ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百七十三話【宿屋一階での打ち合わせ】

           

新たに出現した黒い異形の魔物を倒した後は、村人たちから今まで以上の歓声を浴びた一行。湖張の技によって文字通り腰を抜かされたが、少年の一声から村人たちも賞賛の姿勢に切り替わっていった。

今は夕暮れ時に差し掛かっていて村は普段通りの落ち着いた様子を取り戻しており、湖張たちは宿屋の二階にある滞在中の部屋で寛ぎながら会話をしている。
内容はラナナが本日メーサの騎士より得た情報であった。

「・・・という事でした」
ラナナが聞いた話を湖張とレドベージュに伝えると、小さく頷く湖張。

「なるほどねぇ。純粋に仕事でメーサ教をやっている人も少なくは無いんだ。だから勧誘が激しい人もいると」
「うむ。報酬がそこまで直結しているとはな」

二人の理解が深まった様子を確認すると、ラナナが言葉を足す。
「ですが先ほどもお伝えした通り、話を聞いたメーサの騎士さんやハルザートさんはお金のためではなく、世のため人のためというのが行動原理の様子です。理由は人それぞれなのでしょうが、様々な考えが集まっている集団のようですね」
そこで何かを考える様子の湖張。そして二人に顔を向ける。

「一応、二人にも話しておこうかな。少しプライバシーに関わるから迷ってはいたけれども、共有はしておくべきかも」
「ふむ、何だ?」

「前にハルザート、隣国出身と言ったじゃない?住んでいた場所はラガースの村と川で挟まれた隣国の村だったらしいの。要するに国境の村だよね。そして実は7歳くらいの時に住んでいた村は魔物に滅ぼされたんだって。その時、一人で必死で逃げて川で挟まれたラガースの村に逃げ込んだのだけれども、ラガースの村にいた兵士たちは住んでいた村を守ってくれなかったらしいの。理由は許可も無く他国の兵士が侵入すると侵略とみなされ外交問題に発展しかねないから。納得は出来ないけれども、理解は出来なくはないよね。ハルザート自身もそんな感じ。だから最初の頃は国の騎士を信用できなかったらしいよ。
そして逃げられたけれども行き場を失ったハルザートを保護したのがメーサ教。そこでそれこそ衣食住だけではなく教育、剣技などを教えて貰ったんだって。
ハルザートがメーサの騎士として戦っている理由はそこが由来っぽいよ。国の兵士では自分と同じく変なしがらみで救える命も救えない。だったらしがらみのないメーサの騎士として活動しているんだって」

「そうだったのですか・・・」
「うむ、難しい問題ではあるな」
少ししんみりとする部屋。ここにきて本当に話して良かったのか、湖張は少し不安になってくる。と、その時であった。突然部屋の扉をノックする音が聞こえる。

「少し良いか?」
ハルザートの声だ。タイミングがタイミングだけに焦りの表情を見せる湖張。話を聞かれていたのではないかと不安が襲ってくる。

慌てながらも扉を顔が出るくらいだけ開ける湖張。するといつもと変わらぬ雰囲気のハルザートが現れる。どうやら聞かれてはいないようだ。一方でハルザートは湖張のちょっとした表情に違和感を感じ取り不思議に思う。

「何かあったか?」
「何でも無いよ!!」
何かを誤魔化すかのような雰囲気ではあったが、気にすることを止めるハルザート。そして要件に入る。
「・・・そうか?まあ良い。それより三人、一階の食堂に降りてきてくれないか?国の兵士たちが今後の事で話をしたいとの事だ」
「今後の?分かった」

湖張はそう返事をすると扉を大きく開けてレッド君とラナナに伝える。
「国の騎士さんたちがこれからの事の話をしたいって。一階の食堂集合だってさ」

「ふむ、今からか?」
「今から」
「良かろう。ラナナも良いな?」
「分かりました」

簡単にやり取りをするなり部屋を出る三人。ハルザートと共に一階に向かう。
階段を下りてすぐの場所に宿屋の食堂があるのだが、そこには大きめのテーブル席に腰を掛けている二刀流の騎士と、彼の背後に五名の兵士が直立して待機している。戦闘は終わったものの、まだ鎧を脱いでおらず、いつでも飛び出せる準備のままである。また、メーサの騎士も同席をしているが、彼は鎧を脱いでおり普段着で数席離れた場所に腰を掛けている。

湖張たちがテーブルの前に到着するなり、二刀流の騎士は目の前のテーブル席に着席するよう手で促す。
「悪いな。もうオフの時間だったか?」
「構いませんよ。何かあったらいつでも飛び出す心づもりではありますから」
そうやり取りする間に腰を掛ける湖張とラナナとハルザート。すると早速、話を始める二刀流の騎士。

「今日はご苦労様だった。正直なところ助かった。まずは礼を言わせてもらいたい」
「どういたしまして」

簡単に返す湖張。すると、騎士は本題に入る。
「これまでの経緯を先ほどハルザート殿から聞いた。どうやらこの村は妙な事になっているようだな」
「妙・・・ですか?」
湖張が聞き返すと頷く騎士。
「ああ、妙だ。だってそうだろう?こんなに魔物の襲来が続く事なんてそうはない」
「まあそうですよね」
「そこでだ、まずは事態の収束を図るべく周辺の調査から始めたいと考えている。このまま待ち構えていてもキリが無いからな。ハルザート殿や君たちも人手が足りなくて周囲の探索が出来ずにいたのだろう?」

そこで頷く一同。その様子を確認すると騎士は話を続ける。
「しかしながら本日遭遇した黒い不思議な魔物。アレは想定外の強力さだった。恥ずかしながら、今回用意した戦力では太刀打ちできないだろう」

一呼吸の間を開けて湖張たちを見渡す騎士。
「そこでだ、貴殿らに協力を要請したい。今日の活躍を目の当たりにし、その実力に感銘を受けた。周辺の調査に同行してくれないか?」
その要請を聞くなり、レッド君とラナナのそれぞれに視線を移動させながら問いかける湖張。

「別に良いよね?そもそもがそのつもりだったし」
「うむ、そうだな」

レッド君がそう答えると、ハルザートに視線を移す二刀流の騎士。
「ハルザート殿もよろしいか?」
「ああ、元よりそのつもりだ」

その答えを得られると、深くため息をつく騎士。
「かたじけない。本来ならば我々で対処しなければならないのだが、先にも伝えた通り想定外の強さだ。面目を保つ為に無理をして、結局は返り討ちにされ何もできないのであれば民は危険に晒されたままになる。それは一番避けなければならない事だ。話を聞けば以前、タウン殿も力を借りたというでは無いか?ならば自分が借りても問題は無いと判断した」

「村民を第一に考えた答えという事は理解しました。そう言う事でしたら尚更問題ないですよ」
湖張がそう答えると、二刀流の騎士は感謝するような小さな笑みを浮かべる。

「では明日の予定を伝えさせてくれ。さっそく朝から近隣の調査を始めようと思う。うちの兵五名は村にて待機し村を防衛してもらう。ベミドアクラスならば問題なく対処ができるだろう。
自分とハルザート殿、そしてお嬢さん方には調査に同行していただきたい」

その提案に今度はハルザートに確認を取るように顔を向ける湖張。
「私たちは問題ないよ?」
「ああ、それで構わない」
同意を見せるハルザート。するとその時であった。

「あの!」
手を上げて声を上げる男性。メーサの騎士だ。
「自分も調査に同行してもよろしいでしょうか?自分の槍は皮膚が硬い魔物に対して有効です。お役に立てるかと!」

やはりこのメーサの騎士は善良なのだと改めて感じられる真っ直ぐな表情であった。その気持ちを理解したのか、ハルザートは二刀流の騎士に意見する。

「彼の申し出はもっともだ。皮膚が硬い魔物の対処には適任だ」
「分かった、ではよろしく頼む」

特に拒むことも無く受け入れる二刀流の騎士。その返答にメーサの騎士は力強く「はい!」と答える。

「では今日はここまでにしよう。ゆっくり休んで欲しい」
二刀流の騎士がそう言って会を終わらせたタイミングで、宿屋の扉が開く。
すると少年が入ってきて、湖張の姿を確認するなり笑顔で近寄ってくる。

「姉ちゃん!!」
「あれ?どうしたの?」
そう問いかけ終わるタイミングで、もう一人近づいてきている事に気が付く。雰囲気的に少年の父親と思われる。

「こんばんは。いつも息子がお世話になっております」
「ああ、お父さんでしたか」
「ええ、いつもは妻に任せっきりで、ご挨拶できずに失礼しました」
「いえいえ、良いのですよ」
挨拶を交わしていると、少年がいつも通りの元気な様子で話しかけてくる。

「姉ちゃん!俺、本気で芭蕉心拳を習いたいよ!」
「・・・うん?」
いきなりの発言に疑問符の湖張。すると父親が真面目な雰囲気で話しかける。

「実はですね、この子に芭蕉心拳を本格的に習わせたいのですよ。それこそ一人前になるほどに」
「え・・・ええ!?」

当然のように目を丸くする湖張。そして慌てて答える。
「待ってください!私は旅の途中ですし弟子を取る気はありませんよ!?」
頷く父親。
「ええ、存じております。なので湖張さんの里に向かい、住み込みで息子を学ばせたいと考えております」
「えええ!?」

真剣な顔の父親。思いを伝え続ける。
「この旅の魔物騒動で感じたのです。メーサ教の方々、湖張さんたち、そして国の騎士様たちがいたから私たちは今、この村で暮らせているのだと。逆に言えば皆様方が居なければ酷い事になっていたのではないかと。なので村民も頼るだけでは無く、自分たちの身は守れるくらいの体勢を整えておかねばならないのではと。本当でしたら私たち親世代がやらなければならないのですが、今からでは遅いとも感じます。生活もあります。そこで強くなりたい意思を持つ息子に、これから村を担っていく息子に力を付けてもらうのが一番なのではと考えたのです。住み込みにもお金はかかると思いますが、これからの村の未来を託すのです。村全体で支えて行こうという事になりました」

「え・・・あー。えええ?」
急展開過ぎて返答に困る湖張。頭を押さえて回らない思考を必死で動かそうとする。
父は更につなげる。
「本日の湖張さんの技を見て感じました。この村に、息子の為によろしくお願いします」

「良いのではないか?」
困っている湖張にアドバイスをするようにレッド君が話しかけてくる。
「・・・でも」
「それで救える命が増えるのであれば、我は良いと思うぞ?」

「そうだよ、俺は強くなって皆を守るんだ!!」
レッド君の言葉に反応したのか、少年が大きな声で気持ちを伝えてくる。視線は強い。
彼の綺麗な眼差しをジッと見た後に小さくため息をついて考えをまとめる湖張。そして少年に向かって問いかける。

「本当に芭蕉心拳を学びたいの?」
「うん!」
「お父さんとお母さん、弟君ともしばらく会えなくなるよ?寂しくない?」
「寂しくない!」
「修行は大変だよ?」
「大丈夫!」
「この前来たお姉ちゃんの髪を白髪って言わずに銀髪と言える?」
「言える!」

そこで小さな笑みを見せる湖張。
「私の兄弟子はね、君よりもっと小さい年からうちの道場に住み込みで修行していた。そして強くなったよ。だから君も大丈夫だよね」
そう伝えるなり、今度は父親に向かって言葉を伝える湖張。

「今夜、私の師でもある祖父宛に息子さんをお願いする手紙を書いておきます。それを持って私の村に行ってください。それで大丈夫です」

「ありがとうございます」
深々と感謝の礼をする父親。
「ありがとう!!」
湖張に抱き着いて喜びを表現する少年。そんな彼の頭をポンポンと優しく叩いて笑顔を見せる湖張。

「今日から私は、君の姉弟子だ」
「俺は弟弟子だ!」

賑やかな食堂。既に日が暮れてはいたが、明るい空間が満ちているようであった。

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