ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十七話【迫るイーサラス】

           

メーサ教の騎士に連れられて町の外に出た湖張達。方角は南側。天気は快晴になっていた。
問題のイーサラスは500m程先におり、全速ではないにせよ、早めの歩行速度でこちらに向かってきている。

「てっきり町のそばに来ていると思ったけど、まだ距離があるね」
湖張がそう言うと、メーサ教の騎士が反応をする。
「ええ、望遠鏡で周囲を確認していたら発見をしましたからね。最接近前に知らせる事は出来ましたよ」
片手サイズの望遠鏡を湖張に見せながら説明をする騎士。するとハルザートはその望遠鏡に手をかける。

「すまない、貸してもらえるか?」
「ええ、どうぞ」
そうやり取りをするなり、望遠鏡を覗き込むハルザート。そしてすぐさま望遠鏡を返す。

「あれはもう危険な状態だ。すっかり興奮状態のようだな」
「そんなに直ぐ分かるものなの?」
湖張が尋ねると、頷くハルザート。

「ああ、角をこちらに向けている。あれは興奮状態で向かってくる相手を崩す構えだ」
「戦うの?」
「ああ、こうなるとそうせざるを得ない」
そう言うなり、抜剣するハルザート。そして数歩前進した後に騎士に伝える。
「お前は町に入り、町民がこちらに見学に来ないようにしてくれ。万が一でも巻き込んでしまったら一大事だ」
「分かりました」
そう言うなり町の中に走って戻る騎士。その様子を確認後、ハルザートに近づく湖張。

「ごめん、ちょっとだけ待ってて」
そう言うなり今度はレッド君を町の門の前まで手を引いて連れていく湖張。
そして小声でレドベージュに話しかける。

「ここで待っていて。私とあの人とで対処してみる。もし抜かれたらその時はお願い」
湖張の提案を聞くと、同じように小声で返すレドベージュ。
「二人だけで大丈夫か?」
「大丈夫だよ、あの人が中々やるのは知っているでしょう?
それに今この場でこちらの手の内を全て見せたくは無いんだ。
だからラナナとゴルベージュ様に声を掛けずに来たの。
力を見せるのは私だけで良いよ。
今のところ悪い人には思えないけど、念のためにね」

そう伝えると頷くレドベージュ。納得をしてくれたようだ。
そしてハルザートの下に駆け寄る湖張。

「ごめん、お待たせ。さて、行こうか」
「分かった。無理はするなよ?」
「分かってるって」
「・・・行くぞ」

そう合図すると、走り出すハルザート。そして湖張も走り出す。
普段ならば、湖張が先陣を切って突っ込むのだが、ハルザートがどのように仕掛けるのか予想が出来なかったので、
一歩下がって出方を見る事にした。

目の前から迫ってきているイーサラスは4m程の大きさを持つ四足歩行の魔物で、額についている太く短い円錐形の角が特徴的である。
毛は生えておらず、甲羅のように頑丈な黄土色の皮膚で覆われている。
重心が低く、全体的にがっしりとした体形をしており、転倒させる事は難しい。
本来イーサラスの討伐には入念な準備と多くの人員を要するとされているが
そんな事は気にしないかのように真正面から立ち向かっていく湖張達。
お互いが走って近づいているので、間合いに入るのまでの時間は然程掛からなかった。

「来るぞ!」
ハルザートが声を上げると、先頭を走っていたイーサラスがそのまま突進を仕掛けてくる。
それを右に飛び攻撃をかわすハルザート。魔物は彼の横を通過する。
一方3m程後ろに位置取っていた湖張は左の方に身を避ける動作に入る。

と、その時であった。湖張が横に飛んだタイミングでハルザートはイーサラスの側面から目にも止まらぬ速さで下から上へと斬りつける。
頑丈とされる皮膚であったが、その話は嘘であるかのように深く傷をつけるハルザート。
魔物はその衝撃により突進が止まり、前足を天高く振り上げる。

その瞬間を見逃さない湖張。
彼女は左側面から覇王の団扇を使い上から下へ強く斬りつける。
しかし反対側にハルザートがいるので巻き込むことを避けるために真っ二つにはせず、深手を負わす程度にとどめた。
結果、地面に倒れ込むイーサラス。そこにハルザートは追い打ちを欠けるかのように首元に剣を突き刺し仕留める。

まずは一頭を難なく仕留めるが、休む間もなく後続のイーサラスがハルザート目掛けて突進を仕掛けてくる。
その時彼は一頭目に突き刺した剣を抜いている最中であった。

「させない!」
そう発しながらイーサラスの顔面を横から飛び蹴りを決める湖張。
よろめく魔物。そのタイミングで大き目に声を掛けるハルザート。

「避けろ!」
「避けてる!」
ハルザートの掛け声が届くのと同時に湖張は魔法で浮き上がり上空に退避をしていた。
すぐさまハルザートが攻撃を仕掛けてくると思ったので、飛び蹴りの動作後に着地をせず、そのまま浮き上がる事にしていた。

「上出来だ!」
そう言いながら突きを仕掛けるハルザート。彼の剣が水色の光に包まれた思うと、光が巨大な剣を形どり倍くらいの大きさになる。
その強化された剣をイーサラスの突進に真正面からぶつけると、魔物の持つ頑丈そうな角が砕け散り、更には全身から血を噴き出し倒れ込む。

「ここで仕留める!」
上空で合図をするように大き目の声を放ちつつ左手をかざす湖張。手のひらに小さな光が集まる。
「サンダーボルト!!」
彼女の声と共に強大な雷が魔物に降り注ぐ。強い衝撃が発生したのか巨体が小さく跳ね上がると、その後はピクリとも動かなくなった。

「次だ!」
その様を確認するなり、残りのイーサラス3頭に向かい走り出すハルザート。
湖張もすぐさま着地して後を追う
イーサラスの配置は2頭が併走して近くまで来ており、残りの1頭は10数メートル後ろを走って近づいてきている。
そこでハルザートは2頭の間に飛び込み、左側のイーサラスの横腹を下から切り上げ、そのまま円を描く様に剣を振り、右側にいるイーサラスめがけて上から斬り下げる。
よろめく2頭の魔物。そして前方に滑り込むようにして倒れる。

「私は左!」
大きな声を上げて目標を伝えながら飛び上がる湖張。
そして倒れた片方のイーサラス目掛け覇王の団扇で上から豪快に斬りつける。
斬りつける先には地面しかなかったので、遠慮せずに攻撃を仕掛けた。
すると魔物は地面ごと縦に切り裂かれる。

「右は任せろ!」
そう言うなり、もう片方のイーサラスに向かって再び巨大な水色の剣を突き立てるハルザート。
すると倒れていた巨体は数メートル跳ね飛ばされる。そして動かなくなった。

「残りは一頭」
そう呟きながらハルザートに目を移す湖張。彼は剣を強く握りしめ、再び前進をし始める。どうやら最後の一頭を受け持つ様子だ。

(ここは任せちゃって、じっくりと技を見ておこう。でもお膳立てくらいはしていおこうかな)
今後の事を考え、今のうちにハルザートの手の内を研究しておこうと考えた湖張は、自ら進んでイーサラスに立ち向かう事を止める。
そして動く相手より静止した相手の方がより見やすいと考え、足止めを試みる事にする。

そうこうしている間に、残り数メートルにまで迫ってきたイーサラス。
ハルザートが魔物に辿り着く前に、連続して覇王拳を二発放つ湖張。
すると彼女の放った光弾は左右の前足に当たり、突進の勢いをそのままで転がるように倒れる。
舞い上がる砂埃。視界が悪くなるがハルザートは怯まずに巨大な水色の剣を振り上げて狙いを定める。

「悪く思うな」
そう告げるなり、上から下へと剣を振り下げるハルザート。

こうして5頭のイーサラスはあっという間に退治されてしまった。

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