ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百八話【山の中の研究所】

           

気になる事が頭に過りつつも、疲れの方が勝ってしまい直ぐに眠りにつく事が出来た。
その日にあった事を振り返ると当然と言えば当然である。

そんなこんなで、あっという間に朝を迎えた感覚になった湖張とラナナ。
本日も何かありそうではあるが、デスピエロが襲ってくるような事は無いと思うと幾分かは気が楽であった。

早々に支度を済ませてチェックアウトをすると、目的地である研究所に向かう一行。
サッと用事を済ませて本日中に隣街に行く予定だ。
「湖張姉さまは好きな色はあるのですか?」
「そうだなー。白とか赤系は好きかな?」
「青じゃないのです?」
「ああ、法被が青だから?これはおじいちゃんの趣味だよ」
「そうだったのですか」

道中は相変わらず他愛のない会話を楽しみながら進む湖張とラナナ。
この時ばかりは気になる魔物の事は忘れた様な雰囲気だ。
緊張感が無いと言えば無いのだが、リラックスした笑顔を二人が見せているとレドベージュは問題が無いと感じていた。

そうこうしているうちに、街道を外れ山を少し上がると二階建ての石造りの家が見えてきた。街道からはしっかりとした道は無かったものの、獣道と思われるものがずっと延びていた。それを辿ると家に着いたわけである。

ただ人の気配は無く、誰も居ないように見える。しかし周囲は荒れておらず誰かが住んでいるようにも思えた。

「ここが目的地?」
問いかける湖張。するとレドベージュは頷く。
「うむ、その様だ。メモの位置と合致する」
「何だか山の中にしっかりした建物なんて・・・変な感じですね」

大自然に囲まれた中にポツンと堅牢な建物があると妙に違和感を感じられる。
二階部分を見上げるが、特に得られる情報は無い。

「とりあえず、入ってみる?」
扉を指さしながら湖張がそう尋ねると頷くレドベージュ。
「うむ、それしかなかろう。とはいったものの、扉が開かないだろうがな」
そう半ば諦めつつも試しに扉に手を掛けるレドベージュ。

すると以外にも鍵はかかっておらず、難なく扉は開いてしまった。
音も立たずスムーズに開く扉。

そして日の光が差すはずもないので暗い部屋のはずであったが、照明が薄っすらとついており部屋の中が分かりやすく見渡せる。

「この灯りは・・・魔法?」
照明を見つめるラナナ。ロウソクやランタンの灯りかと思ったのだが、部屋を照らしている物は薄っすらと光る球体であった。

「誰か住んでいるのかな?」
湖張が部屋の様子を探りながらそう呟くと、奥の扉がゆっくりと開き始める。
身構える一同。そこから何が飛び出してくるのか分からないまま緊張が走る。

扉の奥は暗く、開いた部分から少しずつゆっくりと光が照らす事によって、何かを映し始める。まず目に入ってきたものは赤く毛むくじゃらの足であった。

「魔物?」
湖張がそう呟き終わる頃には全身の姿が目に入る。
それは身長が1メートル程で犬の様な顔をした小柄な二足歩行の獣人だった。
全身は赤い毛で覆われているが、黄土色をした半袖の服を身に纏っている。

「これは・・・コボーニですね」
小声でつぶやくラナナ。視線をそらさずに問いかける湖張。
「知っているの?」
「はい、山や森に住む魔物ですが、そこまで危険ではありません。
とは言ったものの、見かけに反して力は強いです。
中には知性の高いコボーニもおり、人の言葉を操り共存をする個体もいます」

ラナナがそう答えると、目の前のコボーニはレドベージュをジッと見つめる。
「お前たち、新しい研究者か?」
少年のような声で問いかけてくるコボーニ。意外と可愛い声だったのでキョトンとした顔になる湖張。
(喋った・・・という事は知性が高いのかな)

先程のラナナの話を思い出しながらそう感じると、レドベージュは一歩前に出て話しかける。
「いや、我らは研究者ではない」
その言葉を聞くと不思議そうな顔を見せるコボーニ。

「そうなのか?そのリビングアーマーは新しいアールだと思ったけど違うのか?」
「アール?」
謎の単語が出たので聞き返す湖張。するとコボーニは警戒心が無い様子で湖張に近づいてくる。

「アールを知らないんだ?本当に研究者じゃないんだね」
「お主はここに研究者がいた事を知っているのか?」
横から問いかけるレドベージュ。するとコボーニは体を向けて答える。

「そりゃそうだよ。俺はここの家の主だからな!」
「この家の?」
「そう!」
「詳しく教えてくれるかな?」

知性が高いとは言ったものの、雰囲気的に裏表のない無邪気な子供の様な感じがしたので素直に聞いてみることにした湖張。すると人慣れした犬のように嬉しそうな表情をしながら話し始めるコボーニ。

「ここには元々、家は無かったんだ。だけどある日、突然3人ほどの人間がやって来て家を建て始めたんだ。魔法を使ったようで一週間ほどで出来たよ。
最初は遠くで見ていたんだけど、その人間たちは良い奴らでさ!
ウマイ物をくれたんだ。そのお礼に俺は友達になって水汲みや力仕事を手伝うようになったんだ。あと、近づく人や魔物がいたら教えたりもしたな」

「そうなんだ。その人たちは何でこんな所に家を?」
「強い魔物を作る研究をするためだよ。
誰かに頼まれたんだって。上手くいったら結構なお金になるから頑張っているっていっていた」
その話を聞くと目を合わせる湖張とレドベージュ。
どうやら回復の早い魔物と同様にここでも魔物を作っていたようだ。そして理由は金のためらしい。

「強い魔物ってどういうの?」
引き続き情報収集を行う湖張。コボーニは特に警戒することも無く話を続けてくれる。

「アールだよ」
「アール?」
「何かここにいた兄ちゃんたちは何人も仲間がいて、他の場所でも同じように強い魔物の研究をしているんだって。それで出来た魔物はどれもアールという名前なんだってさ」
「するとそのアールという魔物はたくさんいるの?」
「いや、いないよ。アールといっても姿形は全部違うし、ここ以外でも4か所しか研究所は無いんだって。そしてここにいるアールはアールスリーという魔物。他のアールとは違うよ」

「アールスリー?ひょっとして水牛の様な大きな角を持った獅子?」
湖張の質問に首を横に振るコボーニ。
「ううん違うよ。アールスリーはウッドゴーレム。木で出来た鎧人形だよ。
でも鎧の部分は金属製。そこのリビングアーマーとは違ってスマートでカッコよくて、めちゃくちゃ強いんだぜ!」
「強いんだ?」
「ああ、強いぜ!」

レドベージュを指さしながら嬉しそうに教えるコボーニ。その素振りには大して反応せず、表情を窺いつつレドベージュが問いかける。
「ふむ、ところでアールスリーを作った研究者たちは何処にいるのだ?」
「どっか行ったよ」
何食わぬ顔で簡単に答えるコボーニ。

「どういう事だ?」
「何かね、アールスリーを作ったのは良いのだけれど、言う事をちゃんと聞いてくれなかったんだ。だから命令を守るように研究をしようとしていたのだけれども、
それが終わる前にお金が貰える話が無くなっちゃったんだって。
だから研究は中止。そしてアールスリーは危ないから廃棄しようとしたのだけれども、強くて処分できなかったんだ。

そこで仕方がないから研究所ごと封印をして外に出られなくしたんだ。そして2カ月前に研究者の兄ちゃんたちはここを去っていった。

でもアールスリーを閉じ込めた研究所より手前にあるこの家の部分は住み心地が良いし危なくないから俺にくれたんだ。そして俺はもしここに人が来た時にアールスリーを外に出さないように、そして被害が及ばないように注意をしてあげる役割もお願いされた。
あとはもし、とても強い人が来たらアールスリーを倒してもらうようお願いして欲しいとも言われたな」

「うん?倒して欲しいの?」
不思議そうな顔で聞き返す湖張。
「そうだよ?だって危ないだろ?」
不思議そうな顔で答えるコボーニ。彼にとっては折角作った研究成果を廃棄するのが勿体ないという感覚は無いらしい。

「普通の研究者でしたら、失敗・・・いえ研究途中ですよね。いくらお金のニオイが無くなったとはいえ廃棄は躊躇うものです。でも危険性を考ると踏み切れるという姿勢なのですね。ここまでの設備を用意し、尚且つ一応の形までは作れているようなのに。本来でしたら他のスポンサーを探したり、それこそ違う場面に流用できないか模索するとは思うのですが・・・危ないから廃棄ですか。
倫理観が無いようで有る人たちなのかもしれませんね。プロファイリングが難しいです」

「それか知られてはいけない物だから廃棄とか?」
ラナナの考えに自分の思いついた事を意見してみる湖張。視線をゆっくりと移すラナナ。
「・・・なるほど。その線ですか。でもそれでしたら見ず知らずの人に廃棄をお願いするのでしょうか?」
「自分たちが出来なかったから苦肉の策で一か八かだったんじゃない?」
「確かに強くて処分が出来なかったと言っていましたね」
「まあ真実は分からないけれど、このままというワケにはいかなさそうだよね?」

判断を委ねる素振りを見せながらレドベージュに話しかける湖張。
「ふむ、まあ確認する事は決定ではあるな」
そう言うと、驚いた顔を見せるコボーニ。

「え!?アールスリーを倒すの!?メチャクチャ強いよ!?」
「うむ、放ってはおけん。我らとて弱くは無い。大丈夫であろう。
それに封印をしてここを去ったのは2カ月前なのであろう?いくらウッドゴーレムとはいえ無限に行動できる事は無い。何かしらのエネルギー源を供給しなくてはならぬ。
恐らくはもう動かなくなっているであろう」

冷静にレドベージュがそう言うと、首を横に振るコボーニ。

「いや、それは絶対にないよ?
だって研究所内にいる限りアールスリーは常にエネルギーを貰えているんだ」
「どういう事です?」
目を大きく開いて問いかけるラナナ。興味がある内容のようだ。

「研究所の中は実験場でもあって広く作られているんだ。
ここの家の奥に扉があって、中は山の中をくり抜いた広い空間で研究所になっているんだ。
そこから山の表面付近まで多くの装置が伸びていて、数多くの木々からエネルギーを吸収できる仕組みになっているんだ。

そして得たエネルギーは研究所内に降り注がれ、常にアールスリーへ供給し続ける。それこそ山の木々が全部枯れない限りは永遠と動けるんだ」

「何なんですかその無茶苦茶な設備は!?でもすごい発想ですし・・・いえ、むしろ動力問題の解決策になり得る凄い内容なのでは?」
「ふむ、ここの研究者達はかなり優秀な頭の持ち主であるようだな」
驚嘆のラナナの横で冷静にレドベージュが分析する。

「じゃあとりあえず覚悟を決めてその扉の奥とやらに入るしかないのかな?」
再度確認する湖張。するとレドベージュは頷く。
「うむ、そうするしかあるまい。すまぬが研究所まで案内してくれるか?」

レドベージュの要望を聞くと快く引き受けるコボーニ。
「良いよ!でも気を付けろよな!」
そう言うと早速家の奥に案内を始める。その後ろ姿を一行はゆっくりとついていった。

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