ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六十九話【午後の村での過ごし方】
- 2026.07.03
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
「あれ?もう姿が無いですね?」
少し慌てる様子で周囲を見渡すラナナ。レドベージュは茂みの方を見つめている。
現在は先ほど皮膚の硬い魔物を討伐した池のほとりに戻ってきており、黒い異形の魔物と遭遇出来ないかと期待をしていたのだが、既に捕食された後の様子であった。
「それにしても、こんなに跡形もなく綺麗に食べられるものなのでしょうか?しかも速いですよね?」
現状に懐疑的なラナナがそう呟く。
「確かに奇妙ではあるな。先ほどの村の前でも残骸は無くなっていたな」
レドベージュが同意を示すと、今度はユカリに話しかけるラナナ。
「幻獣的に、何か気づく事はありませんか?」
すると首を横に振り、しがみ付いていたラナナの左腕により強い力を加え頭を埋める。
「・・・まあ分からないですよね」
「ここではもう、得られる情報は無さそうだな」
レドベージュがそう言うと、ラナナは腕を組んで問いかけてくる。
「ところで、これからはどうします?流れ的にとりあえずはタウンさんからの増援がくるまで村に滞在して魔物退治という雰囲気ですが」
「うむ、まあそれで良かろう。放ってはおけぬしな」
「それにしても妙な感じですよね。メーサ教が背後にいる事が濃厚なのに、メーサ教の騎士たちと協力して村を守る事になるなんて」
「そうではあるな。先ほど一人で村を守っていた騎士も様子から察するに悪い者では無さそうだ。ハルザートと同じように本人は善良なのかもしれぬ」
「・・・あの槍の事、グリーンドラゴンの事を含めハルザートさんには伝えるべきでしょうか?」
その問いかけに首を横に振るレドベージュ。
「いや、それはまだ早かろう。タウンが危惧していた通り、ハルザートが組織に潰される可能性がある」
「わかりました」
「では戻ると仕様。湖張が心配しているかもしれぬ。それに村の近くには先ほど討伐したベミドアの変異種が倒れているであろう。そちらの調査もしてみたい」
「そうですね、そうしましょう」
次の目標を決めるなり、その場を後にするレドベージュとラナナ。滞在時間は十数分ほどであった。
村への道中は特段として問題も起こらず、すんなりと戻ることが出来た。その足で直接、村の外に放置されたままのベミドアの調査とも思ったのだが、ラナナの両手杖がかさばるので宿屋に寄って杖を置いてから出直す事にする。
そして村に入ると、あずまやの近くで鎧を脱いだハルザートが剣の素振りをしている姿が目に入ってくる。
「鎧、着ていないのですね?」
ラナナが不思議そうに問いかけると、ハルザートは剣を下げて答える。
「ああ、修練の時くらい鎧を脱いだらどうかと湖張に言われてな。魔物の襲来があったらどうするのかとも反論したのだが、鎧が無くとも後れは取らないだろうとも言われてな。まあそうかとも思えたから、そうさせてもらった」
汗を拭うハルザートに指を払うようにして魔法を掛けるラナナ。会話を続ける。
「寧ろアナタの場合、もう少し軽装にした方が良いのではないのですか?動きが鈍くなりません?それに移動距離も長いじゃないですか。いつもどこかへ向かって歩いているイメージですよ」
不思議そうに自分の体を観察しながら彼は答える。
「ああ、確かにそうなのだが、魔物相手に体を張って耐える事もあってな。やはり鎧が都合が良いのだ。それに実は意外と軽いのだ。メーサ教の技術部は良くやってくる」
「軽量化の魔法ですか?」
「ああ、そう聞いてはいる。ところで体がスッキリしたのだが?」
「洗濯の魔法ですよ。服の汚れとついでに体の汚れも弾き飛ばしました。汗臭いのは嫌ですよね?」
慌てるように自分の臭いを嗅ぐハルザート。
「臭かったか!?」
手を振って否定のラナナ。
「いえ全く。汗をかいていたので何となくですよ。気まぐれな親切心です」
その答えに咳ばらいを一つして仕切り直すハルザート。平静を装う。
「そうか、すまないな。ところで目的の魔物はいたのか?」
切り替わった話題に渋い顔を見せるラナナ。
「いえ、それがもう跡形もなくなっていました。こんなに早く食べられるものなのです?」
「ああ、食べる速度もさることながら、獲物を見つける嗅覚も大したものだ」
「嗅覚・・・ですか?」
「いや、実際に臭いを辿っているかは分からないぞ?物の例えだ」
「まあ、そうですよね」
小さくため息をついて少し離れた位置に目を移すと、その先には少年と弟が拳を何度も突き出して湖張に武術を教わっている姿がある。
「ほら、手が下がっているよ。真っ直ぐ打ち出して」
「わかった!」
元気よく答える少年。一方弟の方はつまらなさそうな表情を見せる。
「おにいちゃん、遊ぼうよぅ」
「何言っているんだよ!強くなるんだよ!」
不服そうな表情がさらに悪化してくる弟。
どうやら兄の方は武術に関心があるようだが、弟はそうでもないらしい。ただ遊び相手がいないので仕方なしに一緒に習っていたようである。
湖張はそれを感じ取ると、小さな笑みを見せてしゃがんで二人の視線と同じ高さにして話しかける。
「よし、じゃあ違う事をしよう。鬼ごっこをしようか」
「鬼ごっこ?」
「まず一人だけ鬼の役を決めるの。鬼になった人は十まで数える。その後はとにかく他の人を追いかける。そして鬼の人が誰かをタッチしたら、今度はその人が鬼になって他の人を追いかける。私の村でよくやっていたよ」
「面白そう!」
弟がぱあっと明るい笑顔を見せると、今度は不服そうな顔を兄が見せる。
「俺は強くなりたいんだよ!遊んでいる場合じゃないよ!」
その反論を宥める様な笑顔を見せる湖張。
「そのための鬼ごっこだよ。これは結構走りこむから持久力の鍛錬にもってこいなんだ。それに鬼はタッチをすることで、相手に攻撃を当てる練習になるし、逃げる方は攻撃を避ける練習にもなる。でもあくまで相手に触れるだけ。痛くないようにタッチしないと駄目だよ?」
「そういう事か!」
納得したような顔を少年が見せると、湖張は手をパチンと合わせて二人に伝える。
「じゃあまずは私が鬼ね。逃げて良い範囲はこの広場の中だけ。そら逃げろ!!」
彼女の合図とともにその場から走って逃げる二人。湖張は大きな声で数え始める。
「湖張姉さま、子供の相手に慣れている感じですね」
少し離れた位置だったので、詳しくは何を話していたのかは分からなかったが、楽しそうに走り回る少年たちを見て呟くラナナ。
「うむ、故郷では小さな弟弟子たちもいたようだから慣れているのであろう」
レッド君がそう反応し終わるタイミングと同時に湖張は走り始める。長閑な村の空気の中で元気な少年の声が楽しそうに広がり始めた。
<NEXT→>
-
前の記事
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六十八話【午後の山林探索】 2026.06.13
-
次の記事
記事がありません