ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第八十四話【湖の王】

           

宿屋に荷物を置いた後は軽く食事を済ませ、湖の王の下へ向かった一行。
行き先は町から30分程歩いた場所で、そこには大きく見事な滝があり大量の水が湖に流れている。
当然のように観光名所のようで、滝への道は整備されていて歩きやすかった。

しかしながら、人影は全くと言っていい程無かった。
恐らく湖の王が出てこないので魔物が徘徊している事が原因なのであろう。
実際のところ、ここにたどり着くまでに数匹の魔物の姿を目撃していた。

「この辺りが入り口なの?」
周囲を見渡しながら質問をする湖張。
「はい、宿屋の人の話によると、この辺りの滝の裏との事です。
むしろ普段は王の住処として一般公開されているらしく、
聞いたら当然のように知っていましたね」
「なんじゃそりゃ。それだけ人と密接な関係だったということかな?
それにしても滝の裏か。滝に打たれながら入るのかな?」
「いや、そういうわけではなさそうだぞ」

そう言いながら滝の横を指さすレドベージュ。するとそこには洞窟の様な入り口が見える。
「あそこの入り口は滝の裏側を通過できる通路に繋がっているようだ。早速向かうぞ」
大きな滝の音がする中でゆっくりと入り口に入る一行。するとすぐさま左折する通路になっていた。
また、明かりは設置されていないのだが、うっすらと外の光が入っている様で薄暗く通路を照らしている。
どういう事か疑問には思ったが、気にせず通路を進むことにする。
そして左折した瞬間に、思わず感嘆の声を上げてしまった湖張とラナナ。
というのも洞窟と思っていた通路だが左側に壁はなく、滝を裏側から見る事が出来るようになっていた。
まるで滝で出来た水の壁である。
三人程の人が横に並んで歩けるほどの広さを持つ通路を滝の壁を見ながらゆっくりと進む一行。
思わず観光気分になってしまう。

「ごめん、何か仕事の気分じゃなくなってきたわ」
「そうですね。これは中々のものです」
「ふむ、本来ならば観光地だからそう思う事も無理はないな。
だが油断はするでないぞ?」
「分かってるって」

滝の音で声がかき消されるので大きな声で会話をしながら進むと、
更に奥に続くと思われる洞窟の入り口が現れる。

「ここに入るのかな?・・・でもこれ」
一見したら何の変哲もない洞窟の入り口の様に見えるのだが、妙な立て札を見つける湖張。
直ぐには洞窟には入らずに、その場で立ち止まる。

「しばらくの間、公開中止・・・だって」
立て札に大きく書かれた文字を読み上げる湖張。
そして奥を覗き込もうとするが、暗くてよく見えない。更には妙な違和感も感じる。

「ふむ、これは入れないようになっているな」
そう言いながら洞窟の入り口に手をかざすレドベージュ。
そして何もないように見えるところを押してみるが、見えない壁があるようで手が洞窟の奥まで入れられない。

「何があるの?」
「立て札を立てているだけではなく、おそらく魔法で防御壁を展開しているな。
どうやら塞いでいるようだ。姿を現さないという事は本当のようだな」
「どうしますか?」
「王には悪いがこの程度の壁なら破れるさ」
そう言うと手を光らせるレドベージュ。
すると感じていた妙な違和感が徐々に消えていった。

「さて、進むぞ?」
「良いの・・・かな?」
「このまま放っておくほうが問題であろう」
「まあそうかもしれないけどさ」
「話せば分かるであろう。王は人に友好的と聞く」
「・・・まあどうにかなるか」
湖張には若干の不安が残るものの、先に進む事にする一行。
洞窟の壁には等間隔に光る玉が埋め込まれており、緩やかな光で通路が分かるようになっていた。
恐らくこの弾は光を放つ魔道具なのであろう。
洞窟なので肌寒いと感じる位の気温なのだが、防寒の機能を持つ外套を羽織っているお陰で体が冷えることは無かった。
今後の旅でも意外と重宝しそうである。

通路の幅は人がすれ違えるほどで、上り坂や下り坂、中には階段もあり住処というよりは観光目的の洞窟という雰囲気である。
何処に王たちは住んでいるのだろうかと疑問にも思えるが、きっと奥の方には非公開のくつろげる空間があるのであろう。
そう考えているうちに、少し広い場所に辿り着いた一行。
横長の椅子がいくつか並んでおり、小休憩が取れそうな場所である。

壁際には小さな水路があり、奥に向かって水が流れている。
微かに水が流れる音が耳に入ると、ちょっとした癒しの空間に感じられる。

しかし水の音で癒される時間は短かった。というのも、奥の方から何かが歩いてくる音が聞こえてきたのである。
そのまま静かにじっと待つ一行。すると奥から牛の頭に熊のような体をした魔物が二体、姿を現した。
そして湖張たちの姿を見るなり、驚く仕草を見せる。

「あれ?人がいる?すみません、今は立ち入りを禁止にしているんですよ」
妙に丁寧な姿勢で話しかけてくる魔物。流暢に人の言葉で話しかけてくるので
魔物と話している気にはなれず、変な感じである。

「あ、ごめんなさい。実はちょっとお話を聞きたくって」
特に敵意はなさそうなので、こちらも丁寧に接しようとする湖張。
このまま穏やかに事を進めたいところである。
しかしその時であった。急に魔物は目を大きく見開き、何かに怯えるように後退し始める。

「リビングアーマーだ・・・リビングアーマーがいる!」
「え?」
レドベージュを凝視しながら後ずさりする魔物たち。あまりにも尋常じゃない様子なので
戸惑う湖張。

「む?どうしたのだ?」
レドベージュも何が何だか分からない様子である。そこで思わず声を掛けてみた。
しかしその途端、魔物たちの怯える様子は更に強くなる。

「喋った!また攻めてきたんだ!!」
「へ!?」
「王様だ!王様に報告だ!!」
そう言うなり奥へ走り去る魔物たち。
「待って!」
あまりにも咄嗟の事であったので一瞬出遅れたが、慌てて追いかける一行。
しかし魔物の足は速く、どんどんと距離を離されていく。

「ちょとちょっと、どういう事!?アナタ、何かやった!?」
走りながらレドベージュに確認を取る湖張。
「いや、何もやってはいないぞ!我とて予想外の展開だ」
「いきなり喋ったから驚いたのかもしれませんね」
「むう・・・」

その様なやり取りをしながら追いかける三人。そうこうしている間に大きな広間に辿り着いてしまう。
天井は高く、面積も広い。修練場の守護者と戦った闘技場よりも広いようだ。
また、広間の左側には大きな池の様な場所もあり、幻想的である。

正面を見てみると王座の様な場所があり、そこには先ほどの魔物よりも一回り大きな魔物がおり、
周囲には配下の魔物と思われる者達が30体程並んでおり、武器を構えてこちらを見ている。
そして広間の中心にはここまで追ってきた二人組の魔物が怯えた様子で王の前に立っていた。

「何事だ?」
王と思われる魔物が逃げ込んて来た魔物に話しかけると、慌てた様子で答える魔物。

「大変です!喋るリビングアーマーがまた侵入してきました!!」
「何だと!?」
そう言うなり王座から立ち上がりレドベージュを睨むようにジッと見る王と思われる魔物。

「その赤いずんぐりむっくりか・・・」
傍らにあった大きな両刃の斧を持ち上げる王。既に臨戦態勢といったところである。
しかしレドベージュは剣を抜かずに、落ち着いた素振りで話しかける。

「待つのだ。我には戦う意思がない」
まずは対話を試みるために、ゆっくりと話しかける。しかし王は斧の柄を両手で強く握りしめ殺意に近い気迫を放ち続ける。

「本当に喋るリビングアーマーなのだな。
・・・貴様、一度ならず二度までも我らの宝を奪いに来たのか?」
「宝?」
何か事情がありげな事を話し始めたので聞き返すレドベージュ。しかし王は怒りにも近い雰囲気で前に歩き始める。

「とぼけたって無駄だ!貴様もキュベーグという者の仲間であろう!」
「キュベーグだと!?」

その言葉に大きく驚くレドベージュ。
(キュベーグ?・・・そうだ、塔の中で聞いたウーゾ神の従者の名前だ)
彼の驚く姿を見ながら冷静に話を思い出す湖張。そして柱に彫刻されていた姿を思い出す。

「どういう事だ!?キュベーグがここに現れたのか!?」
慌てるように急ぎ足で王に近づくレドベージュ。
しかしその行動は王にとっては攻撃を仕掛けてきたように見え、大きく斧を上に振りかぶる。

「立ち去れ!」
話を聞く様子は無く、斧を目一杯の力で振り下ろす王。
しかしレドベージュは避けることなく、瞬時に抜剣し、斧の柄の部分を簡単に切ってしまう。
すると少し離れた位置に落ちる斧の刃。その状況に王は一瞬固まる。

「答えるのだ、キュベーグが現れたのか!?」
いつもの温厚な様子は無く、少し怖さすら感じる雰囲気で問い詰めるレドベージュ。
しかしその時であった、周りの配下の魔物達が一斉に動き始める。

「王様を守れ!」
槍や剣などの武器を握りしめ一斉にレドベージュに向かって行く魔物たち。
その様子に湖張とラナナは慌ててしまう。

「レドベージュ!」
湖張の呼びかけに答えるかのように、レドベージュは上空高くに飛び上がり魔物の群の攻撃を避ける。
そしてそのまま滞空し続けながら湖張とラナナに言葉を伝える。

「二人とも、まずは相手を無力化するぞ!しかし絶対に殺めるでないぞ!?」
「えー!?こんなに大勢を相手にするの?!」

仕方がない状況とはいえ、手加減しながら魔物の群を相手にする事に思いやられる湖張。
しかし相手は待ってくれないようで、レドベージュだけではなく湖張とラナナにも魔物が迫ってきた。

「しょうがない、何とかいなすか」
「それしかなさそうですね」
背中合わせで会話する湖張とラナナ。そして二人の両手が同時に光り出す。

「サンダークロス!」
同時に同じ魔法を放つ二人。それぞれの向いている方向に飛んでいく雷の魔法は瞬く間にほとんどの魔物を跪かせた。

「なんて奴らだ!?」
あっという間に多くの配下を倒した二人に驚愕する王。しかしその間もレドベージュは待つことは無く、
上空から魔法の光弾を雨のように降らせ、王の周りに集結した配下の魔物を地面に倒す。

「少し落ち着いてはくれぬか?」
ゆっくりと降りながらそう語るレドベージュ。武器もなく配下の魔物も倒されており、一歩後ろにたじろぐ王。
しかし強い眼光は消えておらず、まだ落ち着いてはいないようである。

「者共!こうなったら躊躇はせぬ!今度こそ奥の手を使うぞ!」
突然大声で王がそう叫ぶと、倒れていた配下の魔物達は、立つのもままならない状態ではあるはずなのだが、
それでも無理に飛び起きて必死の形相で水際から距離を置く様に壁際へ移動をする

「え!?何?何!?」
「今、奥の手と言いましたよね?」
その様子に戸惑う湖張とラナナ。一方レドベージュは少し困った様子で王に問いかける。

「やれやれ、一体何をしようとしておるのだ?待つのだ。我は敵ではない」
「信じられるか!我らの怒りを思い知れ!!」

そう言うなり手を上にかざす王。すると、広間にある大きな池に大きな波紋ができ始める。
そしてその様子に不気味な物を感じていると、勢いよく何か巨大な物が真上に向かって一気に水中から飛び出してきた。

「う・・・そ?」
目の前に現れたのは、水中から長い首を出した巨大な蛇型の水竜であった。
体の太さは直径が2~3m程のほどで、まるで大木のようである。また高さも見えている部分だけでも10m近くはありそうだ。
これが全長となるとどのくらいの長さなのかは考えたくもない。

「シーサーペント・・・」
巨大な水竜を前にそう呟くラナナ。どうやら彼女は存在を知っているようである。
「知っているの?」
当然のように概要を尋ねる湖張。すると彼女は視線はそらさず解説をする。

「はい。海を航海していると、ごく稀に遭遇する巨大な水竜です。
敵として認定されると、船は確実に沈没させられます。
海の支配者として船乗りたちからは恐れられています」
「海の支配者か。それは凄いのが出てきちゃったね」
どうやら目の前の巨大生物はとんでもない存在のようである。
しかし彼女の解説を聞いても落ち着いた素振りの湖張。
一方ラナナは固まってしまっている。その様子から窮地なのかと感じ始める。

「ひょっとして今ってヤバい状況?」
恐る恐る尋ねる湖張。するとラナナは口に拳を当てて考えるような素振りを見せながら答える。
「・・・ここって確か淡水だった気が」
「え?そこ?」
「へ?」

そこで一瞬固まる二人。

「うん?何か変なところで疑問を持っていない?」
「えーあー、だってシーサーペントは海の魔物なので海水じゃないと・・・はい、今はそれどころじゃないですよね」
「うん。ちなみにヤバイ相手なんだよね?」
「あーはい。確かに危険な相手ではあります。
ただ、そう簡単には敵として認定はされません。シーサーペントは基本的に静かに暮らしたいそうなんですよ。
なのでこちらから手を出さず、静かにやり過ごせば問題ないはずです」
「そっか。じゃあ下手に動かない方が良いね?」
「はい。目もなるべくなら合わせないでくださいね」

話し終わるなり視線を逸らす二人。しかしその時であった、魔物の王が大きな声を発する。
「先生!この者達は悪い子です!お仕置きしてください!!」
「はぁ!?」
「というか先生って・・・」

まるで教師に言いつけられる悪い子みたいな雰囲気にされるので焦りと素朴な突っ込みが生じる二人。
しかしそんな流れでも問題なかったのか、シーサーペントは二人をギロッと大きな目で睨みつけると、
口を大きく開ける。

「避けろ!」
大きな声で指示を出すレドベージュ。するとその直後、シーサーペントは口から巨大な水の流れを発射し
豪速で二人を狙い撃ってくる。

「うそー!」
「わーーーーー!」

同じ横方向に飛ぶ二人。口を大きく開けた事で何か来ると感じ取れてはいたので難なく避ける事は出来たのだが、
それでもこの展開には驚かされる。
また、水が当たった床や壁は強力な力がぶつかったかのように、えぐれてしまった。
その様を見ると、当たったら無事ではいられない事は明らかである。

「湖張!ラナナ!!」
二人の名前を呼びながら駆け寄るレドベージュ。
「ちょっと固まらない方が良いんじゃない!?」
レドベージュがそばまで着たタイミングで湖張がそう言うと、うっすらと三人が影の中に入ったことに気が付く。
そこで上を向くと、シーサーペントが上半身で踏み潰しを仕掛けている様子が目に入る。
不思議とその動作は緩やかに見えたが、実際のところは重力に身を任せて落下してきているので結構なスピードである。

「ほらー!」
「避けろ!!」
「わーーーーーーーー!!」
再び横に飛ぶ一行。何とか攻撃を交わすと、シーサーペントは体を振りながら身を引いて水中に潜っていく。
そして潰された床はボロボロになっていた。

「良いぞ先生!」
「やってください!!」
周囲で配下の魔物達が歓声を上げる。しかしその姿に疑問を抱く湖張。
そこで思わず口から言葉が出てしまう。

「ちょっと、こんな攻撃していたらアナタ達の住処、ボロボロになっちゃうよ!?」
大き目の声で訴えるように湖張がそう言うと、魔物達は静まり返り少し考えているかのような時間が流れる。

「うわーやめてください!広間が壊れる!!」
「修理が!修理がー!!」
湖張の言葉で気づかされたのか、悲鳴にも近い言葉を飛び交わせながら慌てふためく魔物達。

「なんだかなあ・・・」
呆れ顔の湖張。そこにラナナが横から話しかけてくる。
「あの、これはもう手加減をするレベルではないのでは?」
その問いに頷く湖張。
「うん、そう思う。だから例の技の準備に入っているよ」
「そうなんですか?気づきませんでした。本当にごく自然に出来るのですね」
「うん、練習したからね」
「どうしましょう?私も何か手伝いましょうか?」
「どうしようかな?少し動きを止めてくれたら当てやすいけど、出来る?」
「分かりました。では電撃の魔法で痺れさせますね。ただあの巨体を痺れさせるには、それなりに強力にしないといけないので
私も少し魔法を放つ準備をする時間が欲しいですね」
「では時間稼ぎは我が受け持とう」

二人の言葉を聞いていたレドベージュがそう提案すると、頷く二人。
「分かりました。お願いしますレドベージュ」
「うむ、任せておけ」

そう言葉を交わし終わった直後、再び水の中から勢いよく姿を現すシーサーペント。
再び大きな口を開け始める。
「こい!」
そう言いながら、わざわざ口が向けられている位置に移動するレドベージュ。両手は強く赤く光らせていた。
そしてシーサーペントが巨大な水の流れを再び吐き出すと、レドベージュは両手から細く赤い光線を放ち水の流れにぶつける。
すると二つの攻撃はぶつかり合い、拮抗状態になる。

「ラナナ!」
「はい!」
レドベージュの掛け声に答えながら魔法を放つラナナ。
黄色く光る直径2m程の光の玉がシーサーペントに目掛けて飛んでいき首元に命中すると、全身に強い電撃が走る。
その結果、吐き出していた水の流れは止まり、天井方向にのけ反ぞらせる事が出来た。

「湖張姉さま!」
「ナイス!」
今度はラナナの掛け声に答える湖張。のけ反った姿を凝視しながら技を放つ姿勢を取る。

「覇王爆炎弾!」
強く白く光る赤い煙を纏った球体がシーサーペントの首元に当たると、巨大な爆炎が発生する。
耳が痛くなるほどの爆音が鳴り響く頃には、強い光が周囲に広がっていた。

そして光が収まると、力なく水の上に浮いているシーサーペントの姿を目にする事が出来た。
流石の巨体も湖張の技の前では無事では済まなかったようである。

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