ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第七話【作られた魔物】

           

茂みから姿を現したのは水牛のような黒い角を持った全長が3mほどある大型の獅子のような魔物であった。
薄茶色の毛で覆われた体に、赤い瞳を持った容姿は異端の魔物という雰囲気を醸し出している。

「これが作られた魔物なの?」
レドベージュに湖張がそう尋ねると、鞘から剣を取り出しながら答えが返ってくる。
「ああ、そのようだ。聞いていた特徴と合致する」
「この笛はさ、完成品じゃないって言っていたけど、やっぱり魔物を呼び寄せるしかできないの?」
「そのようだ。制御は全く出来ない未完成品らしい」
「だから逃げ出したのかな」
「そうだろうな」

二人は視線を魔物に向けながら会話をする。
その間にスッと覇王の団扇を右手に持つ湖張。

「あのさ、他に事前情報は無いの?」
魔物がこちらに警戒をして睨みを利かしている間に少しでも情報を集めようとする湖張。
「そうだな・・・あと研究者の話を聞くと、あの魔物は治癒能力が高いらしい」
「治癒能力?どういう事?」
「あの男が言うには・・・来るぞ!!」

レドベージュが話している途中で魔物が猛スピードで突進をしてくる。
二人は左右に飛び散って避けると、魔物は湖張の方向に体を急旋回させる。
そして首を強く下から上に振り上げる。するとあろうことか魔物の角が抜けて、一直線に飛んできた。

「!?」
咄嗟の事で避けることは出来なかったが、団扇を広げるようにし盾にして角を防ぐ湖張。
「何これ!?こんなのありなの!?」
団扇に防がれ落下し、足元に転がる魔物の角。

「大丈夫か!?」
レドベージュが駆け寄りながら大きめの声をかけると湖張はうなずく。
「大丈夫。見た目は大きいけど、大した衝撃は無かった。見掛け倒しだよ」

「・・・いや、そんな事はなさそうだ。この角をまともに受けたら、重症だろうな」
角を横目で見ながらそう伝えるレドベージュ。
「そうかな?そんなに防いだ衝撃は無かったけど」
「それはその団扇で防いだからだ。
特殊な魔法が掛かっているから、衝撃を緩和しているのだ。攻撃にも防御にも使えると聞いてはいないのか?」

「・・・そういえば、あらゆる攻撃を防ぐ防具でもあるって言ってたな」
「そういう事だ。・・・っと、そうこうしている間にこれはこれは・・・ふむ、これは驚いたな」
「嘘でしょ!?」

湖張とのやり取りをしている最中、角を飛ばしたので頭から凶器がなくなった魔物の頭から
新しい角がゆっくりではあったが、生えてきている。

「これが治癒能力が高いという事なの?」
「そうなのかもしれん。・・・だが原理を聞くとこれだけではない気もするが」
「どういう事?・・・って避けて!!」

そうこうしている間に魔物の角が生え変わり、再び突進をしてくる。
湖張は先ほどと同様に横に避ける。
「斬!」
一方レドベージュは突進をかわすと同時に、魔物の横腹に斬撃を一撃与える。
魔物の血が飛び散るが魔物の勢いは止まらず、避けた二人の間を通り過ぎて5メートルほど先で体を急旋回させ停止する。

確かな手ごたえもあり、決して浅くはない傷を与えたはずではあったが、戦意は失っていない様子であった。
「今、ちゃんと斬りつけたよね?実際けっこうな血が流れてはいるけど何かまだ元気じゃない?」
「ああ、手ごたえはあった。だが・・・やはりそういう事か」
「嘘でしょ?」

全身が毛に覆われているので判りづらくはあるが、レドベージュが付けた傷口がみるみる塞がっている様子が目に付く。そして出血も止まっている様子だった。

「治癒力が高いってこういう事なの?」
「うむ、その様だな。原理としては体の中に治癒魔法の発動具を仕込んでいるようでな。
体が傷つくと回復魔法が発動し傷を癒す仕組みになっているらしい」
「そういう事なんだ・・・」

「さて、どうするかな」
再びにらみ合いに入る中レドベージュがそう呟くと、湖張は一歩前へ出る。
「私に考えがある、ちょっとやってみて良い?」
「・・・良かろう」

すると手を魔物に向けてかざす湖張。一呼吸置いた後に彼女の掌が光り出す。
「サンダーボルト!」
湖張の掌から発生した稲妻が魔物に向かって突き刺さる。

ピースキーパー赤き聖者007話

「はああああああああ!!」
声を出して魔法を打ち続ける湖張。
その姿をジッと見つめるレドベージュ。

「・・・7、8、9、10。随分と長いな」
数を7から声を出して数えるレドベージュ。そして湖張の雷撃は10を数え終わる頃に終息をした。
その結果、魔物の表面は黒く焦げたようになり、足元がおぼつかずよろけている。

「斬ってもすぐ回復するなら、魔法で常に傷つけ続ければ大丈夫じゃないかなと思ったんだけど・・・」
湖張が呼吸を整えつつ、そう言いながらレドベージュに歩いて近づいてくる。
通常であれば、一瞬雷撃が貫通するだけの魔法を10秒ほど浴びせ続けたが、完全に倒すことが出来なかった。
「中々無理をするのだな。だが考え方は悪くない。しかしな・・・」
「やっぱりダメか」

先ほどまでよろけていた魔物だったが、瞬く間にしっかりとした様子に戻っていく。
その様子を確認すると、改めて身構える湖張。
「さて、どうしようかな」
湖張がそう呟くと、今度はレドベージュが一歩前へ出る。

「今度は我が試そう。ただ湖張よ、隙があればお前も攻撃に転じるのだぞ?」
「分かった」
そうやり取りすると、レドベージュは剣先を魔物に向け、突き刺すような構えをとる。

「天技 天将連重突!」
その場で高速の突きを繰り出したかと思ったら、5メートル先の魔物のいたる所から大量の血しぶきが吹き上がる。どうやらレドベージュは瞬く間に遠く離れた魔物に対して数十回の突きを浴びせていたようである。

「今だ、湖張!」
レドベージュがそう合図すると、湖張は高く飛び上がり、魔物に向かって覇王の団扇を使い縦に斬りかかる。
「はああああ!」

湖張は魔物の頭を縦方向に切りつけたつもりであった。
しかし実際は魔物の体が縦方向に真っ二つに割れてしまった。
更には魔物が立っていた地面までにも巨大な溝を作ってしまった。

「・・・うそ?」
「中々の切れ味だな」
予想外の切れ方に戸惑う湖張。
その様子を確認するとレドベージュはゆっくりと剣を鞘にしまった。

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