ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第七十三話【温泉での一時】

           

「熱いー。でもそこが心地良いですね」
広い温泉の隅で並んで浸かる湖張とラナナ。
この世の幸せを噛みしめているような表情でラナナが言うと、湖張は高い天井を見つめながら答える。
「そうだね、少し熱めだけど良い感じだよね。
疲れもしっかり取れそうだよ」
「まさか修練に来たのに観光の延長のような事も出来るとは思いませんでした」
「だねー。こんなに広い温泉を独占なんて、とんだ贅沢だよ」

「そう言えば痛めた左手はどうですか?」
ラナナの問いかけに反応するかのように湖張は湯の中で左手を右手で押さえる。

「ああ、全然大丈夫だよ」
「本当ですか?ちゃんと処置をしないとアザになっちゃいます。見せてください」
そういうなり湖張の左手を掴んで自分の目の前に引き寄せるラナナ。

「大丈夫だって」
まじまじと手を見つめるラナナに苦笑いを見せる湖張。
「本当ですね。何の問題も無さそうです」
「大体さっきまで治療の魔法をずっと練習していたんだよ?
過剰に回復させちゃったくらいだよ」
「それもそうですよね・・・それにしても湖張姉さまの手ってその・・・とても綺麗ですよね」
「・・・うん?」

突然何を言い出すのかと思い、不安そうな笑顔で様子を窺う湖張。するとラナナは手をいじりながら話を続ける。
「あの、これって偏見なのかもしれませんが格闘家の方って手がとても逞しいイメージがあったのですが、
湖張姉さまの手ってとても優しい手なので驚いたというか」
「あーそういう事か」
ラナナの話を聞くと手を託したまま、再び天井を見上げる湖張。
「そうなんだよね。実は私って傷の治りが早いんだけどさ、その延長なのか手も荒れたりしないんだよね。
いくら拳を鍛えて傷つけてもすぐに治ってこのままだし、炊事や洗濯をしてもこのままなんだよね」
「そうなんですか・・・羨ましい限りです」
「そう?」
「そうですよ!乙女としては最高じゃないですか!」
「あはは、乙女ねえ。私はそんな柄じゃ無いよ」
「そんな事は無いと思いますけど」
「そう?」
「そうです」
「でも今の私は、あの鳥をどうしようかという事ばかり考えている女よ?」
「あーあの鳥ですねー」

急に現実に引き戻すような事を湖張が言うので、遠い目をするラナナ。
「あの鳥は厄介でしたよね。どうやって対処しましょうか」
「そうだね、レドベージュやウンバボの話だと、効果のある攻撃がそれぞれ違うってことだよね?
だからまずはそこを見極める方法を見つけてみようと思う。
最後に実験としてラナナにもサンダークロスを撃ってもらったでしょ?
あれでも私の魔法と同じ効果だったから、術者によって効く効かないは分かれないって判断できると思うの。
それにサンダークロスが効かなかった相手でもラナナの炎の魔法は効いたのもいるし、
最後のメガトンだって効いたじゃない?だから魔法全般がダメだったわけでも無いと思うんだ」

「あの間に、そこまで考察されてたんですね」
湖張の分析を聞いて少し驚いた顔を見せるラナナ。
「戦いの事になると妙に頭が回っちゃってね。乙女らしく無いでしょう?」
「そんな事ないですよ。カッコイイ乙女もアリですよ」
「あはは、なんじゃそりゃ」

軽く笑いながら手を自分の下に戻す湖張。
そして少し黙った後に、話を始める。

「私にはさ、兄弟子って言うのかな?お爺ちゃんに幼い頃から弟子入りしていて、私より先に芭蕉心拳を習っていた先輩がいたんだよね。
兄弟子は体がとても大きくって純粋な力比べでは絶対に勝てないと思ったんだよね。
そうしたらさ、世の中には自分より力が強い人はたくさんいるからそれより強くなれないのかという考えに繋がったのだけれども、
それはそれで違うとも思ったの。やり方次第では勝てるんじゃないかって。
実際のところ戦いって力だけじゃないじゃない?私の芭蕉心拳だって力を技で制する部分が多いし。
だから常に戦いの場では創意工夫をする癖をつけたんだよね。その結果かな?」

「そうだったのですか?」
「うん」
「・・・ちなみにその兄弟子さんって今はどうされているのです?」
何気なく兄弟子について尋ねるラナナ。すると湖張は気まずそうな顔を見せる。

「あー・・・」
「?」
「えっと実はさ、師匠であるお爺ちゃんに兄弟子との勝負は禁じられていたんだよね。
二人とも本気で勝負をしたら無事では済まないって言われていて。
でもさ、兄弟子も白黒つけたかったのかな?
昨年勝負を挑まれてね、私も腕試しがしたい相手だったからコッソリ勝負したのよ」
「ええ」
興味津々でジッと見つめるラナナ。その視線を横目で確認した後両手で膝を抱え込んで丸まり、
うつむきながら答える湖張。

「10秒で倒しちゃった・・・」
「一撃です?」
「・・・うん」
「それはそれは・・・」

「いやね、兄弟子は本当に凄い人だったんだよ。
お爺ちゃんも100年に一人の逸材って周囲に言うほどに。
私も兄弟子は凄いって思っていた。
でもさ、一緒に修行をしているうちに兄弟子の動きやクセが見慣れてきちゃってさ。
それに常にどうやって倒すかを考えていた部分もあったから・・・」

落ち込むような雰囲気の湖張。
更に聞いて大丈夫なのか不安であったが、好奇心も止まらないので更に話を続けるラナナ。

「それで、その兄弟子さんはどうなったのです?」
「・・・出ていっちゃった」
「え?」
「本当は芭蕉心拳を継承して村で弟子を育てる予定だったんだけどさ、私に一撃で敗れたことが切っ掛けと言うか原因になっちゃってね・・・。
そしてまだまだ未熟だから外で鍛えてくると言い残して出ていっちゃったんだよね・・・」

「あー・・・」
「そしてお爺ちゃんに滅茶苦茶怒られた」
「あー、あはははは」
苦い笑いのラナナを見ると、同じような表情を見せる湖張。
「もう参っちゃうよね。何も出ていく事ないじゃない。まるで私が悪者だよ」
「そんな事は無いですよ」
「そうかな?」
「そうですよ。そこで湖張姉さまが悪いと言うのでしたら、私だって同じようなものです。
私も魔法学校に最年少で入って色々成果を出していたら、何人もの私より年上の人たちが暗い顔になってしまいました
私自身は悪気は無かったのですが、周りにそうされると結構心にくるものがありますよね」
「あー、うん。多分それと同じ気持ちかも」

そこで話が一度止まると、深呼吸をする湖張。
「まあ過ぎた事は仕方ないよね。今は目の前の事に集中しよう。
明日はまず色々な魔法を試してみよう。多分全部の鳥に効果的な魔法は無いだろうけど
複数の魔法を交互に撃つことで効果的で有利に戦いを勧められると思うんだ。
だからその魔法の組み合わせを探してみよう」
「そうですね、分かりました。色々な種類の魔法を練習がてら使ってみます」

熱い湯にずっと浸かっていたので顔を真っ赤にして答えるラナナ。
そろそろ上がらないとのぼせそうだと感じたので、会話はここで止めることにした。

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