ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第六十四話【槍の実験】
- 2020.12.29
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
宿屋の前までたどり着くと、先行していた数人の町人が湖張の事を待っていたようで、
大きな声で呼びかけられて宿屋の中に案内される。
宿屋の中に入ると、戦いの後という事と怪我人が担ぎ込まれた事が合わさって喧騒に包まれていた。
しかしながらその場の雰囲気に流されることは無く、落ち着いた素振りで廊下を歩く湖張とラナナ。
その調子で案内された部屋に入ると、鎧を脱がされてベッドに寝かされている男性の騎士と、傍らに立っている仲間の騎士が目に入ってくる。
そして壁際に目を移すと部屋の隅で寝かされた状態の槍とレドベージュの姿が確認できた。
どうやらレドベージュもこの部屋に案内をされたようだ。
「さてと、早速だけど治療の続きをしようかな?」
怪しまれるのも面白くはないので、あえてレドベージュにはコンタクトを取らずに治療の方を優先する事にする。
ベッドの横に移動をすると「お願いします」と立っている騎士が心配そうに話しかけてくる。
それに応えるように、再び治療の魔法を掛け始める湖張。再び怪我をしている騎士の体は光始め穏やかな表情を見せている。
「手伝いましょうか?」
2分程が経過した後、ラナナが隣から顔を覗き込みながら話しかけてくると、首を横に振る湖張。
「ううん、大丈夫。もう終わったから」と答えると魔法を止め立ち上がり見守る騎士に話しかける。
「もう大丈夫ですよ。後は元気になるまで寝かせてあげてください」
優しい表情でそう告げると、祈る素振りを見せる騎士。
「おお、ありがとうございます!きっとこれも、メーサ神のお導きなのでしょう!」
(また始まったよ・・・)
大きな声で感謝の言葉を述べられると、遠い目をしながらそう思う湖張。しかしながらここでも何か情報を引き出せないかと模索をし始める。
「そう言えばアナタ達は何で突然現れて魔物を倒し始めたのです?」
湖張がその質問をすると、騎士はハツラツとした雰囲気で回答をする。
「はい、我々メーサ教騎士団は各地の脅威から人々を守るために活動をしております。
そしてこの付近で最近魔物の目撃情報があったので警戒をしていたのです」
「それがあの硬い魔物?」
「はい、その通りでございます」
「あの魔物は何なのです?」
「私たちも詳しくは分かりません」
「そうなのです?でもあの硬い魔物を簡単に倒してませんでした?それに変な粉を撒いて後退させていたじゃないですか。
それは生態をある程度、知っていたからからではないのですか?」
「それはメーサ神への信仰があればこそです」
「・・・」
あまりにも素っ頓狂な返しをされたので言葉を失ってしまった湖張。
この件に関して、これ以上追及しても”信仰”の言葉を多用されて情報は得られそうになさそうでもある。
そこで違う質問を投げかけてみる事にする。
「ところでアナタ達が言っているメーサ神って一体何なんです?」
とりあえず回りくどい事ではなく、直球で質問をしてみる事にする湖張。
すると目の前の騎士は目を輝かして近づいてくる。
「おお、我々メーサ教にご興味がございますか!?」
「いやいやいや、興味とかじゃなくって聞いたことが無い神様だから疑問に思っただけですよ」
「なるほど、そういう事でしたらとても良い物があります!
私たちメーサ教の正典です。それを貴女様に差し上げましょう。
それにはメーサ神の事とメーサ教の事が分かりやすく記されています。それを読んでいただければ
メーサ教の素晴らしさをご理解いただけるはずです!」
(あ、それで良いじゃない)
ここであれこれ聞くより、説明が書いてある物の方が話を聞く手間が無くて良いかもしれない。
そう思うと、この話に乗らない手は無いと思う湖張。
「あ、じゃあそれをいただいて良いですか?」
急に乗る気な素振りを見せる湖張。すると騎士は嬉しそうな表情を見せる。
「分かりました!しかしながら今は正典は手元になく外の馬に縛り付けている荷物の中にあります。
すぐに取ってきますので、しばらくここで待っていただいてもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
湖張がそう告げると、メーサ教の騎士は早歩きで部屋を出ていく。
そして扉が閉まった時であった。いきなりレドベージュが物凄い速さで寝ている騎士の頭に手を当てて魔法を掛け始める。
「ちょっと、何しているのよ!?」
慌てて彼の肩に手を当てて状況の説明を要求すると、レドベージュは湖張に顔を向ける。
「念のため睡眠の魔法を掛けたのだ。ひょっとしたら意識が戻っているかもしれないからな」
「え?」
「時間が無い、実験がしたいのだ」
そう言うなり、今度は担いできた槍の先端まで移動をするレドベージュ。
そして以前、回収をした硬い魔物の皮膚を取り出すなり、先端部分を持ち上げて軽く突き刺してみる。
すると何の苦労もなく、槍の先端はスッと皮膚のサンプルを貫く事が出来た。
「うそ!?」
「ふむ、やはりこの槍に何か秘密があるのであろうな。
実はこの槍を持った時、何かしらの魔法が掛かっている事は分かったのだ。
それが何の魔法なのかは分からないが、妙な感じであった」
「すみません、私にも持たせてください」
レドベージュの言葉を聞くなりラナナも槍を持ち、ジッと槍の先端を見つめる。
「これは・・・確かに妙ですね。どんな効果があるのか分からないです。
妙な魔法の波というか・・・良く分からない魔法でコーティングされている感じですね」
「うむ、そうなのだ。槍の切れ味や硬さを上げているわけでは無く、妙な魔法が掛かっているだけなのだ」
「・・・一応湖張姉さまも持っていただいて良いですか?」
「え、私も?」
「はい、湖張姉さまは使ったことが無い魔法でも見ただけで使える時があるじゃないですか?
今後の解析の時、湖張姉さまの記憶も頼る事になるかもしれませんので、お願いします」
「あまり期待しないでよ?」
そう言いながら、ラナナと交代をするように槍を持つ湖張。そして目をつぶり数秒の間、静かになる。
「・・・うん、確かに良く分からない魔法が掛かっているね。
感覚は何となくだけど覚えたよ」
そう言うなり、槍を元の場所に戻す湖張。
そして立ち上がって眠っている騎士の近くに戻る。
「そろそろあの騎士が戻ってくるだろうからこの話は後にしよう。
もうやりたい実験は終わったよね?」
レドベージュに確認を取ると頷いて返事をするレドベージュ。
そしてその直後、部屋の扉が開きメーサ教の騎士が正典を持って戻ってきた。
「お待たせしました、こちらになります」
笑顔で湖張に正典を渡す騎士。しっかりとしたハードカバーの作りで、成人男性の手のひらより少し大きめのサイズであった。
ページ数もそれなりに合って厚みも少々ある。読むのに一苦労しそうである。
「ありがとうございます。お代は?」
正典を受け取るなりそう尋ねるが、メーサ教の騎士は「いえ、お代は結構です。その代わりじっくりと読んでくださいね」と語って笑顔を見せる。
「そうですか。それじゃあこれで失礼しますね」
とりあえずたくさん情報を集められた事と、これ以上いると更なる勧誘がありそうであったので
この場から立ち去る事にする。
すると騎士は再度の治療のお礼を告げて三人を扉の外まで見送るとゆっくりと扉を閉めた。
そして一行は話したいことが多々とあったのだが、ここでは話をせずに自分達がとってある宿の部屋に戻る事にするのであった。
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