ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第六十六話【移動中の一幕】

           

「トーン、テテテテトン・・・ですよね?」
歩きながら独り言なのか湖張やレドベージュに話しかけたのか分かりづらい声で呟くラナナ。
それに反応してゆっくりと彼女に顔を向ける二人。

かれこれあれから1週間程が経過し、現在の一行は更に東の方角に向かって移動中である。
メーサ神の聖槍に触れ研究を始めてからというもの、ラナナは暇さえあれば槍に掛かっていた魔法について考え事をしていた。
旅をしながらであったので、一か所に留まりじっくりと腰を据えて研究は出来なかったが、
それでも少しでも時間があれば今のように考え込む事を繰り返していた。

「うん、そうなんだけどさ・・・大丈夫?ラナナ」
それまでは湖張によく話しかけてきたラナナなのだが、今では四六時中考え事をしており、独り言も多くなってきているので
心配そうに尋ねる湖張。すると彼女は不思議そうな顔をする。
「大丈夫・・・ですか?どうかしました?」
「いや、何かずっと考え事をしているからさ。根を詰め過ぎているんじゃないかなって」
「あー」
苦笑いを見せながら頭を掻くラナナ。そして深呼吸を一つする。

「大丈夫ですよ。何か久々に難しい問題にぶつかったので、どうしても考える事を続けちゃうんですよね」
心配をかけて申し訳なさそうな雰囲気を見せるラナナ。しかし直ぐに安心させるような明るい笑顔を見せる。
「でもまあ意外と楽しんでやっている部分が大半ですので、心配ご無用です!」
握りこぶしを胸元に掲げ、大丈夫な様子をアピールする素振りを見ると、腰を手に当てて一つため息をつく湖張。

「なら良いけどさ、あまり無理をしちゃ駄目だよ」
「ははは、ありがとうございます。でもそう言う湖張姉さまも宿屋でのゆっくりする時間はサンプルの皮を手に取って色々試しているじゃないですか。湖張姉さまも同じですよ」
人差し指を立ててラナナがそう返すと、今度は湖張が頭をかいて苦笑いをする。

「あー・・・実はあれ、魔法の研究をしているわけじゃないんだよね」
「そうなのですか?」
「うん、私がやっている事は皮膚を柔らかくする魔法を研究しているんじゃなくて、
硬い皮膚を打ち破る方法を考えているの。要するに力ずくで解決する方法の研究だよ」
「力ずく・・・ですか?」
「そう。まあ知性的な発想じゃないけれども、何かコツを組み込むだけで対処できないかなと思ってね。
でもまあ硬い皮膚を打ち破る方法を考えているという意味では、一応は魔法の研究でもあるのかな?」
「そうだったのですか。それで何か分かりましたか?」
「それがさっぱり!期待していた物は見つからなかったよ」
「期待していた物ですか?」
「うん・・・例えばさ、木の板を割る時って木目が重要なのね。
木目をしっかり把握していると、割と簡単に割れちゃうんだよね。
それと同じようにあの皮膚にも木目と同じような弱点じゃないけど、弱い部分が無いかなと思ったんだけれども、全くないわ」

「ふむ、でもその着眼点は悪くないかもしれぬな」
話を聞いていたレドベージュがそう言うと、キョトンとした表情を見せる湖張。
「そうなの?」
「うむ、湖張が言う様に皮膚には弱点が無いかもしれぬが、体全体で見るとどこかしら弱い部分があるかもしれぬ」
「俗にいう急所かな?」
「そうなるな」
「そうだよね、動いているという事は間接に近い部分がそんなに硬いはずは無いから、そこを突くべきだよね」
「ふむ、そうなるとその部分もサンプルとして回収するべきであったな。失敗だ」
「まあ今となっては仕方がないよ。それに動いている相手の関節を狙うのは結構難しいから実践で使えるかどうかという問題もあるし」
「確かにそうでもあるな。だが皮膚を柔らかくしなくても対処できる方法として試してみる価値はあるな」

「あーまたあの魔物現れないかな」
とりあえず関節部分の実験をしてみたいと思ったのでそうぼやく湖張。するとラナナもそれに続く。
「あーさらに騎士達もやって来て槍を落としてほしいですー。
今度はそのまま押収しますー。やっぱり槍が無いと解析が難しいですー」

「これこれ、馬鹿な事を言うでない」
二人の発言を受け、レドベージュが呆れた様子で窘める。
「はーい」
気の無い返事をする二人。そんなこんなで間の抜けた雰囲気のまま一行は本日の宿泊地である湖沿いの町に辿り着くのであった。

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