ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百五話【ピロペレの洞窟】

           

その後はデスピエロの襲撃は無く1時間程で目的地であるピロペレが保管されている洞窟の入り口に到着をした。
周囲は特に隠されている雰囲気は無かったのだが、ゴルベージュ曰くウンバボがいる修練の洞窟と同じく普通の人では見つけることが出来ないような作りにはなっているそうだ。

洞窟に入ると、これも修練の洞窟と同じように壁がうっすらと光っており、明かりが無くても先に進むことができる作りになっていた。通路の広さも修練の洞窟と同じくらいの広さで、決して広い幅ではない。
静まり返った空間なので足音が響いて聞こえる。また修練の洞窟とは違い肌寒さを感じた。そこでラナナを真似て外套を羽織り先に進む湖張。こういう時には便利だと感じる。

洞窟の中に入りしばらくすると、何故だか知らないが妙に張り詰めた空気を感じる。先ほどのデスピエロから感じた気配とは違う物であるのだが、妙な威圧感がある。
それはラナナも同じようで、いつもならばこういう場所に来ると目を輝かし心を躍らせる素振りを見せるのだが、今日は静かである。警戒しているような硬い表情のまま歩いていた。

「この洞窟は奥が深いの?」
レドベージュの隣に位置して質問をする湖張。
「いや、そんな事はない。目的の場所はもう目の前だ」
そう言って前方を指さすレドベージュ。すると薄暗かった通路の明かりの強さが急に増して、より遠くが見えるようになる。するとその先には大きな鉄製の扉がはっきりと視界に入って来た。

「あそこの中にピロペレが?」
「うむその通りだ」
そうやり取りをしている間に扉の前に到着する一行。
そしてゴルベージュは何も語らずに扉にそっと右手を添える。
するとゆっくりと重厚感のある扉は内側に開いていき、少しずつ中の様子が視界に入ってくる。

今までの通路とは違い、とても広い空間が用意されている。その広さは湖の王がいた広間と同じくらいであった。
周囲の壁は暗いながらも部分的にキラキラと輝いており、まるで星空の中にいるような雰囲気である。また部屋の中心部には階段があり、大きな祭壇のようになっていた。
そして、その最上部には白い体で、ヤギの様な大きな角を持った鎧の後姿が目に入る。
「あれがピロペレ?」
そう口には出すが、すぐに間違いだと気づく湖張。そしてゆっくりと覇王の団扇を右手に携える。あの姿、あの輪郭、観光で見た塔での記憶が蘇ってくる。

「キュベーグ!」
まるで威圧するかのように名前を呼ぶ、いや叫ぶゴルベージュ。
すると目の前の白い鎧は、ゆっくりと振り返り視線をこちら側に向けてくる。

「・・・あらあら、随分とお早い到着ね」
怖く、不気味な浅紅色の瞳がこちらに振り向くと、体がすくみそうになる。
目の前にいるのはウーゾ神の従者であるキュベーグ。
口調や声の質は落ち着きのある貴婦人を思わせる雰囲気ではあったが、その内に秘める底知れない力に威圧を感じる。また、体の部分的に描かれている紫のラインが不思議と恐怖を煽っている様にも感じ取れた。
塔で聞いたレドベージュより四倍強いという言葉がこのタイミングで頭に蘇ると、より一層の脅威を感じ取れてしまう。

「貴様、ここで何をしている?」
一歩前に出たゴルベージュがそう問いかけると、キュベーグは振り向いている状態から体を完全にこちら側に向ける。そして段差を宙に浮いたままゆっくりと滑るように三段下り、一定の距離を保って立ち止まる。
その姿に驚いた表情を見せる湖張とラナナ。
というのもキュベーグには足が無く、常に宙を浮いている状態であったからである。
確かに塔で見たキュベーグの像には足が無かったが、あれは演出と思っていたので意外であった。
更には腕も見当たらず、レドベージュ達とは違う雰囲気のリビングアーマーと感じる。

「何って・・・分かっているのでしょう?こんな所を訪れる用事なんて一つしかないじゃない?」
嘲笑う様に答えるキュベーグ。そして驚く事に大きな両肩の中からスッと細い筒状の腕が出てきて、肩をすくめる様な仕草を見せる。どうやら腕は普段は隠しており、必要ならば出てくるようだ。

「ピロペレをどうするつもりだと聞いている?」
負けないくらいの威圧を持って尋問をするゴルベージュ。しかしキュベーグはひょうひょうとしている。
「さあ・・・気まぐれかしら?」
そう話を茶化しながら視線を湖張に移すキュベーグ。そのタイミングで目が合うなり、今度はラナナの方に視線を向ける。そして三秒程そのまま見つめた後に、レドベージュに問いかけてくる。

「随分と可愛らしい女の子たちね。ひょっとして赤き聖者なの?」
「だとしたらどうする」
キュベーグの問いに簡単な答えを発するレドベージュ。

「そう、いつもは暑苦しい男連中ばかり引き連れていたのに、一体どうしたのかしら?」
「お主には関係ない事だ」
「この助平」
「戯れるな」
「フフ、冗談が通じないのね」

からかう事を楽しんでいるかのような雰囲気で会話をした後に、再びゆっくりと段差を下り始めるキュベーグ。
「本当はアナタ達が来る前に用事を済ませたかったけれど、お願いしていたデスピエロたちでは十分な時間稼ぎが出来なかったようね」
「時間稼ぎ・・・だと?」

キュベーグの言葉に反応をするゴルベージュ。
すると心なしか不敵な笑みを浮かべた様な雰囲気を出すキュベーグ。
「そうよ、意地悪してピロペレの隠し場所を変えちゃうのですもの。探すのに時間が掛かったわ。だから私が一番乗りで用事を済ませられるように昨日から時間稼ぎをするようお願いをしていたの。あと10分ほど頑張ってくれたら満点だったのに・・・惜しかったわね」

そう語りながら段差を下ってくるキュベーグ。そして腕を肩の鎧の中に再びしまう。
「でもやりたいことは出来たわ。合格点ね。
・・・というわけで私は帰るわ。道を開けて頂戴」

そう発すると同時に、隠していた手を再び出すキュベーグ。
だが、ただ手を出すのではなく、刀身が大きく湾曲し半円の輪郭を描いた様な剣であるショーテルを両手に持っていた。
どうやら巨大な肩の中に仕込んでいたのであろう。キュベーグはショーテルの二刀流で戦うスタイルのようだ。

「通すと思うか!?」
武器を出した途端に、光弾を放つゴルベージュ。
するとキュベーグは一気にゴルベージュに向かって飛び込み、放たれた光弾をギリギリの位置で交わしながら接近をし、右手のショーテルで斬りかかってくる。

右方向に小さく飛んで斬撃をかわすゴルベージュ。
そして左手でキュベーグに向かって再度光弾を放つ。
しかし手をかざしたタイミングでキュベーグは上空に飛び上がり光弾をかわすと、
急降下をしながら流れるように上から下へと叩き切る形でショーテルを振り下げる。

「させるか!」
両手で円形の小さな防御壁を作りキュベーグの斬撃を防ぐゴルベージュ。
硬い物同士がぶつかった様な音が鳴り響き、拮抗状態になる二人。
キュベーグは攻撃を防がれたままであったが、そのまま押し潰そうとし、ゴルベージュはそのまま押し返そうとしている。

「二人は下がっているのだ。手を出すでないぞ」
湖張とラナナにそう告げながら数歩前に出るレドベージュ。
「ちょっと待ってよ、私たちも!」
「ダメだ!そこで見ているのだ!!」

抑え込むように強めの口調でそう告げられると固まってしまう二人。その様子を視認するなりキュベーグに向かって飛び込むレドベージュ。

「キュベーグ!!」
横方向から名を叫びながら斬りかかるレドベージュ。するとゴルベージュとの押し合いをあっさりと止めて上空にふわりと飛び上がるキュベーグ。
そしてそのタイミングでゴルベージュはキュベーグに向かって光の玉を放つが、蝶が空を舞うように、余裕を感じさせながら優雅に攻撃をかわす。

「煩わしいやつ」
小声でそう呟くなり、再び魔法を放つために目の前に手をかざすゴルベージュ。
しかしその動作に割り込むかのように、キュベーグは左手のショーテルを右から左へ振り青白い光の横線を発生させると、それは高速でゴルベージュに向かって飛んでいく。

「いかん!」
魔法を放つ事を止め、咄嗟に後方に飛び上がるゴルベージュ。しかしその隙をキュベーグは逃すことなく、突進をして斬りかかる。

「させるか!」
横から激しく剣で突いて割り込むレドベージュ。しかしその動作は読まれていたのか、キュベーグは右手のショーテルでレドベージュを払う様に斬撃を仕掛ける。
咄嗟に剣で防ぐレドベージュ。直撃は防げたものの、思いの外に重い一撃だったようで弾き飛ばされて転倒させられる。

「レドベージュ!」
その様子に慌てて声を掛ける湖張。と、その時であった。
湖張の隣から物凄い速度で光の矢がキュベーグに向かって飛んでいく。
ラナナだ。何人ものデスピエロを平伏せた魔法をこのタイミングで放ったようだ。

しかしキュベーグの反応は完璧で、交差させた両手のショーテルで完全に防ぎきってしまう。

「・・・フフ、そう。中々やるじゃない」
キュベーグがラナナに向かって不敵な笑いを見せたと思うなり、今度はラナナに向かって高速で飛んでくるキュベーグ。

「いかん!」
その動作に慌てるレドベージュ。しかし止めることが間に合わず、キュベーグは一瞬にしてラナナの目の前まで到達してしまう。

至近距離で顔を近づけ見つめあう二人。
ほんの一瞬の出来事だったのだが、時間が止まったかの様な感覚に襲われる。

恐怖を感じる間もなく両目を大きく見開き固まるラナナ。一方キュベーグは更に不敵な雰囲気を出す。

「・・・可愛いわ、アナタ」
「え?」
「ラナナ!」

ラナナに攻撃を仕掛けられる前に団扇でキュベーグに切り込む湖張。
しかしその斬撃もあっさりとかわされてしまう。

そして一定の距離を空けられると、キュベーグは肩の中にショーテルをしまい、手ぶらの状態になったと思うと、ゴルベージュに話しかける。

「さーてと、そろそろ飽きたから帰ろうかしら。
・・・用事も済んだ事だし」
「素直に帰られると思っているのか?」

ゴルベージュの聞き返しに相も変わらぬ不敵な雰囲気のキュベーグ。
その中で祭壇の方に顔を向ける。

「ねえ、そろそろ起きてくれないかしら?」
キュベーグが呟く様に告げると、それがまるで合図になったかのように
祭壇の一番上の部分が強く光り始める。そして一瞬だけ光が更に強くなったと思うと、祭壇の頂上にはレドベージュと同サイズ位と思われるいくらいの白色で円筒状の物体が現れる。

両肩と思われる位置には細長い棒が三本ずつ束になって地面に到達する形で接続されている。どうやら足でもあり手でもあるような雰囲気だ。
部分的に青色のラインで模様が描かれており、今まで見た事が無い特殊な外観をしている。
頭と思われる部分は半球上になっており、赤く大きな目が一つだけついている。

「あれが・・・ピロペレ?」
小声で呟く湖張。

「やはりピロペレが狙いであったか?」
ゴルベージュがキュベーグに問いかける。
「そりゃそうでしょう?じゃないとこんな場所に用なんてないわ」
そう言葉を返すなり、出口の方に進むキュベーグ。

「みすみす逃がすとでも思ったのか?」
手をかざし魔法を放つ姿勢を取るゴルベージュ。しかしキュベーグは余裕の雰囲気を出している。

「あら、いいの?ピロペレを目覚めさせたのは私よ?だから私を攻撃したらどうなるのか、アナタなら分かるでしょう?」
その言葉を聞くなり、少しためらった後にかざした手をゆっくりと下げるゴルベージュ。

「怪我はないか?」
そのやり取り中に近づいてくるレドベージュ。ラナナの心配をすると小さく頷いて無言で彼女は答える。その直後にレドベージュに問いかける湖張。

「ねえ、何でゴルベージュ様は攻撃を止めたの?」
「ピロペレは目覚めさせた者を主と認定し、その者の為に力を使う。
その延長で、もし主に危機が迫ったらピロペレは敵に対して容赦のない攻撃を仕掛けるのだ」
「すると、ピロペレを起こしたキュベーグが今の主で、キュベーグを攻撃するとピロペレが暴れるという事?」
「うむ、その通りだ」

そう小声でやり取りをしている間に出口の前まで到達したキュベーグであったが、直ぐには出ずに一度立ち止まって振り返ると、ゴルベージュに向かって声を掛ける。

「・・・ごめんなさい、ピロペレは今起きたのではなくって、どうやら私たちが戦っていた時には半分だけ起きていたようよ。だからアナタ達の事を敵だと思って嫌いになったみたい。物凄い攻撃の意思が頭の中に伝わって来ているわ」
「なんだと!?」

その言葉に慌てた様子を見せるゴルベージュ。その間にキュベーグはピロペレをジッと見つめる。
「・・・ダメね。止めてくれなさそう。吹き飛んじゃうわね、ここ」
そう告げると、ピロペレはキューンキューンと奇妙な音を立て始める。

「あー環境破壊はしたくないのだけれども・・・まあ仕方ないわね。まあアナタならどうにかできるでしょう?後は頑張ってね」
そう言うなり地面に沈み始めるキュベーグ。

「え?ちょっと、これって逃げないといけないんじゃない!?」
慌てる様子を見せる湖張。と、その時であった。ゴルベージュが高速で湖張達に向かって飛んでくる。

「団扇を貸すのだ!」
「え?あ、はい!」
慌てながらも湖張は団扇を渡すと勢いよく受け取りピロペレに向かって一歩前に出るゴルベージュ。そして手に持っている団扇が一瞬だけ強い光に包まれたと思うと、
次に現した時には黄金の軍配に姿を変えていた。

「もう逃げるのは間に合わん!私の後ろから離れるな!」
そう言うなり軍配を目の前に浮かせ、自分自身も宙に浮きながら両手を広げると、
湖張達もふわりと体が宙に浮く。そして水色をした球体の防御壁を展開し4人を包み込むゴルベージュ。

「団扇が!?」
湖張が驚きを口にすると、レドベージュは湖張とラナナの両手を引いてしゃがませる。
「身をかがめ目を閉じるのだ!耳も塞げ!」

何が起こるのか分からなかったが、考える事もなく指示に従う二人。
そしてレドベージュは庇うような位置取りをし、二人の肩に手を掛け防御壁の中ではあったが、更に緑色の球体の防御壁で二人もろとも包み込む。

「来るぞ!」
ゴルベージュの声がした直後、ピロペレから巨大な白い光線が一行に向けて放たれると、
周囲は一瞬で真っ白に包まれる。
擬音では表現が出来ない、音として認識が出来ないような爆音が鳴り響き、体験したことが無いような激しい揺れが防御壁越しでも感じ取れる。

目を強く瞑っていたのだが強い光のせいで白い世界を感じ取る。また、天地がひっくり返ったような感覚を何度も繰り返し、現在はどのような状況なのかが全く分からない。まるで目隠しで空高くから放り出された様な感覚であった。

ただ、レドベージュの手が肩に触れていた事で、不思議と恐怖心は無かった。冷たいはずの金属の様な手ではあったが、不思議と温かさを感じ取れた気がした。

「死なせるものか・・・」
小声で呟くレドベージュ。爆音の中で確実に誰の耳にも届いてはいない言葉が防御壁のなかで小さく生まれていた。

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