に回収しているぞ。布でくるんでラナナのカバンの横に置いておいた」
そう聞くと彼女に視線を向ける湖張。
「ああ、朝起きたらカバンの横にあったので、とりあえずカバンに縛り付けておきました。
パット見、槍の先端が入っているなんて分からないようにしておきましたよ」
「そうなんだ」
「あとは落ち着いて調べられる環境に行きたいのですが、中々難しそうですね」
その言葉を聞くと、何かを思いついた湖張。
「そうだ、それだったらウンバボのところに戻る?
あそこだったら落ち着けそうじゃない?
とは言ったものの、ピロペレの所に行った後になるだろうけど」
「あー確かにそれも一つの手ですね。
レドベージュとしてはいかがですか?」
湖張の意見についてレドベージュの見解を求めるラナナ。
すると少し考えた後に回答する。
「そうだな、それも良いかもしれん。
ただ湖張の言う通りまずはピロペレの所に向かうぞ。
キュベーグの行方を掴む方が急務だ」
その答えに頷くラナナ。
「そうですよね。また戻るのも大変ですし。
私もなるべく時間を見つけては解析をして、なるべく戻らなくても良いようにします」
「うむ、そうするとしよう」
「そういえば、今日はどうしますか?ピロペレが保管されている場所に向かいます?」
続けて質問をするラナナ。
するとそれについては近くにいたゴルベージュが回答をする。
「いや、今日もこの町に留まるぞ。
調べたいことは夜中の内に調べたが、負傷者の容体が気になる。
昨日の内に治療はしたが、容体が急変するケースもあるからな。
それに魔物はもう現れないという保証もない。
ひょっとしたら同じ様な魔物が現れるかもしれない。
さらにもっと言えばメーサ教の騎士も目を覚ましていないではないか。
その者からも話を聞きたいであろう?」
「あー確かに、メーサ教の騎士の事もあったね」
ゴルベージュの話を聞くと納得をする湖張。
そして少し考えた後にレドベージュに話しかける。
「そうしたらさ、町長さんに言ってどこか部屋を借りられないかな?
それこそ槍の解析をそこでやらせてもらえば良いんじゃない?
負傷者の治療といっても急変する人はそんなにいないはずだから
私だけでも大丈夫だと思うし」
その考えに頷くレドベージュ。
「ふむ、まあここまで片付けもしたのだ。
一晩経ってある程度は気持ちも落ち着いたかもしれん。
それこそ宿屋を開けてもらうよう依頼しても問題なかろう」
「そうだよね。ラナナはどう?」
「そうしていただけるとありがたいです。
ゴルベージュ様も昨日の魔物の解析を一緒にいかがですか?」
ラナナの誘いに首を横に振るゴルベージュ。
「いや、私は遠慮しておこう。
一応この付近で調べたいことは調べたのだが、それでも何か他の手掛かりが残っていないのかを見て回りたい。
ただ、時間があれば私も槍について調べさせてもらおう」
「本当ですか?ゴルベージュ様に見てもらえると正直なところ心強いです!」
「期待し過ぎはよくないぞ?私とて分からない物は分からないのだからな」
そう決まったところで一度診療所に戻る事にした一行。
本日も雲が出てはいるが、雨は降らなさそうな空模様である。
荒れた町ではあったが、心地よい日差しが心を穏やかにしてくれていた。
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