ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第八十七話【早めの夕食タイム】
- 2021.05.06
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
「何か今日は色々あったよね。・・・流石に疲れたというか頭がついていかないかな」
町の食事処にてジュースを一口だけ飲み終えた後にそうぼやく湖張。
レドベージュ達と別れてからというもの、二人は特に買い物や観光をする事も無く、
少し早い時間ではあったが夕食を取る事にした。
とは言ってもしっかりとしたメニューではなく、飲み物と軽食といった軽い内容である。
特に空腹であるわけでも無かったのだが、フラフラと歩く気にもなれなかったので、とりあえず食事処で落ち着きたいと思ったからだ。
夕方前の早めの時間であったので食事処は空いており、席は好きな場所に座る事が出来た。
そこで二人は店の端の方にある二人掛けの小さなテーブル席を選び、向かい合って座っている。
そして湖張のぼやきにラナナは反応をする。
「そうですよね。修練場から戻って来てから、湖の王のところへ行きシーサーペントと戦って、
キュベーグが現れたと聞いたと思えば天の兵器の事を言われ、挙句の果てには天帝ゴルベージュ様の登場です。
盛りだくさんでしたよね」
「そっか、修練場を出発したのは今日の朝か。随分前に感じるよ」
「そうですよ。・・・そうですよね。それだけでも十分凄い経験だというのに本日の凄い事リストの中では順位的に下の方です。
個人的にはあの琥珀ですら大事件になりうるのですが、そんなのはランク外ですよ」
その話を聞くと、少し考えた後に、問いかける湖張。
「やっぱりあの琥珀・・・というかあの魚は凄く貴重なの?」
「そうですよ。詳しく解説しましょうか?」
ラナナの申し出に苦笑いを見せる湖張。そして軽く首を横に振る。
「いや、いいよ。私が気になっている部分は凄く貴重かどうかだからさ」
「と言いますと?」
不思議そうな顔を見せるラナナの視線を見ると、再び飲み物を口に運ぶ湖張。
そして話を再開させる。
「いやこの件なのだけれども、どうしても引っ掛かる所があるんだよね。
何でそんな貴重な琥珀を置いていったのかなって。
だってそうでしょう?宝を奪い取る事が出来ると予想が出来ただろうし、実際に出来たのに貴重な物をわざわざ用意して置いて行く?
話を聞く限りだとキュベーグもレドベージュと同じタイミングでこの地に降り立ったようだから
あの魚の事は知っているだろうし、あの琥珀が貴重な物だという事は知っているはずだよね?
だから貴重な物だとは知らずに置いて行ったという事は無いと思うんだよね」
「そうですね・・・こうとは考えられませんか?
騒ぎを起こしたくなかったのではないのでしょうか?
というのもキュベーグは天に歯向かった存在なのですよね?
なので目立った行動を取ると、天にばれてしまうので厄介です。
そこで高価な物を渡して事を穏便に済ませようとしたのではないでしょうか?
よく悪い人が悪さをする為に大量の資金を払って国には秘密で武具を揃える事があるじゃないですか?
それと同じように穏便に済ませたかったのではないのでしょうか?」
「あーそういうこと?」
「はい・・・とは言ったものの結局のところは交渉は決裂してしまい、
奪い取るという騒ぎになるような事をやっています。
何か違いそうですね」
「うん、何かしっくりこないね。そもそも何であの琥珀なんだろう?」
「そこも何か引っかかるのですか?
でも確かに、もし私だったら偽物を用意してすり替えるとか考えますね」
「あーすり替えか。確かにその手も取れるよね、きっと。
でもそれはやらなかった。むしろもの凄く価値がある物を持って行っているんだよね。
しかも観光の目玉の代わりになるくらい、いや今まで以上の価値がありそうな物を持って行っているんだよね?
何かまるで湖の王達が損をしないように配慮している感じがするよ」
「配慮・・・ですか?」
湖張の考えに不思議そうな顔を見せるラナナ。
「そう、確かに強奪はいけないよ?でもなんかさ、湖の王の事もしっかりと気にかけているようにも思えるんだよね。
実際のところ最初は交渉から入っているし、奪い取ってもしっかりと観光の代わりとなる品物を置いて行っているしで
極悪人じゃないような気もするんだよね」
「・・・そう言われると、キュベーグによる怪我人の話は出ませんでしたね」
「そもそもさ、キュベーグ・・・いや盲界って何なんだろう?」
「何・・・ですか?」
「レドベージュの話だとさ、元々は三人の神が天でこの地を上手く繁栄させるために頑張っていたけど、
凄く前にウーゾ神が反乱を起こして盲界という地底の世界に逃げ去ったという事だよね?」
「ええ、そう教わりました」
「何で反乱を起こしたのかな?」
「レドベージュの主のラリゴ神のやり方が気に入らなかったと言っていましたね」
「何のやり方なのかな?」
「そこはウーゾ神本人からは語られていないと言っていましたね」
「うん、でもやっぱり何かしらの理由はあったのだろうね」
「そうでしょうね。レドベージュにもう一度、聞いてみますか?
ひょっとしたら何か心当たりがあるかもしれません」
ラナナがそう言うと、少し考える湖張。
「・・・そうだね。でも教えてくれるかな?」
「と言いますと?」
「いや、もしさ、もしラリゴ神に非がある内容を知っていた場合、
包み隠さず教えてくれるのかなって。
だってキュベーグ側のウーゾ神ってラリゴ神のやり方が気に入らなかったんだよね?
それってウーゾ神にとって嫌な部分があったということでしょう?
内容次第ではウーゾ神は悪くないという判断も出来るんじゃないかな?
そしてもしウーゾ神が悪くないような内容だと、ラリゴ神側・・・つまりレドベージュにとっても
都合が悪い事実だから、もし真実を知っていたとしても教えてくれないんじゃないかな?」
湖張の考えを聞くなり驚いたような表情で大きな目を開き固まるラナナ。
しかしその直後、湖張は首を横に振る。
「とは言ったものの、そうは思えないよね。
レドベージュはそんな人じゃない。そう思うし信じたいよ」
その言葉に頷くラナナ。
「はい、私もそう思います。今まで一緒に旅をしていて信頼できる存在と感じていました。
レドベージュは決して悪い存在ではありません。
絶対に嘘は言っていないと思います。
なので純粋に反乱の理由は知らないだけですよ。
それに元々は創世主様という存在からこの惑星の繁栄を託され、神のサポートをする為に
降り立ったのです。悪い事を考えるはずがありません」
そのラナナの考えを聞くと固まる湖張。そして頭をよぎった事を口に出す。
「・・・それってさ、キュベーグにも同じ事が言えるんじゃない?」
「え?」
「だってレドベージュもキュベーグも惑星を繁栄させる為に神をサポートする事を命じられているんだよね?
すると行動理念の根本は同じだろうから、悪い事を考える事は無いのじゃない?」
口に拳を当てて考えるラナナ。
「確かにその考えはありえますね。でも実際に反乱は起きています。
そうなると大きな矛盾が発生しているようにも思えます」
「・・・やっぱりウーゾ神がカギを握っているという事だよね?
結局レドベージュもキュベーグも神様の従者なのだから、本人がどう思おうと
神様が方針を決めたらそれに従うしかないだろうし」
「・・・そうなりますね」
そこで飲み物を口に含むラナナ。
「そう言えばゴルベージュ様はどうなのでしょうか?」
「どうって?」
「いえ、何か知っている可能性があるのではないのかなと思ったのですよ」
その言葉を聞くと、少し考える湖張。そして腕を組み難しい顔をする。
「うーん、確かに何か知っているかもしれないけど・・・聞ける?」
「聞けませんね」
「何だろう、レドベージュはユルイから遠慮なしに接しているけど、
ゴルベージュ様は何となく畏れ多くて気軽に接しられない雰囲気があるよね」
「はい、天帝の名は伊達じゃありませんね」
「でも実際のところはどうなのだろう?レドベージュみたいにとはいかなくても
案外と気さくに接しても平気なのかな?」
「できます?」
「・・・様子を見ながらかな」
「そうですね。どちらにせよ直ぐには答えが得られなさそうですね」
そこまで話すと、再び飲み物を口にする湖張。そして何かを決めたかのように一つ頷く。
「よし、じゃあ微妙に感じている距離を縮めるところから始めようか。
そして仲良くなったら気になる所を聞いてみよう」
「そうですね。ただ行動に移す前にレドベージュから、ゴルベージュ様について情報を集めておきましょう。
それによってどのくらい踏み込んで良いのかの判断材料になります」
「そうだね。そうしよう。そうしたら話のネタを考えとかないとなあ」
「そうですね。何か淡々としているところがありますから、会話が弾まなさそうです」
「だよね・・・まあ力まず気楽にやるかな」
そう言うなり、ラナナにも見えるようにメニューを広げる湖張。
そして「追加で何か頼もう」と提案すると、二人は食べられそうな物を探し始める。
「湖張姉さまはピザはお好きです?」
「うん、嫌いじゃないよ」
「じゃあこのミックスピザにしましょう。
・・・そうだ、ピザですよ!これなら話が弾むかも!?」
「うん?」
突然不思議な事を言い出すラナナに疑問形の湖張。
すると誤魔化すように苦笑いを見せるラナナ。
「ああ、ごめんなさい。分からないですよね。
ピザの形を頭で思い描いた時、団扇の形と似てるなと思ったのですよ。そこから思いついたのです。
湖張姉さまの団扇って元々はゴルベージュ様の物だったのですよね?
その話題なら色々と話せるのではないですか?」
その意見を聞くと、腕を組み小刻みに頷く湖張。
「あーなるほどね。確かに良い切り口だよね。
ピザから団扇につなげるのは意外だったけれど、悪くないね。
むしろ団扇について話したい事があるかも」
「いけそうです?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
その答えを聞くと「どういたしまして」と簡単に答えるラナナ。
そして手を大きく上げて店員を呼び、ピザの注文をしはじめた。
<NEXT→>
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第八十八話【歩きながらのコミュニケーション】
<←PREV>
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第八十六話【旅人の正体】
-
前の記事
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第八十六話【旅人の正体】 2021.05.02
-
次の記事
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第八十八話【歩きながらのコミュニケーション】 2021.05.13