ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百七十二話【新しい黒い異形】
- 2026.08.12
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
村の反対側に駆け付けると、村を出てから20メートルほど離れた位置に4匹の皮膚が硬い魔物が出現していた。ただ村に向かってきているわけでは無く、純粋に近くをうろついているだけという雰囲気である。
その様子を確認するとハルザートに話しかける二刀流の騎士。
「固いんだよな、あれ」
「ああ、大丈夫か?」
「問題ない」
簡単にやり取りを終わらせると、兵士たちに様子を確認する。全員準備が整った雰囲気である。
「総員、突撃!!」
離れた位置から魔物に向かい剣を向ける二刀流の騎士。そして彼の号令に応じる5人の兵士たち。短めの槍を構え魔物に向かっていく。
二人一組で目の前の魔物に向かって槍を突き立てる。本来ならば硬いはずなのだが、二刀流の騎士の言う通り問題は無く討伐を進めていく。兵士たちが使用している槍はメーサの槍のような特殊な加工を施されてはいないようだが、確実にダメージを与えている。
どうやら兵士たちの練度は高いようで、硬い皮膚をも技術で貫いている様子だ。
「さて、自分も肩慣らしだ」
手際よく兵士たちが3匹の魔物を仕留めると、二刀流の騎士は両手に剣を握りしめ魔物に駆け寄る。そして流れるように魔物を斬りつけると、硬い皮膚とは感じさせないほど鮮やかに切り倒してしまった。
「あの人、強いね」
湖張が感心したように呟くと、隣にいたレッド君が頷く。
「うむ、中々だな。さすがピース所属なだけはあるな」
「ああ、タウンさんが山の中のメーサ教の施設に向かわせた人か。ハルザートが勘違いしていた両手で剣を操るピースの人を派遣したって言っていたね」
「これで魔物騒ぎが落ち着けば良いね」
「うむ、もうひと頑張りだな」
穏やかに湖張が告げると同意するレドベージュ。
二人が落ち着いてやり取りをしている一方で、村の前で観覧している村人たちは歓声を上げている。
賑やかな村人たち。防衛体制の強化を心から喜んでいる様子であった。魔物を仕留めるなり、すぐ村に引き返してきた兵士たちを囲んで大騒ぎである。
「出番無しでしたね。ちょっと寂しかったりします?」
ラナナはイタズラっ子がからかってくるような笑みで隣にいるハルザートに問いかける。
「いや、そんな事は無いぞ?断っておくが私は戦いが好きなわけではないぞ?」
「でも自分がやらなくって良かったのかとか思っていません?」
「まあ、それは少し思うが・・・」
「やっぱりそうじゃないですか」
「だが寂しいとは違うぞ」
湖張たちから少し離れた位置で遠巻きに村人を見ながらやり取りをする二人。
魔物襲来など過去の出来事で、本日も柔らかな晴れ間が見えているなと呑気な気持ちにうっすらなってくる。「とりあえず戻りましょう」と近くにいるメーサの騎士にも声をかけて村に向かって歩き出そうとするラナナ。
と、その時であった。突然ユカリが腕を強く握りしめ「ギュー!」と鳴くと背後からドスンと重たいものが落下してきたような音がする。
慌てて振り返るラナナ。するとそこには体長が2メートルほどで、花の蕾のような形状の体に大木のような太さで鳥の足の様な形状のものが一本だけついている黒い異形の魔物が1匹そびえ立っている。
「・・・え?いつものより大きい?」
唖然とするラナナ。普段、皮膚が硬い魔物を掃除にくる異形の魔物を大きくしたようなものが目の前に現れている。ただ見た目は厳つくなっている。そして今までは無かった蔓のようなものが数えきれないほど体から垂れ下がっている。
そして体が割れ、大きな口で転がっている皮膚が硬い魔物を一口で飲み込む。
「どういう事でしょうか?」
じっくり観察するために近づこうとするラナナ。一歩前へ足を出すと、ハルザートが前に出て制止させる。
「待て、何が起こるか分からない!」
「でも新種かもしれません。観測をしないと!」
「ギューーー!」
再び上がるユカリの警告とも取れる声。それが響くのと同時に黒く巨大な大口が二人を目掛けて水平方向に飛び掛かってきていた。
想定外の事すぎて初動が遅れる二人。ハルザートは剣に手を掛けるが構えは間に合いそうにない。
その中で目の前に赤い影が高速で魔物の横面にぶつかる。レッド君だ。
彼は魔物を横方向に弾き飛ばし二人を難から逃す。しかし横に倒れる事は無く、一度フワッと体を浮かせた後、再び地面に大きな音を立てて着地する。
そして不気味に垂れ下がった蔓が5本、フワッと持ち上がったかと思うとレッド君目掛けて鞭を振るかのように襲い掛かる。
「ぬうっ!」
4本の攻撃を躱し、最後の1本を剣で切り落とすレッド君。切断時に鈍い音を響かせた後に、ドスンというそれなりに重量があるものが落下したような音がする。
「こやつは堅いぞ!」
レッド君が周囲にそう伝えると、ハルザートは剣を抜いて近くにいるメーサの騎士に指示を出す。
「君は村人の警護に回ってくれ!」
「分かりました!」
村人に向かって走り出すメーサの騎士。一方で二刀流の騎士も兵士たちに指令を出す。
「総員、民の前へ!民を絶対に守れ!!自分は魔物を対処する」
二刀流の騎士の緊迫した様子が伝わったのか、事態の急変に村人たちから動揺と不安の雰囲気がにじみ出てくる。
「はぁぁぁぁっ!」
鉄扇を広げ魔物に突進する湖張。当然のように蔓が襲い掛かってくると躱しながら一本一本鉄扇で切り落としていく。激しい攻撃で近づくことがままならない。ハルザートはその様子を確認すると、ラナナに言葉をかける。
「援護してくれ、本体を狙う!」
「分かりました!」
複数の青色の球体がラナナの手から放たれると、弧を描くように魔物に向かって飛んでいく。
それぞれが高速で向かっていくが、器用にも全て蔓で迎撃されてしまった。その中でも果敢に飛び込むハルザート。しかし有り余る数の蔓が彼を襲う。
「一旦距離をおけ!」
迫りくる蔓を切り落とし言葉を投げる二刀流の騎士。
「く、仕方あるまい」
素直に後方に下がるハルザート。二刀流の騎士と共に距離をとる。すると湖張が少し離れた位置から全員に大きな声をかける。
「蔓が危ない。早く片付けないと皆を巻き込むかもしれない!皆はとにかく蔓を捌いて道を作って!ハルザートはできた隙を見て本体を傷つけて!そこに覇王爆炎弾を撃ち込む!」
手を上げて了解を表現するハルザート。すると疑問の表情で二刀流の騎士が問いかける。
「どういう事だ?」
「私が切れ目を入れて、そこに彼女が強力な技を叩きこむ。ただ本当に強力だから私が切れ目を入れたら一目散で離れるのだ」
「あのお嬢さんがか?」
「そうだ。タウン・アッシャーも驚愕した一撃だ。貴殿には蔓の対処を願いたい」
「タウン殿が?・・・良いだろう、早めに対処できるならばそれで良い!」
そう言うと飛び込む二刀流の騎士。少し離れた位置でラナナは魔物に向けて手をかざしながらユカリに話しかける。
「ユカリは村人たちの前に立って皆を守ってください。アナタだったら魔物の突進も弾けますよね?」
「ギュー!」
ラナナの腕を離れて元のサイズに戻るなり村人たちの前で身構えるユカリ。いままでぬいぐるみだと思っていた幻獣の真の姿に村人たちはどよめく。
「たあぁぁぁぁ!!」
流れるように蔓を切り落としていく二刀流の騎士。タウンとは違った剣筋で着実に対処していく。しかし少し突出気味でもあった。
「無理に踏み込むな!全員で少しずつ蔓を捌けばよい!我らを頼ってもらって構わない」
次から次へと蔓に立ち向かう二刀流の騎士に近づき、蔓を切り落としながら訴えかけるレッド君。
「心遣い感謝!だがこれは我ら王国騎士の使命!!とどめは任せるがそれまでは役目を果たす!」
そう言って更に突き進む騎士。少し呆れるレッド君。
「むぅ、使命感は認めるが怪我をされても困るのだ」
そうぼやいている間に蔓に四方から迫られる二刀流の騎士。攻撃直後の少し体勢を崩したタイミングで対応が遅れる。
しかしそこで青い光弾が飛んできて蔓を弾く。後方で援護射撃をしているラナナだ。
「あんなにも細く高速で動く蔓を狙い撃てるのか?!」
負傷する危険性より、正確な射撃に驚嘆する二刀流の騎士。そして彼の横をレッド君が通過すると、大きく飛び上がる。
「ハルザート、飛び込め!!」
レッド君は合図をした直後に剣を何度も振り、その度に衝撃波を連続で放つ。数多く放たれた波は蔓を次から次へと切り落としていった。その技に更に驚嘆を繋げる二刀流の騎士。
「行くぞ湖張!」
出来上がった隙を駆け抜けつつ剣を青く巨大にして魔物に斬りかかるハルザート。そして渾身の一撃を浴びせると、鈍い音と共に大きな傷が開く。
「離れろ!」
着地したレッド君が二刀流の騎士に訴えかけると、彼は更なる驚嘆を予測し急いで距離を取り始める。
「行け!湖張!!」
魔法で後方に大きく飛んで距離を取るハルザート。彼女に全てを託すような大きな声で合図を送ると、離れた位置にいた湖張は両手を魔物に向けて突き出す。
「覇王爆炎弾!!」
放たれる赤い爆炎を纏った白い光の塊。豪速で魔物に向かう。一瞬の事だったが、とてつもない結果がもたらされると直感する二刀流の騎士。小さく飛び上がり滑り込むようにして地面に伏せる。そして技が魔物にぶつかると、強い光が先行した後に轟音と共に周囲に爆風をもたらす。
一瞬の出来事。だが壮絶な結果。周囲の風が収まると、静けさが周囲を包む。
「な・・・」
魔物がいた位置が全て吹き飛んでいる様を見て言葉を失う二刀流の騎士。
「言ったであろう、頼って構わぬと。怪我は無いか?」
レッド君が手を差し出すと戸惑いつつも手を取り一つ頷いて立ち上がる。
驚愕は他の者も同様で、ある程度距離を取っていた村人たちであったが、あまりの激しさに腰をついていた者も少なくは無かった。更には固まって動けない者もいた。しかしその中で元気な声が発せられる。
「姉ちゃんすげーーー!」
少年が目を輝かし大きな声を上げる。その興奮気味な様子は、まるで物語に出てくる英雄が目の前に現れたかのような感じであった。
少年の気持ちが届いたのか、湖張は彼が立っている方向にふと視線を移す。そして目が合ったことを確認すると笑顔で小さく手を振る。
心が更に熱くなる少年。居ても立っても居られなくなり湖張に向かって走り出した。
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