ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第七十八話【次にやる事】

           

「あーもう!サンダークロス!!」
「あーもう!フレイムフェンス!」
逃げる途中、あともう少しで安全な空間という場面で目の前を遮る修練鳥の群。
それに苛立ちをぶつけるかのように突進をしながら雑に魔法を放つ二人。
それにより残り2羽の状態をするなり、ラナナは無言で魔法を放って1羽の状態にして
残りを湖張が過ぎ去り際に叩き落す。

「ついたー!」
安全地帯に飛び込むなり疲れを吐き出すかのような口調で言葉を発する湖張。
逃げてきたというのに、何かをやり遂げたような雰囲気まである。
ラナナも同じように疲れた顔を見せながら、浮いている体をゆっくりと地面に降ろすなり、その場にペタンと座り込んでしまう。
「流石に少し疲れましたね」

「ふむ、どうやら守護者と対峙はしたようだな」
二人の様子を窺いながら近づいてくるレドベージュ。すると湖張は呼吸を整えつつ話しかける。
「対峙どころか、一戦交えて来たわよ。
何なのあの守護者って、修練鳥よりかなり強いじゃない!」
「言ったではないか、強いと」
「強さの性質が違うよ!レベルが違うって!」
「そうか?」
「そうだよ!修練鳥と違って丈夫だし、何より攻撃が激しすぎ!
修練鳥は攻撃をそんなにしてこなかったよ」
「ふむ、まあ丈夫ではあるが、攻撃に関しては修練鳥も結構激しいのだぞ?」
「え?」
「湖張とラナナが素早く倒し過ぎなのだ。本来、修練鳥で攻撃を避ける訓練もできるのだが、
二人は間合いをうまく空けたり、速攻で倒してしまったりで気付かなかったのであろう」
「そうだったんだ」
「うむ」

そうやり取りをしている中、ウンバボは湖張とラナナに近づいて、交互に二人をジッと見つめる。
「えっと・・・何か?」
視線が気になりそう尋ねるラナナ。
するとウンバボは不思議そうな顔をして問いかけてくる。

「お前たち、本当に守護者と戦ってきたのか?」
「うん?」
「守護者と戦ったのに傷ついていない。服も汚れていない」
腕を組んで疑問を抱くウンバボ。その様子を見るなり、腰に手を当てて湖張は答える。

「いや、数発だけ攻撃を当てたのだけれども全然効かなかった感じがするし、
その中で攻撃は激しいし連携はとってくるしで、あのまま意地を張って戦い続けても
ジリ貧でやられていく一方だと思ったの。だから元気なうちに逃げてきたわけ」
その発言を聞くなりジッと湖張を見つめるウンバボ。

「それはお前の判断か?」
「そうよ。それに直ぐ逃げろとアナタは言っていたじゃない」
その答えを聞くなり、ウンバボはレドベージュに顔を向けて話しかけてくる。
「変なプライドもなく、状況判断も早い。この娘、中々の逸材」
「そうだな」

そのやり取りを聞くと、呆れた顔をする湖張。そしてため息を一つ。
「いやいやいや、そんな褒められても困るよ。そもそも逃げ帰って来たんだよ?」
その言葉を聞くなりウンバボは一つ頷き、話しかけてくる。

「そう、お前たち守護者を倒せなかった。だからまだ未熟」
「そりゃそうだ。だからどうやって倒すかを考えないと。また少し会議をしようか」
会話の途中でラナナに話を振る湖張。するとウンバボは二人に対して問いかけてくる。

「お前たち、一人で修練鳥を倒せるか?」
その言葉を聞くなり、ゆっくりとウンバボに視線を移す二人。
『一人で倒せるか』という言葉を聞くとハッとしてしまった。

「会議も良いが、もう少し強くなる事を考えた方が良い。
お前たち、仲が良すぎる。だから息も合いすぎて実力以上の敵も倒せてしまう。
修練鳥が良い例。一人だと倒せないが二人だと足りない部分を補い合って倒せてしまっている。
普通、修練鳥はあんな簡単に倒せない。

ウンバボ、今まで数多くの猛者を見てきた。
実は守護者を倒せた猛者は少ない。ほとんどが修練鳥を倒す事を目標にしている。
5人がかりでも数か月かけてやっと修練鳥を倒せた猛者もいる。
それ以前に結局修練鳥を倒せず終わった猛者もいるくらい。
なのに二人は数日で修練鳥を軽くあしらえるようになった。
良い意味で異常。だけどそれだけでは強くなれない」

珍しく長く話すウンバボ。そこで一つ呼吸を入れると、話を再開する。

「だからお前たちは一人でも修練鳥を倒せるくらい強くなる方が良い。
レドベージュ様もしばらくここにいて良いと言っていた。ウンバボも美味しいごはんを作る。
だから己を磨く修練を勧める。
そうするともっと凄い力を二人で出す事が出来る。
きっと守護者も倒せる。ウンバボ、二人に期待するからそうアドバイスする」

ウンバボの話が終わると、深くため息をつく湖張。
「はあ、そうなんだよね。うん、それは少し思ってはいたんだよね。
何か修練鳥は倒せるようになったけど、それは工夫をして倒しているだけであって
自分自身が強くなっているわけじゃないって。
でもまあラナナとの連携も十分実力の内かなとも思えたから良しとしていたけど・・・やっぱり駄目か」

そうぼやきに近いつぶやきをすると、ラナナを見つめる湖張。
「ごめんラナナ、ちょっと私、しばらくの間一人で修練を積んでも良いかな?」
「一人で・・・ですか?」
「そう、実は私の使う芭蕉心拳には奥義があるのだけれども、この際だからその練習をしようと思うの?」
「奥義?」
その言葉に少し目を輝かすラナナ。とても興味深い話のようだ。

「そう、奥義。とは言っても実はもう使えはするのだけれども、あまりにも強力過ぎて行き過ぎた技だからさ、
全然練習はしていなかったんだよね。だから上手に制御は出来ないし技を出すまでも時間が掛かる。隙も凄いの。
要するに実戦では使えない状態。
でも前に戦った石造りの魔法生物の時にそれじゃいけないなと感じていてさ、時折練習をしていたのだけれども
やっぱり集中して出来ていないから実らなくってね」

「ひょっとして、時折宿屋でやっていた構えってそれです?」
「そそ。だからこの際、ここで集中的に練習してモノにしてみようかなと。
レドベージュの言う通り、身のこなしの様な物は数年かけてようやく身につくものだけど、
中途半端に出来ている事を上手くできるようにする事なら数週間で大丈夫かなと思うんだよね。
幸い、修練鳥に対する身のこなしは大丈夫そうだし、守護者に対しても数発当てられたから
とりあえず強力な一撃を極める事でどうにか出来る気がするんだよね」

「強力な一撃・・・か」
レドベージュがその一言に反応すると、苦笑いを見せる湖張。
「とは言っても天将様のお眼鏡に叶うかどうかは分からないよ?」
「そんなことは無いさ。自信を持って取り掛かるが良い」

その言葉を聞くなり壁を見つめる湖張。そしてウンバボに問いかける。
「あの壁って頑丈に出来ているんだよね?鳥に襲われると集中できないからここで技の練習をしたいのだけれども、
的としてあの壁を使って平気かな?」
そう問われると、ウンバボは天井を見上げて指をパチンと一つ鳴らす。
「それなら良いのがある」
その言葉を話し終えるなり、天井に穴が開いてそこから岩で出来ているような外見の人形が一体だけ降ってきて
壁から少し離れた位置で自立している。

「これは技の練習をする時に使う練習相手。
魔法の的にするのにも有効」
「丈夫?」
「大丈夫」

その言葉を聞くなり、ジッと的を見つめる湖張。
そして深く息を吐いた後に両手を前方に突き出し、集中をし始める。
そしてしばらくした後に両手を胸元まで引き戻し交差させて、またしばらく力を溜めているかのように集中をして
今度は腰のあたりまで両手を引く。
そして強く息を吐いた後に目の前の的を強く見つめ、一気に両手を前方に突き出す。

「覇王爆炎弾!」
彼女が技の名前を発した後、
直径5m程の白い球体が炎の様な赤い色をした煙を纏って飛び出し、的を包み込むように飲み込み、更には貫通して壁に直撃をする。
すると巨大な炎の玉が勢いよく破裂をしたような光景を目にしたと思うと、強い光が炸裂し周囲に広がっていく。
そして一瞬遅れてから近場に雷が発生したかのような激しい爆音が体全体に伝わってくる頃には、
周囲が発せられた光によって明るく照らされていた。
当然のように強い爆風が周囲を襲い、頑丈とされていた壁は洞窟ごと強い振動を伝える。
一瞬の出来事ではあったのだが、スローモーションでゆっくりとそれらの光景が目に入ってくる感じがし、何が起こったのか分からない状況であった。

「・・・これまた凄いものを秘めていたのだな」
爆風が収まった後にそう呟くレドベージュ。その直後、ラナナは力が抜けたようにその場に座り込んでしまう。
「すごい」
腰が抜けた様子でラナナがそう呟くと、湖張は深くため息をつく。

「やっぱりコレは危ないよね。
それに全然ダメ。出すまでに時間もかかるしその後の隙も酷い。
さらには的の位置で爆発させないと駄目なのに壁まで貫通しちゃってる。
制御が全然出来ていないね」
そう言うなり足を揃えてしゃがみ込む湖張。息切れもしている。

「そしてこの疲労感。こりゃ長期戦かも」
「やっぱりお前、とんでもない」
そう言いながら魔法を掛けて体力を回復させるウンバボ。
「そんなことないよ。それよりあの的が凄いよ。壊れていないもん」
「あれは硬さを持った幻。魔法の防御壁みたいな物。
砕けてもすぐに元の形に戻せる」
「そうなんだ。ごめん、説明されても疲労で頭が回らないや」

「どうやら体力の使い方も制御できるようにする必要がありそうだな」
座り込む湖張に近づいてそう話しかけるレドベージュ。
「うん、そこも課題。ごめんレドベージュ、しばらく時間を頂戴」
「ああ、構わないさ」

その言葉を聞くなり、ウンバボの魔法も効いてきたのかスッと立ち上がる湖張。
そしてラナナに話しかける。

「ごめんラナナ、というわけでしばらくはこの技を練習させて。
きっとモノにして見せるから」
そう言うと笑顔で頷くラナナ。
「もちろんです。頑張ってくださいね!
それに私も実は一人で研究したい魔法があるんですよ」
「研究?」
そう返すと、ラナナはスカートについた砂埃を払いながら立ち上がり答える。

「はい、私は魔法学校で魔法の研究を頻繁に手伝わされていたのですが、
そのうちの一つが未完成でしたので、この際それを使えるようにしようかと」
「そんなのがあるの?」
「はい、戦略魔法エマシデンシと言いまして、まあ強力な魔法です」
「戦略魔法?」

聞きなれない言葉が出たのでそのまま返してしまう。
その言葉は湖張だけではなく、レドベージュも気になったようでジッとラナナを見つめている。
すると彼女は疑問に答えるかのように話し出す。

「例えば今の湖張姉さまの技ですが、物凄く強大な相手に対してはとても有効です。
巨大な魔物を相手にする時には有効打になると思います。
ですがここで、例えば千人の兵士を相手にする場合を考えてみてください。
今のように強力な魔法を放つと、確かに放たれた場所は甚大な被害を受けます。
しかしそれ以外の場所は無傷です。
そこでこのように一点に対して強力な攻撃を仕掛けるのではなく広範囲に、それこそ千人全員に対して
攻撃を仕掛ける魔法があったらどうでしょうか?」

「一騎当千というやつ?それは・・・敵には回したくないね」
ラナナの問いかけに湖張がそう答えると、頷くラナナ。
「そうです。そして一人で千人を制する事が出来る事は
個人個人の戦いだけではなく、戦場全体を動かすことが出来るとは思いませんか?
つまりそれは戦略に大いに関わってきます」

「つまり戦略として使っていけるほど強力な魔法という事か?」
レドベージュが確認を取ると、頷くラナナ。

「はい、その通りです。点ではなく面という広範囲に影響を及ぼす事で戦略に組み込む事を目的としています。
とはいったものの結局千人を倒す魔法ですから、魔法を放たれた点にも甚大な被害を与えてしまいますけどね」
「その研究をラナナはしようと考えているの?」
「はい、というのもこの研究をしていて、あともう少しで完成というところで私の先生が見聞を広める旅に出ろとおっしゃられたので
完成しないまま今に至るというわけです。
元々は私の研究ではなかったので別に良いかなと思ってはいたのですが、
私も強くなる必要があると思いましたので、良い機会ですからこの間に完成させてしまおうかなと。
湖張姉さまが点の力を強化するのでしたら、私は面の力を強化します。
ウンバボさんは私たちの仲の良さを指摘されていましたが、
それは長所でもあります。湖張姉さまと私。そしてレドベージュとで力を合わせた時
もっともっと強くなれるための準備を私はしようと思います」

その言葉を聞くなり、湖張は笑顔を見せる。
「そっか。そうだね。分かった、お互いに頑張ろう!」
「はい。恐らくこのエマシデンシで修練鳥も一人で倒せるようになると思います。
魔法での攻撃でもありますし、物理的な衝撃波でもありますので。
そして研究だけではなく、実際に魔法を放つ練習もしなくてはいけないのですが、
場所は外の光が入る運動場でやろうと思います。
同じ場所で魔法を放つと広範囲に影響を及ぼしますので湖張姉さまの邪魔になってしまいます。
それに室内ですと衝撃の逃げ道が無くて大変なことになりそうです。なので外に繋がっているので風圧はそっちに逃げるかなと。
・・・ただ花壇が心配ですので一応防御壁は貼っておきますね」

「ふむ、では我が花壇を守る役に回ろう。ラナナはその魔法に集中すると良い」
花壇の話が出た途端、ウンバボが心配そうな表情を見せた事に気が付いたのか、レドベージュが名乗りを上げる。
「すみません、お願いできますか?レドベージュが見ていてくださると安心です」
「いや、構わんさ。それに我もラナナの魔法がどういう物か気になるからな」
そう言うなりレドベージュは次にウンバボに向かって話しかける。

「すまないがウンバボは湖張を見ていてはくれまいか?
暫くは体力を使い切ってしまい、お主の回復魔法が必要であろう」
「分かりました。ウンバボこの娘見てる」

「それじゃあ湖張姉さま、早速次にやる事に取り掛かります。
とりあえずお昼休みに食堂でお待ちしていますね。
お互いに頑張りましょう!」
やる気に満ちた表情でラナナがエールを送るように話しかけてくる。
それに反応をするように湖張は笑顔で「頑張ろうね」と返す。
そして彼女が修練場を後にする姿を確認するなり、湖張は再び技の練習を始めるのであった。

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