ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六十二話【槍の正体】

           

「それではいきます!」

師の部屋にて湖張に向けて手をかざすラナナ。
今は滞在2日目の昼過ぎ。宣言通り二日目でアルサキエナの習得を終えたラナナ。
成果を試すために湖張に向かってアルサキエナを放とうとしている。

「はいはいどうぞ」
特に警戒もせずに腕を広げて受け入れる姿勢の湖張。
「アルサキエナ!」
水色の細い光の線が何本も緩やかな螺旋を描くようにラナナの手から放たれると、湖張の体にすっと吸い込まれていく。

「お?なんか魔力が蓄えられた感じがする!」
「本当ですか?」
「うん!」
「では次、行きます!!」

先補とよりも細心の注意を払うような真剣な表情になるラナナ。再び手をかざす。
「アルサキエナ」
すると今度は湖張の体から水色の細い光が染み出してくると、ラナナの手の中に納まる。

「うぁ、なんか気持ち悪い・・・。力が抜けた感じだよ。もらった魔力が無くなったという事かな?」
「そうですね、渡した魔力を返してもらった形なのですが・・・余分に取ってしまったのでしょうか?」
「いや、どうだろう?でもまあ誤差じゃない?」
「大丈夫です?」
「平気だよ」

その答えを聞くと師の方を向くラナナ。すると感心と驚き、そして頷きを見せる師。
「本当に2日で習得しましたね。やはり貴女は凄いです」
「いえ、先生が魔導書を分かり易く書いてくださっただけですよ」
「そんな事はありませんよ」

褒められたことに少しこそばゆさを感じたラナナは湖張に近寄り覗き込む。
「体調は問題ありませんか?」
「大丈夫だよ。それにしてもこの魔法は凄いね。レディーフェと似ているのかと思っていたけれども、根本的に違うね」
「そうですね」

そのやり取りの内容が気になったのか、師は知的好奇心がくすぐられた目で問いかけてくる。

「レディーフェとは何です?」
体を師に向けて答えるラナナ。
「えっと、レディーフェは天使の魔法を私たちなりにアレンジしたものでして・・・」
「天使の・・・魔法?」
「はい・・・レディーフェ!」

光の羽を発生させて師に魔法を掛けるラナナ。師の目が驚きで満たされる。
「傷を癒すだけでは無く、体力を譲渡する魔法です。アルサキエナは魔力の譲渡ですが、これは術者の体力を分け与えます。負傷者の傷を癒し、衰弱した体に元気を与えます」

「こんなことが出来たのですね。アルサキエナとは似ているようで全く違います」
「はい。全くの別物ですね」
「天使の魔法ですら習得するとは・・・本当に大したものです」

そこで隠し事を白状するような誤魔化しの笑顔を見せるラナナ。
「いえ、私一人ではこの魔法を習得できませんでした。むしろ習得する発想もありませんでしたよ。天使の魔法を見た湖張姉さまが覚え始めようとしたので二人で使えるように改良しました」
「何と!?」

今度は湖張に驚きの眼差しを向ける師。謙遜の笑顔の湖張。
「あーいやいや、ラナナですよ、主に使えるようにしたのは。それよりさ、アルサキエナを掛けられた時に抵抗できるかも試すんじゃないの?」

湖張の言葉に忘れ物を思い出したような顔を見せるラナナ。
そして手をかざす。

「そうでした。では次は抵抗してみてください」
「抵抗ってどうすれば良いの?」
「取られそうなものを渡さない心意気で良いと思います」
「抽象的だなぁ・・・まあやってみるか」
「いきます、アルサキエナ!」

湖張に魔法がかけられると、うっすらと染み出始める細い水色の光。しかし湖張が両手をギュッと握ると、光はスッと消えていった。

「あ、弾かれました」
「うん、今度は吸われた感覚が止まったね」
「簡単に防げました?」
「そうだね、でも本気で吸おうとしなかったでしょ?」
「それもありますが・・・むしろどうやって防ぎました?」
「気合」
「抽象的ですね・・・。でも簡単に防げるような作りにあえてしているのだと思います。ですよね?」

そこで師に問いかけるラナナ。すると小さく頷く師。
「はい、その通りです。やはり貴女は凄いですね」
「いえ、そんな」

微笑みでやり取りをした後、机に戻り何かを取り出してくる師。
それはナイフと皮膚が硬い魔物のサンプルであった。
応接用の机の上にそれらを置くと、話し始める。

「さてと、アルサキエナの習得も終わったようですので明日にでも出立をしますよね?ですので短い間でしたが私が調べた事をお伝えしたいと思います」
「何か分かりましたか?」

ラナナが問うと、師はナイフを手に取り皮膚に軽く当てカチカチと弾かれる音を立てる。
「まずこの皮膚ですが知っての通りとても硬いです。どうやら特殊な魔法のコーティングが残っているようですね。御覧の通り気軽に切れません」

そこで師は視線を皆に向ける。まるで授業中に生徒全員の表情を確認するようである。
「正直なところ、魔法のコーティングについては分かりませんでした。しかし対抗策は分かりましたよ」
「え!?」
驚きに小さな笑みを師が見せた後、ラナナに視線を移す。

「とはいったものの、ラナナ君にしか出来ない攻略法ではありますけれどもね」
「どういう事ですか?」
「特殊な魔法のコーティングなのです。魔力を吸ってしまえば良いのですよ」

そう言うと、皮膚に手をかざす師。
「アルサキエナ」
皮膚から少しだけの細く青い光が染み出てくる。そして師が皮膚にナイフを突き立てると、硬そうな音はせずにグッと刃が突き刺さる。

「おー!」
「ふむ、だからラナナにしか出来ぬという訳か」
湖張とラナナが無邪気な歓声を上げた後にレドベージュが納得を見せると、申し訳なさを誤魔化す笑みで師は答える。
「はい、なんだかずるい攻略法でお恥ずかしい限りです」
「いや、そんな事は無い。お主の研究の成果ではないか。偉大な発見だ。感謝する」
天将の賞賛に嬉しさを抑えた笑みを見せると、今度は槍の先を手に取る師。

「さてと、もう一つお伝えしたいことがあります。硬い皮膚をいとも簡単に貫くこの槍ですが、何となく分かりました。まずこの槍自体にも魔力を帯びている事はお気づきだと思います」
「・・・トーン、テテテテトン」
湖張が以前感じたものを口に出すと、これまた感心した表情で湖張を見る師。

「貴女は鋭い感覚をお持ちですね。そう、その通りです。妙なリズムの魔法とでもいうのでしょうか?それがかかっています。・・・ですがそれだけです」
師は手元のナイフを再び手に取る。

「では仮にこのナイフに同じような魔法を掛けてみましょう。するとこの堅い皮膚を貫通出来ると思いませんか?」
「・・・できませんでした」

師の問いに難しい顔で答えるラナナ。
「そうです。できないのです。不思議ですよね?」
そう答える師。そして再び問いを投げかける。

「では何故出来ないかです。・・・残念なことにそれは分かりませんでした。ですが視点を変える事で、一つ分かった事があるかもしれません」
「視点を?」
「この槍は何故、ずっと魔法を放っていられるのでしょうか?」

「あああああああああああっ!」
突然大きな声を上げるラナナ。大きな驚きと気づきを得たように目を大きく見開いている。
「何!?何なの急に!?」
ビクッとした湖張の反応に、しまったと感じたラナナは慌てる心を抑えつつ説明する順序を頭で整理する。

「えっとですね・・・まず魔道具ってあるじゃないですか?魔法を放つ道具です。あれって常に魔法を放ち続けられるわけでは無く、いづれは魔力が尽きて使えなくなります。そうなると魔力の補充が必要になるのですが、この槍はずっと魔法を放ち続けています。すると考えられるのは魔力を自動で補充し続けている事です。ですがそんな凄い物を数多く出回らせられるわけがありません。それこそ竜魔球クラスですよ。そこで現実的な線として、魔力をため込みやすい素材で作る事で、長期間魔法を放ち続けられるようにする事です。そう言う素材は数種類あるのですが、そのうちの一つにとんでもないものがあります」

「とんでもないもの?」
湖張が聞き返すと、頷くラナナ。
「はい、グリーンドラゴンの鱗です」
「ちょっと、それって!?」
「はい、繋がりました。メーサ教の施設に大量にあったグリーンドラゴンの鱗とグリーンドラゴンを狩っていた理由が」

「ふむ、するとこの槍を作るためにメーサ教はグリーンドラゴンの素材を集めていたという事か」
レドベージュが師に確認を取ると頷きが返ってくる。

「ええ、その可能性が高いと思われます。ラナナ君から今までの話を聞いていたら、そう思えて仕方がありませんでした。何故この槍が魔物に効くのか、それ以前にその魔物が何なのかは分かりませんが、槍はグリーンドラゴンの鱗から出来ている事は間違いないと思います」
「うむ、そうであろうな。これまた凄い発見をしてくれたな」
「いえ、とんでもない。お役に立てたようでなによりです」

「はあ、何故ここまで気づけなかったのか情けない限りです」
深いため息のラナナに穏やかな笑みで答える師。

「ですが気づけたではありませんか。立派ですよ」
「先生のお話があったからですよ」
「教え子に気づきを与えるのが教師の役目ですから」

そう優しく伝えられると「かないませんね」と白旗の笑顔を見せるラナナ。しかしその後、師は優しい笑顔から少し厳しい顔に変わる。

「さて、急かす様で申し訳ないのですが、まだ日が出ているうちにこの町から離れた方が良いです。明日、ダラから視察がくると先ほど耳にしました。ひょっとしたら町には前日入りをしている可能性があります」

「え!?」
「私とラナナ君が接触している姿は見られない方が無難でしょう。名残惜しいですが、ここでお別れしましょう」
「先生・・・」

突然の別れとなるので悲しそうな顔を見せるラナナ。
「そんな顔を見せないでください。この時を持って、私による旅の指示を終了とします。これからは貴女の心に従って行動してください。立派になりましたね」

「・・・ぜんぜぇえ」
泣き顔で声を無理に出すラナナ。整った顔をぐしゃぐしゃにしている。

するとレドベージュと湖張に話しかける師。
「本来ならば私が進路のお手伝いもしないといけないのですが、お話した通りの状況でして。申し訳ないのですが、ラナナ君をお願いいたします。私に出来る事があれば何でもいたしますので」

「はい!」
元気よく答える湖張。レドベージュも頷き了承を見せる。
「うむ、安心すると良い。・・・ところでお主は平気なのか?」
「私・・・ですか?」
「アルサキエナを提出しないのであろう?じきにダラが圧力をかけてくる可能性もあるぞ?」

その言葉を聞くと、半ばあきらめを誤魔化す笑顔で答える師。
「ええ、まあその時はその時です。大丈夫ですよ」
「駄目です!そんなの駄目です!!」

ラナナが食らい付く。そしてレドベージュが話に続く。
「うむ、駄目ではあるな。とりあえず大切な物を常日頃からまとめておいてはくれぬか?それこそいつでも飛び出せるように」

疑問を顔に映す師。
「と、いいますと?」
「先日、ラナナをどこかに連れ出す事は出来るであろうと言ってきたのはお主ではないか。お主とて例外ではない。国外でも天の施設でも移住させることは可能だ」

「天の・・・施設ですか?」
「うむ。ただ今まで築き上げた生活の事もあろう。全てを捨てて移住も簡単には決断できぬであろうから最終手段だ。なるべくならば人の世の、国内での生活の維持を目指すが、最悪の場合は天を頼れるように手配をしておこう。お主のような人の世の歪により生きづらくなった者を天が保護することはあるのだ。」

「ひょっとして、ウンバボの所?」
湖張の問いかけに首を横に振るレドベージュ。
「ウンバボの所でも良いが、あそこでは退屈であろう。案内するとしたら他の場所だな。まあとにかくだ、救える数には限りはあるが、目に見える者は救っていくのが我のやり方だ。少し考えておいて欲しい」

レドベージュがそう伝えると、師はゆっくりと頭を下げる。
「ありがとうございます」
「それで良いな?」
今度はラナナに確認を取るレドベージュ。するとぐしゃぐしゃの顔を何度も縦に振る仕草が返ってきた。

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