ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六十三話【長い銀髪の格闘家】
- 2026.04.11
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
慌ただしい流れで師と別れを告げると、一行は日が暮れないうちに更に西の町を目指す事となった。
最後にゆっくり食事でもという思いはあったものの、今のダラに感づかれる事の危険性を考えると、悠長なことは言っていられなかった。
「日暮れまでに間に合うかな?」
空を見上げながら問いかける湖張。
「うむ、夕暮れ時に到着であろうな。問題なかろう」
「そっか。まあ最悪、魔法で飛べば良いよね?」
「うむ、そうではあるな」
レドベージュとやり取りをした後にラナナに視線を移す湖張。
「・・・大丈夫?」
気に掛ける湖張に気づくと、気丈に振舞うラナナ。
「大丈夫ですよ!御心配には及びません。色々と心配な事だらけですが・・・今は難しい事は考えないようにしています。まずは赤き聖者を思う存分満喫してから次の事という気分です」
「そっか、それが良いかもね」
それ以上、深くは聞かず前を向く湖張。これから訪れる町はどのようなところなのかなと考えようとした矢先の事であった。少し離れたところから爆発音が一つ聞こえてくる。
「今、何か爆発した!?」
慌て気味で振り返り、レドベージュに確認を取る湖張。
「うむ、何かあったな。どちらにせよ進行方向だ。駆けつけるぞ」
急行するために数センチほど宙を浮くレドベージュ。魔法で飛ぶ意図らしい。同じように湖張とラナナも小さく浮く。と、その時であった。爆発音のあった方向から体長が2メートルほどの黄色い牛のような魔物が走って向かってくる。
「え!?何!?」
驚く湖張の横を猛スピードで過ぎ去る魔物。何かに怯えているようでもあった。
「あれは・・・キーロスですね」
「きーろす?」
湖張の疑問に答えるラナナ。
「草食の魔物です。牛っぽいですが結構獰猛です。縄張り意識が強く、テリトリーに侵入者が現れると襲ってきます。質が悪い事に集団行動を取ります。つまりテリトリーとはそれぞれの個体のものではなく、集団のものです。なので意外と広範囲となりますし、襲う時は集団で襲ってきます」
その解説に首を傾げる湖張。
「うん?でも今は一頭だけ、しかも襲ってきたというより逃げていたように見えたよ?」
「はい・・・どう思います?」
そこでレドベージュに問いかけるラナナ。先を見つめる天将。
「おそらく逃げていたのであろう。キーロスは最後まで戦う事はせぬ。敵わぬ敵と分かったら逃走する事も珍しくは無い」
「あー確かにそんな事も本には書いてあった気がしますね」
納得の表情のラナナ。
「するとさ、この先にキーロスが敵わないと思い知らせた存在がいるという事?」
「うむ」
「行ってみましょう!」
ラナナの提案に二人が頷くと、地上すれすれのところを魔法で滑るように飛ぶ一行。途中、小規模の林を抜けると、急こう配の下り坂に差し掛かる。
そこで一度立ち止まり見下ろすと、坂の下の広い街道沿いに、数頭のキーロスが倒れている事が確認できる。一か所、爆発の痕跡なのか草木が吹き飛んだ跡があり、その横には二回りほど大きいオレンジ色のキーロスと思われる魔物が臨戦態勢で威嚇をしている。
そして、巨大な魔物の前には、長い銀髪で着物を身に纏った湖張たちと同世代と思われる娘が立ちはだかっている。
「え!?女の子!?しかも以前、湖張姉さまの服を買った桜和専門のお店で取り扱っていそうな服装ですよね?」
湖張に視線を移しながら問いかけるラナナ。そして違和感を覚える。というのも、湖張の表情から困惑が溢れていたからだ。
「どうかなさいました?」
「・・・何でこんな所に?」
「え?」
固まっている湖張をよそに、娘に襲い掛かる魔物。しかし銀髪の彼女はしなやかに突進を躱した後に回し蹴りを浴びせる。吹き飛ぶ魔物。そして右手をかざせられる。
「覇王拳!」
白い光弾が魔物に命中し、バチンと強い音が鳴り響くと魔物は動かなくなった。
「今の技って!?」
慌てた様子で湖張に確認を取るラナナ。唖然とした顔で答える湖張。
「深雪だ・・・」
「ええ!?」
深雪。兄弟子が滞在しているという港町で聞いた名。その名を告げるなり、湖張は彼女に向かって駆け寄る。
「深雪!?」
名を呼ばれると一瞬だけ驚きの表情を見せる銀髪の彼女。しかしすぐさま表情を険しく変えると、湖張に向かって蹴りかかってくる。
「っ!?ちょっと!?!?」
身をかわす湖張。すぐさま追撃に入る深雪。
「いきなり何をするのよ!?どういうつもり!?」
「よくそんな事が言えますわね!?」
横笛の音の様な高い声が拳と共に返ってくる。再び躱す湖張。
「ちょっと、待って!止めなさい!!」
「はあああ!!」
目にも止まらぬ連撃を繰り出す深雪。湖張も途中からは躱しきれずに手や足で弾いたり防いだりする。
「奥義!芭蕉連撃牙!!」
「本気を出すなぁ!!」
更に速度を上げて攻撃を仕掛ける深雪。ついには防戦一方では埒が明かないと感じた湖張も反撃し始める。
二人が高速で打ち合う様子を窺いながら3メートルほどの距離まで歩いて近づくレドベージュとラナナ。
「何か・・・凄いですね。手は出さない方が良いですよね?」
「むう、そのようではあるな」
「レドベージュはこの方の事、ご存じで?」
「存在は知ってはいたぞ。赤き聖者の選定時に湖張の身辺調査でな。ただ湖張との関係は良好ではあったはずだが・・・」
「再会直後にコレで・・・ですか?」
「湖張本人以外はそこまで深くは調べぬ。実際の所、兄弟子が出て行った本当の理由は知らなかったからな」
「もう!いい加減にしなさい!!」
暴れまくる深雪に少しイラっとした表情を見せる湖張。数メートル後ろに下がった後、魔法で5メートルほど宙に浮くと左手を深雪に向けてかざす。
「バスターピラー!!」
湖張の手から発せられる直径が2メートルほどの光の柱。深雪に迫りくる。
すんでのところで躱す深雪。魔法により地面が少しえぐれるが、彼女は気にせず手をかざす。
「覇王け・・・」
「でやぁぁぁぁぁぁ!!」
湖張は光の柱が放たれたままの手を薙ぎ払うと、虚を突かれた深雪は光の柱に弾かれて地面に倒れる。その様子を呆れ顔で見るラナナ。
「うーわ、出た湖張姉さま。そうやってまた人の魔法を使いこなす。しかも応用までするし」
「不服なのか?」
「いえ、別にそういう訳ではありませんが・・・。ただ普通は出来ませんよ、あんなこと」
「まあ、そうではあるな」
「今思えば、興味深そうな目で私が放った様子を見ていた時がありましたね。このような応用が出来るのではないかと考えていたのですよ、きっと」
ラナナとレドベージュがやり取りをしている一方、湖張は起き上がろうとしている深雪にゆっくりと近づきながら話しかける。
「もう、少しは頭が冷えた?何でアナタがここにいるのよ?」
「何で・・・ですって?」
顔を上げる深雪。すると目からは大粒の涙が次から次へと零れ落ちていく。
「よく、そんな事が言えますのね!!」
「え・・・いや、ちょっと待って。とりあえず落ち着こう?ね?」
流石に戸惑いを見せる湖張。そして小走りで近寄り宥めようとする姿勢を見せる。
が、湖張は深雪の目の前に近づくなり躊躇なく鉄扇で彼女の頭を叩きつける。当然のように深雪はその場で気絶をしてしまった。
「えええええええええ!?」
驚嘆の声を上げるラナナ。レドベージュも唖然としている。
「え!?今の流れでそれやります!?そんなに腹立たしかったのですか!?」
「むう、流石に我もどうかと思うぞ!?」
二人のツッコミに慌てる様子の湖張。
「違う違う違う!そうじゃないそうじゃない!覇王爆炎弾を打とうとしていたの!この子、泣いたフリして覇王爆炎弾の準備をしていたの!!」
「・・・へ?」
「危なかったよ・・・。危うく至近距離で放たれるところだった。流石にそれはまずい」
ため息をしながら脱力したように肩を落とす湖張。そしてラナナに疲れた顔を見せる。
「悪いけれどもさ、この子に魔法を掛けてくれる?」
「かまいませんけれども・・・ああ、治療をして起こせば良いのですね?」
首を横に振る湖張。
「逆。しばらく目覚めないようにして。このまま町まで運ぶから。目覚めて再び襲われたりしたらたまったものじゃないよ」
「あー」
何だそれはと言わんばかりの変な笑顔で魔法を掛け始めるラナナ。そして湖張に問いかける。
「それにしてもよく考えると芭蕉心拳ってとんでもない格闘技ですね。頑張れば覇王爆炎弾という超強力な技を習得できるなんて相当ですよ」
首を横に振る湖張。
「いや、そんな事はないよ。実は十分な威力の覇王爆炎弾を使える人の方が稀なんだ。今が異常なだけ」
「今が異常?」
「覇王爆炎弾はね、芭蕉心拳の奥義中の奥義なの。難易度はとても高いんだ。そして人により放つ威力は異なるし、本来の超威力まで放てる人は少ないよ。それこそ合格レベルの威力まで放てる人が不在だった代があっても不思議ではないの。
とは言ったものの、威力が小さいものであれば放つ事自体は目一杯の修行を積めば出来るようにはなるし、秘伝書にもやり方は掲載されているから技自体が失われることは無いの。
私の師であるおじいちゃんだって年のせいで今となっては合格レベルの威力を出す事は無理だけれども、威力が低くても打てるには打てるし。でもね、私の代は違った。私と兄弟子、そしてこの深雪は十分な威力の覇王爆炎弾を扱う事が出来たんだ。同世代で三人が扱える事は過去に例を見ない事だっておじいちゃんが驚いていたよ。とは言ったものの、ラナナも見ていたでしょう?私が最初に放った時、とても時間が掛かっていたでしょ?あのような形で三人とも放つまでの時間はかかったんだ」
「そうだったのですか」
「そう。それでね、この子は泣いていたようだけれども近づいて分かったの、力を溜めているなって。狡猾なところがあってね。危うく吹き飛ばされるところだったわ」
「うわぁ・・・」
「まあ悪い子ではないのだけれどもね」
渋い顔で笑顔を見せると荷物と同じようにスッと深雪の体を浮かせる湖張。
「騒がせちゃったね。とりあえず町に向かおう」
そうまとめると歩き出す湖張。
「これこれ、話を畳むでない」
「へ?」
レドベージュに呼び止められ戸惑う湖張。すると彼は魔物を指さす。
「少しだけ待つのだ。というのもこの魔物、様子がおかしいので少し調べたい」
「そうですよ!!」
レドベージュの発言に気づきの大声を上げるラナナ。
「このキーロス、通常の個体とは何か変です!大きいし変色しているし!」
「そういえば周りに倒れている魔物とは違うよね?」
「うむ、今までもこのパターンはあったが・・・兎にも角にも少し調べたい。とは言ったものの日暮れと目覚めの時間制限付きなので急ぎはするが」
「そうだね、そうしてくれるとありがたいかな」
湖張の申し訳なさそうな顔を確認すると、早速魔物に近寄るレドベージュ。先ほどまで響いていた激しい音は消えて、遠くから聞こえる鳥の声が訪れてきた。
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