ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第六十一話【予定が変わる雨上がりの午前】

           

昼食の後は宣言通りゆっくりと昼寝をした湖張とラナナ。
どうやら疲れが溜まっていたらしく、横になったらすぐに眠りにつけた。
意外と心地よくもあり、たまにはこういうのも悪くは無いかとも思えてくる。
そして気が付くと夕方になってはいたが、相変わらずの雨であった。
やむ気配は無く、このまま明日も宿屋で足止めかもしれないとも考えられるくらいの土砂降りであった。

しかしながら一夜明けてみると、それまでの雨は嘘のように綺麗な青空が広がっていた。
もっといえば夜中のうちから雨の音は消えていたので、朝になって止んだというわけでもなさそうだ。

「とりあえず、今日はもう出発で良いよね?」
外に出て空を見上げながら二人に尋ねる湖張。
現在は朝食を取った後で、とりあえず外の様子を確認しているところである。
宿屋のチェックアウトはまだしておらず、もし今日も出発を見合わせるようであれば
そのままもう一泊する段取りで有った。

「うむ、歩きづらいかもしれないが大丈夫であろう」
地面を見ながらそう返すレドベージュ。地面はまだ濡れているところがあるが、大丈夫そうでもある。
そして彼の話を聞くなり、二人の前に立って話しかけてくるラナナ。
「そうですね。出発で良いと思います。ただ少し買い物をして良いですか?」

「うむ、問題ないぞ。必要なものは今のうちに揃えておく方が良いな。金は足りるのか?」
「何それ、娘に甘い父親みたい」
お金の心配をするレドベージュの発言に笑って反応をする湖張。そう返されたラナナも笑顔を見せている。
「はい、問題ないですよ」
「そうか、ではどの店に向かえば良いのだ?」
「服屋さんです。これからまた雨が降るかもしれませんから雨具の用途も兼ねてフード付きの外套でも皆で買いませんか?」
「・・・なるほどね。それに長めの物だったら防寒具としても役立ちそうだね」
ラナナの提案を聞いた時は予想外の提案であったがために一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、頷いて同意の意見を出す湖張。
「ふむ、それも良いかも知れぬな。良いのがあると良いな」
「そうですね、後は可愛いデザインの物があればいいですよね」
「可愛い物・・・か?」
「レドベージュは可愛いのは嫌です?」
可愛いという言葉に反応を示したレドベージュにラナナがそう問いかけると、一つため息のような間をとった後に反応が返ってくる。

「いや、まあ二人とも年頃の娘なのだ。そういうのも悪くなかろうて」
「じゃあ決まりですね。早速服屋さんに向かいましょう」
楽しそうな雰囲気でラナナが歩き始めると、後ろについていく二人。
雨上がりという事もあり、より一層と清々しい気持ちにさせてくれる姿に思える。

そうこうしている間に服屋に到着する三人。
予想よりも大きな店で、種類は豊富そうである。
まだ午前の早い時間ではあるので他の客は来ていないようだが、開いてはいるようだ。
木製の扉をゆっくりと開けると様々な華やかな服が並べられている様子が目に入ってくる。

「見てください湖張姉さま!この服、可愛いですよ」
外套ではなく普段着ではあったが、手に取って湖張に合わせてみるラナナ。
一応はその行動に合わせて大人しくはしているが苦笑いを見せる湖張。

「あはは、確かに可愛い服だけど・・・私には似合わないよ」
湖張がそう返すと、不思議そうな顔を見せるラナナ。
「そんな事ないですよ?とっても似合っていますよ」
「えー?でも私はそういう柄じゃないし」
「何を言っているんですか、湖張姉さまは美人さんなんですからもっとオシャレにも気を配ってくださいよ」
ラナナが何気なくそういうと、戸惑いを見せる湖張。

「いやいやいや、そんなじゃないって。・・・それより外套を探しに来たのでしょう?
ほら、早く探そう!」
そう言うなり照れ隠しをするかのように店の奥に入っていく湖張。
その様子を不思議そうに見た後にレドベージュに話しかけるラナナ。

「綺麗な人なのに勿体ないと思いません?」
「・・・むう、それを我に聞かれてもな」
返事に困った様子のレドベージュが苦し紛れにそう返すが、少し考えた後に再び言葉を発する。

「まあそういう所が湖張の魅力という事で良いのではないか?」
その回答を聞くと、少し考えた後に納得をするラナナ。
「あー確かにそうですね。・・・でもいつかは滅茶苦茶可愛らしい服装をさせてみたいです」
「・・・そうか、とりあえず止めはせぬが・・・その怖い顔は止めた方が良いぞ」
「そんな顔していました?」
「うむ」
そうやり取りをすると、手に取った服を元の場所に戻し湖張の元に向かうラナナ。レドベージュもその後をついていく。

店の奥に行くと、外套が並べられているエリアがあり、そこに湖張の姿もあった。
案外と品揃えも良く、気に入りそうな物が見つかりそうである。
「どれか良いのありました?」
ラナナが後ろから話しかけると、湖張は視線を彼女に移さずに商品を眺めながら答える。
「うーん、どうだろう。何を選べば良いのか判断付かないのが本音かな?」
そう聞くと、ラナナは湖張の横に並んで同じように商品を眺め始める。

「実はですね、どういう物が欲しいのかは大体決めているのですよ」
「そうなの?」
「はい。まず私は今も長めの白いローブを着ていますし、
湖張姉さまも袖が干渉しそうですので、袖を通さずに上から簡単に羽織れる物を考えています」
「なるほどね」
「そして色は赤です」
「赤?」
「はい、だって私たち赤き聖者じゃないですか」
ニッコリとした顔を湖張に向けるラナナ。赤い外套となると目立ちそうではあるが
赤き聖者だからという理由を聞くと、それも悪くは無いと思えてくる。

「・・・とても目立ちそうだけど、その案は良いかもしれないね?」
湖張はそう返しながら棚の上の方に畳まれていた外套を一つ手に取る。
そしてそれを広げてみると、落ち着いた赤色に金糸で縁取りがされている事に気が付いた。

「あ、何か素敵じゃないですか?可愛いのですが、気品も感じられます」
隣で見ていたラナナが感じた事を言うと、湖張は彼女に外套を手渡す。
「そうだね、生地はどう?」
「薄手ですが、しっかりとしていますね。やわらかい素材ですし、持ち運ぶ時も畳めばかさばらないと思います」
「そうだね。でも防寒具としては使えないかな?」
「いえ、どちらにせよ雨具としても使えるように魔法をかける予定なのですよ。
なので防水の魔法と同時に防寒の魔法も施します」
「そんな事出来るの?」
「はい。とは言ったものの長持ちさせるにはじっくりと魔法をかけないと出来ないのですが、
数日間の効果で良ければ、すぐにでもできますよ」
「そっか。じゃあ問題ないかもね」
そう言うと、ラナナに渡した外套を再び手に取り試着をしてみる湖張。

「どう?似合う?」
体の向きを変えながらラナナに尋ねると、彼女は目を輝かして答える。
「すごい素敵ですよ!」
その様子を見ると少し照れくさそうにするが、悪い気持ちにはならなかった湖張。
そしてその格好のまま、同じ形の外套を棚から出してラナナに手渡す。
「ほら、私の来ているサイズより少し小さめの物もあるから、ラナナも合わせてみなよ」
「そうですね!」
ラナナは元気よく外套を受け取ると、そそくさと身に纏い始める。
するとサイズも丁度良かったようで、違和感なく着こなしている姿が目に入ってきた。

「うん、似合うね」
湖張が小さな笑顔でそう言うと、嬉しそうな顔をするラナナ。
「ふむ、ではそれにするか?」
二人の様子を見て、気に入ったと判断したレドベージュがそう言うと、ラナナは続けて棚を探し始める。
そして同じ形の外套をもう一着取り出すとレドベージュに差し出す。

「もう一着、買うのか?」
不思議そうなレドベージュに対して首を横に振るラナナ。
「何を言っているのですか、レドベージュも試着してください」
「む?我もか?」
「当然です」
「・・・いや、しかし我は雨具も防寒具も不要だぞ?」
「それでもです。皆で同じ服装をする事に意味があるのですよ」
「むう・・・しかし我が着れるサイズはあるのか?」
「大丈夫ですよ。背丈は低いですが、鎧なので横に広いじゃないですか。
私と同じサイズで意外と大丈夫だと思います。もし丈が長かったら、直せばいいですし」

「むう」
予想外の展開で戸惑ったレドベージュは、助けを求めるかのように視線を湖張に移す。
すると優しい雰囲気で話しかけてくる湖張。
「まあ良いじゃない。私たちの制服みたいなものだよ。
フードは被れないと思うけど、体を覆う事は出来るでしょ。仲間意識を高めるためにも私は賛成だな」

「・・・そうか。まあ良かろう」
湖張の意見を聞くと納得をしたのか素直に身に纏ってみるレドベージュ。
袖を通さず上から羽織るタイプであったので、ラナナに手伝ってもらいながらではあったが
身に纏うことが出来た。

「うん、可愛いね」
「良いですね。可愛いです」
「・・・むう」
出来上がった様子を見るなり納得をする二人。マントの上にマントを身に着けているようで
少し違和感はあるものの、大丈夫そうである。
「じゃあ早速お会計だね」
湖張がそう言うと、試着した外套を一度脱ぎ、カウンターに持っていこうとする。

と、その時であった。
脱いだ外套を軽く畳もうとしていたところで「ああ、そこで大丈夫ですよ」と中年の男性が話しかけてくる。どうやらこの店の店主のようだ。
そして三人分の外套を受け取るなり、商品の確認をし始める。

「よし、どれも汚れや傷は無いようですね。安心してご提供できます。
こちらでよろしいですか?」
どうやら不良品ではないかの確認をしてくれていたようだ。丁寧そうな姿勢は好感が持てる。

「はい、こちらで足りますか?」
ラナナがそう言いながら金貨を5枚手渡すと、店主は少し驚いた顔をする。
「いえいえ、こんなにはいただけません。3枚でお釣が出ますよ」
「そうなんです?」
「はい、ではお釣をお持ちしますので少々お待ちください」
そう言うと、外套と金貨を持って奥のカウンターに移動する店主。
その後を三人はついていくと、外套を綺麗に畳み、紙の袋に入れてくれる。
そして数枚の銅貨と共にラナナに紙袋を手渡す店主。

「はい、おまちどうさま。ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございます」
笑顔でラナナがそう言うと、店主はジッと彼女を見つめる。

「そう言えばお客様、旅の方でよろしいですか?」
突然そう問いかけられたので反応が遅れてしまったが、頷いて答えるラナナ。

「はい、そうです」
その答えを聞くと少し心配そうな表情になる店主。その様子に不安を感じると、店主はカウンターに手をついて話始める。
「そうでしたか。そうしたら気を付けた方が良いですよ。
というのも、少し前からこの辺りで巨大な鳥の魔物が出ましてね、何人も被害に合っているのですよ」
「巨大な鳥・・・ですか?」
突然その様な事を言われたので少し驚くが、詳しく聞くべき内容だと感じ、復唱する湖張。
すると、店主は湖張に顔を向けて話を続ける。

「はい、そうなんですよ。ロダックという魔物をご存じですか?
それが最近この付近に現れましてね、困っているのですよ」
「ロダック?」
その魔物の名前は聞いたことが無いので、確認するようにレドベージュとラナナに視線を移す湖張。
「ふむ、ロダックか」
「これは確かに困りますよね」

二人の様子を見ると、どうやら知っている様子だ。
この知識量は頼りになる武器である。

「どんな魔物なの?」
湖張が店主から二人の方向に体の向きを変えて質問をすると、
レドベージュとラナナは知っている情報を優しく伝え始める。

「そうだな、先にも伝えた通り大きな鳥の魔物だ」
「色は黒と茶色と白と様々ですよね?
住んでいるエリアによって変わると言われています」
「それは保護色によって自らを守るのではなく、
狩りをする時に相手に見つけられないようにする為の術だな」
「そう、狩りをするのですよ。なので獲物を見つけると襲ってくる傾向があります。
そして巨体で力も強く、討伐には危険が伴います」
「更には基本的に空を飛んでいるから接近戦は難しいのだ」
「もっと言えばその巨体に似合わず、飛行速度も速いので対処が難しいです」

そこまで聞くと、湖張は腕を組んで一つ頷く。
「なるほど、要するに私たちの出番という事だね?」
彼女の一言を聞くと、頷くレドベージュとラナナ。
「うむ、その通りだな」
「隣町に行くのは後回しですね」

その話の一方で信じられないものを見るかのような表情をする店主。
「ちょっとお客様、無茶しないでくださいよ!本当に危険な魔物なのですよ!?」
心配が顔から溢れ出る様子から、本当にこの店主は良い人という事が分かる。
「大丈夫ですよ、だから私たちがやるのです」
心配をかけまいと笑顔で湖張がそう返すが、心配そうな表情が消えない店主。
当然と言えば当然である。

と、その時であった。外から人々が騒ぐ声が聞こえてくる。
「何か外が騒がしくないですか?何かあったのでしょうか?」
ラナナが外の様子を気にし、店の扉を開けると人々が武器を持って走っている様子が視界に入る。

「魔物だ!魔物が出たぞ!!」
付近に魔物が出現した事を大声で知らせる中年男性。
その声によって家に逃げ込む子供たち。その一方で恐ろしい形相で剣や農具等を持って飛び出していく男性陣。
先ほどまでの穏やかな町は扉を開けた時には失われていた。

「大変です、魔物が出たそうです!」
外の様子を確認してから店のカウンターに急いで戻ってきたラナナ。
そして手に持っていた買い物袋をカウンターに置いて店主に勢いよく話しかける。

「すみません、後で取りに来ますので預かっていてください!」
「え!?」
ラナナの発言に戸惑う店主。そしてそのままの勢いで湖張とレドベージュに言葉を投げかける。
「行きますよね!?」
頷く湖張。
「もちろん!!」
そう返すなり、急いで外に向かう三人。

「無茶ですよ、お客様!」
店主が制止を促すが、湖張は振り返り笑顔を見せて答える。
「大丈夫ですよ。私たち、腕っぷしは強いですから」
その言葉を残すなり、外に飛び出す湖張たち。

そして混乱している街の中に身を投じると
先ほどまでの長閑な気持ちが消え失せて、緊張感のある意識に切り替わるのであった。

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