ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第六十九話【修練の洞窟】
- 2021.01.24
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
一夜が開けて軽く朝食を済ませた後に町を出発した一行。目指す場所は修練場である。
レドベージュの言った通り町からは然程遠い場所ではなく、西の方に一時間もしない場所にあった。
山の中の修練場と聞いていたので、誰も到達できないような崖に囲まれた開けた場所を想像していたのだが、
辿り着いた場所は、ひっそりとした洞窟の前であった。
しかもその道のりは決して険しくはなく、案外と簡単にたどり着いてしまった。
むしろこの様に簡単にたどり着いてしまうのであれば、多くの人に見つかっていそうである。
しかしレドベージュの話によると、この場所はカモフラージュの魔法が掛かっており、
この場所に修練場があるという認識を持っているものであれば道は開けて見えるが、
そうでなければ踏み込むのを躊躇するくらい霧や多くの木々に囲まれた場所に見えるらしい。
洞窟の中に入ると、本来ならば涼しく感じそうではあるのだが、不思議と暖かく感じる。
また本来ならば真っ暗であるはずなのだが、以前立ち寄った塔の壁と同じように壁がうっすらと光っており、問題なく周囲が見える。
この部分から、ここは天の関連施設なのだと改めて感じさせられた。
洞窟をさらに進むと、より強く光っている部屋の様な場所が見えてくる。
今まで歩いていた洞窟の通路は夕暮れ時の薄暗い廊下だとすると、
目の前の部屋は灯りが燈された温かい家に感じられる。
そこに何かあるのかもしれない。湖張はそう思いながら広間に入る。
するとそこには、鍛えられた筋肉でガッチリとした体つきで袖の無い茶色い皮製の服を着た男が立っていた。
顔や腕の至る所に施された白いボディペイントが褐色の肌に映えている。
頭には鳥の羽飾りをつけており、独特な服装だと感じられた。
「レドベージュ様、ここにキタ。とても珍しい」
「うむ、久しいな」
レドベージュの姿に気が付くなり、片言で話しかけてくる男。レドベージュの様子を見ると顔見知りだという事は分かる。
「面識があるのですか?」
ラナナもそのように感じていたようでレドベージュに質問をすると、彼は目の前の男の紹介を始めた。
「うむ、この者はウンバボといって、ここの管理人だ。困ったことがあったら相談してみると良い。
また、変に気を使う必要は無いぞ。変に距離を取られると寂しがるタイプだ」
「そうなの?」
「うむ、我と接するようにすれば良い。少し変わり者ではあるが信頼は置ける者だ」
レドベージュに紹介されると湖張とラナナを数秒ずつジッと見たウンバボ。その後にレドベージュを見て話しかける。
「ウンバボ、この娘たちをしばらくここで保護すれば良いのデスか?」
「保護?」
突然妙な事をウンバボが言い出したので、思わず大き目の声を出してレドベージュに確認を取るように顔を向ける湖張。
するとレドベージュは首を横に振ってウンバボに説明をし始める。
「いや、そう言うわけでは無い。今回はこの二人の修練の為にここに来たのだ」
その言葉を聞くと少し驚いた顔を見せるウンバボ。
「修練デスか?・・・こんなうら若き乙女たちが本当デスか?」
「まあそう感じるのも無理は無いかもしれぬな。だが問題ないぞ。この二人は赤き聖者だ。腕前は保証しよう」
落ち着いた口調でレドベージュがそう伝えると、ウンバボは再び湖張とラナナを見る。そして一つ頷くと、再びレドベージュに視線を戻す。
「分かった、この二人は豪傑という事デスね」
「豪傑って・・・」
言葉の表現に思わず苦笑いの湖張。どうやらウンバボの語彙は独特の様子だ。あまり気にしてはいけないと感じる。
「施設を案内する。まずはそれで良いか?」
レドベージュに向けていた視線を変えて、急に湖張とラナナに話しかけてくるウンバボ。
突然の事だったので、一瞬固まった後にゆっくりと頷く湖張。
その素振りを確認すると、ウンバボは早々と部屋を出ていってしまったので、少々慌てつつも彼を追う湖張とラナナ。
施設の更に奥の方に黙々と進むウンバボ。通路は相変わらず薄暗い感じではあったが、不思議と不気味さはない。
そうこうしているうちに分かれ道で突然彼は立ち止まった。
「ここで右に行くと修練場。左は住む場所」
「住む場所?」
「要するに宿泊スペースだ」
湖張の疑問を解消するかのように隣でレドベージュがさりげなく説明をする。
やはりウンバボの言う事はくせがある。
「とりあえず左に行く」
そう言うなり足早に再び進み始めるウンバボ。
10m程進むと、右手側に分かれる通路を曲がり、そのすぐ先にある扉を開け始める。
すると扉の奥からは自然な光が差し込み始め、完全に扉が開くと目の前には洞窟の中だというのに太陽の光が差し込んだ、運動場の様な空間が広がっていた。
どうやらこの場所は吹き抜けており空が見えている。自然にできた岩の壁に囲まれたその空間は神々しい太陽の光が差し込んでいる事により、とても神秘的に感じられる。
「これぞ天の施設といったところでしょうか」
ぽつりとそう呟くラナナ。彼女もこの光景に何かを感じ取ったらしい。そのくらい美しい光景であった。
「ここは日の光が恋しくなった時に来る場所。運動も出来る。ドカっと広いからドバっと走れ」
この場所について簡単に解説をするウンバボ。そして更に伝えたいことがあるのか、広場の端にある花壇の様な場所に移動する。
「ここは自由に使っていい。でもこの花壇は荒らさない。ウンバボ、花、植えてる」
彼の説明を聞いた後に花壇を見てみると、桃色の小さな可愛らしい花がたくさん植えられていた。
見た目に反して可愛い花が好きな様子だ。
「じゃあ次に行く」
伝えたいことは以上だったようで、そそくさとその場から移動するウンバボ。また慌ただしくも彼の後をついていく事になる。
扉に入り、元来た分かれ道に戻り更に奥に進む一行。
すると今度は右側面に扉がある事に気が付く。そして当然のようにウンバボはそこで立ち止まり、扉を勢いよく開ける。
「次はここ」
そう言うなり扉の中に入ると、そこは壁こそは岩肌が見える洞窟の壁なのだが、床には木の板が敷き詰められていて清潔にされている広めの部屋であった。
また扉の無い木製の棚が壁際にいくつか並べられている。
「ここは土足厳禁。入り口で靴を脱ぐ」
部屋の入口付近には靴を脱ぐ場所なのか、木の板が敷かれていない場所がある。そこで湖張とラナナは靴を脱いで部屋に上がると、
レドベージュは魔法で浮いて後をついてくる。
「我は靴と言う概念がないからな。これで許してくれ」
レドベージュは生きている鎧であり、足自体が靴みたいな物なので脱ぐことは出来ないが、床を汚さないための配慮で浮いているようだ。
その様子にウンバボは一つ頷いて了承すると、部屋の奥にある扉の前に移動をしゆっくりと開く。
すると目の前には一度に50人は入れそうなくらい広い岩風呂が現れた。
「え!?お風呂!?広すぎない!?」
「ここは温泉。少し熱め。でも疲れはとれる」
扉をくぐり風呂を見ながら驚く湖張に淡々と説明をするウンバボ。一方ラナナは天井を見上げている。
「どうしたの?」
彼女の視線の先が気になったのか、そう聞きながら上を見上げる湖張。
すると吹き抜けて空が見えると言うわけでは無いのだが、この空間は天井が高い事に気が付く。
「いえ、洞窟内に温泉があるのに空気がこもっていないじゃないですか?湯気はどうなっているのか気になったのですよ」
「あーそういえば特に溜まっている感じはしないよね?」
ラナナの着眼点に彼女らしさを感じていると、レドベージュは天井を指さして話しかけてくる。
「ここからでは見えないが、上の方に排気口があってな、空気がこもらないようになっているのだ」
「なるほど」
レドベージュの解説に納得をするラナナ。そのタイミングでウンバボは部屋に戻り再び説明を始める。
「ここは自由に使って良い。広いからドカって入ってドバっと洗え。温泉だからいつでも熱い。だからいつでも入って良い」
「いつでも良いんだ」
湖張が嬉しそうにそう聞き返すと、ウンバボは首を縦に振る。
「ダメだ」
「どっちなの!?」
首を縦に振ったというのに否定するウンバボ。それに思わず突っ込みを入れる湖張。
するとウンバボは慌てた様子で脱衣所にある棚をあさり始める。
「あった!」
そう言うなり割と大き目な木で出来た竜の置物を持ってくる。見た目はとても厳つい。
「ウンバボ綺麗好き。だから毎日温泉入る。でもお前たち年頃の娘。鉢合わせたら危険。
だからお前たち入る時、この竜を扉の前に置く。そうしたらウンバボ入らない」
「あー」
要するにバッティングの事故を防ぐための目印らしい。その発案に納得をする湖張とラナナ。
その様子を見ると、今度は可愛らしい大きな三毛猫のぬいぐるみを抱えてくるウンバボ。
「逆にこの猫が扉の前にある時、ウンバボが風呂入ってる。お前たち入るな」
「え!?私たちが竜でアナタが猫なの!?」
「ウンバボ、猫が好き」
幼い女の子が大きなぬいぐるみを両手で抱えて喜んでいるような素振りを、目の前の筋肉隆々な男が見せている。
何とも形容しがたい惨状が目の前に展開されているので言葉を失ってしまう湖張とラナナ。
「まあ良かろう。次に行くぞ」
とりあえずどうしようもなくなってきた気がしたレドベージュがそう促すと、ウンバボはぬいぐるみをそっと置いて部屋を出る。
そして再び奥に進むと、今度は6人用くらいの大きさである木製のテーブル6卓が並ぶ部屋に入っていった。
部屋の広さは大きなテーブルが並んでいる事もあり、割と広い。部屋の奥にはカウンターがあり更に奥には調理場の様な物も見える。
「ここは食堂。朝昼晩とウンバボ用意する。ドカっと盛るからトバっと食べろ」
「ドカっと盛るって・・・そんなに食べられないと思うよ」
ウンバボの発言に少し困り顔を見せる湖張。しかしウンバボは不思議そうな顔を見せる。
「豪傑ならばたくさん食べなければ強くなれない。だからたくさん食べる」
「これこれ、二人は体格の大きな男ではないのだ。そこまで多くは食べないぞ。無理を言うでない」
このままだと想像するのも恐ろしい程の料理を用意しそうな雰囲気なので止めに入るレドベージュ。
するとウンバボは素直にいう事を聞いたのか、軽く頷く。
「分かった。ではたくさん盛らない。苦手な物があるなら先に言う。ウンバボそれも作らない。
食べたいものが有ったら先に言う。気が向いたらウンバボそれ作る」
「分かった」
ウンバボの話を了承すると、次に彼は調理場に入り、何かかごに入った物を持ってきた。
「小腹が減った時は食堂に置いておくからこのかごの中のものを食べる」
そう言いながらかごを手渡すウンバボ。中身を見てみると、ハート形のクッキーが沢山入っていた。
「えっと・・・これは?」
「ウンバボが焼いた」
「・・・何でこの形なの?」
「ウンバボ可愛いの好き」
「・・・」
思わず固まってしまう湖張。しかしそんな事はお構いなしでウンバボはクッキーを手に取り湖張の口元に近づける。
「味は保証する。食べてみろ」
そう言われると一瞬考えたのちに食べてみる湖張。
「・・・く、美味しい」
「何で悔しそうな顔をしているのですか?」
一口食べるなり、甘みが口に広がってきた後に旨味が徐々にやってくる。
正直なところ、高級菓子店で取り扱っているクッキーと比べても遜色ない仕上がりである。
人を見かけで判断はしてはいけないと分かってはいるのだが、
見るからに厳つい筋肉隆々の男が、繊細な味を持つクッキーを焼いているというギャップに何故か悔しくなる。
とりあえず同じような気持ちを味合わせたいので不思議そうに質問してきたラナナにも食べさせると、彼女は幸せそうな顔を見せた。
「ああ、何か湖張姉さまの言わんとする事は分かりますが、これは美味しいですよお」
「今日はクッキーだが、明日は違うかもしれない。何作るかはいつも気まぐれ」
二人が美味しい評価をしたので少しご機嫌な顔のウンバボ。これは今後も期待できそうだと思うと少し楽しみである。
「じゃあ次行く」
そう思っている間にウンバボはまたしても急に次の部屋に案内をし始める。
今度は然程遠くない位置にある小さな扉の前に立ったウンバボ。
そしてゆっくりと扉を開けると、そこはいくつかの仕切りで分けられた部屋だった。
今までの部屋は明るくされていたが、ここは薄暗いままである。
また入り口付近の壁からは細い石管が飛び出ており、そこからは湧き水が流れ落ちている。
どうやらここで手を洗えるようだ。
「ここは・・・お手洗い?」
雰囲気的にそう感じとった湖張はそう呟くと、ウンバボは頷く。
「そうだ、ここはトイレだ。いつも綺麗にしている。だからドカっと入ってドバっと出せ」
「・・・」
露骨な表現をしたウンバボに無言で冷たい視線を向ける湖張とラナナ。するとウンバボはゆっくりとレドベージュに顔を向けた後、体が小刻みに震えだす。
「レドベージュ様!これ言ったら今までの豪傑たちみんな笑った!でもこの娘たち笑わない!!何故!!」
突然大声で半べそをかきながら訴えるウンバボ。どうやら笑いを取ろうとしたが滑ったので悲しいらしい。
その様子を見ると更にドン引きをしてしまう二人。思わずこの惨状にため息をつくレドベージュ。
「まあ二人は年頃の娘でもあるのだ。人前ではそのような話題で無邪気にはしゃぎはせんよ」
「うおー!美少女たちに嫌われた!!」
レドベージュの解説を聞くなり壁に向かって叫ぶウンバボ。
トイレの中なので、その声は良く響く。
(大丈夫なのかな、この人・・・)
心の中で不安になる湖張。もうこの時点でここに修練の為にやって来たという事はすっかり忘れてしまっている程に不安であった。
「さて、次へ行くぞ」
今までの事はまるでなかったかのように、いきなり振り返り無表情で案内を再開するウンバボ。
この調子の狂わせ方は天才的である。
そんなこんなでトイレを出ると、今度は両側にいくつもの扉が並ぶ場所に辿り着いた。
そこでウンバボは振り返り説明をし始める。
「ここから先は泊まる部屋。ドカっと入ってドバっと休め。
だけど一つだけ約束。しっかり休む場所だから全力でくつろぐため、靴は脱いでから入る。
靴を脱いだ方がスッキリする。部屋は木の床。綺麗に使う」
そう説明すると、三人を見渡すウンバボ。そして話しを再開する。
「どうする?部屋はいっぱいある。今は他に誰もいない。一人ずつ部屋を分けるか?」
「や、一人は寂しいので皆で同じ部屋が良いです」
ウンバボの問いかけに間髪入れずに右手をかざして発言するラナナ。
「それで良いか?」
ラナナの発言を受けて、ゆっくりと湖張に顔を向けて確認を取るウンバボ。
「え?・・・ああ、まあ今までも皆で同じ部屋だったし私は構わないけど・・・良いよね?」
そう答えながらレドベージュに確認を取る湖張。
すると彼は一つうなずいてから答える。
「うむ、三人とも同じ部屋で構わぬぞ」
と、その時であった。レドベージュの言葉を聞くなりウンバボは少し困った顔を見せて不思議そうに問いかけてくる。
「特別な部屋レドベージュ様は入れる。でも同じ部屋ですか?」
「特別な部屋?」
ウンバボが気がかりな事を言ったので湖張は復唱して確認を取ると、レドベージュは彼女を一度を見た後に正面を向いて回答をする。
「ここは天の施設だからな。それなりに位が高い者が訪れた時に利用できる部屋があるのだ。
神聖とされており、基本的に入る事は許されないとされている」
「でもレドベージュ様は天将。入るの大丈夫」
そう言ってウンバボが確認を取るが、首を横に振るレドベージュ。
「いや、我はそんな偉い存在ではないさ。我も同じ部屋にしてもらおう」
「でも・・・」
レドベージュの反応に困った顔を見せるウンバボ。そして続けて説得してくる。
「ウンバボとしてはそれでも構わない。でもイガータ知ったらきっとうるさい」
(イガータ?)
以前どこかで聞いた名前が出てきた気がしたので、確認を取るかのようにラナナの方を向くと、
彼女は目を大きくしてレドベージュを見つめている。
どうやらラナナもその名に反応しているようだ。
一方レドベージュはため息をつくかのような素振りを見せた後にウンバボに話しかける。
「あの者は位や仕来りについて拘りが強いからな。まあここに来ることは無かろうから知られはせんよ。
もし知られて文句を言ってきた時は我が無理を言ったと伝えよう」
「・・・わかりました。ではせめて広い部屋に案内する」
レドベージュの気持ちを察したのか、これ以上は特別な部屋を勧めないウンバボ。
それがどのような部屋なのか少し気にはなったが、深くは聞けそうにはない雰囲気を感じ取ったので何も聞かない事にした湖張。
ラナナも同じような事を感じ取ったようで、すごく聞きたそうな雰囲気はあるが、頑張って堪えている雰囲気がある。
「ここの部屋だ」
そう言ってゆっくりと扉を開けると、綺麗に掃除された6人部屋に案内をされる。
中央には大き目の丸テーブルが設置されており、壁際にはベッドが等間隔に並べられている。
洞窟内の部屋とは思えない程、空気も淀んでいない。ここもどこかしらに通気口があるのかもしれない。
日の光は流石に入らないが、魔法が効いているのか心地よい穏やかな暖かさを感じられる。
靴を脱いで部屋に入ると、直ぐに横になってくつろぎたくなるような雰囲気であった。
「随分と快適な部屋だね」
湖張が戸惑いながらそう呟くと、レドベージュは隣に立って話しかけてくる。
「戸惑っているようだが、どうかしたのか?」
「あ、いや・・・修練の為にここへ来たのに、こんなに快適な環境に身を置いて大丈夫かなって」
「ふむ、そういう事か。
確かに厳しい環境に身を置く事によって心身ともに鍛えられると考えがちだが、我はそうは思わぬ。
鍛えるときはしっかり鍛えて、休む時はしっかり休む。それが一番効率が良いのだ。
例えば元気な状態と傷つき疲れが溜まった状態とでは出せる実力は雲泥の差があるであろう?
根性論も結構だが、修練を積む時は常に最高のコンディションで臨む方が効率が良いのだ。
ここの環境の良さはそういう観点もあるのだよ」
「そっか・・・じゃあせめてだらけない様に気を付けるよ」
そう言って苦笑いを見せる湖張。
「ではこれからウンバボ、修練場の準備してくる。1時間後に修練場の場所くる。
それまでこの部屋で休憩してる」
そう言い残して部屋を後にするウンバボ。
扉が閉まり足音が遠のくと、ベッドの傍らに荷物を置いたラナナが深い溜息をついて話しかけてくる。
「はあ、とても変わった方でしたね」
「あはは、そうだね。確かに今までには会った事がないタイプだよ」
苦笑いで湖張がそう答えると、レドベージュは彼をフォローするかのような事を話し始める。
「まあそうかもしれぬが、あの者も来客を持て成そうと色々と考えているのだ。
たまに来る者を楽しませたいらしい。基本的には数百年の間、一人でここに住んでいるからな」
「数百年!?」
会話の中にとてつもない単語を組み込んできたので、思わず大き目の声で反応する湖張とラナナ。
綺麗に同じ言葉を同じタイミングで声に出す二人。
「え?どういう事?何歳なのあの人!?」
驚いた表情で問いかけてくる湖張。するとレドベージュは少し考えた後に、落ち着いた雰囲気で答える。
「ああ、そうか。説明していなかったな。実はあの者は天使なのだ」
「天使い!?」
また同じタイミングで言葉が合わさる二人。
それは言葉というような落ち着いたものではなく、むしろ叫びに近いものであった。
「天使って、え!?嘘!?え?ええ!?そうだ、翼!天使の翼が無かったよ!?」
半分混乱しながらレドベージュにそう訴えかけると彼は淡々と回答をする。
「天使と言っても二人が思っている天使は想像の産物だ。実際の天使とは差異があるさ。
それに天使には確かに翼はあるが二人が思い描いている様なものではないし、常に出しているわけでも無い」
「え?天使の翼はあるにはあるのですか?」
レドベージュの回答に反応するラナナ。
「うむ、あるにはあるぞ。まあとにかくだ。
我だって神話の中では高身長の赤髪で美形の男性という容姿なのだ。神話の姿は当てにならんて」
「あー・・・」
その話を聞くなりレドベージュをジッと見つめる湖張。
「今、何か残念な目で我を見ていなかったか?」
「考えすぎだよ」
「そうか」
「あの、一つ教えてもらっても良いですか?」
湖張とレドベージュがやり取りをしていところでラナナが話しかけてくる。
「うむ?どうした?」
「さっきイガータという名前が出てきましたが、あれって前に教えていただいた大天使の名前ですよね?」
「あ、そうだ!大天使だ!」
ラナナの話を聞いてイガータについて塔で説明を受けた事を思い出した湖張。
「うむ、その通りだ」
「やっぱり・・・まとめ役の大天使から注意されるのが嫌でウンバボさんはあんな心配をしていたという事ですね?」
ラナナの質問に対して頷くレドベージュ。
「さっきも聞いていた通り、ここの施設には特別な部屋があってな。
本来であれば我はそこの部屋に滞在するべきなのだが、どうも特別扱いは嫌いでな。なので二人と同じ部屋が良いのだが、
イガータはそういう形式を遵守する傾向が強くてな。要するに頭が固いのだ。
ウンバボもイガータに文句を言われたくないのであろう。少し可哀そうな事をしたかもしれぬな」
「そうだったんだ」
「うむ。まあイガータも忙しい身だ。ここの事など気にもしないだろうて。
さて、ウンバボが指定した時間までまだしばらくある。少し休んでおくのだ。
ここの修練は過酷だぞ」
「過酷なの?」
何かその言葉に引っ掛かった湖張。思わず聞き返してしまう。
「・・・まあやってみてからのお楽しみだな」
そう言ってはぐらかすレドベージュ。
その様子を見るなり、少し不安になって湖張とラナナはお互いの目を合わせるのであった。
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