ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六十七話話【あずまやでの会話】

           

村に入ると、すぐさまちょっとした広場の中心に位置する赤い屋根と四隅の柱だけで構成された、あずまやが目に入ってくる。
中心には8人ほどが利用できる大きな四角い木製のテーブルと、2人でゆったりと利用できるほどの横に長い椅子が設置されている。
心地よい風と村の雰囲気を感じながら休憩ができる場のようだ。
あずまやの前まで到達すると、ハルザートは湖張たちに話しかける。

「ここで話をするとしよう。気軽に利用して良い場所との事だ」
その言葉に反応しようとすると、湖張の手を引いていた少年が元気よく問いかけてくる。

「姉ちゃん、腹減っただろ!?何か食うか!?一緒にご飯食べようよ!」
「え?ええ!?」
突然の申し出に何と答えれば良いのか戸惑っていると、ハルザートが優しい口調で割って入る。

「すまないな、今から大事な話をしなくてはならないんだ。さっき見ただろう?このお姉さんたちは強いんだ。協力して魔物を退治すための相談をしたいんだ。飲み物だけ、持ってきてくれるか?」

すると元気よく頷く少年。
「分かった!!」
そして勢いよく走り去っていきながら母親と思われる女性に向かって大声を出す。
「かーちゃん飲み物!兄ちゃんたち、これから相談だって!!」

勢いの塊だった後ろ姿は、母親の手が頭の後ろにそっと添えられる事により落ち着きを得て、駆け足が歩みに変わり家の方に向かう。
その様子に困惑後の微笑みを見せる湖張。
「元気だなぁ」
「ああ、良い事だ」
「そうだね」
「さて、腰を掛けてくれ。話をしよう。また何か起きたら慌ただしくなる」
「分かった」

そう言うとハルザートの目の前を横切ってあずまやに向かう湖張。しかし彼は動こうとはせずに彼女を見つめる。その視線と様子に気が付くと不思議そうに問いかける湖張。

「ん?どうかした?」
「・・・香水をつけているのか?」
「あ?やっぱり分かった?」
「ああ、優しく甘い香りがした」

「キモっ!本当にキモっ!!」
ドン引きしていますよと言わんばかりの表情で突然声を荒げるラナナ。ハルザートはハッとした後、当然のように戸惑い右手で頭を押さえ顔を逸らしながら湖張に謝罪する。

「すまない、今の言葉は忘れてくれ。どうやら疲れているようだ」
ハラハラしていそうな彼を目の前に、大した問題じゃないよ大袈裟だなと伝えるような困った笑顔を見せる湖張。

「いや、別に気持ち悪くないって。全然気にしていないよ。ほら、ラナナもそんな顔しない」
「・・・湖張姉さまが良いんだったら別に良いです」
不貞腐れた顔でプイっとそっぽを向くラナナ。湖張は毛先をいじりながらハルザートに言葉をかける。

「レッド君がヘアミストを作ってくれたの。ラナナとは少し香りを変えているんだよ。本当は戦う身だからどうかなとも思ったのだけれども魔物相手の場合、人の匂いを消せて逆に効果があるかなって思えたからつけるようにしたんだ」

「そんな理由だったのですか!?」
呆れと驚きの反応を見せるラナナ。キョトンとする湖張。
「そうだよ?」
「・・・素直につけると思ったら、そういう事だったのですね」
「まぁまぁ。でもラナナと対になる匂いを身に纏うのも良いなって思ったのも事実だよ」

そう聞くと、したり顔になり湖張にしがみ付いて頬をすりすりとこすりつけるラナナ。
「もぅ、湖張姉さま可愛いなぁ。許してあげましょう」
「なんじゃそりゃ」

そして湖張はハルザートに再び視線を向ける。
「まあそういうわけ。やっぱり変だよね」
「いや、湖張のイメージ通りの香りだ。似合っている」

「・・・きッショ」
湖張をギュッと掴み、汚い物を見るかのような表情になるラナナ。
再びハッとするハルザート。苦みが溢れる笑顔の湖張。
「もう、ラナナで遊んでいるでしょう?アナタ」
額に手を当てるハルザート。
「すまない、そういうつもりではないんだ」
「別に気にならないよ。むしろアリガト。誉め言葉だよね?」

湖張は小さく笑みを見せながら、そっとラナナの手を解くと、あずまやの長椅子に腰を掛けようとする。
「さてと、そろそろ話をしようよ。魔物の事、ちょっと気になるからさ」
「ああ、そうだな」

一つ咳払いをして気を落ち着かせるハルザート。そして椅子には座らず、あずまやの外で湖張に声が届くくらいの位置に立つ。
「座らないの?」
不思議そうに湖張が問いかけるとハルザートはレッド君に視線を移す。

「ああ、レッド君は座れないだろう?だったら私とレッド君がここで立ち話をすれば輪になるだろう。湖張は外側を向いて座ってくれ。長椅子なのだ、ラナナは隣に座れば大丈夫だろう」
「ふむ、気づかいに感謝するぞ」
レッド君がハルザートの向かいに立つと、ラナナは湖張のすぐ隣に座る。全員が話を聞く体制になった所で、ハルザートは語り始める。

「さて、何から話すのが正解か・・・私がここにきた経緯を説明しながらだと良いかもしれないな」
「うむ、関連することは何でも話してくれるか?」
レッド君の返答により話す方向性を決めたハルザート。

「まず、話は三週間ほど前に遡る。我々メーサの騎士にこの村で皮膚の硬い魔物が現れたという情報が入ったのだ。そこで数名の騎士が派遣されたのだが、滞在していた女性格闘家が既に魔物を退治していたらしい」
「・・・それが深雪だね」
湖張がこぼした言葉に問いかけるハルザート。

「さっき言っていた知り合いの事か?」
「うん、きっとそう」
「そうか。ただ魔物の数は多かったらしく、いくら倒しても出現し続けたらしい。それは今もそうだな。なのでメーサの騎士達が引き上げる事は無かった。しかも更に奇妙な事があった。それが先ほどの黒い魔物だ。通常の魔物よりも硬く、すぐに討伐はできないものの、出現する度に対応はしていた。ただ、メーサの騎士が活動する姿を見て、もう大丈夫と考えた湖張の知り合いは騎士達に後を任せてこの村を去ったそうだ」

「うん、そう聞いている」
「その後だ、更に不思議な事が起こった。さっき戦った熊のような魔物がいただろう?あれが現れたのだ。恐らくベミドアの亜種だ」
「ベミドア?」

ラナナに窺うように顔を向けると、顎に手を当てて頭の中の知識を引っ張り出してくるラナナ。
「主に山林に生息する魔物です。木の実や動物の肉など何でも食べます。体毛は緑色なので森の中だと保護色で分かりづらいです。それ故に気づいた時には距離が近くて襲われるケースは珍しくありません。ただ、さっき見たのは体毛が黄色く、一回り大きい気がします」
「つまりはロダックの時と同じか」

レッド君がそう言うと、頷くハルザート。
「ああ、特異な個体がいるようだ」
「そもそも、本当にベミドアなのか?」
「間違いないと考えられる。というのも過去に討伐した時は通常のベミドアと一緒にいた」
「む、待て。という事は今日の個体以外も同様の変異を見せていたベミドアがいたという事か?」
「ああ、今回の奇妙な点は特異な個体が複数体いる事だ。更に不思議な事があるが、それは後にしよう。まずは経緯を伝えさせて欲しい。その方が話がスムーズだ」
「良かろう」

レッド君が理解を示すと、ハルザートは少し姿勢を変えて話を続ける。
「ベミドアが現れてからというもの、メーサの騎士達は苦戦を強いられてきた。知っての通り、我々は皮膚が硬い魔物に対しては優位性がある。だがベミドアに関しては別だ。獰猛で危険な魔物だ。よって次々とメーサの騎士達は負傷していき他の街にある教団施設へ搬送され、その度に交代要員が派遣されていた。最初の内は勧誘色が強い紺色の騎士達であったが、手に負えないと分かると我々戦闘特化の青の騎士達に変わったが、それでも苦戦を強いられてな。結局は今さっき戦っていた騎士だけになってしまったのだ。そこで私に声が掛かった。これ以上人員は割けないから私がこの村で魔物を退治するようにと。そして私が到着したのは4日ほど前の事だ」

「そうだったんだ」
湖張の相槌に軽く頷くハルザート。
「ああ。この村に来てからは不可思議な事にいくつか気づいた。まず先ほどの黒い魔物だ。三人も気づいていると思うが、外殻に見覚えが無いか?」

「黒い異形の魔物・・・だよね?」
湖張の答えに頷くハルザート。
「そうだ。私も真っ先にそれを感じた。だがあの時より決定的に違う事があった。あの時ほど硬くないのだ」

「ふむ、メーサの騎士達も倒していたと言っていたので、もしやとは思っていたが、やはりそうか」
レッド君に顔を向けて答えるハルザート。
「ああ、防御壁も展開しなかった。だが、見た目は近い物を感じる」
「関連があると考えるのか?」
「断言はできない。だが可能性はあると思える。裏付けになるか分からないが、共通点もある」
「というと?」
「さっき見た通りだ。固い皮膚の魔物を食べていただろう?そして以前、あの山で遭遇した黒い異形の魔物も食べていた」

「ふむ、確かにそうだな。獲物が同じという事か」
「実はというと、その魔物が硬い皮膚の魔物を食べる事を知ったのは私が到着する少し前の事だ。人手不足で討伐した硬い皮膚の魔物の片づけが間に合っていなかった時、ふらふらと寄ってきた魔物が綺麗に残さず食べていく姿を観測し知ったのだ。そして特に人に危害を加えることも無く去っていく事を知った」

「ふむ」
「さらにいつもあの魔物が現れるのは硬い皮膚の魔物を討伐した後だった。つまりあの魔物は餌を求めて現れただけで、放っておいても問題ないという事が分かった。それまでは現れた直後に討伐をしてはいたが、その必要なかったようだ」

「じゃあ、あの魔物は危険な魔物では無いという事?」
湖張が疑問を投げかけると腕を組んで考える素振りを見せるハルザート。

「ああ、今のところはそう言えるかもしれない。だが、我々はあの山で遭遇した危険な魔物も知っている。安全と言い切って良いものか疑問が残る」

「魔物の・・・外殻だけでも構いません。サンプルはありますか?少し調べてみたいです」
ラナナが考えを巡らせているような真剣な目をして問いかけると小さく首を横に振るハルザート。

「いや、今は手元にない」
「そうですか。すると次に現れた時、敢えて討伐してサンプルを得たいですね」
「分かった。では次はそうするとしよう。ただ、ここで更に伝えたい事に繋げて良いか?」
「どんな事です?」
「実はベミドアの亜種、いや変異種か?それも皮膚の硬い魔物を食べるのだ」

「・・・え?」
眉をひそめながら小さく驚きを見せるラナナ。
「むしろ、変異種も皮膚が硬い魔物を追ってきているようにも見える」
「え?じゃあベミドアだっけ?それも放っておいて良いの?でもさっきメーサの騎士を襲っていたよね?」

湖張の疑問に答えるハルザート。
「そこはベミドアといったところか?皮膚が硬い魔物だけでもなく、人も当然のように襲う。よって討伐の必要はある。むしろ危険度からして優先度は一番高いといっても良いだろう」
「ふむ、するとまずはベミドアをどうにかせねばならぬという事か」

レッド君がそう言うと、ハルザートは視線を移す。
「まあ、そうなるのだが皮膚が硬い魔物をのさばらせておくのも良くは無い。だが魔物退治の人手が足りない事も現状だ。実際、先ほども私が村から離れたタイミングで魔物が現れていた」
「だったら私たちが来たのは好都合だったんじゃない?」

湖張の発言を聞いて軽く頷き同意を見せるものの、何となく晴れない表情のハルザート。
「ああ、そうだな。だが正直なところ想定外でもあった」
「うん?何かまずかった?」
「いや、そんな事は無い。ただ湖張たちが居なくても対処できる手は打ってはいたのだ」
「そうなの?」
「ああ、先ほど伝えた通りメーサ教はこれ以上の騎士の派遣が難しい。この案件では怪我人を出し過ぎた。そこでタウン・アッシャーに増援依頼の手紙を出しておいた」

ハルザートの発言に少し目を大きくする湖張。
「え!?タウンさんを頼ったの!?」
「ああ。・・・随分と意外そうな顔だな?」
「いや、頼ってくれて良い様な事を言っていたけれども、そりゃそうでしょう?」

小さいため息のハルザート。
「フィルサディアでの一件の後、私は打ち合わせた通り北へ魔物退治に向かったのだが、道中の指定された町や村では国からのサポートを受けられて随分と助けられた。派閥の関係か全ての人里では無かったが、あの男が声を掛けられる範囲では世話になっている。また任せた魔物退治も全てこなしてくれたようだ。メーサの騎士だけではこなせない内容であったから助かったまでもある」

「最初はあんなにも素っ気なかったくせに、仲良くやっているじゃない」
「お互いの利害関係が一致しているだけだ」
「素直じゃないなぁ」
飽きれ気味に微笑む湖張に腕を組んで切り返すハルザート。

「とにかくだ、そういう訳でいずれ国の兵がこの村にくるはずだ。規模は分からないが、対処できる戦力は整うはずだ」
「ふむ、すると我らはそれまでに村の防衛に専念するのが良いのかもしれぬな」
レッド君が意見を述べると頷くハルザート。

「ああ、そうするとしよう。この人数で無暗に山林を捜索してもベミドアを全て見つけられるわけではない。皆で出払って先ほどみたいに村が手薄になる事が一番まずい。よって攻勢に出るのは十分な人数が揃ってからの方が良いだろう」
「わかった。じゃあしばらくはこの村に滞在だね」

そう話がまとまった所で、先ほどの少年の母親が人数分の飲み物をトレーに乗せて運んでくる。
「はい、お待ちどおさま。口に合うか分からないけれどもこの村で採れたお茶だよ」
「ありがとうございます」
そっとテーブルにお茶をトレーごとおかれると、軽くお礼を述べる湖張。するとまた少年が寄ってくる。

「姉ちゃん、お代わりもあるからな!」
「そっか、ありがと」
笑顔で湖張が答えると、困った顔で母親が制止してくる。
「ほら、邪魔しないの!」
「ああ、大丈夫ですよ。とりあえずの打ち合わせは終わりましたから。
「だったらご飯を食べようよ!」

元気よく再び申し出る少年に再び困り顔の湖張。
「ああ、それはちょっと悪いかな」
しかし今度は母親が遠慮をするなと言わんばかりの笑顔で話しかけてくる。

「いや、良いんだよ。さっきの魔物退治のお礼もしたいからね。話は終わったんだろう?だったらここで待ってておくれよ。今すぐだと簡単なものになるけれども、用意して持ってくるからね」
「あ、でも!」
「構う事なんてないさ。ここ最近は村ぐるみで魔物退治をしてくれる人をもてなしているのよ。逆にそれくらい助けられているの。だから、せめてそのくらいはさせてもらえないと気まずくて仕方が無いよ。そこにいるお兄さんにだって毎日ご馳走をしているんだよ」

「・・・そうなの?」
「ああ。ここ最近、行為は受け取るようにはしている」
意外そうな表情を見せる湖張に小さい笑みを見せるハルザート。

「姉ちゃん、嫌いな物あるか!?」
再び少年が元気よく問いかけてくる。この流れだと食事を頂く事は決定なので、今度はしっかりと対応しようと思い、にこやかに答える湖張。
「そうだなー・・・じゃあ問題。私は何が嫌いでしょうか?ヒントは赤い実の野菜!」

湖張がクイズ方式で回答しようとすると、楽しそうな顔で反応を見せる少年。と、その時であった。彼よりも年が2つか3つほど下に見える男の子が近づいてくる。
そして湖張の顔をジッと見つめる。

「俺の弟だよ!」
元気よく紹介をしてくれる少年。すると湖張は優しく話しかける。
「こんにちは」

「・・・こんにちは」
恥ずかしそうな返事に安心させるような笑顔で問いかける湖張。
「じゃあ一緒に考えようか。私の嫌いな赤い実の野菜はなーんだ?」

すると弟の方も嬉しそうな笑顔を小さく見せると一生懸命考える素振りを見せる。
そんな輪が出来てくると、ラナナは席を立って弟の肩をトントンと叩いて隣に座るように手で案内をした後、ハルザートに近づく。

「アナタも混ざってきたらどうです?」
「冗談はよせ」
「面白くないなあ」

ラナナが肩に掛かった髪を後ろに払うと、優しい花の香りがほのかに舞う。
その場は先ほど魔物の襲撃があったとは思えないほどの長閑な空間を醸し出していた。

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