ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十六話【診療所での再会】
- 2021.07.04
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
「はい、もう大丈夫ですよ。だけど我慢は駄目ですからね?」
左足の痛みを訴える男性を魔法で治療した湖張。
目覚めてから数時間が経過しており、現在はレドベージュと共に診療所にて治療を再開している。
一方ラナナは用意してもらった宿屋の一室を借りて、早速槍の解析を始めていた。
またゴルベージュは周囲の調査を行っている。
診療所には時折治療をしてもらうために人が訪れては来るのだが、
昨日の内に殆どが治療を受けていたので、本日は正直なところ暇な状態である。
ただ、日が明けてみると時間差で痛みが現れた者や、今まで我慢していた者がいたりと
全員が癒されているわけでは無かったので本日も滞在をした事は正解であったようだ。
「ラナナは何か分かったかな?」
部屋にレドベージュと二人きりになったところで、話しかける湖張。
「さあ、どうだろうな。だがまだ始めたばかりだ。
直ぐには答えは出せないであろうな」
「そうだよね」
そう言うと何かを思い出したのか、湖張は立ち上がる。
「そういえばさ、まだメーサ教の騎士は目が覚めないのかな?」
この診療所には複数の部屋があり、建物の奥には入院が出来るスペースがある。
そこの一室に現在、メーサ教の騎士が眠ってはいるのだが、まだ意識が戻らないままであった。
傷口は塞がってはいるものの、体力の低下は癒えていない様子だ。
「そうだな。できれば今日あたりには起きて話を聞きたいところなのだが、難しいかもしれないな」
期待していないかのような素振りで返すレドベージュ。
と、その時であった。
ゆっくりと部屋の扉が開く。また治療を受けに誰かが訪ねてきたと思い、席に戻ろうとする湖張。
しかし部屋に入って来た人物の姿を見た途端、思わずその場で立ち止まってしまった。
「やはりお前たちだったか。まさかここで再び会う事になるとはな」
目の前に現れたのはメーサ教の騎士であるハルザートだった。
余りにも意外な来客であったので一瞬固まってしまう。
「え?何でアナタが?」
驚きながら質問をする湖張。それにゆっくりと近づきながら答えるハルザート。
「昨夜、この町が魔物に襲われ深刻な状況に陥ったという知らせを受けてな。
ただ、魔物自体は旅人に退治されたとも聞いたのだが、
特徴を聞くと心当たりがあったのでまさかとは思ったが」
そこまで話すと湖張の目の前で立ち止まるハルザート。
「怪我はないようだな、水芭蕉湖張」
「まあね。ところで何用?」
何かを探るような雰囲気で問いかける湖張。するとハルザートは体を逸らしながら部屋を見渡す。
「メーサ教の騎士がここで治療を受けていると聞いたのだが、何処にいるか分かるか?」
「よく知っているね」
昨日、この町にはメーサ教の騎士は一人しかいなかったと町長からは聞いていたので、何故この町に魔物が現れたのか、
そして何故ここに倒れた騎士がいるのかを知っている事に疑問を持つ湖張。
どのような回答をするのか試すような話し方をする。
するとハルザートは表情を変えずに答える。
「ああ、この町の信者が隣町まで伝えに来てくれてな。
そこから我らにも話が伝わったのだ」
(そうか、メーサ教は騎士だけじゃないんだった。この町でも布教活動をしていたんだっけ)
ハルザートの話を聞くと、顔には出さないがハッとした湖張。
今まではメーサ教は騎士だと思い込んでいたが、一般市民の信者がいる事は当然である。
その者が情報を伝えるという事は大いにあり得る事だ。
なのでこれからはメーサ教に対して行動を取る時は騎士の目だけではなく
周囲にいる一般市民の目も気にしないといけないと心の中で決める湖張。
と、その時であった。ハルザートは急に頭を下げ始めた。その様子に驚き戸惑う湖張。
「ちょっと、急にどうしたのよ!?」
慌てる湖張。するとハルザートは姿勢を戻し話始める。
「魔物を倒してくれて助かった。また仲間の騎士も助けてくれたのだろう?礼を言うのは当然だ」
「いや、それはあの状況だったらそうするでしょう?」
「だからと言って、誰にでも出来ることではないだろう?
本来ならば私が駆けつけて対処するべきだったのだが、間に合うわけもなかった。
この町を救ってくれた事、平和を守ってくれた事に感謝をしている」
「何でアナタがそこまで感謝をするの?」
素朴な疑問を投げかける湖張。
「私は人々を脅かすものと戦う。それが仕事であり、心に決めた行動理念だ。
何としてでも人々を脅威から守る。そう決めている。
そんな中で私の手が届かないところで町を守ってくれたのだ。感謝したくもなる」
(この人・・・悪い人ではない?)
真面目な顔をして言葉を伝えてくるハルザートを見ると、
不思議と悪人ではないように感じてくる湖張。いくらメーサ教が怪しいとはいえ、ハルザート自身はまともなのではとさえ思えてくる。
(もう少し情報が必要だな)
しかしやはりまだ信じるのは早いとも感じる事も事実。さらに情報を引き出して本心を探る必要があると考える。
「ところで、私の仲間はこの診療所で世話になっていると思うのだが知らないか?」
再び話を元に戻すハルザート。どうするべきか一瞬迷い、思わずレドベージュに視線を向けると、縦に頷く合図を見せてくる。
どうやら教えても良いという事だろう。
「廊下を出て一番奥の部屋で寝ているよ」
傷は癒したけど、まだ体力が戻っていないのか目覚めないようだよ」
「君が・・・いや、湖張が癒してくれたのか?」
「そうだよ」
「そうか、すまないな」
「どういたしまして」
そう簡単にやり取りをすると、ハルザートは入り口に一度視線を移してから、湖張に話してくる。
「仲間を連れて帰りたい。問題ないな?」
その話を聞くと少し驚いた表情を見せる湖張。
「え?だから目が覚めていないんだって」
「それは平気だ。馬車を用意している。寝かせたまま帰る予定だ」
「え・・・でも」
本来ならば騎士が目覚めてから話を聞きたいところではあったので、戸惑う湖張。
しかしもっともらしい断る理由が咄嗟に思いつかず、言葉を出せずにいる。
と、その時であった。扉に三回のノックがあったと思うと、青い鎧を着たメーサ教の騎士が姿を現す。
「ハルザート様、町長と話をつけて支援物資の受け渡しを開始しました」
「そうか、ご苦労。手際よく頼む」
「支援物資?」
騎士の言葉に疑問を持つ湖張。思わず横から聞き返すと、ハルザートは彼女に視線を移す。
「ああ、水に食料、医療品や衣類に毛布といった防寒具を持てるだけ持ってきた」
「なんでそんなことを!?」
「町が壊されたのだ、必要だろう?」
湖張の質問に淡々と答えるハルザート。だが湖張は納得がまだいかない。
「必要って・・・そりゃそうだけど支援物資もタダじゃないでしょう?
それなのに気前よく提供できるものなの?」
「そうだな、個人ではそうだろう。だが私たちはメーサ教という組織として活動をしている。
どこかしらから集められるのだ。
教会でも孤児たちを引き取り育てているだろう?それと同じようなものだ」
その話を聞くと少し考える湖張。
「・・・なるほどね、そういう事か。
でもさ、魔物退治もそうだけど、こういうことは国が行うことじゃないの?」
彼女の意見を聞くとハルザートは一瞬だけ難しい顔をするが、すぐに涼しい顔に戻す。
そして腕を組みながら話をする。
「とは言ったものの、まだ国の支援は届いてはいないだろう?
この町を統治しているラガース王国は決して悪い体制ではないのだが、対応が遅い。
様々なしがらみがあるのか、すぐに援助を派遣できないのだろう。速度が遅い。これでは助かるものも助からない。
なので私たちのようなしがらみのない組織が必要になるのだ」
(確かに一理あるかもしれないな)
そう思うと直ぐには言葉を返す事が出来なかった湖張。
そこで会話が止まると感じるとハルザートは入ってきた騎士に話しかける。
「廊下を出て一番奥の部屋に仲間が寝ている。丁重に運び出すのだ」
「分かりました」
そう言うなりキビキビと部屋を出る騎士。
そして扉が閉まるとハルザートは何かを思うような素振りを見せた後、湖張に話しかけてくる。
「最近、この周辺では大型の魔物が頻繁に目撃されている。
中には人を襲う事もあるようだ。この前のロダックもそれだ」
突然魔物の情報を伝えてくるので、面を食らう湖張。
「え・・・?あ、ああ、どうしたの急に?」
不思議そうに質問をすると、表情を変えずに答えるハルザート。
「・・・旅をしているのだろう?気をつけると良い」
「ああ、そういう事か。ありがとう」
妙に調子を崩してくるハルザートとのやり取りに戸惑いつつある湖張。
と、その時であった。レドベージュがハルザートに近づき始める。
「その魔物の話、詳しく聞かせてもらえるか?」
突然話しかけてくるリビングアーマーに、流石のハルザートも驚いた表情を見せる。
「このリビングアーマー、喋るのか?」
目を大きく開いたまま湖張に質問を投げかける。
今までは無表情が多かったので、その様子が少しおかしく思い小さい笑みを見せて答える。
「それはリビングアーマーの技術を使って仕上げたからくり人形でパペットと言うの。
名前はレッド君。そして私はレッド君の運用試験の為に旅をしているんだよ。
そしてレッド君だけど、ある程度の事は考えて話したりするんだ」
「すごい技術だな」
感心しながらレドベージュを見つめるハルザート。
その視線に対して何も動じずに答えを待つレドベージュ。
「・・・すまない、それで魔物の話だな?」
落ち着いたのか、話を戻すハルザート。相手はからくり人形と聞いても普通の人間と同じような接し方をする。
「原因は不明なのだが、魔物の動きが活発化しているのだ。
先程は大型の魔物を目撃と言ったが、小型の魔物の動きも多い。
本来ならば生活するテリトリーを決めて、外へは移動しないような魔物は多い。
だから無意識のうちに人間との住みわけが出来てはいたのだ。
しかし最近では魔物が行動範囲を広げる傾向が増えてきたように感じる。
その結果、魔物が人里に入り込み人を襲うというケースをよく見かけるようになった」
「そんな事が?・・・そういえばグレルフの群が町に近づいて退治した事もあったね」
湖張は小さく驚いた表情を見せながら独り言のようにつぶやく。それに反応をするハルザート。
「グレルフの群を退治したのか?」
「え?ああ、まあね」
「・・・そうか」
「あ、お礼はもういいからね?」
何かまた礼を言われそうな雰囲気を感じ取ったので、先手を打つ湖張。
すると小さく笑うハルザート。
「フッ・・・そうか」
そして再びレッド君に視線を移し話始める。
「それと気になる所がある。魔物なのだが妙に好戦的なのだ」
「ふむ、どういう事だ?」
「例えば魔物といっても人を見つけるや否や襲ってくるわけでは無いだろう?
警戒はするものの、こちらから何もしなければ、そのまま過ぎ去る事も珍しくはない。
だが最近はとにかく人を見るなり襲ってくる。
人だけではない、家畜などの動物も襲われているようだ」
「狂暴化しているという事?」
湖張が質問を投げかかると、ハルザートは少し考える様子を見せる。
「・・・どうかな。確かにそうなのかもしれないが、違う気もする」
「どういう事だ?」
今度はレドベージュが問いかける。視線を彼に移すハルザート。
「いや、魔物の言う事など分からないから感覚の話にはなるが、
身を守るために必死で戦っている雰囲気を感じる時がある」
「どういう事?」
湖張が難しい顔で聞き返すと、ハルザートは首を横に振る。
「何となくだ。あまり気にしないでくれ」
上手く伝わらなかったので言って損をした様な雰囲気を見せるハルザート。
その様子をジッと見つめた後に、湖張は聞きたい事を聞けるタイミングだと感じる。
「そっか。まあ何となくそう感じる時ってあるよね。
そういえばさ、昨日も町に来ていたのだけれども
最近、皮膚が硬い小さい竜みたいな魔物が多いよね?
あれって今までに見た事が無いのだけれども、何か知っている?」
何食わぬ顔でメーサ教が絡んでいると考えられる魔物について問いかける湖張。
するとハルザートは腕を組んで頷く。
「ああ、あれか。知っているぞ。
始めて湖張と出会った時も、あの魔物と戦っていたのであろう?」
「そうだよ。そしてメーサ教の騎士達は何故か簡単に倒す事が出来ていた」
ジッとハルザートを見つめる湖張。
ちょっとした表情や仕草から何かを得られるかもしれないと考えたからだ。
しかしハルザートは相も変わらず冷静な雰囲気で答える。
「実はメーサ教では現在、あの魔物についての対策を重点的に行っている。
ここ最近、突如として姿を現し始めた謎の魔物なのだが、
知っての通り皮膚が尋常じゃないくらいに硬い。
だが教団が作った槍を使えば簡単に倒せる事が分かった。
そこで我らが倒しづらい魔物の対処をする事に力を注いでいるのだ」
「あの教王に啓示があって作ったという槍?」
「そうだ」
「啓示って本当にあるの?」
疑う様な眼差しで問いかける湖張。
それに小さく笑うハルザート。
「フッ、まあそう疑いの心は持つだろうな。
正直なところ、どうやって作ったのかは私も分からない。
ただ、迷惑な魔物を簡単に退治できる槍が使える。
私にとってはそれだけで十分だ」
「そんなもんなの?」
「そうだ、さっきも言っただろう、私は人々を脅かすものと戦う事が仕事であり、行動理念だと。
それさえできれば問題ない」
ハルザートの言葉と様子を見ると、少し違和感を感じる湖張。
それをストレートに問いかけてみる。
「ねえ、何かアナタって他のメーサ教の人と違う。
今まで会ったメーサ教の人達って何かと勧誘してきたり信仰心の塊みたいな人ばかりだったのに
アナタは何て言うのかな・・・ガツガツしていないというのかな?
実際に私を勧誘してこないし、何か違うよ」
そう言われると、小さな苦笑いを見せるハルザート。
「ああ、そう見えるだろうな。まあ私は戦闘を主としているので
信者を増やす仕事は受け持っていないし、求められていないというのが理由だろうな。
更には多くの信者を集めた者には位が上がっていくという仕組みがある。
なので高みを目指すために躍起になる者も少なくはない。ただ私はあまりそれに興味が無くてな。
それに信仰は自由だ。無理強いはしたくない。
ただ、信者が増えてくると強要はしていないが援助も増えてな。
それが今回の支援物資に繋がるという事もある。そう考えると私も人を増やす事をやらないといけないな」
(やっぱりこの人、悪い人じゃないんじゃないかな?)
ここまで話すと、やはりそのような気がしてくる湖張。すると少しだけ警戒心が解けた気がする。
そして何気ない笑顔で言葉を伝える。
「じゃあ頑張らないとね」
不思議とそう言葉が出てしまった湖張。信者を増やす事を頑張れと伝える事に違和感を覚えたのはそのすぐ後の事だった。
(あーダメダメ、気を許しちゃダメだ。でも警戒心を解くためには悪くはない発言か。・・・だからまあ良いか)
頭の中で意識の調整をする湖張。その一方で彼女の頭の中など知る由もないハルザートは彼女の言葉を聞くなり首を横に振る。
「いや、私は人と話すのが得意ではないのだ。中々上手くはできないな」
「そう?今、話しているとそんな風には思えなかったけど?」
気を取り直して何気ない素振りで伝える湖張の言葉を聞くと彼女の目を見つめるハルザート。
「そうか?・・・そうだな、何故だろうな。何故だか湖張は話しやすいな」
「そうなの?」
「そうさ」
「ふーん」
ハルザートの発言に不思議そうな顔を見せる湖張。
そこで会話が止まりそうになる。
と、その時であった。勢いよく扉が開き、慌てた様子のメーサ教の騎士が入ってくる。
「失礼します!緊急事態です!」
「どうした?」
「5頭のイーサラスがこの町に近づいてきています!」
「この町に?進路は町を通過する見込みか?」
「はい!しかも何か興奮状態のようです」
ハルザートと飛び込んできた騎士の会話を聞きながらレドベージュに小声で話しかける湖張。
「イーサラスって、角が生えていて、四足歩行の結構大きな魔物だよね?」
「うむ、普段は大人しいのだが、興奮していると目の前のものを全て壊しながら突き進む恐ろしい面も持っているな」
「今、興奮状態と言っていたよね?」
「うむ」
「町を通過するって言っていたよね?」
「うむ」
「・・・まずいよね?」
「うむ」
そうやり取りをしていると、ハルザートはその場から立ち去ろうとする。
「イーサラスを倒しに行くの?」
後ろ姿に声を掛ける湖張。すると立ち止まり振り返るハルザート。
「ああ、放っては置けない」
その言葉を聞くと湖張も扉に向かって歩き出す。
「私も行く」
左手をかざし静止させる素振りを見せるハルザート。
「駄目だ、相手は危険な魔物だ」
「何を言っているの、町が危ないのでしょう?」
「湖張には怪我をしては欲しくない」
「大丈夫、私はこれでも腕っぷしは強いよ」
そう言うなりハルザートの背中を押す湖張。
「ほら、急がないと。
それに5頭もいるのでしょう?1頭でも逃したら町が危ないじゃない。手数は多い方が良いって」
「しかし・・・」
「人々を脅威から守りたいのでしょう?そうしたらより確実な手段を取るべきだって」
そう言われると、渋々了承するハルザート。
「分かった、だが無理はするなよ?」
「はいはい」
そうと決まると振り返りレッド君に話しかける湖張。
「行こうレッド君。私達だけで多分どうにかなるよね?」
「まあ、大丈夫であろう」
その確認を取るなり、湖張達はメーサ教の騎士に案内をお願いし、魔物が向かってくる方角に向かうのであった。
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