ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百七十五話【花を捧げて】

           

「村の状況を確認しろ!誰か生存者が残っている可能性を捨てきるな!!」
兵士たちに指示を出す二刀流の騎士。魔物は討伐したものの、すぐさま事後処理に移る。

その一方で力なく地面に座っている湖張に近寄り、心配そうに声をかけようとするハルザート。しかし目の前で起きた事、少年の事を思うと何と言って良いのか、どう接すれば良いのか分からず思わず数メートル先で立ち止まってしまう。

「湖張、怪我は無いか?」
ハルザートの横を通り過ぎ、湖張に寄り添って様子を窺い始めるレッド君。その行動に自らの不甲斐なさのようなものを感じるハルザート。

「・・・何もできなかった」
疲れ果てた顔で呟く湖張。レドベージュは首を横に振り励ます。
「そんな事は無い。お主は立派に役目を果たした」
「でも・・・でも!」
抑えていた涙が再びあふれ出てくる。するとレドベージュは小さく頷く。
「そうだな、辛いな。我も同じような経験を幾度となくしてきた。気持ちは分かる。だが自らを責めてはならぬ。湖張は出来る事をやった。それは事実だ」

その言葉を聞くと、うつむいて腕で顔を抑える湖張。袖に涙を押し付ける。

「湖張姉さま」

後方から湖張の名を呼ぶ声が聞こえる。硬い表情をしたラナナだ。彼女の傍らには元の大きなサイズに戻ったユカリが四つ足で歩いてきており、背中には少年の弟をうつ伏せに乗せ落ちないようにしている。また、メーサの騎士は弟が落ちないように手を添えて横に位置している。

ラナナの声に反応して顔を上げるなり、弟の姿が視界に入ると慌てて駆け寄る湖張。ピクリとも動かない弟を見て最悪の事が頭に過る。その表情を見るなりラナナは聞かれる前に伝える。

「大丈夫ですよ、一命は取り止めました」
その言葉に安堵の表情を見せる湖張。
「・・・良かった。今は気を失っているだけ?」
すると小さく頷くが、少し気まずそうに答えるラナナ。

「いえ、わざと眠らせている・・・と言った方が正確ですね」
「どうして!?」
湖張の問いかけに周囲を見渡すラナナ。悲しい顔を見せる。

「この現実は、あまりにも残酷すぎます。見せられません」
「・・・そう、だよね」

右手で自分の左腕を強く握る湖張。口惜しさが溢れ出そうになる。そしてそのタイミングで、ようやくハルザートが声をかけてくる。

「その子を救ってくれたようだな。ありがとう」
首を横に振るラナナ。
「逆に言えば、この子しか救えませんでした」
「・・・ああ、そうだな」

ユカリの背中の弟に視線を移すラナナ。そして心配そうな表情で話す。
「これからどうするべきでしょうか?村は壊滅し、ご家族も・・・」
その言葉に、不安な表情を見せる湖張。するとハルザートは弟を見つめる。

「私にこの子を託してくれないか?」
「え?」
驚きの表情を見せる湖張。続けるハルザート。

「メーサ教ではこの子のような孤児を育てる仕組みがある。私もかつて、この子と同じ境遇だった。だが無事育つことができた。大丈夫だ」
「ふむ・・・」
レッド君が理解するような素振りを見せると、ハルザートは二刀流の騎士に大きな声で問いかける。

「この子は私たちで面倒を見る。問題ないか?」
その言葉を聞くと駆け寄ってくる二刀流の騎士。そして弟を確認してからハルザートに視線を移す。

「この子は生き残れたか・・・。貴殿に託して問題ないのか?」
「メーサ教にはこの子のような境遇の子を育てている実績がある。問題ない」
すると頷く二刀流の騎士。

「分かった。タウン殿からも貴殿は信用できると聞いている。言葉を信じよう。我らはこれから事後処理で手一杯だ。この子を十分にフォロー出来ないだろう。そうしていただけると助かる」

その回答を得られると、弟に手を添えるハルザート。そしてラナナに問いかける。
「この子はどのくらいで目覚める?」
「二時間くらいかと思われます」
「そうか・・・では湖張たちは早々にここを離れた方が良い」
「何で!?」

納得のいかない表情の湖張。するとハルザートは落ち着いた素振りで答える。
「残念ながらこの子の家族はもういない。そして湖張はこの子との距離が近かった。この状況で目覚めたら、まっさきに湖張にすがるだろう」
「だったら尚更!!」

「・・・離れられなくなるぞ。湖張は旅をしているのだろう?」
「でも!」
「人の人生、そう簡単に支えられるものではない。背負えるものでもない。この子を一人前にするのにはしっかりとした環境が必要なのだ。酷な言い方だが、湖張はそれを持ち合わせていないだろう?」

言葉を返せない湖張。続けるハルザート。
「そしてなにより湖張自身の人生を犠牲にする事はない。もう一度言うが、今は旅をしているのだろう?何かしら大事な理由があったのでは無いのか?一方で我々は準備が整っているのだ。我々に任せる事が一番の解決策では無いか?」

そこでそっと湖張の袖に触れるラナナ。
「気持ちは分かります。でもハルザートさんの言う事はもっともです。ここは託す事が私も最善だと思います」
そこでレドベージュに同意を求める様な視線を送るラナナ。するとレッド君はハルザートに問いかける。

「その子は何処に連れて行くのだ?」
「とりあえずはここから北に向かった町にメーサ教の施設がある。そこに連れて行き、少し落ち着かせてからフィルサディア付近の本部に連れて行く。そこならば同じような境遇の子たちが暮らす孤児院があり十分な教育を受けさせられる」

「そうか」
そう返答すると、湖張に話しかけるレドベージュ。
「湖張、ここはハルザートに任せるぞ。ラナナの言う通り最善の策だ」

目を瞑り、顔をしかめる湖張。そしてハルザートに詰め寄る。
「大丈夫だよね?本当に大丈夫なんだよね!?」
「ああ、大丈夫だ」

再び泣き出しそうな湖張を安心させるように、力強く頷くハルザート。湖張の様子から了承を得られたと判断し、ユカリの背中からゆっくりと弟を下ろし抱きかかえる。彼の胸の中で弟は気絶をしているのではなく、ラナナの言う通り眠っていると表現した方が良いくらい穏やかな表情であった。その額に手を添える湖張。

「ごめんね」
言葉を残し、その場を後にする湖張。彼女の後姿を見つめるハルザート。
そこにラナナが近寄ってくる。そして弟の額に手を当てて小さな光を発生させる。

「眠りの魔法の効果時間を延ばしました。五時間は目を覚まさないと思います。北の町まで急げば間に合いますよね?」
「すまないな。助かる」

そう告げられると、首を横に振るラナナ。
「いえ。こちらこそ色々とありがとうございました」
「ああ。難しいとは思うが、君もあまり落ち込まないで欲しい」
「難しい事を言わないでください」
「そうだな、いらないお節介だったな。すまない」
「いえ、心遣いと理解はしておきます」

そう言われると少し穏やかな表情を見せるハルザート。
「お節介ついでにもう一つ。宿屋は無事の様だ。荷物は忘れずに持っていくのだぞ」
「分かっていますよ。・・・行きますよ、ユカリ」

ラナナの言葉に反応して普段のぬいぐるみサイズに戻るユカリ。そして彼女の腕にしがみ付く。そのタイミングでラナナは少し考えた後に、ハルザートに問いかける。

「貴方は大丈夫なのですか?」
「大丈夫では無い。だがここでつまずいてはいられない。それが私の仕事だ」
「・・・強いのですね。少し見習う事にします」
お辞儀をしてその場を去るラナナ。そこでハルザートは二刀流の騎士に話しかける。

「という訳だ。我々は立ち去るが問題ないな?」
ため息をつく二刀流の騎士。
「このやり取りを聞かされたら止められるわけがないであろう。どちらにせよこの村は壊滅したのだ。取り急ぎ魔物を無理に倒す必要は無くなった。調査は一旦中断だ。近隣の人里に及ぶ可能性があるので再編成して再開はするが、今はとにかく中断だ」
「まあ、そうだな」

しばらくして荷物をまとめた湖張たちは村を後にする。十日にも満たない滞在期間ではあったが、様々な寂しさが心に覆いかぶさってくる。
ずっと無口の湖張。普段ならば気軽に話しかけるラナナではあったが、今は声を掛けられずにいた。

壊れた門をくぐると山道が見える。最初に訪れた日、この坂を少年と駆け上がった時の記憶が蘇ると辛さに押しつぶされそうになる湖張。思わず立ち止まってしまう。

「待って!!」
大きな声で引き留める湖張。そしてレドベージュに悲しそうな顔を向ける。
「お願い、花を咲かせて。村の周りに花を。せめて花だけでも・・・」

頷くレドベージュ。
「良かろう」
するとラナナはレドベージュの隣で心配そうに問いかける。
「大丈夫なのですか?レドベージュもボロボロですよ?」
「問題ない。これで少しでも心が休まるのであらば、それで良い」

そう言うと小さく浮き、残った右手を村に向ける。そして緑色の光の粒を振り撒くと村の周囲に飛んでいき、花が一斉に咲き乱れる。
赤い花、青い花、黄色い花、白い花、その他様々な色、様々な大きさの花が村を包みこむ。それはまるで、それぞれの花の個性が、一人一人の村人たちを現しているかのようであった。

声を上げて泣き叫びその場でしゃがみ込む湖張。ラナナは膝をついて彼女を抱きしめて静かに涙を流す。

少しだけ見えていた晴れ間は更に広がり、雲の間からより強い日の光が村と花を照らしていた。

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