ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第八十三話【陽気な旅人再び】

           

一夜明けた洞窟の入り口付近。
そこには湖張たちと、見送るウンバボの姿があった。

昨夜は今まで二人に好評だった料理を多く作り、
最後の別れを惜しむかのような豪勢な晩食で持て成したウンバボ。
そして今も小さな袋を手渡し始める。

「これウンバボが作ったクッキー。
お前たち美味しく食べてくれた。だから持っていけ」
「ありがとうございます」
笑顔で受け取るラナナ。一方で湖張は少し残念そうな顔をする。
「あーしまった。このクッキーの作り方を教わればよかった。
技の練習で頭がいっぱいだったよ」

そう伝えるとジッと湖張を見つめるウンバボ。
「そうしたら次来た時に教える。困った時は、困ってなくてもいつでも来て良い。
ウンバボ、美味しい料理作る」
そう伝えられると、やさしい笑顔を見せる湖張。
「そっか、ありがとう。約束だよ」
「分かった。約束」
そう言うと軽く微笑むウンバボ。基本的に無表情なのだが最後の最後でそんな顔をするので
少し驚かされる。
最初は変な存在だと思ってはいたが、日々の生活のサポートや修練を手伝ってもらった事で
今となっては妙な信頼を感じていた。それ故に少し寂しさもある。

「では世話になったなウンバボ。達者でな」
「レドベージュ様、どうかご無事で」
最後にレドベージュがそう伝えると、力強い様子でウンバボは無事を祈る。
少し別れを惜しみながら、一行はその場を後にした。

「何だかんだで長く居座っちゃったね」
「修練場という割には居心地は良かったですしね」
「そうだねー」
「それに温泉だったこともポイント高かったですよ。
肌がツルツルです」
「あー、確かに」
そう話しながら移動する湖張とラナナ。
二人の様子をにこやかにレドベージュは後ろから見ている。

「そういえばさ、たまにレドベージュはどこか行っていたようだけれども
何処に行っていたの?」
後ろを振り向いて質問をする湖張。
「ああ、あれは例の特別な部屋の掃除をしていたのだ。
暫く誰も入っていなかったしウンバボも入る事が出来ない部屋だからな。
ついでにやっておこうと思ったのだ」
その話を聞くなり苦い顔を見せるラナナ。

「・・・部屋の中を見たかった」
ぼそりと訴えるラナナ。困った様子のレドベージュ。
「むう、とは言ったものの流石にそれは色々と問題があってな・・・。
ただあれだぞ?対して特徴のある部屋ではなく、面白くは無いぞ?
変わったものと言えば祭壇くらいか?」
「それが見たかったです!」
「むう・・・ではこうしよう。今夜、宿で部屋の絵を描いてやろう
それで我慢してくれぬか?」

「絵?」
不思議な事を言うので聞き返す湖張。するとレドベージュは立ち止まり土の地面に木の棒で絵を描き始める。

「うむ、意外かもしれぬが我は絵が得意でな」
そう言いながら大き目に花の絵を地面に描き始める。
地面に細かい表現は難しそうではあったが、それでも陰影などの工夫をして
見事な作品があっという間に仕上がっていった。

「え?うそ!?ここ地面だよ?こんなに上手に描けるものなの!?」
その出来栄えに驚く湖張。その反応に満足げなレドベージュ。
「これならば部屋の中を知る事ができるであろう?」
これでどうだというような雰囲気でラナナに視線を移すレドベージュ。
しかしラナナの表情は冷めたものであった。

「いや、花ではなくって部屋を描けば良かったのでは?」
「むう、流石に地面に詳細は難しいぞ。それは宿でな」
「分かりました。約束ですよ!」
「分かった分かった」
そんな感じでゆっくりと町に戻る一行。
出発した時間も遅かったので町に到着をしたのは昼前であった。

一か月ぶりなので妙に懐かしく感じる町の景色。
相も変わらず観光が盛んなのかと思い周囲を見渡すが、少し寂しい感じがする。
確かに今は夏場ではないのでこの場の観光シーズンではない事が理由なのかもしれないが、
それでも前に来た時は人はもっと多かった。
妙な違和感を感じる。

「何だろう?妙に静かじゃない?」
「そうですよね、何か変です」
周囲を見渡す湖張とラナナ。と、その時であった。
後ろから人が近づいて来る気配を感じる。
その方向に振り返ると、前に話し掛けてきた陽気な旅人の姿がそこにあった。

「・・・まだいたんですか?」
いきなり臨戦態勢のラナナ。冷めた表情でボソリとつぶやく。
しかし旅人は彼女の雰囲気には屈せず気さくに話しかけてくる。

「はっはー、そんな顔しないでおくれよ。それより知っているかい?
ここ最近、湖の王たちが何故か知らないが姿を見せなくなってきたんだ」
「湖の王?」
湖の王という聞いたことが無い存在に首を傾げる湖張。
するとラナナは解説を始める。

「湖の王というのはここの湖に住み着く魔物です。
とは言ったものの、知能は高く人間に友好的な存在でこの町の住民とは共存関係にあります。
牛の様な頭にクマの様な体をしており、手は人のように物をつかみやすい形をしています。
一見したら地上がテリトリーの様な姿をしていますが、泳ぎも得意で水中に長時間潜っていられます。
王というだけあって、配下ともいえる同種族の魔物が数十体いますが、統率はとれています。
配下に関しても人を助ける事はあっても危害を加えることはありません。

ここの湖は人だけではなく様々な動物や魔物も寄って来て水資源を利用します。
なのでトラブルが起きそうにはなりますが、湖の王は人と魔物の間に立って、
トラブルにならない様に立ち振る舞っています。その結果、大きな争いもなく平和な湖となり
観光地として発展できました。
また人々は湖の王に感謝をし、食べ物や道具、時には金銀財宝などを渡してお互いに利益を得ています。
ある意味人と魔物の理想的な共存関係を構築している場所でもあるのです」

「そうだったんだ。相変わらず魔物に関して詳しいね」
「いえ、魔物は私の専門外ですよ」
ラナナの解説が終わると、レドベージュは旅人に向かって話しかける。
「それで、湖の王が姿を見せなくなったとはどういうことなのだ?」

「いやいや、それがさっぱりでね。
いつもなら見回りの為に住処から湖の王やその仲間たちが頻繁に出入りをして
見回りをしたり、それこそ人と交流をしたりしているのだけれども、二週間前から全く姿を見せなくなってね。
おかげで魔物が人のテリトリーに入り込むようになっちゃって、人々は安心して観光が出来なくなったんだ」
「だからこんなに静かなんだ」

周囲を見渡す湖張。すると旅人はニヤッとして話しかけてくる。
「そう、気になるだろう?」
「まあ・・・放ってはおけないよね?」
確認するようにレドベージュに視線を移す湖張。すると彼は頷く。
「まあ、確かめる必要はあるな」

レドベージュがそう言うと、ラナナは質問をしてくる。
「とは言ったものの、どうするのです?」
「うむ、とりあえず湖の王の下へ行ってみるか」
「場所はご存じなのです?」
「ああ、大体は分かるさ。むしろここの住人ならばほとんどが知っているであろう。
ラナナは知らないのか?」
「私はここの住人でもなければ、先にも言いました通り魔物は専門外ですよ」
「そうか。まあとりあえず向かってみるか」
「その前に宿屋を取っておかない?荷物は置いて行こうよ」

湖の王の調査が決まったところで、まずは宿屋に向かう事を提案する湖張。
それに賛同するラナナ。
「そうですね、ひょっとしたら濡れる可能性もありますし荷物は置いていきましょう。
あと、外套も着ていきませんか?防水の魔法もかかっている事ですし」
その提案に指を差して賛同する湖張。
「あ、それ良いね」
その反応を受け、流れるようにレドベージュに視線を移すラナナ。
「レッド君も着るのですよ?」
「む?」
一瞬固まるレドベージュ。
「良いから良いから!」
湖張も全員で外套を着る案は賛成のようで、提案を押し通す様に立ち回る。
「むう」
何となくの流れで押し通されたレドベージュ。

「よし、じゃあ任せたよ」
少し話の外にいた旅人はそう言うと、方向転換をしてその場から立ち去って行った。

「何か不思議な人だね」
彼の後姿を見ながらそう呟く湖張。
「確かに目的が見えませんね。旅人と思ってはいましたが
一か月前もここにいましたし、ここの住人なのでしょうか?」

「まあ良いか。とりあえず宿屋に行こう」
少し考えた後に、そう結論を出した湖張。
確かに今は旅人がどうというよりも湖の王の方が気がかりではある。
一行はその場から移動し、宿屋を目指す事にした。

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