ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百七十話【メーサの騎士の証言】
- 2026.08.03
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者
臨戦態勢になり、身構えている皮膚が硬い魔物。それに向かってメーサ教の騎士は勇敢な声を上げながら槍を構えて突進をする。
「うおおおお!」
渾身の力で槍を突き出すと、皮膚が硬い魔物を一撃で仕留める騎士。
そしてすぐさま突き刺した槍を引き抜くと、近くにいる次の標的に攻撃を仕掛ける。
(あっちは大丈夫そうだね)
視線を騎士に向けながら心の中で呟く湖張。
現在彼女は村のすぐ外で魔物と交戦をしている。
元々は村の反対側にベミドアの群れが現れた事が始まりであった。
その討伐にハルザートとラナナ、そしてレッド君が向かい、湖張とメーサ教の騎士は警備の為に残っていた。
しかしその中で今度は逆方向から皮膚が硬い魔物が三匹と、それを追うようにベミドアの変異種が現れた。そこで残っていた二人が防衛の為に出て今に至る。
槍を所持しているのでメーサ教の騎士に皮膚が硬い魔物を任せても大丈夫と判断したので、湖張は彼にその討伐を託し、自分はベミドアの相手をすることにした。
「湖張殿、こちらは片付きました!!」
勝利を収めたメーサ教の騎士が大きな声で離れた位置から声をかけてくると、手を上げて了解を伝える湖張。
「じゃあこちらもさっさと片付けようかな」
そう呟くと斜め後ろから元気な声が飛んでくる。
「姉ちゃん頑張れー!!」
声の主は少年であった。どうやら応援に駆け付けてきたらしい。困った顔で訴えかける湖張。
「もう、危ないじゃない!村に入っていて!!」
ため息の後にベミドアをジッと見る湖張。そして高速で飛び込む。
魔物が反応できずに二足で立ち上がったまま動きが止まっている間に、
懐に入り少しかがみ、拳を打ち出す姿勢を取る。
腹に向かい空までも貫けそうなほどの鋭い拳を突き上げると、魔物は後方に仰け反る。そこに小さく飛び上がり回し蹴りを浴びせる湖張。吹き飛ぶ魔物。
「サンダーボルト!」
追い打ちをかけるように雷の魔法を浴びせる湖張。すると魔物は衝撃が走ったように仰け反った後、動かなくなった。
「やりましたね!」
仕事をやり切り達成感に満たされたような雰囲気でメーサの騎士が近づき話しかけてくる。
「お疲れ様。怪我はない?」
「はい、お陰様で!」
「それは良かった」
そう言って皮膚が硬い魔物の方に視線を移す湖張。するといつの間にか黒い異形の魔物がいつも通り討伐済みの獲物を食べに来ている。
「もう食べに来ている」
「ええ、感づくのが早いですよね」
見る見るうちに食べつくしていく魔物。そのタイミングで後方から声が飛んでくる。
「湖張姉さま!」
声の主は魔法で飛んできたラナナだ。どうやら反対側も終わった様で、増援の為に駆けつけてくれたと思われる。
そしてその声に反応したのか異形の魔物は彼女に体を向け、少し観察した後にいつも通り上空へフワッと飛んで行った。
「行っちゃったね。サンプルとして捕まえなくて良かったの?」
隣に着地をしたラナナに問いかける湖張。首を横に振るラナナ。
「いえ、もう何度も観察しましたから。この村に来て早いもので、もう1週間です。その間に何度も遭遇しましたからね」
「早いものだよねぇ」
腕を組んでしみじみしながらそう言っていると、駆け寄ってくる足音に気づく。理由は分かり切っているので慌てることもなく、仕方が無いなといった笑顔で音の主に視線を向ける。
「姉ちゃん!!」
いつものように元気よく近寄ってくる少年。
「ほら、危ないって言っているでしょう?」
「でも姉ちゃんがいるじゃん!」
「それでも!」
「早く村に帰って修行しようよ!弟も待っているよ!!」
「弟君は修行じゃなくって遊びたいのだと思うよ?」
「良いから早く!」
一つのため息がこぼれる湖張など構わずに手を引いて村に向かう少年。ラナナは二人の後ろ姿を見守るような小さい笑顔で見ていると、メーサの騎士が話しかけてくる。
「我々も戻りましょう」
そう言うなり村に戻り始める騎士に対して「そうですね」と返しながら今度は騎士の後ろ姿を観察する。
(この方も善良なのですよね)
一週間、この騎士とも毎日顔を合わせて会話をしていくことで、密かに人となりを確かめていた。すると初日からレドベージュも言っていた通り悪人とは思えず、むしろ善良な騎士であるというのがラナナの所見であった。
そして怪しげな活動をしているメーサ教に、何故この騎士やハルザートのような善良と思われる騎士が所属しているのかが分からなくなってくる。
「あの!」
騎士に向かって声をかけるラナナ。すると彼は不思議そうな顔で振り返る。
「どうしました?」
「貴方にとってメーサ教とは何ですか?」
かなり漠然とした質問を投げかけるラナナ。相手は回答に困ると思いながらも、答え方の幅を持たせることで、予想もしない答えが出てくるのではないかとも思えたからであった。
案の定、少し考える騎士。そして答える。
「まあ仕事・・・ですかね?」
「仕事?」
ハルザートと同じく青い騎士だったので、戦闘専門という事は分かってはいたが、まさか信仰の事など触れずに仕事と言い切る事に少し驚きを見せる。
「ええ、仕事ですよ。こうやって魔物退治をして人の役に立って給料も出る。良い事尽くしじゃないですか」
「国の兵士ではだめなのですか?」
更に突っ込んだ問いを投げるラナナ。苦笑いの騎士。
「まあ、そう思いますよね。でも国の兵士になると、もし戦争になったら人と戦わないといけないじゃないですか?自分はそんなの御免です。戦争なんてしたくはありません。あくまで人を守る立場でいたいのです。そして最近、隣国とすこし揉め始めていると聞きます。それでしたらメーサ教、一択です」
(なるほど・・・)
心の中で納得の言葉を呟く。そして更に問いかける。
「メーサ神を信じているからでは無いのです?」
すると騎士は気まずさを誤魔化す様な笑みで視線を斜め下に逸らして答える。
「ええ、実はそこまで熱心ではありませんよ。正直なところ自分は半信半疑です。でもメーサ神が本当にいて、少しでも信じる心があれば神の力が増大して世の中の理不尽がなくなり、世界が良くなってくるなら、それはそれで良いのではないかとも思ってはいます。自分のようなうっすらと、むしろいたら良いな程度の心持でも教団では問題ないとされております。なので自分の気持ちが役に立てば良いな程度のおまけみたいなものですね」
「他の方も同じような考えなのです?」
「そこは人それぞれですね。もちろん心の底からメーサ神を信仰しているものも多いですが、自分の様にあくまで仕事としてのメーサ教という考えの者も珍しくはありません」
「人の役に立つ仕事をしたいという考えの方が珍しくないという事ですね?」
その解釈に首を横に振る騎士。不思議そうな表情のラナナに理由を述べる。
「いえ、そういう訳でもありません。確かに自分やハルザート殿は人を魔物から守る事、つまりは人の役に立つ事をしたいという気持ちが動機のようですが、違う考えの者もいます。というのも、教団に身を寄せて働くと衣食住には困らないのですよ。生活の為に信者をやっている者も珍しくありません」
「え?そうなのです!?」
期待していたとはいえ、本当に予想外の答えに目を丸くするラナナ。騎士は話を続ける。
「ええ、そうですよ。それに仕事は魔物退治だけではありません。大勢が身を寄せている団体です。食事や洗濯、設備の維持など様々な仕事があります。孤児たちの世話や教育もあります。大勢が食べていくための畑や牧場の仕事もあります。それらを住み込みの仕事のような感覚でやっている者も多いです。まあ信者のほとんどは教団に身を寄せず、町や村で普通に仕事をして生活をし、心のどこかでメーサ神を信じて過ごすというパターンですが」
「そうだったのですね・・・戦うのか勧誘するのが仕事だと思っていたのですが、色々とあるのですね」
ラナナの言葉に何かを思い出したかの表情を見せる騎士。
「そう、勧誘に関しては特に仕事の色が強いですね」
「どういう事です?」
「私たちには位がありましてね、勧誘して信者を増やすとランクアップしていくのですよ。世間でいう所の出世ですね。そして何より信者を増やすたびに報酬が貰えましてね」
「報酬?」
「要するにお金です。教団なのに俗っぽい感じがしますよね?でもメーサ教は俗っぽい所は人間として当然としておりますので特に禁じておりません」
「え?じゃあ、あの物凄い勧誘はお金のためなのです!?」
苦笑いの騎士。
「いえ、本当に熱心な信者もいますので、それだけではありませんよ?でも仕事のため、つまりはお金の為に頑張る信者も少なくはありません」
「そうだったのですね・・・」
ハルザートとは何度も会話をしていたのだが、ここまでの話は聞いたことが無かった。しかしながら逆に言えばここまで突っ込んだ事は何となくだが聞けていなかったので、それもそうかと納得もする。今後はもう少し踏み込んで話を聞くのも良いとも思えてくる。
そうこうしているうちに、騎士の様子が変わった事に気が付くラナナ。何やら自分の後方にジッと視線を向け様子を窺っている事に気が付く。さっきまでの穏やかさは無く真剣な顔つきである。
「どうしました?」
視線の先に何があるのか気になったラナナは、問いかけながらも振り向き同じ方向を見る。すると6人の兵士たちが村に近づいてきている事に気が付く。
「ひょっとして、国の兵士かもしれません!」
待っていたものがようやく来たかのような喜びの表情に変わるメーサの騎士。
彼はハルザートが到着する前からずっとこの村を守り続けており、ようやくまとまった戦力が到着したと思え安堵したのかもしれない。
そんな風に分析をラナナがしている間に目の前まで迫ってくる兵士たち。銀色の鎧を身に纏い、短めの槍を携えている。全員、姿勢が良くキビキビと動いており、動作の一つ一つから統率が取れている集団という事が感じ取れる。
ただ一人だけ様子が違う兵士がいた。全身に鎧は身に着けておらず、肩や胸元だけ金属で保護しているような軽装であった。赤基調の服に金色のラインで装飾をされた服を身に纏っており、兵士というよりはそれなりに位の高い騎士といった雰囲気である。金髪で両腰に剣を携えている。年は20歳前後であろうか?釣り上がった目でメーサの騎士を確認するなり話しかける。
「君がこの村を守ってくれていたメーサ教の騎士かい?」
「ええ、そうですが・・・あなた方は?」
「国の騎士だ。魔物が頻繁に出没すると通報があり参上した」
「やっぱり!」
メーサの騎士の喜びように少し驚きつつも、二刀流の騎士は小さい笑みで答える。
「嬉しいくらいの歓迎ぶりだな。詳しく話を聞きたい。村に案内してくれるか?」
「ええ、もちろん。待っていましたよ!」
手を村に向けていざなうメーサの騎士。彼の軽くなった足取りに規則正しい兵士たちの力強い行進が連なっていった。
<NEXT→>
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百七十一話【タウンからの増援】
<←PREV>
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六十九話【午後の村での過ごし方】
-
前の記事
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六十九話【午後の村での過ごし方】 2026.07.03
-
次の記事
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百七十一話【タウンからの増援】 2026.08.11