ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六十八話【午後の山林探索】

           

「姉ちゃん、俺に技を教えてよ!」
昼食中に元気よく湖張に申し出てくる少年。予想だにしなかった突然の事に、当然のように提供されたパンを食べる手が止まる。

「・・・うん?」
僅かな焦りからか、首を傾げて変な笑顔を見せる湖張。現在は打ち合わせの流れのまま、あずまやにて昼休憩の最中であった。少年も一緒に食べるといって湖張の隣に座って食べていたのだが、何の前ぶりも無くキラキラと輝いた眼で訴えてくる。

「ありゃりゃ、気に入られちゃったようですね」
微笑ましくラナナが言うと、困った顔の湖張。
「んー弟子は取らない予定なのだけれども・・・」
そこに温かい眼差しのハルザート。
「空き時間に少し教えてあげれば良いのではないか?暫くはこの村に滞在する事にもなるだろう。打って出られるまでは待ち時間の方が多いと思うぞ?」
「ちょっと、ハルザートまで!」

「いいじゃん、教えてよ!!」
更に押してくる少年。期待に満ちた顔を見せられると、断りづらくなってくる。

零れ落ちる一つのため息。仕方が無いなと顔に出しながら湖張は答える。
「分かった。でも基本の動作をちょっとだけね。そんなに簡単には強くなれないからね?」
「やったー!!じゃあ食べ終わったら教えてね!」

大きな喜びの声が上がると、まあ良いかとも思えてくる湖張。するとラナナは少し考えるよう素振りを見せながら湖張を見つめる。

「うん?どうかした?」
様子の変化に気が付くと問いかける湖張。
「ああ、実は後でちょっと出かけたいなと思っていたのですよ」
「へ?何処に?」
「先ほどの池のほとりです。皮膚が硬い魔物を倒したじゃないですか?そしてハルザートさんの話からすると、黒い魔物が捕食するために寄ってくると考えられます。ちょっと魔物のサンプルも欲しいので戻ってみようかと」

「あー確かに寄ってきそうだよね」
「とは言ったものの、湖張姉さまは予定が入ってしまったのでどうしようかなと考えたわけですよ」
「ああ、それだったら・・・」

湖張が少年に視線を移したところで手を小さく振って止めるラナナ。
「大丈夫ですよ。そんなに遠くは無い所です。レッド君とユカリが居ますし」
「え、でも」

「それだったら私も同行するか?」
このタイミングでハルザートが申し出てくる。するとラナナはジッと彼を見つめる。
その視線に少し怯むハルザート。

「む、嫌なら無理をしなくて良い」
「いえ、別に嫌じゃないですよ?正直なところ山林の中ではベミドアが近づいてきても気づきにくいです。ですからあなたが来てくれる方が心強いです。ですがそうなるとこの村には湖張姉さまと騎士さんだけになります。万が一、数多くの魔物が村に襲来してきたとき、手数的に厳しくなるかもしれません。それでしたらハルザートさんには残ってもらった方が良いかもしれません」

少し考えるハルザート。
「・・・先ほどの件もあるしな。確かに私は残った方が良いか」
「はい、それに先ほどもお伝えした通りそんなに遠くない場所です。すぐに帰ってきますし大丈夫ですよ」

「分かった、そうさせてもらおう」
「大丈夫なの?」
少し心配そうな湖張に安心させるような笑顔で答えるラナナ。
「大丈夫ですよ。それに今、話していて思いました。どちらにせよ人数的に湖張姉さまには残ってもらう方向になった気がしますし」

その言葉に頷くレッド君。どうやら同意のようである。
「わかった。気を付けてね」
湖張的にも納得がいったので、気遣う言葉に切り替える。
「はい、なるべく早く戻りますね」

「姉ちゃん、早く食べてよ!」
ラナナの返答の直後に待ち切れなくなった少年が元気に湖張に訴えてくる。やり取りをしていた内に食べ終えてしまっていたようだ。

「もう、食べた直後に動くのはあまり感心できないよ」
小さくため息をついたあとに人差し指で軽く少年の額を押す湖張。しかし少年には反省の色は見えず、ただただ嬉しそうな笑顔を見せていた。

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