ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第一話【スタート地点】

           

「・・・おかしいな、こんなはずじゃないんだけれど?」

やや高い声質の呟き。様子は落ち着いている。
年は16~17歳くらいであろうか。青い法被を身に纏った赤い瞳の娘で、綺麗な黒髪は背中まで届いている。

現在の彼女は洞窟の暗闇に包まれており、
唯一の暗闇への抵抗は右手に持っている僅かな光を放つランプのみ。
そしてその心もとない光は
自分の倍ほど大きく、そして威圧的な得体の知れない鎧の化け物を映し出していた。

ピースキーパー赤き聖者001話

<3時間前>

「湖張(こはる)湖張はおるか?」
扉をあけながら白くて長い髭を携えた70過ぎと思われる老人が、
木製の家具が並ぶキッチンに入ってくる。

すると皿を並べて食事の用意をしている若い娘が視線を彼に合わせて微笑んだ。
「どうしたのおじいちゃん?」

サラサラとした黒髪が窓から入るそよ風に小さくなびくと
老人は少し感慨深い表情を浮かべながら、ゆっくりと椅子に腰を掛けた。

「湖張、今日は何の日か分かるか?」
「今日?・・・ああ、一応私の誕生日?」
「そうだ。17年前、お前を家の前で拾った日じゃ」
「でもそれってさ、もっと前に私って生まれてるはずだから厳密にはもっと前だよね?
私が拾われた時って、生まれたてって感じじゃなかったんでしょう?」

湖張と呼ばれる娘は苦笑いでそう答えると、老人も苦笑いで返す。
「そう言ってくれるな。わしにとっては湖張を拾った時が生まれた日なんじゃ。それに生まれてから
数週間くらいの赤子ではあったぞ?だから17歳というのは間違いないはずじゃ」
「そっか、もう17か」

会話をしながら朝食の準備を進める湖張。
すると老人の表情は先ほどまで浮かべていた優しい表情から、少し神妙な表情に変わる。

「湖張、わしが何故お前に武術を教えたか分かるか?」
「そりゃおじいちゃんが芭蕉心拳の師範だからでしょ?突然どうしたの?」
急に雰囲気が変わった老人に違和感を感じる湖張。

「そうじゃ、だが実はそれだけではない」
そう言うと、懐から手紙を湖張の目の前に差し出す。
「これは?」
不思議そうに受け取る湖張。すると老人は一瞬ためらった後に語り始める。

「実は今まで秘密にしていたことがある。
それはお前を拾った時にその手紙が一緒に添えられていたのだ」

「え?」
突然の予測もしなかった内容に驚きを隠せない湖張。
ひょっとしたら自分の出生について書かれているのかもしれない。
頭にその考えが過ると、あわてて手紙を開き読み始める。

「この子に生き抜く力を授けてほしい」

そう一文のみ書かれただけの手紙を小声で読み上げる湖張。
その表情は理解に苦しんでいる様子を映し出していた。

「何これ?」
「わしも分からんよ。・・・だが恐らくお前の親はわしの事を知っておったのじゃろう」
「おじいちゃんが強い事を知っていたから、こんな事を書いたってこと?」

うなずく老人。
「おそらくはな。最初、お前を拾った時は役人に託そうとも考えたのじゃが、
その手紙を読むとな、どうもわしに託されたのではないかという気になったのじゃ。
それに生き抜く力を授けろと書いておる。捨てた子に対して、普通こんな表現をするか?
なのでひょっとしたらこの子は何か理由があって捨てられたのかもしれないと思えたのじゃ」

「だからおじいちゃんは私に武術を教えたの?」
うなずく老人。
「そうじゃ、そしてお前は強くなった。
だから我が芭蕉心拳の免許皆伝を成し遂げるために最後の試練を受けてもらおうと思う」

「試練?」
「そうじゃ。とは言ったものの大したことはない。裏の山にワシが若いころによく使っていた洞窟がある。
その奥に祠があってな。そこに行って祭られている書物を読んでくるのじゃ。
試練とは言ったものの、一通りの教えは終わったという区切りのための儀式に近い」
「17になったから一区切りつけようって事?」

不思議そうに聞く湖張。
「そうじゃ。ワシはもうだいぶ年を取った。
いつ何があるかわからん。だから今のうちに湖張に免許皆伝をしてもらって
手紙の内容も果たしたという区切りが欲しいというのもあってな」

そういうと、湖張は少し悲しい顔をする。
「そんな事言わないでよ。まだまだ元気でしょ?
・・・でも気持ちは分かったよ。だから行ってくるね」

老人に背中を向ける湖張。
そしてキッチンに用意している食事を運び始める。
「その前に朝食を食べよう。片付けまでしたら行ってくるからさ」

老人の目の前にパンとスープを並べると
湖張は小さくつぶやく。

「おじいちゃん、ありがとう」

その言葉を聞くと、老人は小さくうなずきながら笑みを浮かべた。

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Peace Keeper 赤き聖者第二話【覇王の団扇】