ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第六十二話【予想外な魔物の群】

           

町の男衆はそれぞれが武器となりそうなものを持って街の外を目指している。
非戦闘員だとも思えるのだが、団結して町を守ろうという共通の意識があるのかもしれない。
その表情は臆することがなく、勇敢な雰囲気を醸し出している。

しかしながら戦い慣れているかどうかは分からないので、かえって被害が広がらないかという点が心配でもある。
なのでなるべくなら自分たちが先頭に立って対処したいとも思えてくる。
そう考えながら男衆の後を追って町の外に出ると、武器を構えて町の入り口で魔物を待ち構えている姿が目に入ってくる。
しかし彼らの視線の先にある魔物は話に聞いていた大きな鳥の魔物ではなく、信じられないものであった。

「嘘でしょ?」
驚きを隠せない湖張。というのも、迫ってきている魔物とは先ほど話に出ていたロダックではなく、
宴会の村で遭遇した硬い魔物であり、しかもその数が30匹ほどの群であったからだ。

「あの魔物は?」
見たことが無い魔物であったがため、不思議そうにレドベージュに問いかけるラナナ。
「何度か話に出ているメーサ教が絡んでいると思われる硬い魔物だ」
「え!?」
レドベージュの解説を聞くと驚いて再度魔物を見つめるラナナ。
「何であんなにいるのよ?」
そう言いながら覇王の団扇を右手に取る湖張。

と、その時であった。町人達が急に勇ましい大声を上げる。

「行くぞ皆!町を、家族を守るんだ!!」
「うおおおおお!」
その声を合図に、一斉に魔物に向かい始める男衆。その様子に湖張たちは戸惑う。

「しまった、遅かった!?」
出遅れてしまい慌てる湖張。そうこうしている間に町の前まで来ていた魔物の群と男衆は
乱戦状態になってしまう。

「どうしましょう、こうなってしまっては下手に魔法を撃つと町の人達に当たりかねません」
「むう、だからと言って指をくわえて見ているだけともいくまい。
ラナナはここで怪我人の手当てを頼めるか?」
戸惑うラナナにそう指示を出すと、湖張に顔を向けるレドベージュ。

「行くぞ湖張。なるべく被害を最小限にするのだ!」
「分かった!」
そう言うなり乱戦の場に駆け寄る二人。
そして近づくにつれて、町人達が苦戦している様が伝わってくる。

「クソ、なんて硬さだ!?全く歯が立たない!」
「ハンマーで殴っても駄目だ!」
「二人やられた!運び出してくれ!!」

戦闘が始まって間もないというのに、早くも押されている町人達。
最初に遭遇した時と同様にそこまで危険な攻撃はしてきていない様子だが、
それでも体当たりをされて動けなくなっている人もいるようだ。
打ち所が悪い場合は最悪のケースも想定できる。

「離れて!」
大きな声を発しながら町人に突進を仕掛けている魔物の横方向から斬りかかる湖張。
上から下に向けて渾身の力を込めて首を狙おうとするが、
また何かが破裂しそうになるかもしれないという事が頭を過ると、思い切りとはいかなかった。
その結果、石造りの魔法生物を真っ二つにした時と同じようにとはいかなかったが、何とか魔物の首を落とす事は出来た。

(斬れた・・・けど!)

手応えはあったものの、周囲からまだ敵意のような気配を感じ取り振り返る湖張。
すると近くにいた他の魔物が湖張に向かって突進を仕掛けてきている事に気が付く。
そして右足で迫り来る魔物の横顔を蹴り払うが、魔物には効果が無く突進が止まることは無かった。

「やっぱり硬い!」
突進して頭突きをしてくる魔物の頭を上から押さえつけるように左手をついて逆立ちをするかのように、
ヒラリと体を上空に逃がし躱す湖張。
そして魔物が通り過ぎる頃には着地をし、今の魔物に斬りかかる。

しかし今度の一撃は力を込めるよりも当てることを重要視させたので、
傷を付ける程度で先ほどのように仕留める事は出来なかった。
(やっぱり浅かった!?)
そう感じていると、横方向からレドベージュが突進してきて魔物の横腹に剣を突き立てる。

「むう、やはり硬いな。踏み込みが甘いとこれだ」
そうぼやくレドベージュ。というのも彼の剣は先端の方しか刺さってはいなかった。
「滅!」
レドベージュがそう唱えると彼の剣は一瞬だけ黄色く光る。
そして剣を勢いよく抜くと、傷口から眩い光が放たれ魔物はゆっくりと倒れこんだ。

「レドベー・・・レッド君!」
周囲に人が大勢いる中で危うくレドベージュと呼びそうにはなったが、何とか修正して駆け寄る湖張。
「一撃ずつを丁寧に放てば斬れるが、そうでなければやはり硬いな」
「そうだね」
「だがこの数・・・そしてこの人々を庇いながらとなると骨が折れるな」
「どうしよう、意外と大変だよ」

魔物の殺傷能力は低いものの、一匹でさえも倒すのに苦労をする。
それでいてこの数である。更には人々も入り混じっていて庇いながらとなると、どうしようもない状況なのではないかとも思えてくる。
最適解が見い出せないので変な焦りも感じ始めてくる。

「せめて町人たちだけでも引いてくれればやりようはあるのだが」
そうぼやくレドベージュ。確かにこの状態だとラナナが参戦出来ない事もあるし、
巻き込みが怖いので自分たちも激しい技を繰り出せないもどかしさもある。

と、その時であった。離れたところから馬が駆け寄る音が聞こえたような気がすると思うと、
紺色の鎧を着た騎馬兵が三騎、駆け寄ってくる姿が目に入る。
それは紛れもなくメーサ教の騎士であった。

「あの人たち!?」
その姿に驚く湖張。しかし彼女の表情には気付くことは無く、メーサ教の騎士は馬上の高い位置から白い粉を戦場に巻き散らす。

「何だこれは!?」
所々で光を放つ粉を見るなり混乱状態になる町人達。
しかしそれは魔物たちも同じようで、今まで突進を繰り返していた魔物たちは粉が舞うところから急いで飛び出して離れ始める。

「え?どういう事!?」
突然の事で湖張も同様に戸惑い、その場で立ち尽くす。するとメーサ教の騎士は大声で全員に話始める。

「皆さん、今のうちに一度下がってください!このままでは危険です!早く!!」
その声を全員が聞くと最初は動きが鈍かったが、徐々に人々が町の入り口まで後退し始める。
「湖張、ここは一度下がるぞ」
湖張の袖を引っ張ってレドベージュがそう言うと、無言でうなずく湖張。そして町人に紛れて町の入り口まで後退をする。
そしてメーサ教の騎士は町人たちと魔物との間に入るような位置取りを取ると、再び町人たちに対して話を始める。

「皆さん、聞いてください。
我々はメーサ教の騎士で、ありとあらゆるこの世の脅威と戦っております。
そして目の前の魔物は新種の魔物でご存じの通り大変硬いです。なので我々だけでは太刀打ちできません!
そこで皆さんの力を貸してほしいのです。
我らがメーサ教の神、メーサ神に祈りを捧げてください!
その祈りが届けば我々に奇跡の力が宿り、魔物たちを成敗できるでしょう!
しっかりと祈らなくても大丈夫です!
我らがメーサ神は寛大なお方です。頭にぼんやりと魔物を倒してほしいと願うだけでも大丈夫です!
きっと我々に力を貸してくださるでしょう!!」

「・・・何を言っているの?」
言っている事が良く理解できずに固まってしまう湖張。
「良く見ておくのだ湖張。我らが見たかった光景かもしれないぞ」
隣でレドベージュは冷静にそう言うと、メーサ教の騎士は空を仰ぎ再び声を発する。

「おお、感じます!皆様が心のどこかでメーサ神を信じてくださったのでしょう。
祈りの力を感じます!メーサ神の力を感じます!!」

「え?」
更に理解不能な様子の湖張。
「ふむ・・・とんだ茶番だが、この状況だと誰かが心の中で願ったと言い張ってしまえば否定も出来まい」

「いくぞ、メーサ教の騎士達よ!私に続け!!」
力を感じたと宣言した騎士が合図をすると、三人の騎士達は長く細身の槍を構えて魔物の群に突き進む。
そして次の瞬間、信じられない光景が目の前に繰り広げられることとなった。

というのも、先ほどまで硬くて苦戦をしていた魔物を槍で簡単に仕留め始めたのである。
それこそ昨日、食堂で聞いたやわらかいパンをフォークで刺すような感じである。
そして次から次へとメーサ教の騎士達は魔物を処理し始めて、あっという間に全てを討伐してしまった。

「・・・嘘でしょ?」
あまりにも信じられない光景が目の前で繰り広げられたので、湖張は唖然としてしまう。
「どういう事でしょうか?あんなにも簡単に倒せるものなのでしょうか?」
自分は直接戦っていなかったものの、湖張とレドベージュですら手に焼いていた姿を見ていた中での出来事だったので、
湖張の横で疑問を抱くラナナ。
「ふむ、これは何かカラクリがあると見た方が良さそうだな」
「カラクリ・・・ですか?」
隣でそう発言するレドベージュに確認を取るような質問をするラナナ。

「うむ、でなければこんな簡単に鎮圧は出来まい」
「ひょっとしたら最初に撒いた光る粉かな?」
湖張が横から考えを言うと、頷くレドベージュ。
「うむ、その可能性はあるな。しかし他の理由もあるかもしれぬ。
我としては、あの槍が少々気がかりではあるな」
「槍が?」
「うむ、と言うのも粉だが我らも浴びたが特に影響は出ていないではないか?
なのであれは単なる魔物除けの粉に光る演出を加えただけな様な気もするのだ」
「そうなの?」
「いや、確定では無いぞ?ただそんな気がするだけだ。
なので様々な可能性を探るために怪しい物は全て調べてみたいというのがあるな」
「なるほどね。そうしたらどうにかして、あの槍を手に取ってみないとね」
そう言ってメーサ教の騎士を見つめる湖張。そして目的の槍は騎士がしっかりと握っており
簡単には調査が出来そうにない雰囲気を感じると、思わずため息が出てしまった。

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