ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六十六話【教えてもらった魔物が出る村】
- 2026.05.26
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
深雪と別れてから1時間後、一行は身支度を早々に終えて情報のあった村へ向かった。
村はそこまで遠いわけではなく、2時間も歩けば到着する位置であった。しかしながら木々が生い茂った山の上なので坂道を上る必要があり、一苦労でもあった。
現在、湖張たちは山道から少し外れたところで茂みの奥をジッと見つめている。その先にはちょっとした池があり、背の低い草が所々に生えている広いほとり広がっている。
そしてそこには皮膚の硬い魔物が3匹、何かをするわけでもなく、その場で静止をしていた。
「何をしているのかな?」
観察をしながら疑問を口に出す湖張。
「さすがにこんな所に芋はありませんよね」
「水場の近くに居座ることは生物ならば珍しくはない。恐らくは水の近くで休憩をしているのであろう」
「どうする?」
魔物から視線を離さず警戒しながら問いかける湖張。するとレドベージュは答える。
「村はここからそう離れてもいない。入られても困るであろう。ここで退治しておくとするか」
「それでしたら一つ提案が」
小さく手を上げるラナナ。湖張とレドベージュは彼女に視線を移す。
「どうした?」
「折角なのでアルサキエナのテストをしたいです。前はあくまで皮膚のサンプルでテストをしました。生きている状態で効果があるのかが知りたいです」
「ふむ、それは一理あるな」
「じゃあ決まりだね。タイミングは?」
湖張が尋ねるとラナナは手を魔物に向ける。
「いつでも行けます。私が魔法を放ったら二人が出るという流れで良いですか?魔法の効き方も見たいので、一番右側は私が担当します」
「じゃあ私は真ん中を行こうかな?」
「では我は一番左を受け持とう」
「分かりました。もう仕掛けて良いですか?」
「うむ」
茂みから身を出して魔法を発動させるラナナ、合図を出すかのように魔法の名を口にする。
「アルサキエナ!」
水色の細い光が螺旋を描きながら魔物から吸い出されラナナの手に向かっていく。丁度彼女の指先くらいに到達するかどうかの段階で湖張とレドベージュは魔物に向かって飛び出す。
鉄扇を開き、軽く魔物に向かって斬りつける湖張。すると今までの硬さが嘘のように簡単に仕留める事が出来た。
「お、効果ある!」
「うむ、これは労力が大きく削減されるな」
同じようにレドベージュも簡単に魔物を仕留めると、少し遅れてラナナは魔物に対して赤い光弾を放って爆発をさせる。すると魔物は軽く吹き飛んだ後、動かなくなった。
「魔法による衝撃も通るようですね。アルサキエナは対抗策として有効ですね」
近づきながら結果を伝えるラナナ。ただその後に少しだけ気まずい顔を見せる。
「とは言ったものの、相手から奪った魔力で魔法を放って相手を倒す。先生が良しとしない形ではありますが・・・」
「今の爆発魔法は魔物から奪った魔力で放ったの?」
「はい、まあ気分の問題なのですが魔物の魔力を体に蓄えておくのもあまり気持ちが良い物ではありませんので」
「あー確かに」
納得を見せる湖張。するとレドベージュが山道の方を見つめている事に気づく。
「どうかした?」
覗き込むように問いかける湖張。するとレドベージュは来た方向を見ながら答える。
「誰かが近づいている音が聞こえるな」
「え?」
そう言われると、小走りで山道に戻る湖張。すると目の前に10歳前後の少年が急いで山道を駆け上がっていく姿が目に入る。
(男の子?急いでいる?)
心の中で呟くと、更に下の方から更に誰かが走ってくる気配を感じる。
「ハルザート!?」
「湖張?!」
そこには走って山道を駆け上がるハルザートの姿があった。思わず彼は立ち止まる。
「ちょっと、こんな所で何をしているの!?」
驚いて問いかける湖張。いつもは冷静な彼も流石に驚いている。
「湖張こそ何故ここに?」
「何やっているんだよ!?早く来てよ!!」
二人のやり取りなぞ関係ない様子で先ほど通過していった少年が大声でハルザートに訴えかける。それにハッとするハルザートそして奥から姿を現すラナナとレッド君に視線を移した後、湖張に話しかける。
「すまない、今は急いでいるんだ。この先の村で魔物が出たらしい。仲間が凌いでいると思うが、苦戦している可能性もある」
「え!?」
「・・・止めても来るのだろう?」
小さな笑顔を見せて再び走りだすハルザート。それを追うように湖張は走り出す。
「当たり前でしょ!」
上り坂を全力で駆け上がると、木々で囲まれた景色が開けた広場に変わる。そして視線の先には木製の柵で囲まれた村の外で黄色い毛並みの小型の熊の様な魔物と青い鎧のメーサ教の騎士が戦っている姿が見える。
「いけー!頑張れー!!」
「負けるなー!」
少し離れた位置から村人たちが騎士に声援を送っている。まるで村の命運を背負っているかのような雰囲気である。
それに勢いづけられたのか、メーサ教の騎士は槍を魔物に向けて突進をする。
しかし魔物は素早い動きで躱すなり左前脚で騎士の胸部を叩きつける。金属に強い衝撃が走った音と共に張り倒される騎士。鎧のお陰で致命傷にはならなかったようだが、内部へのダメージはありそうである。
そこに追い打ちをかけるように飛び掛かる魔物。村人たちが窮地を現す声を上げる。
その直後、目にも止まらぬ速さで騎士と魔物の間に飛び込む湖張。魔物の顔面に横方向への回し飛び蹴りを当てると、魔物は勢いよく地面に転がるが、すぐさま起き上がり再び突進しそうな姿勢を見せる。
「覇王拳!」
放たれる白い光弾。魔物の顔面に当たると大きく仰け反る。
その隙に飛び込んだのはハルザートであった。
両手で剣を強く握り、斜め下から斜め上に向けて打ち上げるような斬撃を魔物に浴びせる。
直撃によりその場に倒れる魔物。決定打となったようで、そのまま動かなくなる。
「うおおおお!」
「すごい!」
湧き上がる歓声。それに少し照れ臭さを見せながらも歩いてハルザートに近づく湖張。
「相変わらず鋭い剣さばきだね」
「湖張も相変わらずの動きだな。途中、追い抜かされた時は少し立場が無かったぞ」
「そりゃあ、そんな鎧を着ていたら遅くはなるでしょう」
「湖張姉さま、大丈夫ですか?」
少し遅れてきたラナナとレッド君が近寄ってくる。笑顔で頷く湖張。
「もちろん」
そして今度はハルザートに視線を向けるラナナ。小さく息を吐く。
「そして本当にアナタは神出鬼没ですね」
「それはお互い様だろう。まさかこんな所で遭遇するなんて思いもしなかったぞ」
「遭遇って・・・それよりお礼を言ってもらいましょうか?
「どういう事だ?」
腰に手を当てて胸を張るラナナ。
「さっき飛ばされた騎士を魔法で治療しておきました」
その言葉を聞くと少し慌てた様子で騎士に視線を移すハルザート。するとよろよろと村に向かって歩いている姿を確認する。
「大した傷ではありませんでした。村に戻って少し休むように伝えました。問題ありませんよ。」
ラナナがそう伝えると、ハルザートは頭を下げる。
「感謝する。すまなかったな」
「構いませんよ。その代わりに、ちょっと尋ねて良いです?」
「何だ?」
ハルザートが聞き返すと、少し離れた位置を指さすラナナ。そこには皮膚が硬い魔物が一匹、退治されたのか横たわっていた。
「あの魔物も一緒に現れたのです?」
するとハルザートは少し考えた素振りを見せた後に答える。
「いや、一緒ではないはずだ。だが関連はしているはずだ」
「どういう事だ?」
このタイミングでレッド君も話しに加わってくると魔物を見つめながら答えようとするハルザート。
と、その時であった。小さな駆け足の音が近づいてくる。
「姉ちゃん強いな!!すっげーな!!」
興奮気味の大きな声で湖張に話しかけてくる少年。先ほど、ハルザートの前を走っていた子であった。
「あはは、ありがとう」
急の出来事だったので戸惑いつつ笑顔を見せて答える湖張。少年は目を輝かせる。
「さっき撃ったの覇王拳だろ!?お姉ちゃんもあの白髪のお姉ちゃんの仲間なの!?」
「え?しら・・・あー」
恐らくはこの子が言っているのは深雪の事なのであろうと気が付くと思わず苦い笑みがこぼれる湖張。
「まあそんなところかな?それよりも銀髪と言ってあげて。その表現だと怒るから」
「うん!ひっぱたかれた!!」
元気いっぱいの返答内容に笑みの苦さがさらに増す。
「その少年と知り合いなのか?」
ハルザートが不思議そうに問いかけてくると、首を横に振る湖張。
「いや、初めましてだよ。ただ私の同郷がちょっと前この村に来ていてね。その子からこの村に魔物が現れているって聞いてさ。それで今日、ここに来たの」
「ひょっとして、メーサの騎士がこの村に来る前に魔物退治をしていた格闘家というのは湖張の知り合いという事か?」
「あー多分そう。メーサ教の騎士が村に来たから後を任せて旅に戻ったと言っていたもん」
「なるほどな」
「ところでハルザートよ、話の続きを良いか?」
少年の登場で途切れてしまった話の続きを聞こうとするレッド君。するとハルザートは、ああそうだったといった表情を見せた後に答え始める。
「ああ、そうだったな、実は・・・」
「あれは!?」
話の続きに入ろうとしたところでラナナが大きな声を上げて皮膚が硬い魔物の方を指さす。すると体長は50センチくらいで花の蕾のような形状の体に太い鳥の足のようなものが一本だけついている黒い異形の魔物が三匹、ふよふよと浮いて皮膚が硬い魔物に漂うように近づいていく。
「何あれ!?魔物?」
畳まれた鉄扇を握りしめ戦う姿勢を見せる湖張。すると彼女の前に一歩出て左手をスッと出し制止させるハルザート。
「待て、今は手を出さなくて良い」
「え?」
「見ていろ」
ハルザートの言葉に疑問を抱きながら魔物に視線を移す湖張。すると黒い異形の魔物たちは皮膚が硬い魔物に群がり始める。そして体の一部が開き始め、捕食し始めた。
「・・・何あれ」
薄気味悪い物を見たといった表情でたじろぐ湖張。ラナナは顔をしかめながらではあったがジッと観察をしている。
そしてレッド君はまるで全てを記録するかのようにジッとその様子を見つめている。
見る見るうちに姿を失っていく獲物。そしてほぼ残骸が残らない状態になったところで、黒い異形の魔物はゆっくりと浮くように上空へと姿を消していった。
「見ての通りだ。まるで掃除をしていくかのように捕食をしては消えていく。特にこちらに危害を加えてはこないのだ。なので無暗に戦う必要もないだろう」
ハルザートがそう伝えると、レッド君が再び話しかける。
「詳しく教えてくれぬか?」
頷いて答えるハルザート。
「ああ、構わない。だがとりあえず村に入ろう。その方が落ち着いて話も出来るだろう」
そう伝えるなり歩き出すハルザート。周囲を見渡すと村人たちも次から次へと村に入っていく姿が目に映る。魔物が襲ってくる事に慣れているのか、村人たちは動揺を見せることも無く、まるでショーを見終わった後のような爽快な余韻を残しながら帰路に就いている雰囲気ですらある。
「行こうよ、姉ちゃん!」
先ほどの少年が湖張の手を引く。
「え!?あ、ちょっと!!」
突然引っ張られたので、少しバランスを崩し躓きそうになる湖張。
少年の笑顔と勢いに乗せられてはいたが、まあ良いかと思いながら村に向かっていった。
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