ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六十五話【深雪の情報】
- 2026.05.05
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
一夜明け、朝食を済ませ宿の部屋に集まっている四人。深雪は身支度を済ませようとしている。
あれからというもの、深雪は慎ましく過ごしていた。
昨夜、夕食を食べ終わった頃に聞いた話によると、
やはり遠くまで一人で旅をしてきた事は大変だったようで、少し追い詰められていたとの事だった。そして湖張との手合わせが切っ掛けなのに、何で自分がこんな苦労をして旅をしているのかと思っていた矢先に湖張の姿を見て、どうにもこうにも暴れずにはいられなかったそうだ。それを聞いた湖張は、なんとも言えない気持ちであったが、真相は伝えずにグッとこらえてその場を過ごす。深雪としても、本心は湖張を憎んでいるわけでもなく、むしろ急にいなくなった事を心配していたのだと感じ取れた。
「やっぱりあなたは小綺麗にしている方が似合っているね」
深雪に近づいて話しかける湖張。昨夜、約束通りラナナとレドベージュに身だしなみを整えてもらった深雪は少し嬉しそうに自らの着物を撫でる。
「とても素晴らしい処置をしていただき感謝しておりますわ。二人とも、ありがとうございました」
ラナナとレドベージュに向かい頭を下げる深雪。ラナナは小さく手を振る。
「良いのですよ。深雪さんは手入れをすればするほど綺麗になるから、途中から楽しくなっちゃいました。芭蕉心拳って習うと美人になれる技でもあるのかと思いました」
クスクスと冗談に反応をする深雪。
「何を仰います。そんな便利な技などございませんよ。それに貴女の方がよっぽど綺麗じゃないですか。天女みたいですよ」
「いやいや、そんな事ないですって」
謙遜の笑みで答えるラナナ。するとそのタイミングで湖張が深雪に袋を差し出す。
「これ、受け取ってくれる?」
「何なのです、一体?」
ずっしりとした革袋を受け取る深雪。不思議そうな顔を見せていると、湖張は腰に手を当て答える。
「それはお金。兄弟子のいる町は港町だからね。船も定期的に出ているそうだよ。そこから歩いて村に帰るのは時間が掛かるし、大変でしょう?それだったら折角船が出ているんだもん。船に乗って少しでも村に近い町まで向かった方が早く着けるでしょう?フィルサディアの南の港町まで行くだけでも大分楽になるだろうし」
「え!?」
驚いた表情を見せる深雪、湖張は話を続ける。
「さらにそれは私から二人へのご祝儀も兼ねているからね。さっさと二人で村に戻って芭蕉心拳を継いでもらいたいからさ」
「まったく、あなたという人は・・・でもこの重さ、大金ではなくて?」
不安そうに尋ねる深雪、両手を小さく上げて構わないと伝える素振りを見せる湖張。
「良いのよ。私、これでも結構な高給取りなのよ?それにさ、昨日も言った通りおじいちゃんの貯金をいち早く守りたいし、何より二人が戻ったら安心すると思うしさ」
すると何か思う事があったのか、少し考えた後に逆に聞き返す深雪。
「湖張は戻らないのですか?」
何かを探るようにジッと見つめてくる深雪。申し訳なさを誤魔化すような笑顔で答える湖張。
「ごめんね、私はしばらく戻れないんだ。だからお願い、ね?」
「貴女、まだ馬鹿な事を考えているのではないのでしょうね?」
その言葉に何かを感じ取ったラナナ。湖張に視線を移す。一方湖張は小さく息を吐いた後、ゆっくりと首を横に振る。
「そんな事はないよ。いずれは帰ろうとは思っている」
「貴女は孫娘なのですからね?」
念を押すように少し強めの視線と口調で深雪が言うと、湖張は「分かっているよ」と簡単に答える。
それに小さくため息をつくと、深雪はお金をしまい立ち上がる。
「では私は行きます。お世話になりました」
深く頭を下げる深雪。そして湖張に顔を向ける。
「ありがとう湖張。お師匠様の事は任せなさい」
「うん、お願いね。私も久々に深雪と合えて良かったよ」
微笑みを見せる深雪。そして扉を開けて部屋を出ようとする。
「・・・どうしたの?」
扉を開け、部屋から一歩出た状態でしばらく固まっている深雪。湖張が疑問に思い問いかけると、深雪は振り返り話し始める。
「そういえば思い出したことがあります。貴女方は正義の旅をしているのでしょう?でしたらここから北西の村に向かってくださいな」
「え?」
「実は私、その村にも寄ってきたのですが、魔物が多く出ておりまして村人たちが困っていらっしゃったのですよ」
「ふむ、聞かせてくれるか?」
そのタイミングで問いかけるレドベージュ。
「私が訪れた時は皮膚がとても硬い大きなトカゲみたいな魔物がうろつき始めたと聞いたのです」
「え!?それって!?」
驚く湖張に視線を写した後に、深雪は話を続ける。
「そこで私は報酬を頂くために退治をしたのですが・・・本当に硬かったのですが、攻撃は大したことなく危険性は低かったですね。ただその後、妙な黒い小型の魔物も少しずつ現れるようになってきました」
「・・・黒い?」
「ええ、本当に見たことも無い魔物でした。そして硬いトカゲのような魔物の方も度々現れ続けておりまして手を焼いておりました。その中でトカゲの魔物を倒すと言ってメーサ教?とかいう怪しげな宗教団体の騎士達がやってきましてね、実際の所あっさり倒し始めたので私は村の事はその騎士達に任せて本来の目的である兄弟子様を探す旅に戻る事にしました」
そこまで話すと、深刻そうな顔をして湖張が問いかけてくる。
「すると、今もその村にメーサ教の騎士が硬いトカゲの魔物や黒い変な魔物と戦っているという事?」
「ええ、おそらくは。ただそれは3週間ほど前のお話ですので、すでに落ち着いているかもしれませんが。
私は兄弟子様を探すために近隣の町や村を回っていたのでこの町まで辿り着くのに時間が掛かりましたが、その村に真っ直ぐ向かうのでしたらここから数時間で着けますわ。少し様子を見に行くくらい大した手間では無いかと」
湖張はその事を聞くと、レドベージュやラナナと視線を合わせ一つ頷く。そして深雪に話しかける。
「わかった、ありがとう。そして聞いて欲しい事があるの。いい深雪、メーサ教に関しては怪しい部分があるから絶対に故郷の村には入れないで。中には良い人もいるけれども、教団としてはまだ怪しい部分が多いんだ。深雪自身も深く関わっちゃだめだからね」
「・・・そうなのです?」
「うん、おじいちゃんにも手紙を書いているから大丈夫だと思うけれども、深雪にも気を付けて欲しいんだ」
「分かりました。肝に銘じておきましょう」
そう言うと、体を室内に向けて再度頭を下げる深雪。
「それではこれで失礼させていただきます。この水芭蕉 深雪、頂いたご恩を一生忘れませんわ」
(水芭蕉?)
彼女の名前に何かを感じ取った顔で湖張を見るラナナ。その視線に気づかないまま湖張は手を小さく振る。
「バイバイ、気を付けるのよ。兄弟子には覚悟を決めなさいと伝えておいて」
「ええ、あなたも折角作ってもらったヘアミストをちゃんと使うのですよ。お友達の証なのでしょうから」
「はいはい」
やり取りが終わると、部屋の扉がゆっくりと閉まる。彼女の気配が離れていくと、湖張は4人掛けの丸テーブルの席に腰を掛ける。
「行っちゃいましたね」
既に腰を掛けていた正面に座っているラナナが話しかけてくると、騒ぎを誤魔化す様な笑顔を湖張は見せる。
「何か騒がしくってごめんね。まあ、あんな感じの子なのよ」
「良いんですよ。むしろ最近は気分が落ち込むことが続いていたので、久々に和むというか、楽しい出来事にあえて嬉しかったまでありますし」
そう言うとレドベージュに視線を向けるラナナ。窺うように話しかける。
「すみません、実はこれからの行先についてお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
「ふむ、どうした?」
「実はここから、そう遠くは無い場所に私の故郷の村があるのです。湖張姉さまと深雪さんのやり取りを見ていたら、たまには私も両親と祖母にあった方が良いかなとも思えまして。なので寄っても良いでしょうか?」
そう訊ねると、楽しそうな顔で乗ってくる湖張。
「ラナナの故郷の村!?私、行ってみたい!」
「いえ、何もない所ですよ」
何か面白い物があるのではと期待されていると思い、困った顔のラナナ。
「それは私の村も同じ。それになんだっけ?リンキ神だっけ?その伝説が残る村なのでしょう?行ってみたい!」
すると何か思いついた顔のラナナ。
「あー確かにリンキ神関連のお話というか文化みたいなものはありますね」
「そうなんだ」
「でも、そんな面白い物でもありませんよ?」
「良いよ、それ以前にラナナだってたまには里帰りしたいでしょう?」
そう言うと少し気まずそうな顔を見せるラナナ。
「あー・・・でもまあ少し揉めるかもしれませんが」
「うん?」
「まあ、それも含めて帰省をしたいと思っております。駄目でしょうか?」
レドベージュに再度、確認を取るラナナ。頷くレドベージュ。
「まあ良かろう。積る話もあろう」
「はい、ありがとうございます」
そう言うと、今度は湖張に話題を振るラナナ。
「それにしても兄弟子さんの場所をお伝えしちゃって大丈夫だったのでしょうか?
深雪さんから距離を置くために出て行ったのですよね?」
腕を組んで天井を見る湖張。
「そうだねえ、まあ大丈夫だと思うよ?おじいちゃんの手紙があるから少なくとも村には帰ると思う。
それにね、別に兄弟子だって深雪の事が嫌いというわけでは無いんだ。どうやったら祝言を先延ばしに出来ないか考えていたって港町のマスターが言っていたじゃない?要するに早いか遅いかだけで、一応は身を固めるつもりではいるはずだよ」
「あー」
「それにね、深雪の料理はとっても美味しいんだ。特に村の川で採れる魚の料理なんてすごく美味しんだよ。兄弟子もあの子の料理がとても好きなんだ」
「つまり胃袋はがっしり掴み終わっているという事ですね」
「そうそう。だからさ、早いところ村に帰ってもらって、さっさと二人で芭蕉心拳を継いで欲しいんだよね」
そう伝えると、少し不思議そうな顔を見せるラナナ。
「ところで湖張姉さまは芭蕉心拳を継ごうとは思わなかったのです?」
「あー」
再び天井を見上げる湖張。
「えーっとね・・・いや、やっぱり何でもない」
「え?どうしたのです?」
視線をラナナに戻す湖張。
「いや、折角和んでくれたのに少し重たい話になるかなって・・・それでも聞く?」
確認を取る湖張に頷くラナナ。
「はい」
すると小さく息を吐く湖張。そして語り始める。
「芭蕉心拳はね、その時代ごとに一番ふさわしい人を代表の継承者として任命し、後進に技を伝えていくという習わしがあるの。今はおじいちゃん。でも、もう年だからそろそろ世代交代の時期なんだよね。それで誰を継承者にするかなのだけれども、当然のように実力がある者が選ばれるんだ」
首を少し傾けて確認を取る湖張。
「兄弟子を倒したのに何で継承者は兄弟子って思ったのでしょう?」
「・・・はい」
「もちろんさ、私も継承者の候補だったよ。でも名前が上がった時点で辞退をしたの。それは手合わせをするずっと前。その時から辞退はしていたの」
「何故なのです?」
「おじいちゃんにはね、実は一人だけ娘さんがいたの。それなりに強かったらしいよ。でもある日、はるか遠い異国の商人が村に訪れた時に駆け落ち同然で村を出ていってね。その後は数通の手紙が来ていたようだけれども、今となってはそれも途絶えた。本当だったら娘に芭蕉心拳を任せて、孫の面倒でも見ながらゆっくりと過ごしたかったそうだけれども、それも叶わなかったって、前にお酒を飲みながら悲しそうに話していたよ・・・。やっぱりおじいちゃんは寂しかったんだって。でもそんな中、赤ん坊の私を拾ったの。だから孫の代わりに大事に育ててくれたとも言っていた」
少し言葉を選ぶ時間を持つ湖張。
「おじいちゃんはさ、本当の孫のように可愛がってくれていたよ。遠慮もするなと言ってくれていた。もちろん私も遠慮はしていない部分は多いよ。でもやっぱり・・・本当に何でだろう?たまにどうしても思っちゃうんだよね、私は本当の孫じゃないんだって。だからどうしても一歩下がってしまう時があるの。
さっき深雪の名字を聞いた時、あれって思わなかった?私と同じ水芭蕉を名乗っていたでしょう?深雪はね、おじいちゃんのお兄さんの孫娘。関係としては私のはとこ。要するにおじいちゃんと血の繋がりがあるんだよね。
そして昨日の話。覇王爆炎弾を使えるのは私と深雪と兄弟子。相当な使い手である深雪と兄弟子が一緒になるのならば、芭蕉心拳も任せた方が良いなって思うんだよね。深雪は血も繋がっているし。
別に継承に血の繋がりなんて関係は無いのだけれども、それでも私はそうした方が良いと思えちゃったんだ。元々、私は赤の他人。家を、そして村を出て家と技は二人が継ぐ。これが良いと思えたんだよね。
でも数年ほど前、深雪にこの話をした時にすごい剣幕で怒られた。私は孫娘なのだから出ていく必要なんて無いって。継承者にならないにしても、家や村から出ていく必要なんて全く無いんだって。流石に反省したよ。おじいちゃんも深雪も受け入れてくれているのに私から離れるような事を言ったのだもの。ちょっと失礼だよね。だからそれ以降は理由もなく自ら村を出る選択肢は頭から無くしたよ。
でもさ、でもやっぱり技を継ぐのはなんか違うなって気持ちは変わらなかった。
柄じゃないっていうのかな?上手く言葉にできないけれども、私の中でとにかく何か違ったんだ。
そして何より、本当にありえないのだけれども・・・絶対に無いのだけれども、もし本当のお父さんとお母さんが迎えに来てくれた時、おじいちゃんの孫娘になったら、芭蕉心拳を継いでいたら自由に身動きが取れなくなって、両親について行けなくなるのじゃないかって、どうしても考えちゃうんだよね」
そこまで話すとラナナに視線を移す湖張。うっすらと涙を浮かべるラナナに仕方が無いなというような、それでいて誤魔化す様な笑顔を見せる。
「ほら言ったじゃない、重いって」
「重くなんてないです!」
鼻を一つすするラナナ。そして一生懸命に声を出す。
「私は赤き聖者になった時、湖張姉さまと義姉妹の契りを交わしたのです!私がそばに居ます!」
「あはは・・・でもありがとう。大丈夫だよ。頭ではちゃんと分かっているから。おじいちゃんもいる、深雪もいる。そして今はレドベージュとラナナがそばにいる。皆、私を大切に思ってくれているって。寂しくなんて無いんだって」
「そうですよ、絶対に忘れないでくださいよ!」
「わかった。可愛い妹の言う事だもんね」
「我で良ければ、出来る限り力になる。遠慮するでないぞ」
次にレドベージュが優しく言葉をかけてくる。すると嬉しそうに、視線を移す湖張。
「分かったよ、パパ」
その言葉に瞳が小さくなり驚いたような表情を見せるレドベージュ。
少し照れ臭そうに優しい笑顔を見せる湖張。
そして彼はすぐさま頷き、落ち着いた優しい声で答える。
「そうか。・・・そうだな」
窓から入ってくる心地の良い風が、湖張とラナナの異なった優しい花の香りをふわりと運び三人を包む。
その中でレドベージュは微動だにしなかったが、心の中で湖張には幸せになって欲しいと強く願っていた。
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ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六十四話【深雪】 2026.04.28
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