ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第五十八話【石造りの魔法生物】
- 2020.11.20
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
「あの、今日は遠距離から一斉に魔法を放ちませんか?」
後方からゆっくりと近づく最中、ラナナが小声で話しかけてくる。
それは目標までの距離が50mといったところでの事であった。
魔法生物は話通り4m程の大きさで、確かに石でできている様子だ
ただ、想像していた姿は大きな岩を組み合わせて人型にしたようなものだったのだが、
実際に目の前にいるのはレンガの様な均一の直方体の石を丁寧に積み重ねて作り上げた、
いかにも人の手によるものと判断できるものであった。
頑丈そうであり、重量も凄そうな巨体がゆっくりと歩いている姿を見ると、触れられるだけで大怪我をしそうな雰囲気もある。
ラナナが不用意に近づかない方が良い流れにしようとした事も納得ができる。
「そうだね、まずはそうしよう。見るからに誰かが作った感じもするし、
どんな行動を取るのかちょっと予想がつかないよね」
「うむ、そうするとしよう。今日は戦いの練習は無しの方向だな」
そう決まるとラナナは一度手を魔法生物にかざし、狙いを定める。しかしその場では魔法を撃たずに手を下ろし、二人に提案をする。
「流石にこの距離は遠いですね。狙うのも難しいですし、減衰して威力も下がりそうです。
20m程まで近づきましょうか?」
その提案に頷く湖張。
「そうだね、それが良いと思う。ただそこまで近づく間に気づかれないかな?」
「うむ、どのくらいで反応されるかが分からないな。なるべくなら奇襲をかけたいので気付かれたくないというのが本音ではあるな」
「それでしたら大丈夫ですよ」
そう言った後に、三人の足元に緑色の光の粒を広げるラナナ。飛び上がりの魔法を三人に掛けだした。
「ふむ、飛び上がり一気に間合いを詰めてからすかさず攻撃という事か」
「はい」
「良いね、その戦法。そうしたら私は右に着地するね」
「では私は左側に」
「すると我は真ん中に着地か。良かろう」
そのように打ち合わせると、屈んで飛び上がる姿勢を取る三人。
「レドベージュ、合図して」
「そういうものは湖張の役目であろう?」
「いつからそうなったのよ?真ん中に着地するのだからレドベージュだよ」
「まあ良かろう。・・・行くぞ!」
その掛け声と共に飛び上がる三人。ラナナが丁度良い位置に着地できるよう調整したようで、
予定通りの位置に降り立つ事が出来た。
そして間髪入れずに各々が最速で発動できる魔法を放つ。
「いっけー!」
湖張が放った白く巨大な光弾が魔法生物に向かって突き進む。
同様にレドベージュも赤い光弾を放ち、ラナナは緑色の光線を3秒間ほど放ち続けた。
瞬く間の出来事だったため魔法生物は気づく間もなく、魔法はそのまま背中に向かって突き進んでいく。
そしてそのまま奇襲は成功するかに思えた。
しかし着弾するかと思われた瞬間、魔法生物の周囲に赤み掛かった半透明の防壁が発生し魔法を全て防ぎきってしまった。
「う・・・そ?」
驚いた表情を見せる湖張。
威力より速度を優先した魔法ではあったのだが決して弱い威力ではなく、この様な防ぎ方をされる事は想定外であった。
そんなこんなで一同が驚いていると、半透明の防壁が倒壊した建物のように崩れ落ち粉々になっていく。
視界を遮るものが無くなったので、肝心の本体は無傷であることをはっきりと確認する事が出来た。
そして魔法生物はゆっくりと振り返り、不気味な雰囲気で三人を認識し始める。
「効果なかったようだね」
身構えながら湖張がそう呟くと、ラナナは急に光弾を一つ放ち魔法生物に攻撃を仕掛ける。
すると、魔法生物に命中し小さな爆発が発生するが、全く効果が無い様子であった。
「・・・いえ、効果はあったようです。
というのも、今は魔法が防がれなかったじゃないですか。
最初の攻撃で防壁を壊したと推測できます。恐らくは、もう先ほどの防壁は出せないのかもしれません」
ラナナがそう分析をするとレドベージュは感心したかのように話しかけてくる。
「ふむ、今のはそれをテストするための一撃であったか。流石だな」
「じゃあ魔法はもう効くという事?」
湖張がそう聞くと、頷くラナナ。
「はい、多分大丈夫です。ですが相手は石ですので何が効くのか考えながら魔法を放つ方が良さそうですね」
「分かった、そうしたら・・・うそー!?」
ラナナの分析を聞きつつ反応をしている最中、空高くから襲ってくる巨大な影が視界に入ってくる。
先ほどまで少し先にいた魔法生物が急に飛び上がって襲い掛かってきたのだ。
「みんな避けて!」
湖張の掛け声と共に、その場から飛んで避ける三人。
そしてその直後に空から降ってきた重い石の塊が元居た場所に大きな窪みを作る。
三人とも上手くかわしたのだが、瞬く間の出来事に驚きを隠せないでいる。
「覇王拳!」
攻撃の手を緩めるてはいけないと考え、2m程の距離から白い光弾を放つ湖張。
しかし魔法生物に命中はさせたものの、あまり効果は無い様子であった。
そして相手はそれに反応するように体を反転させて湖張を視認すると、右手で物凄い速さの突きを仕掛けてくる。
「湖張!」
レドベージュが注意の声を投げかけると、湖張は後方に飛び魔法生物の攻撃を避ける。
「ちょっと何よこれ!攻撃は無茶苦茶早いじゃない!!」
着地と同時にそうぼやく湖張。しかし言葉を発し終わる頃には、魔法生物は高速で飛び込んできていた。
「だーっもう!」
湖張はそう叫びながら魔法生物の突進を右方向に飛んで避けると、魔法生物の後方から魔法を放つ構えを取っている
ラナナの姿が目に入る。
「バスターピラー!」
彼女のか細い手から巨大な光の柱が放たれ魔法生物の背中に命中する。
すると目標は大きくよろけるが、決定打にはならない様子だ。
そして今度はラナナに目標を変える魔法生物。ゆっくりと彼女の方に体を向けてから、不気味な雰囲気で少し屈む。
「ラナナ避けて!」
大声で注意を促す湖張。そしてその声と同時に魔法生物は物凄い速さで飛び込んできてラナナに突進を仕掛ける。
するとラナナは上空へ飛び上がり突進をうまい具合にかわした。
「まだ近づかないで!」
上空に停滞したラナナがそう叫ぶと、空振りして着地をした魔法生物に狙いを定める。
そして20発近くの光弾を一斉に放ち、魔法生物に対して雨のような攻撃を降り注いだ。
すると数発は地面に当たったせいか大量の砂埃が舞い上がり、魔法生物の姿が見えなくなってしまった。
「だめ、危ない!」
空中で停滞するラナナを見るなり危険と判断した湖張は足元に緑色の光の粒を展開して、ラナナに向かって飛び上がる。
するとその直後、砂埃の中から抜け出すように魔法生物もラナナに向かって垂直に飛び上がってきた。
そしてみるみるラナナに近づいてくる魔法生物。虚を衝かれたラナナは一瞬の事であったので身動きが取れなかった。
「ラナナー!」
魔法生物が到達する直前に斜め下から飛び込んできた湖張はラナナを抱きしめて、そのまま突き進み魔法生物の突進をかわす。
「・・・危なかった」
またもや空振りをした魔法生物は上昇する勢いが途切れ、そのまま落下していく。
その様子を見ながら湖張がそう呟くとラナナは湖張の背中に手を回し、体をギュッと抱きしめる。
そして魔法を使って今の位置より更に上空にゆっくりと飛び上がっていく。
「すみません、助かりました。ここで一息入れましょう。闇雲に戦うより少し分析した方が良いです。レドベージュには悪いですけど」
5m程上昇したところでラナナがそう言うと頷く湖張。
「そうだね、今の流れはあっちにあるもんね。仕切り直した方が良いと思う。レドベージュには悪いけど」
そう言って下を見ると、着地した魔法生物と対峙しているレドベージュの姿が目に入る。
しかしそこで慌てることは無く、ゆっくりとラナナの両肩に軽く両手をのせる湖張。
「そして実は私、魔法で空も飛べるから手を放しても平気だよ」
その言葉を聞くと、ゆっくりと手の力を緩めるラナナ。そして1m程後方に下がり湖張の様子をジッと見つめる。
「そうですよね、手荷物も簡単に浮かせていましたし、浮遊の魔法が使えないわけないのですよね」
そう言うなり下を見るラナナ。すると魔法生物の攻撃を避けては魔法で攻撃をしているレドベージュの姿が目に入ってくる。
「さてと、困ったよね。あいつがあんなに高速で飛び回るなんて聞いてなかったよ。
それに魔法は当たるけど効いていない感じがする」
レドベージュの様子を見ながら湖張がそう言うと、ラナナも同様に地上の動向を観察しながら返事をする。
「はい、物凄く頑丈に作っているようです。もっと威力の高い攻撃を仕掛けないと駄目かもしれません」
その言葉を聞くと少し難しい顔をして考える湖張。
「威力の高い攻撃か・・・あーでもこの状況だとな」
「どうかしました?」
「実はさ、あるにはあるんだよね。その威力の高い技。
でもあまりにも威力が高いから、危険だと思えてあまり好きじゃないんだよね。
だから実戦で使ったことがないし、それ以前にほとんど練習もしなかったんだよね。
その結果、技を出すまでに隙もあるし時間もかかるの」
「・・・するとあんなに高速で飛び回る相手には難しい感じですか?」
「うん、ごめん」
申し訳なさそうに湖張がそう言うと、ラナナは首を横に振る。
「いえ、その気持ちわかります。私も強力な魔法は怖いですから。
でも今はそうは言っていられません。レドベージュも下で大変な思いをしていますし・・・なので私に考えがあります」
「考え?」
「はい、強力な衝撃を相手に与える魔法があるのですが、これから魔法生物に対してそれをぶつけようと思います。
ですが、ただ単に当てるだけでは今までと同じように効果が無い可能性があります。
そこで相手の突進を利用します。
あのもの凄い勢いの突進に対して真正面から魔法を放つと、衝撃の度合いが増すはずです」
「相手の勢いを利用するという事?」
「はい、それでどうやってこちらに突進させるかですが、今までの動きを見ると最後に攻撃を仕掛けた相手に対して
飛んでくる様な感じがします。なので軽く牽制で魔法を当てて突進を促せば良いのですが
残念ながら軽い魔法を撃ってから本命の一撃を放つ事は間に合いません。
そこで湖張姉さまは私の隣で牽制の魔法を撃ってください。そして相手が突進してきたところで私が本命を撃ちます」
「なるほどね・・・でもさ、もしその一撃で倒せなかったら、そのままラナナに飛んでくる可能性もあって危険だよ?」
「確かにそうかもしれませんが、それでも試す価値はあると思います」
「とは言ったもののやっぱり危険だと思・・・いや、そんなことないか?牽制を撃った後は私が隣でフリーなんだから
ラナナが魔法を撃ち終わったら今みたいに抱えて移動すれば良いんだ」
「あ、それでしたらリスクも軽減できますね」
「良し決まり!じゃあ早速やろうか!」
そう言って急いで下降をする二人。一方レドベージュは舞い上がる砂煙の中で懸命に魔法生物の攻撃を避け続けていた。
「ここら辺で大丈夫でしょうか?」
魔法生物から15m程離れた位置に着地する二人。
ラナナが位置関係を確認してくると、湖張は軽く頷く。
「うん、私は平気だけどラナナはどうなの?むしろそっちに合わせないといけないんじゃない?」
「大丈夫ですよ。むしろこのくらいが丁度良いくらいです」
そう言うと魔法生物に向かって両手をかざすラナナ。魔法を放つ姿勢を取り始めたようだ。
「湖張姉さまのタイミングで大丈夫です。私はいつでも行けます」
「オッケー。じゃあ最後に確認。ラナナの魔法は光線のように数秒間放ち続けるの?
それとも一発大きいのを放つだけ?」
「大きいのを一つだけです」
「分かった・・・じゃあ行くよ!」
そう伝えると湖張も片手を魔法生物にかざして魔法を撃つ姿勢を取る。
「レドベージュ、離れて!!」
大声でそう呼びかけるなり小さい光の弾を放つ湖張。
速く小さいその魔法は目標の背中に命中し小規模の爆発を起こした。
「何をする気だ!?」
湖張の声と小さな爆発音が聞こえたレドベージュは二人が何をしようとしているのかが分からなかったが、
とりあえず指示通りにその場から素早く離れ始める。
一方魔法生物は予定通り湖張に敵意を向けたようで、体を反転させてくる。
「来るよ、ラナナ」
湖張がそう言うなり猛スピードで飛んでくる魔法生物。そしてその動きに反応し、ラナナが魔法を放つ。
「メガトン!」
巨大な白銀の光がラナナの手から解き放たれると周囲に突風が巻き起こる。
その風に湖張は少し体制を崩すが、すぐさま持ち直して魔法を撃ち終えたラナナを抱えて横方向に飛び上がる。
それと同時にラナナの魔法は魔法生物と正面からぶつかり合い、耳が痛くなるような爆発音と砂埃が魔法生物を中心に発生した。
「むう、相変わらず無茶をしおる!」
爆風に耐えながら愚痴をこぼすレドベージュ。一方当事者のラナナは、湖張に抱えられたまま様子を窺いつつ、弧を描く様に上空を移動していた。
「やったかな?」
先ほどまでは魔法生物に攻撃が命中したら、すぐさま反撃の突進を仕掛けられてきたのだが、命中から5秒程が経過しても反撃の気配が無いので
効果があったと予想が出来る。魔法生物の周りは砂埃が舞い上がっており現状を把握できなかったが、期待は持てそうだ。
そこで湖張はゆっくりと地上に着地し、ラナナをゆっくりと降ろす。
「そうですね、これで効いていなかったら参ってしまいますね」
そう言いながら、ラナナは地に足をつけるなり片手を砂埃の塊の方に手をかざす。
そして緑色に光る弾を魔法生物がいた場所に放つと、上空に巻き上がる強い風が発生し、砂埃を巻き散らした。
「・・・嘘でしょ」
その場を見てギョッとする湖張。強力な魔法だったので相手には相当なダメージが入ったと期待はしていたのだが、
目に入ってきたのは立膝をついた状態ではあったが、健在である魔法生物の姿であった。
「あれでも形を保てるなんて・・・」
同様に驚くラナナ。しかし、その様子は慌てふためいているのではなく、じっくりと相手の状態を観察している。
「とはいったものの、効いてないわけでは無いようですね。
反撃には出てきませんし、それに頭には大きなヒビが入っています」
彼女が魔法生物の頭頂部を指さすと、確かにそこには大きなヒビが入っている。
どうやらラナナの魔法は魔法生物の硬い表面に対して効果があったようだ。
「良かった、全く効いていないわけじゃなかったんだね。
そうしたら今度はあのヒビを狙えば良いよね」
「ではもう一度、先ほどと同じように魔法を放ちますか?」
隣でラナナがそう尋ねると、首を横に振る湖張。
「ううん、あの様子だとさっきみたいに飛んでこれないのかもしれないから
相手の勢いを利用した威力は出せないかもしれない。
それだったら、直接あのヒビを狙って強く打ち込んだ方が良いと思う。
とは言ったものの、強く打ち込める武器は無いんだよね」
「レドベージュにお願いしますか?あの爆発を伴う斬撃ならばピッタリかもしれません」
「そうだね、ここはレドベージュにお願いしようか。
それ以外に強力な武器は持ち合わせて・・・・いや、ちょっと待って」
そう言うなり腰に携えていた覇王の団扇を手に取る湖張。
「これで良いんじゃない?。多分これなら刃こぼれも気にしなくて大丈夫そうだし」
「そういえばそれ、相当強力な切れ味を持っているのですよね?」
「うん、だから危なくて使わないようにしていたのだけれども・・・今こそだよね?」
「はい、そう思います」
ラナナとその様に打ち合わせると、団扇を強く握りしめて魔法生物を見つめる湖張。
するとゆっくりとだが、立膝の状態から立ち上がろうとしている姿が目に入る。
「よし、じゃあちょっと行ってくる」
「援護しましょうか?」
「ううん、まだ相手は飛べないと確定したわけじゃないからさ、ここで魔法を撃つとひょっとしたラナナに向かって飛んでくるかもしれない。
あの位置で戦いたいから、ラナナはここで待っていて。でも本当に危険な時には援護してね」
「分かりました」
そうやり取りをすると、レドベージュに向かって大声で呼びかける湖張。
「お願いレドベージュ、相手の足を狙ってあの位置から移動させないで!」
その声が届くと、左手を上げて了解の合図を送るレドベージュ。
そしてすぐさま、魔法生物に向かって走り出す。
「その場から動くでない!」
そう言いながら魔法生物の右の脛に向かって横に薙ぎ払うかのようにして斬撃を与えるレドベージュ。
彼の剣が触れると同時に大きな爆発が起こり、周囲には細かい破片が飛び散る。
そしてその攻撃に体勢を崩した魔法生物は膝をついて倒れ込み、前かがみの状態になり頭頂部のヒビを正面にさらけ出した。
「もらった!」
そのタイミングで真正面から飛び込んでくる湖張。
頭頂部のヒビに向かって渾身の力を込めて縦にした団扇で斬りかかる。
するとガコンと硬い物が割れた様な音が鳴り響き、魔法生物は見事なまでに縦に真っ二つとなった。
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