ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十九話【出立前の挨拶】

           

町に戻り様子を確認すると、更なるイーサラスの襲来も無ければ町民がパニックを起こしている様子もない。
つまりはハルザートが懸念していた事は一切ない様子であった。
なので湖張達は特に行く場所もないので診療所に戻る事にした。

ラナナは再び宿に戻り槍の調査を再開しようかとも考えたのだが、今日は止めることにした。
というのも、数人のメーサ教の騎士が街の中を行き来しており、何らかの理由で槍を所有している事がバレる事を懸念したからである。
そこで今は殆ど患者が訪れなくなってはいたが、湖張とレドベージュと共に診療所で店番をする事にしていた。

とはいったものの、本当に誰も訪れる事がなかったので湖張とラナナは他愛ない会話をしてゆったりと過ごしており、レドベージュは何をするわけでもなく置物のようにジッと待機をしていた。

そんなこんなで時間は過ぎていき、夕暮れ時に差し掛かった時の事であった。
診療所の扉がゆっくりと開く。
誰か具合の悪くなった町民が訪れて来たのかと思い扉に視線を移すと、そこにはハルザートの姿があった。

「うん?どうかした?」
表情を硬くするラナナに気づくことも無く、何気なく尋ねる湖張。
するとハルザートは歩きながら話しかけてくる。

「ああ、色々と世話になったからな。出立前に挨拶をしに来た」
「出立?今から!?」
「ああ」

突然の事で驚きの表情を見せる湖張に静かにうなずいて答えるハルザート。
「だってもう夕暮れ時だよ?暗くなるよ?」
「ああ、そうだな」
「そうだなじゃないでしょ。危ないよ?」
「そうかもな。だがこれも仕事だ」
「仕事?」
「そうだ、実は隣の町でも魔物が出ていてな。しかもその魔物は夜行性なのだ。
だから今から行けば夜も深まるので丁度出くわせるかもしれない」
その考えを聞くと呆れ顔の湖張。

「随分と無茶するね」
「そうだな、だが私がゆっくりしている間に人が襲われるのは避けたい。
うかうか休んでいる暇はないな」
その言葉に腕を組み少し怒り気味な顔を見せる湖張。

「何言っているの、まあ言いたいことは分かるけどさ、
そんな事やっていると倒れるよ?」
湖張の目をジッと見つめるハルザート。
「心配してくれているのか?」

そう言われると腰に手を当てて一つため息をつく湖張。
「いや、心配というかそう言うのじゃなくって、純粋に危ないって言っているの。
人の事を守るのは良いけどさ、自分の体調も守らないと本末転倒だよ?
自分が倒れたら今後アナタに守って貰えるはずだった人達が守って貰えなくなるんだからね?」
ハルザートに一歩近づき窘める湖張。
すると彼はハッとした顔を一瞬見せるが、すぐさま普段通りの冷静な表情に戻る。

「・・・確かに湖張の言う事も正しいな。
だが今日は多めに見てくれ。やはりジッとはしては居られないのだ。
以後気を付ける」
そう伝えられると妙に調子が狂ってしまう湖張。そして頭を掻き答える。
「以後気を付けるって・・・まるで私の許可がいるみたいじゃない。
まあ良いけどさ。とにかく気を付けなさいよ」
そう伝えると小さく笑うハルザート。その表情が気に食わなかったのか目を細めるラナナ。
しかしそんな視線など気にすることも無くハルザートは湖張に話しかける。

「さて、実はここに来たのはもう一つ伝えたいことがあったからだ。
もう少しだけ良いか?」
「伝えたい事?」
不思議そうな表情を見せる湖張。
「ああ、実は明日の昼前くらいにはラガース王国の兵士たちがこの町に到着する見込みらしい」
「王国の兵士が?」
「ああ、ようやく支援物資と周辺の警戒の為にやってくるようだ」
「まあ今更感はあるよね」
湖張の言葉に頷くハルザート。

「ああ、遅いな。これでは助かるものも助からない」
「まあ・・・ね」
腕を組んで湖張が同意をするとハルザートはジッと湖張を見つめた後に更に話しかける。

「それでだ、湖張達も早々にこの町から立ち去った方が良い」
「え?何で?」
疑問と驚きを合わせた表情で問いかける湖張。
するとハルザートはレッド君に視線を移す。

「最近、魔物の動きが活発化していると言っただろう?
当然それはこの地を統治しているラガース王国でも感知しており
魔物に対して敏感になっているのだ。
そして王国ではこの騒動の原因も探ってはいるようなのだが、
どうやら人の手が関わっているのではないかという疑いを持ち調査をしているらしい」

「え!?誰かが引き起こしている騒動だというの?」
少し大きめの声で反応をする湖張。レッド君もその言葉が気になったようで
ジッとハルザートを見つめる。そんな中、ハルザートは首を横に振る。

「いや、その可能性も考慮しながら調査をしている段階との事だ。
もちろん原因は無く、自然とそうなっているだけという考えもあるようだ。
とにかくだ、人の手を疑っている王国の兵士たちがリビングアーマーのようなものを
連れて歩いていたら変な嫌疑をかけてきかねないだろう?
いくらそれがパペットだと言ってもリビングアーマーと言われればそれまでだ。
つまらない事でゴタゴタするのは嫌だろう?」

「なるほど、その忠告をしに来てくれたということだね?」
うなずくハルザート。
「ああ、そういう事だ。だから早めにこの町から立ち去った方が良い。
とは言っても今からだと暗くなるから夜が明けて早朝の内に出た方が良いだろうな」

その言葉を聞くと、小さく噴き出す湖張。
「ちょっと、今から出発するアナタがそれを言う?」
小さく笑うハルザート。
「フッ、確かにおかしいな。だが先ほども伝えた通り、兵士たちの到着は
明日の昼前だ。今日はゆっくり休んでから出かけても問題ないだろう」
「そっか。まあそうだね」

納得をした素振りを湖張が見せると、ハルザートは一瞬だけ小さな笑みを見せる。

「では私は行くとしよう。また機会が有ったらよろしく頼む」
「うん、バイバイ」
再び小さな笑みを見せるハルザート。そして振り返り扉に向かう。

「あ、待ってハルザート」
扉に近づいたところで急に声を掛ける湖張。
それに反応して振り返るハルザート。

「えっと・・・ありがとうね」
笑顔で礼を言う湖張。するとハルザートは柔らかく穏やかな表情を見せる。
「ああ、気を付けてな」
そう告げた後に彼は部屋を後にした。

10秒程の沈黙が流れる。
そしてハルザートの気配が完全に消えたところで湖張はレドベージュとラナナに話しかける。

「と、いう事だけれども、どうしよっか?」
視線を扉から二人が入る位置にまで戻す湖張。
するとそこには何かを考えている様子のレドベージュと、物凄く詰まらなさそうな表情のラナナがいた。

「まーたそんな顔して」
呆れ顔の湖張。しかしラナナは態度を改める事はせず、今後の事を話し始める。

「正直あの人はキザでいけ好きませんが、言っている事には一理あります。
王国の兵士に目を付けられるのも面白くはないので、夜が明けたら出発しましょう」
その意見に同意を見せるレドベージュ。

「うむ、それが良かろう。
今はあまり事を大きくはしたくないからな。
それにもう治療が必要な者もおるまいて。問題なかろう」
「分かった。ゴルベージュ様も同意してくれるよね?」
二人の意見を聞いた後にゴルベージュの事を気に掛ける湖張。
するとレドベージュは首を縦に振る。

「うむ、断る理由はないであろう。
そもそも我々はピロペレの下に急ぎ目で向かっていたのだ。
だというのに二泊もする事になったからな。朝一番で出発で良かろう」
「まあ確かにそうだよね。じゃあ今日は早く寝て明日に備えよう」
「それが良いですね。そう言えば今日は宿屋のお風呂を使わせてもらえるらしいですよ。
後で入りましょう」
「あーそれ、助かるわ」

ラナナから風呂に入れるという少し嬉しい情報を仕入れることができたので、小さく喜ぶ湖張。
その笑顔につられたのか、ラナナの不貞腐れた雰囲気が綺麗に消えていった。

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